お気に入りの悪魔

富井

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見習い、始まる

一、

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ある住宅街の1軒の家に入って行った。



その家には、子どもは二人、中学生の女の子と小学生の男の子 奥さんは忙しそうに朝ごはんを並べて弁当作りにかかっていた。

もちろんその家族に僕らの姿は見えない。


「山田康夫 41歳 サラリーマン。どこにでもあるごく普通の一般的な家庭の主人。今日の1軒目はこの人。」

「え?悪い事もしなさそうな感じですがね~」

「悪いことしたからとか、しないかじゃない。みんな、平等にどの人にも悪魔が取り憑く。」

「みんな?」

「そう、みんな、順番に。この人だけ運がいいとか悪いとかじゃない。みんないい時もあれば、悪い時もある。

そうやって自分のおこないを顧みて、克己心を思い出させる。人間はいい時ばかりだと学習しなくなる。

こいつだって、人の良さそうな顔をしていても、いいコトばかりが起きたら有頂天になって堕落する。そうならないように定期的に憑くんだ。」

「へ~。」

「やり方 よくみとけ。まずこの縄を胸から腕と一緒に縛る。絶対に胸から下だからな。うっかり首とか絶対だめだぞ。だいたい大人で十~十五巻き。子どもは八~十くらいな。」

「子どももっスか・・・」

ロビンはポケットから縄をずるずると引っ張り出すと、椅子に座ってパンを食べている山田康夫の胸にスルスルと縄を巻き始めた。この縄も当然人間には見えない。

「人間は全部が対象だ、子供は動くからうまく縛れないときは、脚だけでもいいぞ。今回はココの家ではこの山田康夫だけ。そして、結び目は後ろで・・・あ、結び目は必ず本結びで、いいな。」

「以外に緩めですね。」

「これからだよ。オレはハーモニカ、おまえはカスタネット、コレからこいつに僕たちの演奏を聴かせる。」

ロビンがぼくにカスタネットを手渡した。いつぶりのカスタネットだろう。懐かしい手触りだけど、どうしていいかわからなかった。

「じゃいくぞ。」

ロビンがハーモニカを弾き始めた。以外にも上手だった。僕も渡されたカスタネットを叩こうとしたが、どのタイミングで叩いていいかわからず、叩くフリだけした。

すると、さっき緩かった綱がすこしづつ締まっていった。

「このくらいかな、今日のところは。」

ロビンが指で強さを確認したのに習って、指で綱を押してみた。

「つぎ行こうか。」

「え、こんなけっすか?」

「そう、今日はね。毎日少しずつ強く締めていくんだ。それでもオレが音楽を奏でている間は混乱して痛みは感じない。逆にいつもより気持ちがあがる感じ、トランス状態になるんだ。体と心はゆっくり、じわじわ縄が締まっていくとも知らずに、頭の中ではまったく逆のことを考えてしまう。そしてそのうちおかしな行動をしたり、まちがった判断をして苦しむようになる。
最初は・・・道を間違えたり、判断を間違って簡単な仕事をミスしたりその程度だ。あれ?なんでだろう?そんなことが積み重なってって感じかな。とんでもないことをしでかしたりもする。」

「とんでもないことッスか・・・・」

「ま、それは人それぞれ。とんでもない加減もそれぞれだ。見ていればわかる。でもオレ達はなにがあっても、人間を殺してはいけないよ。
死ぬか生きるか決めるのは人間自身だ。僕たちは苦しめるだけが仕事、人間は苦しんで、苦しんでそこから新しい答えを見つける。それと、縄の結び目に気をつけろよ。」

「ういーっす なんか意外に地味つーか根気のいる仕事っすね・・・」



ロビンが左腕を出した。そこに腕を通すとふわっと体が持ち上がり、来たときと同じように空を走るように移動した。




次についたのは、とても大きな家だった。庭も広くて大きな池と立派な松があった。

長く横に伸びた松の枝に二人並んで腰掛けて、家の中の様子をみた。


家の中には熊が立ち上がった剥製がこちらに睨みをきかせていた。


「金田利夫 六十八歳 金融会社社長」

いかにも金持ちってカンジがする。でっぷりと太った腹に金の腕時計。やっぱり縄をかけられている。

「ココは様子を見に来たんですか?」

「うん。ココは今日で一週間目、そろそろダメージくるころなんだけど、なかなか思うように締め上げられないんだ。まったく厄介なんだよ。」


ロビンは木の枝に腰掛けたまま身を乗り出して家の中でくつろぐ金田の様子を伺っていた。

なんだかよくわからなかったが、それを習って同じように家の中をのぞいた。

「何があるンスか?」

「ココの家は変な動物がいてね、俺の邪魔をするんだよ。この間も噛まれてたいへんだったんだ。さんざん追いかけ回されて、噛まれて、スーツ破かれて。頭に来たから、今日はあいつとあの変な動物と一緒に縛ってやろうと思って・・・縄はトゲつきを持って来た。あのやろう、絶対仕返ししてやる。」

ロビンはさらに身を乗り出して中をみた。

「ひょっとしてアレですか?」

それは本当に変な動物だった。うねうねとヘビのように動く尻尾が2本 太短い足が6本。胴は黄色に赤のトラ縞模様。顔は丸くてたぬきっぽいけど、床につきそうなほどながいキバがある。大きさは柴犬よりひとまわり大きいくらい。耳が垂れ下がっていてちょっとかわいい。

「アレだ。ほんとに変だろー。」

「はい・・・・初めてっす。」

「かわいいのか、怖いのかハッキリしてほしいよー。とりあえず、アレ、おまえ捕まえろよ。」

「イヤですよ。しかも、まあまあデカイじゃないですか。それにあのキバ!」

「怖いだろー噛まれると痛いんだ。捕まえろよ。」

「え~。」

「昼飯抜きだぞ。」

「行きますよ・・・捕まえたらすぐ来てくださいよ。」

しかたなく枝から降りて、家の中へと入り恐る恐る少しずつ近づいた。

近くでそいつを見ると、目がくるっとしてかわいい。しかし、キバが鋭くて怖い。さらに上唇をあげて歯茎を見せ威嚇する姿が更に怖い。

「もーそんなに怒るなよー。」

一歩ずつ、一歩ずつ近づくと、更に歯茎を見せ威嚇してくる。目がつぶらでうるうるさせても、歯茎の見え具合で可愛さなんて微塵もない。僕は、朝の食べかけのメロンパンがポケットにはいっていることを思いだし、そいつにメロンパンをぶつけた。

そいつは、メロンパンの匂いに釣られて一瞬背中を向けたところを、首の後ろをつかみ、顔をメロンパンと一緒に座布団で押さえつけた。

「早く!捕まえた!!」

ロビンは家の中まで飛んで来て、金田と僕が捕まえた変な動物を縄でぐるぐる巻きだした。

動物はメロンパンをくわえながらも、僕をかもうと必死に短い足をばたつかせた。
変な動物のキバで縄を切られないよう 座布団で顔を抑えたまま縛った。


「やった・・・やっと締められる・・・」

「なんなんですかこの動物。」

「分からないけれど、でかい家にはたまに住み着いているんだいるんだ。こういう変な化身ってやつ。全く迷惑な話さ。営業妨害だ。」

「何回見ても変ですね。」

「あーでもこれで仕事ができる。じゃあ、うれしいから、すっごく楽しい曲にしよっと。」

ロビンのハーモニカはほんとうに上手だ。とても陽気な曲でうっとりと聞き惚れてしまう。
カスタネットもチョットだけ活躍した。

「はー、この変な動物を捕まえて、ちょっと楽しんでしまった。ダメだ・・・軽率だった。」

「でも、あんまりいい奴じゃなさそうな顔しているじゃないですか。金持ちなんでしょ。ちょっと位いきつくてもいいでしょ。」


「顔でいい奴とか悪いやつとか決めるな。金持ちかどうかもオレ達には関係ない。俺達は正義の味方でもなんでもない。俺たちに与えられた仕事を決められただけやる、自分の感情を入れるな。帰るぞ。」

今度は歩いて出て行った。さっきはあんなに楽しそうでふざけた奴かと思ったら、手帳をだして何やら書きながら時計を見ながら・・・案外、真面目な奴だ。
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