お気に入りの悪魔

富井

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因縁の人と幸せ

二、

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「今日は一つ縄が外せたから、スーツがもらえるぞ。どんなスーツがいいか考えておけよ。」

そう言った時までは元気だったが、もう一度手帳を目を通すと、思い切りため息をついた。

その訳はだいたいわかったっていた。あのやる気のない喫茶店へ行かなければいけないからだ。

あのやる気のない喫茶店の夫婦は、今日もカウンターの中で二人並び、ただぼんやりと置物のようにまったく往来のない窓の外を眺めていた。

ロビンはカウンターにすわって、ハーモニカを吹きだした。

僕も慌ててポケットからカスタネットを取り出し、リズムに合わせて叩いたが、僕の下手くそなカスタネットでせっかくのロビンのハーモニカが台無しになった。

「エーゴ、それいいや。」

ロビンもカスタネットにうんざりしている様子だった。

もう一度、最初から曲を弾きはじめると、夫婦はふわりとしてその音色に陶酔しだし、縄は一気に締まっていった。

ハーモニカが終わると夫婦はいつもよりいっそうがっくりと肩を落としたが、ロビンは何の興味も示さず、さっさと店を出た。

「よかったんですか?あんなに締めてしまって。」

あまりにもがっくりきていたので、心配になって聞いた。

「ダラダラ長く苦しむより、どこかでグッと締めて、コレではダメだって気がついたほうが面白いだろ。さっきのカレーのレストランみたいになったら・・・まあ、ダメになることの方が多いけどね。」

「でも、今まで少しだったのにいっき締めて自殺したりしないでしょうね」


「大丈夫。不幸に酔いしれているやつは不幸な自分が好きなんだ。金が無いとか、アッチが痛いとか人に愚痴って、人に頼って・・・意外にしぶとく生きるんだ。ああいうタイプは。それより急ごう!今日はカレーだ!!!」

次の目標地までふわりと飛んだ

「ついでだから教えておくよ。自殺したタマシイはどうなるか。」

「死神が回収に来てくれるんじゃないのですか?」

「死神はリストにないタマシイは引きとらない。担当の悪魔が片付けるんだ。事務局で回収用の袋をもらって。
ドロドロの真っ黒になったタマシイを袋に詰めて、空のずっと、ずっと奥の悪魔が生まれる穴よりも、もっとずーっと、ずーっと遠くの穴に捨てに行くんだ。ドロドロのタマシイはとても臭くて、服だけじゃなくて身体にも匂いが染み付いてお風呂に入っても匂いが取れないんだ。事務局で香水のきつい悪魔がいたら、たぶんそいつはそれを片付けた後だと思うよ。」

「ロビンもやったことあるンスか?」

「あるよ。1回だけね。」

ロビンはちょっと寂しそうな顔をした。けど、すぐウインクをしてごまかした。

悪魔って・・・けっこうハードで辛くて寂しい仕事だと実感した。

最後はあの親子のところだった。

けっこう順調に回ったはずだったけどいつもより1時間は遅くなっていた。二人は公園で遊んでいた。その公園には多くの子ども達が遊んでいた。

「やあ、よく会うね。マーブル・マービー・ケルン。」

死神十八番が声をかけてきた。今日も白いシャツに白いパンツ。夕方なのに日傘をさしていた。

「ホントよく会うね。今日はココかい。」

「うん。あの親子なんだけど、ひょっとして君が縄をかけた親子かい?」

ロビンは死神が指を指した方を見て、ハッとした。

「まさか・・・まだ、縄をかけて3日だよ。」

「ごめん。このことは前から決まっていたんだよ。娘が生まれた時から母親の運命も変わったんだ。二人で公園の帰り交通事故に巻き込まれる。二人とも助からない。」

ロビンはもう一度二人を見た。ブランコで楽しく遊ぶ親子は、遊ぶのをやめて帰り支度を始めた。

「あと1分33秒後だ。どうする?見届けるかい?」
「いや、よすよ。エーゴがまた泣いてしまうから。」
「縄は後で返すよ。」
「いや捨ててくれ。」

ロビンに捕まれてすぐに高く飛びあがった。その跡を追うように、車の急ブレーキの音と雑多な騒音が聞こえ出した。

「振り向くな!」

僕の腕を掴む手が力強くなったのを感じた。僕の角度からはロビン顔は見えなかったけれど、きっとまた寂しい顔をしているに違いない。

悪魔は悲しい仕事だ・・・
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