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本編
黒衣の騎士(ストーカー)
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彼は身なりを整えると、何事も無かったように殴って足蹴にした彼からのいて俺を見た。
それからじろっと睨みつける。
「何してるんです。早くここから出ますよ」
「え、あ……」
そう言われて、いつもならばすぐに返事をするところだが、ヴィのことを考えると二つ返事で了承できなかった。
俺の心情を知ってか知らずか分からないが、彼はぐいっと乱暴に俺の腕を掴んだ。
「こんな男に同情しても無駄ですよ。陛下も匙を投げるほどの狂気ぶりですから。帰りましょう?貴方にはもっとふさわしい場所があります」
その言い方に若干引っかかるがぐいぐいと引っ張られれば抵抗できない。大体身長差もあるし。
大人しくついていき部屋を出た瞬間がこん、と音がして振り返った。するとそこには扉がなく壁になっている。そしてガガガ画っと音がして床が回転するように動いた。どこに向かっているのか分からないが、上に向かっているということが分かる。思わず座り込んでしまうと、ぱっと腕を離して気遣うように腰を折って優しく声をかけられる。
「大丈夫ですか?黒衣の騎士様」
「は?」
え?今なんて言った?俺の事?じゃないよね?え?
「俺は黒衣の騎士じゃないけど?」
「え?あー、成程、そうですか。だからあんなことをしていたんですね。お可哀想に……」
「え?」
な、なに突然。ランディール王国って変な人しかいないの?
そんな事を思っていたらそっと手を握られる。
「我が国であればあなたの様のことをもっと待遇できるのに……。口惜しい、もっと早く出会っていれば……今からでも遅くありません。わが国に移籍しませんか?歓迎しますよ!」
「???」
あれ?何か下の者に仕事を任せるな的なこと言われなかったっけ?あ、もうその時点で王子様だったり?ん?
「あ、あのぅ、いつから王子様と……?」
「合同調査の話をした後です。殿下に呼ばれて気づいたらここに」
「ちなみにその髪色はどうして、ですか?」
「……気分です」
先ほどまでじっと見つめてきた目を逸らされた。手も離された。ここは突っ込まない方がいいのかもしれない。
そう思ったら動揺からか、懐に手を突っ込んで何かを確認していた彼が手を取り出すと何かの紙が落ちた。反射的にそれを手にすると、身に覚えのある文字が見えた。
いや、というか、覚えのありすぎるやつだ。
「……俺の名前?」
「あっ!」
彼は焦ったような声を出した後におろおろと目に見えて動揺したように手弄りをする。
え、な、なにその反応……。というかこれ、あのサインじゃない?なんで持ってるのこの人。
「……返します」
「え!?あ、ありがとうございます!!」
とりあえず距離を取って置いた。しかしそれを意に返すことなく、何故か生き生きとした表情でとても大事そうに懐に仕舞われた。
俺の単なるサインのはずなのにどんな価値があるんだ……?怖いから追求しないけど。
あと、すごくキラキラした視線を向けられている気がする。
無言が辛い。何か、何か話題をっ!
「こ、これって今どこに向かっているんですか?」
「ああ、ここの危険区域でのボス挑戦権を獲得したので今からそのボスを倒すところです。それでクリアになるはずなのですぐに出られますよ」
「え?」
え、もうそこまで?騎士団長一人で?ここ等級も確立されてないのに凄いな。まさかそこまでお膳立てされているとは思わなかったけど。あ。
「俺があそこにいるってなんでわかったんですか?」
「それは長年培われた騎士様アンテナのお陰ですね!」
どや顔でそう言われたが意味が分からない。先ほど見直したのにもう評価が下降してますが。
「あ!そういえばこの前の遠征はいかがでしたか?その時はいつもの様に見守ることが出来ずに大変口惜しい思いを致しました。さりげなくお仲間を助けるお姿、スマートに魔獣を退治するお姿を記録できずとても残念です。せめて、貴方様の活躍を他の方から聞こうかと思ったのですが、あそこの者どもはまるで分っていませんね。口を開けば貴方様に対する品のないお言葉。他国のものにまで言い聞かせるようなものですか?耳に耐えませんね。どれだけ助けられているのか知らずにいけしゃあしゃあと……」
「待って!?」
急に饒舌になって俺は恐怖を覚えた。というか、言動的に俺の事を見てたってこと?え!?全然気づかなかったんだけど!?というか、他国まで出向くって暇なの!?
いや、いやいやもしかして、もしかするのではないかこれは!
考えたくないがある可能性にたどり着く。
「こ、黒衣の騎士……?」
「え?まさか。他人を助けるほどの度量はありませんよ」
「いやいやいや!!」
どう考えても状況的にそうだ。と、ということは、ヴィが好きな男ってこの人!?
他国御第一騎士団長で、容姿もいい、実力もあるし、レインの従妹だっていうからそれなりの地位権力あり。
……これは比べるまでもないな。同じ土俵にすら入れてない。
「す、末永くお幸せに……」
「え?何の話ですか?」
「はあっ!?」
わ、分かっててそんな事言うの!俺をこれ以上惨めにしないでよ!!
「ヴィと結婚するんでしょ!俺は大人しく身を引くし妨害も全くしないから!!」
「え?いや、何処からそんな話が……?」
「ヴィは黒衣の騎士のことが好きなんだって皆言ってるもんっ!!」
そう叫んだらぐわんっと目が回った。どっどっと変に心臓が早鐘を打つ。それと同時にかっとお腹が熱くて痛い。けほっと咳き込むと何かが吐き出された。
あ……?
確認すると赤いものが付着していた。
血、血だ。なんで?あ、もしかして魔石の魔力溜まりすぎた?いやでもそんな長い間使ってなかったっけ?
そこまで思考した後にこの場所自体が何かしら特別であるという可能性に気付く。ならば、仕方ない。
身体を支えられずにぐらりと倒れると彼が俺を抱えてくれた。何か言っている気がする。でも耳鳴りがひどくて何も聞こえない。体が震えてきて目が霞む。
俺は、この感覚が二度目であるとどうしてかそう思った。
少しずつ意識が遠のいていき俺はそのまま意識を失った。
それからじろっと睨みつける。
「何してるんです。早くここから出ますよ」
「え、あ……」
そう言われて、いつもならばすぐに返事をするところだが、ヴィのことを考えると二つ返事で了承できなかった。
俺の心情を知ってか知らずか分からないが、彼はぐいっと乱暴に俺の腕を掴んだ。
「こんな男に同情しても無駄ですよ。陛下も匙を投げるほどの狂気ぶりですから。帰りましょう?貴方にはもっとふさわしい場所があります」
その言い方に若干引っかかるがぐいぐいと引っ張られれば抵抗できない。大体身長差もあるし。
大人しくついていき部屋を出た瞬間がこん、と音がして振り返った。するとそこには扉がなく壁になっている。そしてガガガ画っと音がして床が回転するように動いた。どこに向かっているのか分からないが、上に向かっているということが分かる。思わず座り込んでしまうと、ぱっと腕を離して気遣うように腰を折って優しく声をかけられる。
「大丈夫ですか?黒衣の騎士様」
「は?」
え?今なんて言った?俺の事?じゃないよね?え?
「俺は黒衣の騎士じゃないけど?」
「え?あー、成程、そうですか。だからあんなことをしていたんですね。お可哀想に……」
「え?」
な、なに突然。ランディール王国って変な人しかいないの?
そんな事を思っていたらそっと手を握られる。
「我が国であればあなたの様のことをもっと待遇できるのに……。口惜しい、もっと早く出会っていれば……今からでも遅くありません。わが国に移籍しませんか?歓迎しますよ!」
「???」
あれ?何か下の者に仕事を任せるな的なこと言われなかったっけ?あ、もうその時点で王子様だったり?ん?
「あ、あのぅ、いつから王子様と……?」
「合同調査の話をした後です。殿下に呼ばれて気づいたらここに」
「ちなみにその髪色はどうして、ですか?」
「……気分です」
先ほどまでじっと見つめてきた目を逸らされた。手も離された。ここは突っ込まない方がいいのかもしれない。
そう思ったら動揺からか、懐に手を突っ込んで何かを確認していた彼が手を取り出すと何かの紙が落ちた。反射的にそれを手にすると、身に覚えのある文字が見えた。
いや、というか、覚えのありすぎるやつだ。
「……俺の名前?」
「あっ!」
彼は焦ったような声を出した後におろおろと目に見えて動揺したように手弄りをする。
え、な、なにその反応……。というかこれ、あのサインじゃない?なんで持ってるのこの人。
「……返します」
「え!?あ、ありがとうございます!!」
とりあえず距離を取って置いた。しかしそれを意に返すことなく、何故か生き生きとした表情でとても大事そうに懐に仕舞われた。
俺の単なるサインのはずなのにどんな価値があるんだ……?怖いから追求しないけど。
あと、すごくキラキラした視線を向けられている気がする。
無言が辛い。何か、何か話題をっ!
「こ、これって今どこに向かっているんですか?」
「ああ、ここの危険区域でのボス挑戦権を獲得したので今からそのボスを倒すところです。それでクリアになるはずなのですぐに出られますよ」
「え?」
え、もうそこまで?騎士団長一人で?ここ等級も確立されてないのに凄いな。まさかそこまでお膳立てされているとは思わなかったけど。あ。
「俺があそこにいるってなんでわかったんですか?」
「それは長年培われた騎士様アンテナのお陰ですね!」
どや顔でそう言われたが意味が分からない。先ほど見直したのにもう評価が下降してますが。
「あ!そういえばこの前の遠征はいかがでしたか?その時はいつもの様に見守ることが出来ずに大変口惜しい思いを致しました。さりげなくお仲間を助けるお姿、スマートに魔獣を退治するお姿を記録できずとても残念です。せめて、貴方様の活躍を他の方から聞こうかと思ったのですが、あそこの者どもはまるで分っていませんね。口を開けば貴方様に対する品のないお言葉。他国のものにまで言い聞かせるようなものですか?耳に耐えませんね。どれだけ助けられているのか知らずにいけしゃあしゃあと……」
「待って!?」
急に饒舌になって俺は恐怖を覚えた。というか、言動的に俺の事を見てたってこと?え!?全然気づかなかったんだけど!?というか、他国まで出向くって暇なの!?
いや、いやいやもしかして、もしかするのではないかこれは!
考えたくないがある可能性にたどり着く。
「こ、黒衣の騎士……?」
「え?まさか。他人を助けるほどの度量はありませんよ」
「いやいやいや!!」
どう考えても状況的にそうだ。と、ということは、ヴィが好きな男ってこの人!?
他国御第一騎士団長で、容姿もいい、実力もあるし、レインの従妹だっていうからそれなりの地位権力あり。
……これは比べるまでもないな。同じ土俵にすら入れてない。
「す、末永くお幸せに……」
「え?何の話ですか?」
「はあっ!?」
わ、分かっててそんな事言うの!俺をこれ以上惨めにしないでよ!!
「ヴィと結婚するんでしょ!俺は大人しく身を引くし妨害も全くしないから!!」
「え?いや、何処からそんな話が……?」
「ヴィは黒衣の騎士のことが好きなんだって皆言ってるもんっ!!」
そう叫んだらぐわんっと目が回った。どっどっと変に心臓が早鐘を打つ。それと同時にかっとお腹が熱くて痛い。けほっと咳き込むと何かが吐き出された。
あ……?
確認すると赤いものが付着していた。
血、血だ。なんで?あ、もしかして魔石の魔力溜まりすぎた?いやでもそんな長い間使ってなかったっけ?
そこまで思考した後にこの場所自体が何かしら特別であるという可能性に気付く。ならば、仕方ない。
身体を支えられずにぐらりと倒れると彼が俺を抱えてくれた。何か言っている気がする。でも耳鳴りがひどくて何も聞こえない。体が震えてきて目が霞む。
俺は、この感覚が二度目であるとどうしてかそう思った。
少しずつ意識が遠のいていき俺はそのまま意識を失った。
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