無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴

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本編

おとぎ話の続きの話

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ある日王都近くの危険区域に向かうとそこに複数人の男たちがいた。学生服なのか、胸元には何かのエンブレムがついており、そう判断した。赤色金色と色とりどりで何やら言い争いをしている。こんなところでそんなに騒いで命が惜しくないのか、それともそういう作戦だろうか。そんな事を思いながら様子を伺っていると、その騒ぎを聞きつけた魔獣たちが寄ってきた。



その魔獣は、まあまあここら辺では強い四足歩行の獣で肉がうまい。今日の夕飯だっと少しウキウキしながら魔装具を発動させて照準を定める。



すると男たちは一人の、赤い髪の男を魔獣に向けて押した後に真っ先に逃げ出した。

え!?っと驚いたのもつかの間、その魔獣が赤髪の男に襲い掛かるので引き金を引いた。

頭を一発。即死で横に倒れる。俺は魔装具を仕舞ながら男に近づいた。



「大丈夫か?」

「……うぇ」



あ、吐いた。



***



はっと目が覚めて俺は起き上がった。



見たことのない場所に俺はいて一瞬ぽかんとするが、徐々に先ほどのことを思い出して来た。

いつの間にか眠ってしまっていたようだ。目元をこすると側の机に本が置いてある。



なんだあれ。とはいえ、こんな場所に置いてあるものを不用意に触るほど無警戒になったつもりは―――あ。



「王国の偉大な四大種族……」



あの本のタイトルは図書館でも見た。最後まで見れなかった奴である。確か、三人の男の子と仲良くなったってところで終わった。

その本が何でここにあるのだろうか。俺はそう思いつつそろそろとベッドの上から下りようとして腰を掴まれた。



「どこ行くの?」



ひゅっと喉が鳴った。というのも隣に全く気配を感じなかったのだ。叫んでしまいたかったがどうにか飲み込んで声の方に視線を移す。



「ちょっとあっちに……」

「ふーん?」



なんだその反応、と半眼になるが彼はふっと目の前から消えていつの間にか後ろにいた。この塔にいるからだろうか。全く魔力の気配がしない。



じろっと睨みつけるように警戒していると、彼はクスリと笑ってそれから机の上に置いてある本を手に取った。

それからそっとその本を愛おしそうに撫でる。



「この本知ってる?」

「え?まあ……」



そう言うと彼がかっと目を見開いた。それからずいっと俺に近寄ってくる。



「ならわかる?分かるよねぇっ!?」



狂気じみた笑顔と声音に思わず恐怖に身をこわばらせる。

な、なんだこいつ急に!?



「この本の話だよ!人族の子と異世界の神子が恋に落ちる話!!」

「え?い、いや、四種族の男の子が仲良くなる話でしょう?」



何処からそんなラブコメチックな話になったの?



「……なんだ、初めの方しか見てないの?じゃあこれを機に最後まで読んであげる!」



そう言って彼は近くの椅子に座って本を捲る。いやいや、別にいいんだけど……ああ、読み聞かせる気満々だ。

まあ、俺も内容気になっていたからいいけど。

そう思い耳を傾けると、彼はゆっくりと語りだす。









―――さて、四種族の男の子たちは仲良く暮らしていました。時折周りのものに多大な被害を与えるほどの大惨事を引き起こしつつも平和に暮らし、気づけば成人年齢になっていました。



そんなある日のことでした。

その日はとても晴れた清々しい日でした。

人族の男は森の中で神々しく輝く美しい男に出会いました。

今まで見たことのない美しい男に人族の男は目を奪われてしまいます。

そして、同じようにその男も人族の男に見惚れていました。

そう、二人は出会ってすぐに恋に落ちてしまったのです。

人族の男の行動は早いものでした。

男の事情を聞き、異世界から来た者であると知るや否や自分の家に招き一緒に暮らすようになりました。

だから、人族の男は早々に龍族の男との婚約を解消してもらおうと躍起になりました。

しかし、周りの人間が簡単に許すはずがありません。

何も価値のないただの得体のしれない男よりも龍族の男の方が魅力的であるのは明白です。

予想通りの答えしか帰ってこない彼らに人族の男は落胆し、そして遠くの地へ二人で逃げることに決めました。

彼らの計画はとんとん拍子で進み、そして遠くの地末永く幸せに暮らしました。



「めでたしめでたし!」

「嘘でしょ!?」



何だかいい話風に占めているが色々問題がありすぎでは!?

他の三種族はどうなった!?それ物語的にいいの!?もう少し凝れよ!!

そう俺は突っ込んだが、彼はそれはそれはうっとりとしてそれを撫でた後に俺を見る。びくっと思わず体を震わせると彼はにっこりと微笑んだ。



「ね?だから運命なんだよ」

「いや、意味わかんないし……」



そういえば、レインがこの本の人族の男を俺だと表現したことがあったことを思い出す。となれば異世界の男はあの……。

秋を思い出した。そして、元婚約者ヴィを思い出す。……うん。



「俺ヴィ以上の美形を見たことない気がする……」



秋と彼の顔面偏差値は比べるまでもない。同じ土俵にすら秋は立っていないし。

うん、あり得ない。



「……どうして」

「―――っ!」

「どうして君は分かってくれないの!!結ばれる運命だって!なんで!!どうして好きになってくれないの!!」

「あぶな……っ!?」



激昂した彼が本を振りかぶってそのまま俺に向かって振り下げてきた。

その行動にこのまま殴られる!と危惧したわけではなく、背後の人影に俺は声をあげた。

ガツンっと容赦なく後頭部を殴られた彼はがくんっと地に伏せたが、どうにか起き上がろうとしや。しかし、予想以上の衝撃だったのか弱弱しく起き上がろうとしていたところに追い打ちをかけるように踏みつけられてぴくりと動きを止めた。



「大丈夫ですか」

「あ、う、うん……」



そこにいたのは誰かって?

自国の王族を踏みつけにしている騎士団長様です。
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