お気に入りの悪魔

富井

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秘密のステッキ

三、

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少し歩こうか、ロビンは露地に入る道の手前でふわりと降りた。
まだ少し足は痛むが、ステッキをつくたびにカツンカツンと、と軽快な音を奏で、痛いのになぜかとても楽しくなった。

「嬉しそうだな。」

「うん。なんだかこの音を聞いているだけでウキウキするっス。とってもいい音で。」

「そうか。この杖をついていた人もそんなこと行っていたかな・・・今日は午後から1件新しい所へ行くんだけど、そこは怪我が治ったらエーゴが面倒見ろ。それで・・・、問題はカスタネットなんだけど、まったくだめだな。しかも、エーゴが一人でやるようになったとして、あれではまったく仕事をこなせないぞ。他になにかできるものはないのか?」

「まったく・・・」

「練習しろよ。教えてやるよ。鍵盤ハーモニカはどうだ?縦笛とか・・なにか簡単なもの?」

「やったことないっす。」

「それでもやれ。俺もまったくできなかった。だけど、ここまでできるようになったんだ。だからエーゴもやれよ。今晩から帰ったら特訓な。」

でたらめに歩いていたのに、なぜか露地の奥の喫茶店ついた。


「ココに来るのは久しぶりだな。」

「うん、ナポリタンが美味しかったっス。」

「あのとき、あんな食べ方で、味なんかわかってないだろう。」

「そんなことないっすよ。マジでうまかった。一生忘れられない味っす。命びろいした味っす。
昨日のチョコレートと同じくらい・・・それ以上かな・・・おいしかった。」

「今日もそれにするか?グラタンもうまいぞ。」

「グラタンもいいっスね。」

カツンカツンと音を立てながら喫茶店までの道を一歩ずつ歩いた。
喫茶店に近くなると喫茶店の店員が飛び出してきた。飛び出して僕達の方を一身に見て「二人だけ?」そう聞いた。
「そうだよ。」と答えると、店員は残念そうに店の中へ入って行った。

水を持って来てくれた店員が、「そのステッキ・・・。」とステッキをマジマジと見た。

「あ、コレ綺麗でしょ。ロビンに借りたんだ。」
「ロビン?ロビンに会ったのか!!」

少し身を乗り出して僕に詰め寄った、思わずのけぞり、この人はなにを言っているんだ。目の前にロビンはいるじゃないか・・・そう言いそうになったとき、

「グラタンを2つ。パンで、あとサラダも。」

ロビンはそう言って店員をテーブルから遠ざけた。

店員は何度も、何度も振り返りカウンターに戻った。店にいた客たちも僕達が店に入った一瞬は静かになったが、すぐにざわめきを取り戻した。そのざわめきの中には落胆のため息も混ざっていた。


「ねえ。ロビン、このステッキの持ち主って・・・」

「ん?怪我人は何も気にせずいっぱい食べろ。治らないぞ。」

それでも、周囲が見る目はステッキ注目していた。
ロビンは注目されて嬉しいのか、なんだか得意げで、僕のあまり面白くない話にもいつもより大きな声で笑っていた。


「午後から少し遠くへ飛ぶ。
エーゴはその怪我でつらいだろうから待っていてくれないか?
秋山がいた広場。あそこでいいや。1時間くらいで戻るよ。」

店を出る時も周囲からマジマジと見られた。店員も店から出て、僕達が露地から見えなくなるほどまで見送っていた。

僕は振り返って店を見たら、店の窓からも客が僕たちを見ていた。
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