お気に入りの悪魔

富井

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やっぱりこれが・・・

一、

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気持ちいい午後の風に背中を押されて歩くのも清々しくて気持ちが良かった。

仕事の合間に挟む、この短い散歩の時間は頭の切り替えにもってこいだ。

「かえってまた練習っスか?」

「当然だろ。」

以外に悪魔は勤勉だ。予習復習は欠かさない。

ロビンはとてもまじめで、一人でもコツコツと努力していくタイプなのだろうが、僕は違う。

多分一人になったら、毎晩ダラダラと過ごしてしまうだろうし、仕事そのものだって、頼り切っているのに一人になってやっていけるのかとても不安だ。第一、楽譜の読み方をまだ理解できていない。


「ロビンって何曲くらい弾ける?」

「いっぱい!数えたことないな。」

「すごいね。」

「俺、これしかできないからね。字も難しいのは読めないし・・・1個くらい自慢できることあってもいいだろ?」
「僕は1個もないな・・・」

「そんなことはない。気がついていないだけだ。エーゴは掃除もうまいし、料理もできる。なにより諦めないところがいい。でも俺が一番気に入っているのは、俺を信頼してくれているところかな。
今まで何人も人間を拾って来たけれど、こんなに長く一緒にいたのは初めてだよ。」

「みんなどこへ行ったんスカ・」

「ほかの悪魔にとられたり、人間に戻ってしまったり・・・」
「人間に戻れるんスカ?」
「戻れるよ。戻りたいか?」

「イヤ。僕、この仕事あっていると思ウンすよねー。朝ちっとも一人で起きられないけれど、鍵盤ハーモニカもまだまだ下手だけど、毎日楽しいっス。人間でいた時より、生きている感じがする。ロビンには本当に感謝っス。
ずーっと、ずーっと一緒にやっていきたいっス」

「ずっと・・・か・・・」

他にもなにか言いたげだったが、全て飲み込んで2、3回頷くと高く飛んだ。
僕もそれについていった。

「凄く早く飛べる方法も教えようかな。」

「もっと、ずっと、あとでいいっス。まだしばらく卒業はしないつもりですから、今日はいいっス。」

「わかった。じゃあしっかり捕まれ。上着のボタンを閉めておけよ。いくぞ。」

ロビンは今までに味わったことがないスピードで飛んだ。でも不思議と怖くはなかった。襟元を通り過ぎる風が気持ちよくて、わくわくした。けど、胸のポケットのチーフが空を舞っていった。

太田は退院するようだ。バッグに荷物をまとめておいてあったが迎えはない。
自分の服に着替えを済ませ、ベッドに寝転がってメールをチェックしていた。

そんな姿を見てもザマアミロとも、哀れにも思わなかった。

それよりも、僕は、悪魔にはなったけれども、今、こいつより確実に幸せなんだと胸を張った。

鍵盤ハーモニカを吹いた。心をこめて・・・なんてことはまだムリでやっぱりどこかに悔しさが残るが、自分でも冷静に、上手に弾けたと思った。

どんなに隠しても顔に出てしまうのか、ロビンはよく頑張ったという感じで手を上げた。僕はその手にタッチして、さっさとその場をあとにした。一度振り返り、しみじみと独りぼっちの太田を見てから、ロビンにつかまって飛んだ。とても早くて、事務局についたときには、髪が洗濯機の中で絡まった洗濯物のようにクシャクシャだった。

事務局の中に入るとすぐに、壁にもたれてセスカと目が合った。彼はすっと僕らの行く方向をに視線を合わせて来た。止まれば彼の視線も止まるし、進めば進んだだけ目で追いつく。

微笑むでもなく睨むでもない、冷ややかな視線はどんな人混みでも、その先に彼がいるとわかる。

「どうした。エーゴ、大丈夫か?」
「ウン、大丈夫。」

僕はセスカの視線に背中を向けた。ちらっとでも見えるととても気になって、気になり出したら止まらないほど体が震える。だから、最初から見ないように目を固く瞑りロビンに掴まって事務局を出た。

アパートへ戻ると今日も特訓だ。

衣装部屋の中にある箱の中に山ほどある楽譜の中から、なるべく音符の少ないものを選んで、それでも苦労して弾いた。その山のような楽譜の全部は無理でもロビンといられる間は努力しようと、今日、決めた。

けれど、苦手な事は辛くて難しくて、終わるとぐったりして深く深くぐっすりと眠った。
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