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「あれ? コレット嬢?」
「え?」
自習室の中にいたアトレイン様とレイオンが揃って顔を上げて、不思議そうな眼差しを向けてくる。
「コレットも誘ってみました!」
「はい! よろしくお願いします!」
コレットは明るく言い切って、空いていた席にすとんと腰を下ろした。
その潔さに一瞬ぽかんとしたアトレイン様に、セレスティンが生真面目な声で補足する。
「こいつ、友達がいなくて自習室を使わせてもらえなかったんですよ。それでパメラが誘ったんです」
「そうか。俺の大切なパメラが優しいエピソードが聞けて幸せだ。歓迎するよ、コレット」
アトレイン様のどこかうっとりしたような声に、コレットの背筋がぴんと伸びた。
少し照れくさそうに「……お邪魔します」と小さく返す姿に、やっぱりちょっと可愛げを感じてしまう私だ。
「おお、コレット嬢、『お邪魔します』が言えるとは! 礼儀ってやつを知らないと思ってましたよ」
「レイオンも失礼だよね。コレットはさっき『ありがとう』も言ってたよ」
「言わなかったら逆にドン引きですよ」
レイオンとセレスティンの軽口を、アトレイン様が苦笑しながら手で制した。
「はいはい、そこまで。せっかくだし、そろそろ始めようか」
その声で空気が一気に落ち着く。
ページをめくる音が響き始め、勉強会が始まった。
……と思いきや。
「さて、コレット嬢は大人しく勉強できるでしょうかね?」
レイオンがぼそりと呟いた瞬間、コレットがすかさず彼の隣に移動する。
「お勉強より、イチャイチャしたいってお誘いですか?」
にやりと笑って腕を絡めるコレットに、レイオンが「うわ、ちょっ……!」と慌てて距離を取る。
セレスティンはすかさずため息をついて、冷静に言った。
「二人で別室に行ってくれる? 静かにしてくれたら何も言わないけど」
「ひどくないか?」
「あと、アトレイン様、鞄からはみ出してますけど、こちらのノートは何が書いてあるんですか? 『夢』『秘密』って書いてて気になるんですけど」
セレスティンが何気なく手に取ったノートを、アトレイン様が血相を変えて奪い取った。
「そのノートはダメだ!」
「ダメだと言われると見たくなるんですけどねー?」
わいわいと賑やかに騒ぐ三人のやり取りに、私はふと思い出して秘密の夢ノートを鞄の奥へとぎゅうぎゅうと隠した。
危ない、危ない。うっかり持ってきちゃったよ。
このノートは最近アトレイン様とレイオンの筋肉育て妄想日記になってるから、絶対秘匿しなきゃ。
なんだか、とても仲間って感じがして。
胸の奥が、ほんの少しだけ温かくなる。
それからしばらく、笑い声とペンの音だけが自習室に満ちていた。
「う~~ん。ボク、ここの魔法陣の構成、何回説明を読んでもわからないよ」
セレスティンが教科書を指差す。
「ああ、それなら俺が実演してみせた方がわかりやすいかもしれないね」
アトレイン様が説明を始めた。
彼は心なしかセレスティンに最近優しい。
レイオンの婚約者だとわかったから?
「この魔方陣はベースになる外枠をまず火属性で作るんだ。そこから内側に向かう線を風属性で引いて……」
アトレイン様は簡単そうに小さな魔法陣を作っているけど、複数属性を織り交ぜた魔法陣を展開するのは高度な技だ。
休憩室のあちらこちらから感嘆の吐息が漏れている。
丁寧で、わかりやすい。
さすが成績優秀な『完璧な王太子』だ。
「なるほど。ありがとう。読むより実演を見た方がわかりやすいや」
セレスティンが頷くと、今度はコレットが手を挙げた。
「殿下~! あたしも質問! この魔法生物の分類、全然覚えられないの」
「コレット、そこは暗記するしかない」
「殿下はあたしに冷たいですよね。ふんだ。本当は全部もう暗記済です~!」
赤い舌を出すコレットの肩をレイオンが掴んで、「じゃあテストしてやるよ」と問題を出していく。
「きゃっ、レイオン様にテストされちゃう。満点取ったらキスしてね」
「絶対しない」
きっぱりと拒絶するレイオンに、セレスティンが「してやればいいのに」と突き放したことを言う。
賑やかだな……。
こんな風に、みんなで勉強するのは楽しい。
前世ではこんな経験はなかったから、嬉しい。
「パメラ」
アトレイン様の声に、顔を上げる。
「その問題に詰まってる? ずっと手が止まってるが、わからないところがあったら教えようか?」
「え……あ、はい。そうですね……ここの計算式がよくわからないかも」
「見せてごらん」
アトレイン様が私の隣に座り、ペンを取る。
近い距離に、心臓がとくんと跳ねた。
「ここはこうやって考えるんだ」
声が近い。
説明のために身を寄せた肩が私の肩に触れている。
「あ、あ、ありがとうございます……」
顔が熱い。
きっと真っ赤になっている。
「わかった?」
「は、はい……!」
アトレイン様が優しく微笑む。
その笑顔に、胸がきゅっと締め付けられた。
「パメラ? どうした?」
「い、いえ! なんでもありません!」
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
勉強会も終盤に差し掛かった頃、レイオンが話題を変えた。
「そういえば、試験後の打ち上げパーティ、楽しみだよな」
「ああ、あれか」
アトレイン様が頷く。
「打ち上げパーティ? そんなのがあるのね」
コレットが首を傾げながらテーブルの上のお菓子ボックスからマフィンを2つ取り、私の前に置いた。
ん? 私の分?
視線を向けると、コレットはふいっと目を逸らした。
なんか、野生の小動物が獲ってきたものをプレゼントしてくれた、みたいな謎の感動がある。
「レイオン様! パーティってドレスを着てダンスしたりする? あたしとダンスして」
「だから、婚約者の前で浮気させようとするなって」
レイオンは呆れ顔だけど、セレスティンは「ボクは全然構わないけど」と冷たい態度だ。
それにしてもコレットはぐいぐいアプローチするなぁ。
「ねえねえ。レイオン様。打ち上げパーティってどんなことをするんです?」
「知らないのか? 試験が終わったら、学園の中庭でお祭りがあるんだ。屋台も出るし、音楽隊も来る」
「素敵! あたし、そういうの大好き!」
コレットが目を輝かせる。
うんうん、原作でも楽しいイベントエピソードなんだよね。
前世、ベッドの上でお祭りを想像していたのを思い出す。自分でお祭りの会場を歩けるのが楽しみだ。
「それに、虹灯篭っていう伝統行事もあるんだ」
セレスティンが説明を加える声は、レイオンに向けて喋った時とは比べものにならないくらい明るい。
ギャップがありすぎて可哀想かも、と思って顔色を窺うと、レイオンはけろりとしている。……慣れを感じる。
「虹灯篭?」
「真実を口にすると虹色に光る灯篭よ。それをみんなで空に打ち上げるの」
聞き流していた会話がふと自分の中に着地して、「あれ?」と気づく。
虹灯篭って、パメラが真実を暴かれる魔法アイテムだ?
私の背筋に、冷たいものが走った。
小説で読んだシーンが脳裏に蘇る。
『私は婚約者として、誰よりもアトレイン殿下を愛しているのです!』
パメラがアトレイン様への愛を唱えたのに、灯篭は光らなかった。
そして彼は、こう言ったのだ。
『あなたは俺の婚約者として問題行動が多かったが、俺を慕ってくれているのだと思っていた。だが、俺への好意は偽物か……』
それがきっかけで、アトレイン様はパメラに完全に愛想を尽かしたんだ。
「え?」
自習室の中にいたアトレイン様とレイオンが揃って顔を上げて、不思議そうな眼差しを向けてくる。
「コレットも誘ってみました!」
「はい! よろしくお願いします!」
コレットは明るく言い切って、空いていた席にすとんと腰を下ろした。
その潔さに一瞬ぽかんとしたアトレイン様に、セレスティンが生真面目な声で補足する。
「こいつ、友達がいなくて自習室を使わせてもらえなかったんですよ。それでパメラが誘ったんです」
「そうか。俺の大切なパメラが優しいエピソードが聞けて幸せだ。歓迎するよ、コレット」
アトレイン様のどこかうっとりしたような声に、コレットの背筋がぴんと伸びた。
少し照れくさそうに「……お邪魔します」と小さく返す姿に、やっぱりちょっと可愛げを感じてしまう私だ。
「おお、コレット嬢、『お邪魔します』が言えるとは! 礼儀ってやつを知らないと思ってましたよ」
「レイオンも失礼だよね。コレットはさっき『ありがとう』も言ってたよ」
「言わなかったら逆にドン引きですよ」
レイオンとセレスティンの軽口を、アトレイン様が苦笑しながら手で制した。
「はいはい、そこまで。せっかくだし、そろそろ始めようか」
その声で空気が一気に落ち着く。
ページをめくる音が響き始め、勉強会が始まった。
……と思いきや。
「さて、コレット嬢は大人しく勉強できるでしょうかね?」
レイオンがぼそりと呟いた瞬間、コレットがすかさず彼の隣に移動する。
「お勉強より、イチャイチャしたいってお誘いですか?」
にやりと笑って腕を絡めるコレットに、レイオンが「うわ、ちょっ……!」と慌てて距離を取る。
セレスティンはすかさずため息をついて、冷静に言った。
「二人で別室に行ってくれる? 静かにしてくれたら何も言わないけど」
「ひどくないか?」
「あと、アトレイン様、鞄からはみ出してますけど、こちらのノートは何が書いてあるんですか? 『夢』『秘密』って書いてて気になるんですけど」
セレスティンが何気なく手に取ったノートを、アトレイン様が血相を変えて奪い取った。
「そのノートはダメだ!」
「ダメだと言われると見たくなるんですけどねー?」
わいわいと賑やかに騒ぐ三人のやり取りに、私はふと思い出して秘密の夢ノートを鞄の奥へとぎゅうぎゅうと隠した。
危ない、危ない。うっかり持ってきちゃったよ。
このノートは最近アトレイン様とレイオンの筋肉育て妄想日記になってるから、絶対秘匿しなきゃ。
なんだか、とても仲間って感じがして。
胸の奥が、ほんの少しだけ温かくなる。
それからしばらく、笑い声とペンの音だけが自習室に満ちていた。
「う~~ん。ボク、ここの魔法陣の構成、何回説明を読んでもわからないよ」
セレスティンが教科書を指差す。
「ああ、それなら俺が実演してみせた方がわかりやすいかもしれないね」
アトレイン様が説明を始めた。
彼は心なしかセレスティンに最近優しい。
レイオンの婚約者だとわかったから?
「この魔方陣はベースになる外枠をまず火属性で作るんだ。そこから内側に向かう線を風属性で引いて……」
アトレイン様は簡単そうに小さな魔法陣を作っているけど、複数属性を織り交ぜた魔法陣を展開するのは高度な技だ。
休憩室のあちらこちらから感嘆の吐息が漏れている。
丁寧で、わかりやすい。
さすが成績優秀な『完璧な王太子』だ。
「なるほど。ありがとう。読むより実演を見た方がわかりやすいや」
セレスティンが頷くと、今度はコレットが手を挙げた。
「殿下~! あたしも質問! この魔法生物の分類、全然覚えられないの」
「コレット、そこは暗記するしかない」
「殿下はあたしに冷たいですよね。ふんだ。本当は全部もう暗記済です~!」
赤い舌を出すコレットの肩をレイオンが掴んで、「じゃあテストしてやるよ」と問題を出していく。
「きゃっ、レイオン様にテストされちゃう。満点取ったらキスしてね」
「絶対しない」
きっぱりと拒絶するレイオンに、セレスティンが「してやればいいのに」と突き放したことを言う。
賑やかだな……。
こんな風に、みんなで勉強するのは楽しい。
前世ではこんな経験はなかったから、嬉しい。
「パメラ」
アトレイン様の声に、顔を上げる。
「その問題に詰まってる? ずっと手が止まってるが、わからないところがあったら教えようか?」
「え……あ、はい。そうですね……ここの計算式がよくわからないかも」
「見せてごらん」
アトレイン様が私の隣に座り、ペンを取る。
近い距離に、心臓がとくんと跳ねた。
「ここはこうやって考えるんだ」
声が近い。
説明のために身を寄せた肩が私の肩に触れている。
「あ、あ、ありがとうございます……」
顔が熱い。
きっと真っ赤になっている。
「わかった?」
「は、はい……!」
アトレイン様が優しく微笑む。
その笑顔に、胸がきゅっと締め付けられた。
「パメラ? どうした?」
「い、いえ! なんでもありません!」
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
勉強会も終盤に差し掛かった頃、レイオンが話題を変えた。
「そういえば、試験後の打ち上げパーティ、楽しみだよな」
「ああ、あれか」
アトレイン様が頷く。
「打ち上げパーティ? そんなのがあるのね」
コレットが首を傾げながらテーブルの上のお菓子ボックスからマフィンを2つ取り、私の前に置いた。
ん? 私の分?
視線を向けると、コレットはふいっと目を逸らした。
なんか、野生の小動物が獲ってきたものをプレゼントしてくれた、みたいな謎の感動がある。
「レイオン様! パーティってドレスを着てダンスしたりする? あたしとダンスして」
「だから、婚約者の前で浮気させようとするなって」
レイオンは呆れ顔だけど、セレスティンは「ボクは全然構わないけど」と冷たい態度だ。
それにしてもコレットはぐいぐいアプローチするなぁ。
「ねえねえ。レイオン様。打ち上げパーティってどんなことをするんです?」
「知らないのか? 試験が終わったら、学園の中庭でお祭りがあるんだ。屋台も出るし、音楽隊も来る」
「素敵! あたし、そういうの大好き!」
コレットが目を輝かせる。
うんうん、原作でも楽しいイベントエピソードなんだよね。
前世、ベッドの上でお祭りを想像していたのを思い出す。自分でお祭りの会場を歩けるのが楽しみだ。
「それに、虹灯篭っていう伝統行事もあるんだ」
セレスティンが説明を加える声は、レイオンに向けて喋った時とは比べものにならないくらい明るい。
ギャップがありすぎて可哀想かも、と思って顔色を窺うと、レイオンはけろりとしている。……慣れを感じる。
「虹灯篭?」
「真実を口にすると虹色に光る灯篭よ。それをみんなで空に打ち上げるの」
聞き流していた会話がふと自分の中に着地して、「あれ?」と気づく。
虹灯篭って、パメラが真実を暴かれる魔法アイテムだ?
私の背筋に、冷たいものが走った。
小説で読んだシーンが脳裏に蘇る。
『私は婚約者として、誰よりもアトレイン殿下を愛しているのです!』
パメラがアトレイン様への愛を唱えたのに、灯篭は光らなかった。
そして彼は、こう言ったのだ。
『あなたは俺の婚約者として問題行動が多かったが、俺を慕ってくれているのだと思っていた。だが、俺への好意は偽物か……』
それがきっかけで、アトレイン様はパメラに完全に愛想を尽かしたんだ。
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