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空気が澄んでいて、宝石の粉を散りばめたような星空が綺麗だ。
ナイトラビット寮の中庭に出た私は、木剣を振るセレスティンの姿を見つけた。
月明かりの下、青い髪が揺れる。
一振り、また一振り。
その動きは美しくて、まるで舞を見ているようだった。
「セレスティン、もしかしていつも夜中に素振りしてるの?」
声をかけると、セレスティンが振り返った。
「パメラ。それ、ボクに差し入れ?」
私が持っているトレイを見て、セレスティンが微笑む。
ホットミルク入りのマグカップを二人分載せたトレイを持って歩み寄ると、セレスティンは木剣を置いて近くの横椅子に誘ってくれた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
二人で横椅子に座る。
葉っぱの香りを乗せた夜風が、心地いい。
「本当は勉強してる時間を全部剣術の鍛錬に注ぎたいんだよね、ボク。でも、そうはいかないよね」
セレスティンは青色の髪を片手でくしゃりと乱し、へらりと笑った。
なんだか痛々しい感じの笑顔で、胸が痛む。
「セレスティン。学園、つまらない?」
「うーん……」
セレスティンが、少し考えるように空を見上げた。
「ううん。友達もできたし、楽しいと思うよ」
「それならよかった」
私は、ほっと胸を撫で下ろした。
「私が楽しく学園生活できてるのって、セレスティンのおかげだなって思うんだよね。いつもありがとう」
「そんな、大したことしてないよ」
セレスティンが照れたように笑う。
そして、ホットミルクを一口飲んでから、ふと言った。
「パメラはアトレイン殿下が結構好きだよね。最初は嫌いなのかと思ってたけどさ」
「えっ」
突然の言葉に、心臓が跳ねた。
セレスティンが、優しく微笑む。
「ボクはね、お母様に男児だと偽られて育ったんだ」
「……そうなの」
原作知識のある私はわかっている。
でも、セレスティンが自分から話してくれるのが嬉しくて、神妙に耳を傾けた。
「ボクのお母様は第二夫人だったんだ。ボクを生んだ時、第一夫人には男児がいなかった。だから男児を生んで家内での地位を高めたかったんだろうね。でも、当たり前だけどばれてしまって、結局、第一夫人が嫡男を生んでしまったよ。まあ、嘘はいけないよね。後継ぎにされる前に発覚してよかったよ」
セレスティンは母親の体面のために苦労してきたんだ。
そう思うと切なくなる。
「ボクはそういう事情もあって、あんまり女子っぽい振る舞いが得意じゃないんだ。だから同じ年頃の女の子の友達はパメラが初めてだよ」
「私が初めて?」
「婚約者があまり好きじゃないけど、だからかな。自分と違うなって思って。パメラは好きなんだなってわかっちゃった」
「そ、そっか……」
顔が熱い。
ホットミルクを飲んで、誤魔化した。
「あのコレットもさ」
セレスティンが、今度は少し呆れたような顔をした。
「成り上がり志向って言うのかな。したたかでたまにムカツクけど、ボクと気が合うかなって思えてきてさ。一緒にあれこれした仲間だし、親近感っていうの? 湧いてきたんだけど」
「うんうん、そっか……私も、コレットはね、ちょっと問題あるなって思うけど嫌いではないの。昔ちょっと色々あって、応援してた名残というか……今のコレットを見ていると複雑な気持ちになるんだけどね」
「へえ。パメラってコレットのこと、昔から知ってたんだ?」
前世で読者としてね。
言ってもわからない転生事情を胸に仕舞い、私は曖昧に微笑んだ。
「パメラが優しすぎるなって思ってたんだけど、縁があったならちょっと納得だよ。でもさ、あの子、やっぱり今のままじゃダメだよね。この前も寮で揉めてたけどさ、評判悪いんだよ」
「そうね。友達が私たち以外に作れていないのは意外だったわ」
原作ではアトレイン様に気に入られて、彼を中心とするシルバーウルフ寮のお姫様みたいになってたんだよね。
でも、勉強会の時に寮の生徒と話してる雰囲気は全然「寮のお姫様」って感じじゃなかった。
「ボク、コレットの問題行動を反省させて謝らせて、更生させようと思うんだ」
「うん?」
あれ? セレスティンの目が正義に燃えている?
「というわけで、ボクは今度、コレットと決闘する」
「…………えっ?」
私は思わず聞き返した。
セレスティンは拳を握り、ファイティングポーズを取っている。
「だってコレット、この前ボクだけに聞こえる魔法で喧嘩売って来たんだよ」
「あっ……秘話の魔法?」
びっくりだ。
コレット、セレスティンに喧嘩売ってたの?
「しかも、あいつ、ボクだけじゃなくて他の生徒にも何かあるたびに暴言吐いてたんだ。パメラにもしたんだよね? ボク、コレットに確認したんだよ」
「えっ、そうなの……」
他の生徒たちにもしてるの?
なかなかの暴れっぷりだ。それは評判も悪くなるよ。
「パメラはいじめられ慣れてるから、気付いたら我慢してて心配になるよ。ボクは決闘で勝ってコレットを懲らしめてやる。もうやりませんってみんなの前で誓ってもらうよ」
「えっと……私は忘れてたぐらい、気にしてなかったよ。応援してるね。ちなみに決闘はいつするの?」
「明後日」
試験前に決闘するんだ……。
「この前言おうか迷ったんだけどさ。コレットって自分の可愛さとか平民出身なのを盾にするんだよ。ボクはアレやってるの見るたびにイラッとするんだ!」
「あはは……確かにそうかも……したたかなんだよね」
私は苦笑いしながらホットミルクを飲んだ。
原作ではセレスティンとコレットが決闘することなんてなかった。
どちらかというとセレスティンはパメラに敵意を募らせていて……そうだ。
「セレスティン、魔法剣って使える?」
「魔法剣?」
原作のセレスティンは、パメラと対立するシーンがあった。
火壁を使って剣を阻むパメラに対抗して、セレスティンは水属性の魔法剣を生成して打ち破ったんだ。
「魔力で剣を作るんだよ」
「へえ! こんな感じかな」
ちょっと教えると、セレスティンはすぐに魔法剣を習得した。
原作ではコレットが教えてたんだっけ?
「お嬢ちゃんたち、もうすぐ就寝時間だぞ」
「あっ、ルナル寮長」
とんがり帽子を被った小さな黒兎のルナル寮長がやってきたので、秘密の特訓はここまでだ。
寝る前に勇気を出して手紙を開くと、手紙にはアトレイン様らしさのある流麗な文字が綴られていた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
パメラへ
あの頃、あなたが困っていたのに、何もできなかったことを今も悔いている。
俺はあの時、婚約者として、いや、一人の人間としてどう寄り添えばいいのか分からなかった。
姉の病と政務の板挟みで、心の余裕を失っていたのだと思う。
けれどそれは、あなたに向き合わなかった理由にはならない。
今になってようやく、あの沈黙がどれほどあなたを傷つけたか分かった。
本当にすまなかった。
俺は、誰もが憧れるような完璧な王子ではない。
弱さも、臆病さも、きっと誰より持っている。
それでも、国を導く者として人々に安心を与えたいと願ってきた。
その結果、気づけば仮面を被ることが癖になっていたんだ。
あなたは、そんな俺の外側しか知らないかもしれない。
けれど俺は、これからは隠さずにいたい。
あなたと過ごすうちに、そう思うようになった。
もしよければ、これから手紙でも、言葉でも、あなたと本当の意味で話をしていきたい。
あなたのことを、もっと知りたい。
そして俺のことも、知ってほしい。
できるなら、いつか……俺のことを好きになってほしい。
アトレインより
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
「……もう好きになってますよ」
それから、私たちは手紙のやりとりをするようになった。
私が書くことは様々で、これまでのこととか、子供の頃の思い出とか、たまに前世のことも「病気で一時期寝込んだことがあるのですが」と誤魔化しながら書いてみたり、ちょっとだけ推し活について語ってみたり。
殿下からは私が書いたことへの感想や、ご自分の子供の頃の思い出、怪我をなさった時のことや、グレイシア姫殿下が婚約者(推し!)のことを語っていたことなどを書いてくださる。
『試験が終わったら、一度あなたの家にご挨拶に行きたい』
そんな手紙も届いて、どきりとする。
文通は楽しくて、知れば知るほど殿下を好ましく思う気持ちが高まるようで、私は手紙の全てを大切に箱に入れて、何度も読み返してにやけてしまった。
ナイトラビット寮の中庭に出た私は、木剣を振るセレスティンの姿を見つけた。
月明かりの下、青い髪が揺れる。
一振り、また一振り。
その動きは美しくて、まるで舞を見ているようだった。
「セレスティン、もしかしていつも夜中に素振りしてるの?」
声をかけると、セレスティンが振り返った。
「パメラ。それ、ボクに差し入れ?」
私が持っているトレイを見て、セレスティンが微笑む。
ホットミルク入りのマグカップを二人分載せたトレイを持って歩み寄ると、セレスティンは木剣を置いて近くの横椅子に誘ってくれた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
二人で横椅子に座る。
葉っぱの香りを乗せた夜風が、心地いい。
「本当は勉強してる時間を全部剣術の鍛錬に注ぎたいんだよね、ボク。でも、そうはいかないよね」
セレスティンは青色の髪を片手でくしゃりと乱し、へらりと笑った。
なんだか痛々しい感じの笑顔で、胸が痛む。
「セレスティン。学園、つまらない?」
「うーん……」
セレスティンが、少し考えるように空を見上げた。
「ううん。友達もできたし、楽しいと思うよ」
「それならよかった」
私は、ほっと胸を撫で下ろした。
「私が楽しく学園生活できてるのって、セレスティンのおかげだなって思うんだよね。いつもありがとう」
「そんな、大したことしてないよ」
セレスティンが照れたように笑う。
そして、ホットミルクを一口飲んでから、ふと言った。
「パメラはアトレイン殿下が結構好きだよね。最初は嫌いなのかと思ってたけどさ」
「えっ」
突然の言葉に、心臓が跳ねた。
セレスティンが、優しく微笑む。
「ボクはね、お母様に男児だと偽られて育ったんだ」
「……そうなの」
原作知識のある私はわかっている。
でも、セレスティンが自分から話してくれるのが嬉しくて、神妙に耳を傾けた。
「ボクのお母様は第二夫人だったんだ。ボクを生んだ時、第一夫人には男児がいなかった。だから男児を生んで家内での地位を高めたかったんだろうね。でも、当たり前だけどばれてしまって、結局、第一夫人が嫡男を生んでしまったよ。まあ、嘘はいけないよね。後継ぎにされる前に発覚してよかったよ」
セレスティンは母親の体面のために苦労してきたんだ。
そう思うと切なくなる。
「ボクはそういう事情もあって、あんまり女子っぽい振る舞いが得意じゃないんだ。だから同じ年頃の女の子の友達はパメラが初めてだよ」
「私が初めて?」
「婚約者があまり好きじゃないけど、だからかな。自分と違うなって思って。パメラは好きなんだなってわかっちゃった」
「そ、そっか……」
顔が熱い。
ホットミルクを飲んで、誤魔化した。
「あのコレットもさ」
セレスティンが、今度は少し呆れたような顔をした。
「成り上がり志向って言うのかな。したたかでたまにムカツクけど、ボクと気が合うかなって思えてきてさ。一緒にあれこれした仲間だし、親近感っていうの? 湧いてきたんだけど」
「うんうん、そっか……私も、コレットはね、ちょっと問題あるなって思うけど嫌いではないの。昔ちょっと色々あって、応援してた名残というか……今のコレットを見ていると複雑な気持ちになるんだけどね」
「へえ。パメラってコレットのこと、昔から知ってたんだ?」
前世で読者としてね。
言ってもわからない転生事情を胸に仕舞い、私は曖昧に微笑んだ。
「パメラが優しすぎるなって思ってたんだけど、縁があったならちょっと納得だよ。でもさ、あの子、やっぱり今のままじゃダメだよね。この前も寮で揉めてたけどさ、評判悪いんだよ」
「そうね。友達が私たち以外に作れていないのは意外だったわ」
原作ではアトレイン様に気に入られて、彼を中心とするシルバーウルフ寮のお姫様みたいになってたんだよね。
でも、勉強会の時に寮の生徒と話してる雰囲気は全然「寮のお姫様」って感じじゃなかった。
「ボク、コレットの問題行動を反省させて謝らせて、更生させようと思うんだ」
「うん?」
あれ? セレスティンの目が正義に燃えている?
「というわけで、ボクは今度、コレットと決闘する」
「…………えっ?」
私は思わず聞き返した。
セレスティンは拳を握り、ファイティングポーズを取っている。
「だってコレット、この前ボクだけに聞こえる魔法で喧嘩売って来たんだよ」
「あっ……秘話の魔法?」
びっくりだ。
コレット、セレスティンに喧嘩売ってたの?
「しかも、あいつ、ボクだけじゃなくて他の生徒にも何かあるたびに暴言吐いてたんだ。パメラにもしたんだよね? ボク、コレットに確認したんだよ」
「えっ、そうなの……」
他の生徒たちにもしてるの?
なかなかの暴れっぷりだ。それは評判も悪くなるよ。
「パメラはいじめられ慣れてるから、気付いたら我慢してて心配になるよ。ボクは決闘で勝ってコレットを懲らしめてやる。もうやりませんってみんなの前で誓ってもらうよ」
「えっと……私は忘れてたぐらい、気にしてなかったよ。応援してるね。ちなみに決闘はいつするの?」
「明後日」
試験前に決闘するんだ……。
「この前言おうか迷ったんだけどさ。コレットって自分の可愛さとか平民出身なのを盾にするんだよ。ボクはアレやってるの見るたびにイラッとするんだ!」
「あはは……確かにそうかも……したたかなんだよね」
私は苦笑いしながらホットミルクを飲んだ。
原作ではセレスティンとコレットが決闘することなんてなかった。
どちらかというとセレスティンはパメラに敵意を募らせていて……そうだ。
「セレスティン、魔法剣って使える?」
「魔法剣?」
原作のセレスティンは、パメラと対立するシーンがあった。
火壁を使って剣を阻むパメラに対抗して、セレスティンは水属性の魔法剣を生成して打ち破ったんだ。
「魔力で剣を作るんだよ」
「へえ! こんな感じかな」
ちょっと教えると、セレスティンはすぐに魔法剣を習得した。
原作ではコレットが教えてたんだっけ?
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「あっ、ルナル寮長」
とんがり帽子を被った小さな黒兎のルナル寮長がやってきたので、秘密の特訓はここまでだ。
寝る前に勇気を出して手紙を開くと、手紙にはアトレイン様らしさのある流麗な文字が綴られていた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
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あの頃、あなたが困っていたのに、何もできなかったことを今も悔いている。
俺はあの時、婚約者として、いや、一人の人間としてどう寄り添えばいいのか分からなかった。
姉の病と政務の板挟みで、心の余裕を失っていたのだと思う。
けれどそれは、あなたに向き合わなかった理由にはならない。
今になってようやく、あの沈黙がどれほどあなたを傷つけたか分かった。
本当にすまなかった。
俺は、誰もが憧れるような完璧な王子ではない。
弱さも、臆病さも、きっと誰より持っている。
それでも、国を導く者として人々に安心を与えたいと願ってきた。
その結果、気づけば仮面を被ることが癖になっていたんだ。
あなたは、そんな俺の外側しか知らないかもしれない。
けれど俺は、これからは隠さずにいたい。
あなたと過ごすうちに、そう思うようになった。
もしよければ、これから手紙でも、言葉でも、あなたと本当の意味で話をしていきたい。
あなたのことを、もっと知りたい。
そして俺のことも、知ってほしい。
できるなら、いつか……俺のことを好きになってほしい。
アトレインより
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
「……もう好きになってますよ」
それから、私たちは手紙のやりとりをするようになった。
私が書くことは様々で、これまでのこととか、子供の頃の思い出とか、たまに前世のことも「病気で一時期寝込んだことがあるのですが」と誤魔化しながら書いてみたり、ちょっとだけ推し活について語ってみたり。
殿下からは私が書いたことへの感想や、ご自分の子供の頃の思い出、怪我をなさった時のことや、グレイシア姫殿下が婚約者(推し!)のことを語っていたことなどを書いてくださる。
『試験が終わったら、一度あなたの家にご挨拶に行きたい』
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