魔法学園の悪役令嬢、破局の未来を知って推し変したら捨てた王子が溺愛に目覚めたようで!?

朱音ゆうひ@『桜の嫁入り』発売中です

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「パメラ、大丈夫か?」    

 アトレイン様の声に、はっと我に返る。

「だ、大丈夫です! ただ、少し疲れただけで」
「そうか。無理はするな。心配になるし、襲いたくなる」

 なんかキラキラした王子様スマイルで過激なことを言ってない?
 
 最近よくある幻聴かな?
 
「どうかしたのか?」
「いえ。私の妄想癖が暴走がちで。すみません」
「俺もたまに暴走するから、仲間だな」
「そうなんですか、うふふ」
「あはは」
  
 会話内容はともかく、笑顔は爽やかだ。
 洞窟で私を助けてくれた時の笑顔が重なる。

『殿下はよくここがわかりましたね?』 
『愛の力で見つけたんだ』  

 当たり前のように言われた言葉を思い出す。 

 私は虹灯篭レインボーランタンを光らせることができるのかな?

  別に愛の告白をして光らせる義務はない
 リスクは避けるべきだ。  
 そう思いつつ、心のどこかで「光らせてみたい」という想いがくすぶる。

 アトレイン様のように、「愛の力です」と言えたら……。
 いや、それもなんか恥ずかしいな。愛の力はな……。
 
 そんなことを考えてしまって、勉強になかなか集中できなかった。
 
 悶々としたまま時間は過ぎていく。
 
 ふと窓の外を見れば、空は淡い茜に染まり、光の粒がゆるやかに沈んでいくところだった。
 夕暮れ時だ。
 
「そろそろお開きにしようか」
 
 殿下の提案に、みんなが頷く。

 勉強会はお終いだ。
 疲れた。頭が重い。
 
「あたし、お茶を淹れてくるわ」
「ボク、手伝うよ。コレットさんだけだと惚れ薬とか混入しそうだし」
「セレスティン、あたしを何だと思ってるの? 失礼ね」 
「コレットがどれだけ問題行動してるか、みんなに言ってやろうか?」
  
 コレットとセレスティンが言い合いながら連れ立って自習室を出ていく。

「あの二人だけだと心配なんで、オレもついていきますよ」
 
 レイオンは保護者みたいな顔をして、静かに二人の後を追いかけて行った。
 
「パメラは?」
「私は……ここで待ってます」
 
 正直、微妙に眠い。
 昨日も深夜まで薬草学の復習をしていたせいだ。
 
「そうか、……睡眠は足りているか? 無理はしない方がいい……」
 
 アトレイン様の柔らかな声が耳に心地いい。
 眠気がじわじわと高まってくる。
 
「ふぁ……」
 
 瞼が重い。目を開けていられなくなってくる。

「パメラ。眠いのか?」
 
 アトレイン様の声が、遠くで優しく揺れた。
 少しだけ――そう思って、机に突っ伏す。

 温かな静寂が、世界を包み込んでいく。
 ペンの音も、人の気配も、ゆっくりと遠ざかって――意識が沈んでいった。

   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

 頬に触れるのは、柔らかな布の感触。
 かすかに聞こえる心音と、落ち着いた呼吸。

 あれ……?

 ゆっくりと瞼を開ける。
 視界に入ったのは――アトレイン様の整った横顔だった。

 えっ。
「……っ!?」
 ええ~~っ!?

 驚いて目を見開く。
 私の頭は、彼の膝の上にあった。
 
「あ、あの、これは……!」
 
 慌てて起き上がろうとすると、アトレイン様の手が優しく私の肩を押さえた。
 
「まだ、みんなは戻っていない」
 
 アトレイン様の声が、優しく響く。
 
「居眠りをしていたから、せめて楽な姿勢で眠れるようにと思って」
「も、申し訳ございません……!」
「謝ることはない。俺にとってはご褒美だ。若干、試されている感はあるが」
「試されている……?」
  
 アトレイン様が、私の髪を優しく撫でた。
 
「……こんな無防備な姿、俺以外に見せないでほしいかな。襲いたくなってしまう」
 
 っ……!?
 囁くような声に、心臓が激しく跳ねた。
 
「あ、あの、起きます……!」
「ふふっ。もう少しだけ、このままで。俺は襲ったりしないから」
「あ、当たり前です!」

 こ、この人、私の心臓を爆発させる気かな!?
 
「反応が可愛すぎてつらい……」
 
 困ったように囁くアトレイン様の黄緑色ペリドットの瞳が、私を見つめている。
 軽く眉を寄せて何かを堪えるような表情は驚くほど色香があって、甘い熱を灯した瞳は、驚くほど澄んでいた。
 
 アトレイン様の指が、私の髪を梳く。
 その優しい感触に、どきどきが止まらない。
 
 どうしよう……。
 胸が苦しい。
 でも、この時間が終わってほしくない。
 
 そんな矛盾した気持ちに、私は戸惑っていた。
 
「も、もう……許してください」
「じゃあ、これで終わりにするよ」

 いたずらをするように言われた次の瞬間、耳に吐息が触れて熱く濡れた感触がする。
 ぱくりと甘噛みするように、アトレイン様が私の右耳にキスをした。
 ちゅっ、ちゅっ、と鳴るリップ音と熱くくすぐったい感触に、悲鳴が出る。
 
「ひゃぁっ!」

 真っ赤になって壁際までずざざざっと逃げて耳を抑えると、アトレイン様は少し目を見開いて視線を逸らした。
 
「アトレイン様?」
「なんだか、自分がいけないことをしてしまったなと思って……すまない」

 しょんぼりとした顔は、なんだか謎に私の罪悪感を煽るものがあった。
 美形が打ちひしがれている姿ってクるものがあるよね。普段きらきらニコニコしているから、なおさらだ。
 私は慌てて首を振った。振りすぎてクラクラするくらい全力で。
 
「そ、それほどいけないことはしていません!」
「そうか? そう言われると、いけないと言われる線を探りたくなる」
「?????」
  
 何を言われているのかわからない。どういう探求心?
 私が頭の上に「?」をいっぱい並べていると、彼はくすっと笑って、手紙の封筒を渡してきた。

「あなたへの気持ちを書いたんだ。もしよかったら、帰ってから読んでくれないかな」
「……! は、はい」
  
 少ししてから、三人が戻ってきた。
 温かいお茶を飲みながら軽い雑談をする仲間たちの輪の中で、私はこっそりと余韻に心奪われていた。
 
 膝の上で、髪を撫でられて……――なんだかすごい体験をしてしまった。
 
 油断すると顔が真っ赤になってしまいそう。
 考えないようにしよう。
 
   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
 
 その夜、寮の部屋に戻ってから、私はベッドに横になった。
 今日はストレッチも腹筋もスクワットもする気にならない。
 かと言って、帰り際に手渡された手紙もなんとなく開く勇気がない。書かれている内容は気になるけど、なんだか怖い。
 
 ――ネクロセフ教授のこと、考えよう。
 
 いつものように、推しのネクロセフ教授のことを考えようとする。そこで、私は異変に気付いた。
 
 ……あれ?
 
 頭に浮かぶのは、アトレイン様の顔だった。
 
 優しく微笑むアトレイン様。
 私の髪を撫でるアトレイン様。
 「もう少しだけ、このままで」と囁くアトレイン様。
 
 ネクロセフ教授よりアトレイン様のことを考えてしまう……?
 
 自分の気持ちの変化に、気づいてしまった。
 
 どうしよう……。
  
 私は枕に顔を埋めた。
 そして、勉強会の間に頭の隅にこびりついていた悩みに再び眉を寄せた。
 
 もし今の私が虹灯篭レインボーランタンを使ったら、光るのかな?
 
 光りそうな気もするし、原作通りに光らないような気もする。
 考え込むと自分で自分がわからなくなりそうで、私は気持ちを切り替えようと起き上がり、窓辺に寄った。

 今日は満月だ。
 綺麗な月が見れるだろうか。

 そっとカーテンをめくると、寮の建物の外で木剣を振るセレスティンが見えた。

 素振りしてるんだ?

 どうせこのままでは寝付けない。
 私はホットミルクを差し入れに用意して、外に出た。
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