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さよなら
一、
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それから朝は、意外に早く来た。
「起きろ、起きろ、エーゴ。」
ロビンが壁に捕まって立ち上がろうとしていた。脱皮は終わって普通の肌の色になっていた。飛び起きてロビンを支えると、いつもの肌のぬくもりが戻っていた。
「もういいのか、今日は寝ていたほうが・・・」
「馬鹿か、後2日だぞ。落ちてもいいのか。」
「それでも・・・」
「でも、も何もあるか、とにかくおまえはお前の用意をしろよ。」
ロビンは立ち上がろうとしても、たまにふにゃっと膝から落ちたり、転んだりしながらクローゼットまで行ってスーツを取りに行き、はあはあと息を切らしながら着替えた。
「大丈夫?手伝うよ。どの柄のにする?」
「ネクタイも満足に結べないやつが手伝えるのか?」
「そうだった・・・・」
「いいから、エーゴは自分のことをやれよ。俺は、歳は9歳だけどお前よりずっと大人だ。一人でなんでもやってきた。お前もこれからはネクタイくらい自分で結べるようになれよ。」
「はい。」
「ウイーっす、でいいよ。」
よたよたと壁で体をささえながら着替えをしているロビンがかっこいいと思った。それと同時にこんなに無理をさせて申し訳ないとも感じていた。
「なにかでかいものが届いているぞ。」
「僕、昨日は何も頼んでいないけど・・・」
車椅子が届いていた。きっとグリーンだ。グリーンも多分このことはわかっていたんだ。くまさんが背もたれのところについていた。
「恥ずかしいけど今日はしょうがないな・・・エーゴ押せよ。」
「うん。」
「1件目は山野サクラのところだ。」
今日もリビングで毛布をかぶっていた。僕がいなくなった直後くらいに元彼氏が別の人と結婚したらしい。ここからが本格的な呪いになっていくらしい。
「この人はこれから2年間。こんな感じの小さな不幸が次から次とくる。ちょっと長いけれど、これを乗り切れば、あとはそこそこの幸せが来るだろう。今だってこんながっくりするほどの不幸でもないと思うけどな。結婚する前に気が付いてよかったよ。この男とは結局こうなる運命だったんだ。コイツはラッキーだったよ。」
「本人はそうは思っていないようですけどね。」
「そうか?そのうちわかるよ。もっといいやつに会えるはずさ。」
「なんでわかるの?」
「なんとなく・・・今は落ち込めばいいさ。好きなだけ。そのうちそれも飽きるだろ。」
そう言ってハーモニカを吹き出した。僕も合わせて鍵盤ハーモニカを吹いた。久しぶりのデュエットがとても嬉しかった。頑張って嬉しそうに弾くのではなく、本当に心から嬉しかった。
あの頑固なじいさんのところに疫病神が帰っていた。ロビンの様態を見に行ったらしいのだが、結局たどり着けなくて途中で引き返してきたらしい。あの頑固なじいさんもだいぶ元気を取り戻していた。
あのじいさんだけじゃない、回った人間が少しずつだけど元気を取り戻しているように感じた。
「すごいね、やっぱロビンは違うよ。みんな元気になってよかったよ。」
「俺がすごいわけではないよ。みんなそんなに変わりはないんだ。お前に元気がなかったからそう見えなかったんだよ。
見ようとしなければ見えないモノっていっぱいあるぞ。特に人間はわかりづらいからな。注意してみるんだぞ。」
「ロビンはすごいな。」
「教えてくれた人が良かったからだろうな。いい先生に恵まれることはいい恋人に出会うことより難しいって事だろうな。いい先生に出会えると、人生がワンランクアップするらしいぞ。
それでな、いい人生に出会えた奴は、次の迷っている奴の道しるべになってやらなければいけないんだって。
そうやってリレーしていくことがいい奴をいっぱいつくる秘訣らしい。だからお前もいっぱい勉強していい悪魔になれよ。」
「頑張るよ。」
「頑張るっすって言えよ。」
「頑張るっす。」
「言葉遣い、なおせよ。」
「・・・だったらさっきでよかったじゃないか」
僕は車椅子を押しながら飛んだ。
飛ぶのはロビンのちからだと思う。秋山のところも小学生たちもまた塾を再開していたし、僕と同じ年の女の人も地味に不幸な生活を送っていた。太田も気の毒な生活を送ってはいたが、今、人生のつけを払わなければならない時ならしい。僕たちを子供の頃にいじめてきた苦しみが一気に自分に帰ってきているんだ。いいことも、悪いことも、努力したことも、自分のしたことすべてが、そのときはなんの変化がなくても、ブーメランのように必ず帰って来る。帰ってきたとき必ず受け止められるように体力を付けておくことが秘訣ならしい。
「体力って言っても、体が丈夫とかそんなことだけじゃダメだぞ。心も成長しなければ、必ず失敗する。例えばいいことが帰ってきたときそのことに気が付けなかったりしたらもったいないだろ。
コイツはわかっていると思うぞ。なんでこんな辛い目にあっているのか・・・お前のことは多分忘れているだろうけど。」
「忘れていてもいいや。僕ももうどうでもいいと思ってきたし。」
「成長したじゃん。」
ロビンのおかげだといいたかったけど今はやめた。お礼はもっとずっと後にまとめて言おうと思った。
事務局に言ってもロビンは人気者だった。いっぱいひとが集まって、僕は人垣の後ろの方にいた。人垣の向こうにセスカが見えた。僕は人の頭にさっと姿を隠した。セスカはロビンに人垣の後ろから手を振った。
「マーブル元気になったのか、良かったな。」
人垣はセスカが通れるだけの隙間を作った。
「ありがとうセスカ。君のおかげで貴重な体験ができたよ。」
「生まれ変わったんだってな、羨ましいよ。」
「今度は絶対お前をあの谷に突き落としてやるからな。」
「楽しみにしているよ。ま、お前には絶対にできないだろうけどな。そうだ、君の相棒と賭けをしたんだ。」
「賭け・・・」
「そう、あのステッキをかけて。
君の相棒が悪魔になれず人間に戻った時は返す。無事悪魔になれたときはもうあのステッキは僕のものだ。それでいいな。」
「ああ、いいとも。あれはあの時君に渡した時から諦めがついていた。」
「そうか。あの人との大切な思い出まで差し出してもあの馬鹿な人間を選ぶのか。一体何がそんなにいいんだ?」
「人間を拾ったことのない君には解らないよ。」
「しかも僕は卵悪魔だしな。君のようにあの人に出会うこともなかったしな。」
「セスカ、君は、本当は俺を羨ましいと思っているんじゃないのか?あの人とも本当はもっといろいろ教えてもらったり、いろいろな話を聞いたりしたかったんじゃないのか?」
「うるさい。」
「悪かったと思うよ。俺が独り占めしてしまったんだもんな。
今になって反省しているよ。」
「まあ、君の相棒が君のようないい悪魔になれることを祈っているよ。そうすれば僕があのステッキを取ったと言われなくなるからね。」
セスカは人垣に隠れた僕にあの指すような視線でちらりと見て、出て行った。
僕たちも日報を書いて帰ることにした。
グリーンの嬉しそうに手を振る姿を見てホッとしたし、車椅子のお礼も言えた。ロビンが一緒じゃなかったら、事務局にさえもう来ることができなかったかも・・・
「今日の晩御飯はカレーでいいの?」
「うん、俺のために作ったんだろ。」
「そうだけど・・・。」
「俺、毎日いい匂いばかりかがされて本当に頭にきていたんだ。
いっぱい食べるぞ。それから鍵盤ハーモニカの練習もするからな。」
「頑張るっす。」
「うん。頑張れよ。明日で最後だな。」
「どうやってわかるんですか?受かったかどうか。」
「明日の仕事が終わって事務局についたらわかるはずだ。」
「もし・・・受からなかったら・・・どうなるんですか・・・」
「もし、のことなんて考えるな。受かることだけ考えて一生懸命練習しろ。」
本当にそうだ。いままでいろいろなことで悩みすぎていたような気がする。目標があるならそのことだけで良かったはずなのに。
練習はずっと遅くまで続けた。
「エーゴ、気がついているか。俺たち耳あてがなくてもここにいられるってこと。」
「ホントだ・・・」
ふと気が付くと僕が帰ってきてから耳あてをしなくても生霊の声が聞こえなくなっていた。
「きっとエーゴがこの方位磁石を取り返してきてくれたおかげだな。俺の住んでいるところが生霊にわからなくなったんだ。」
「良かった。それを取りに行ったことでずっと怒られっぱなしだったから、1つくらい、いいことがあって良かった。」
「みんなは何て言ったかは知らないけれど、俺はとても嬉しかった。あれはあの人からもらった最初で最後の俺へのプレゼントだったからな。それにとても綺麗だろ。夜になると光るんだ。よく見えるように。あの人がいなくなってもこれがあると夜も寂しくなかったんだ。ずっと、ずっと一晩中これを眺めていたときもあった。
あの人がいなくなってから俺はずっと誰からも相手にされなくて本当に寂しかったんだ。大人の体を手に入れるまで誰も口を聞いてくれなかった。ガキだったしな。グリーンでさえも最初は何も言ってくれなかった。
それに俺のせいであの人は消えちゃったんだしな。本当にありがとうな。エーゴ。」
「僕こそありがとう。助けに来てくれて。
ロビンには2度も命を助けてもらったことになるね。」
「そうだな。間に合って良かった。おまえ本当に大変だったぞ。」
「僕ももうだめだと思った。
僕はロビンにこの気持ちをどうやってお返ししたらいいんだろう・・・」
「何も返さなくていい。明日合格して、ずっとこうして暮らして行くことができたら俺はそれだけでいいよ。寂しくないって最高だな。」
「それは僕もそう思うよ。」
「こういうのをかけがえのない友人っていうのか?」
「多分そうだと思う。僕もずっとそういう友人にあったことなくてわからないけど・・・」
「おまえいじめられっ子だったもんな。俺は檻の中育ちだし。これからもいい友達でいてくれよ。」
「それは僕からお願いすることだよ。ロビン。ありがとう。僕を拾ってくれて。」
「ああ、エーゴこそ、あそこに落ちていてくれて、ありがとう。」
今日も丸くて明るい月が綺麗だった。月が真上に届くくらいまでしっかりと練習し、練習が終わったあとロビンが僕にハーモニカを吹いてくれた。あまりにも綺麗なメロディで僕は泣きたいわけでもなかったけれど、ほろりと涙が落ちてしまった。
布団に入る前に月にお祈りした。必ず受かって悪魔になれますようにと。
「起きろ、起きろ、エーゴ。」
ロビンが壁に捕まって立ち上がろうとしていた。脱皮は終わって普通の肌の色になっていた。飛び起きてロビンを支えると、いつもの肌のぬくもりが戻っていた。
「もういいのか、今日は寝ていたほうが・・・」
「馬鹿か、後2日だぞ。落ちてもいいのか。」
「それでも・・・」
「でも、も何もあるか、とにかくおまえはお前の用意をしろよ。」
ロビンは立ち上がろうとしても、たまにふにゃっと膝から落ちたり、転んだりしながらクローゼットまで行ってスーツを取りに行き、はあはあと息を切らしながら着替えた。
「大丈夫?手伝うよ。どの柄のにする?」
「ネクタイも満足に結べないやつが手伝えるのか?」
「そうだった・・・・」
「いいから、エーゴは自分のことをやれよ。俺は、歳は9歳だけどお前よりずっと大人だ。一人でなんでもやってきた。お前もこれからはネクタイくらい自分で結べるようになれよ。」
「はい。」
「ウイーっす、でいいよ。」
よたよたと壁で体をささえながら着替えをしているロビンがかっこいいと思った。それと同時にこんなに無理をさせて申し訳ないとも感じていた。
「なにかでかいものが届いているぞ。」
「僕、昨日は何も頼んでいないけど・・・」
車椅子が届いていた。きっとグリーンだ。グリーンも多分このことはわかっていたんだ。くまさんが背もたれのところについていた。
「恥ずかしいけど今日はしょうがないな・・・エーゴ押せよ。」
「うん。」
「1件目は山野サクラのところだ。」
今日もリビングで毛布をかぶっていた。僕がいなくなった直後くらいに元彼氏が別の人と結婚したらしい。ここからが本格的な呪いになっていくらしい。
「この人はこれから2年間。こんな感じの小さな不幸が次から次とくる。ちょっと長いけれど、これを乗り切れば、あとはそこそこの幸せが来るだろう。今だってこんながっくりするほどの不幸でもないと思うけどな。結婚する前に気が付いてよかったよ。この男とは結局こうなる運命だったんだ。コイツはラッキーだったよ。」
「本人はそうは思っていないようですけどね。」
「そうか?そのうちわかるよ。もっといいやつに会えるはずさ。」
「なんでわかるの?」
「なんとなく・・・今は落ち込めばいいさ。好きなだけ。そのうちそれも飽きるだろ。」
そう言ってハーモニカを吹き出した。僕も合わせて鍵盤ハーモニカを吹いた。久しぶりのデュエットがとても嬉しかった。頑張って嬉しそうに弾くのではなく、本当に心から嬉しかった。
あの頑固なじいさんのところに疫病神が帰っていた。ロビンの様態を見に行ったらしいのだが、結局たどり着けなくて途中で引き返してきたらしい。あの頑固なじいさんもだいぶ元気を取り戻していた。
あのじいさんだけじゃない、回った人間が少しずつだけど元気を取り戻しているように感じた。
「すごいね、やっぱロビンは違うよ。みんな元気になってよかったよ。」
「俺がすごいわけではないよ。みんなそんなに変わりはないんだ。お前に元気がなかったからそう見えなかったんだよ。
見ようとしなければ見えないモノっていっぱいあるぞ。特に人間はわかりづらいからな。注意してみるんだぞ。」
「ロビンはすごいな。」
「教えてくれた人が良かったからだろうな。いい先生に恵まれることはいい恋人に出会うことより難しいって事だろうな。いい先生に出会えると、人生がワンランクアップするらしいぞ。
それでな、いい人生に出会えた奴は、次の迷っている奴の道しるべになってやらなければいけないんだって。
そうやってリレーしていくことがいい奴をいっぱいつくる秘訣らしい。だからお前もいっぱい勉強していい悪魔になれよ。」
「頑張るよ。」
「頑張るっすって言えよ。」
「頑張るっす。」
「言葉遣い、なおせよ。」
「・・・だったらさっきでよかったじゃないか」
僕は車椅子を押しながら飛んだ。
飛ぶのはロビンのちからだと思う。秋山のところも小学生たちもまた塾を再開していたし、僕と同じ年の女の人も地味に不幸な生活を送っていた。太田も気の毒な生活を送ってはいたが、今、人生のつけを払わなければならない時ならしい。僕たちを子供の頃にいじめてきた苦しみが一気に自分に帰ってきているんだ。いいことも、悪いことも、努力したことも、自分のしたことすべてが、そのときはなんの変化がなくても、ブーメランのように必ず帰って来る。帰ってきたとき必ず受け止められるように体力を付けておくことが秘訣ならしい。
「体力って言っても、体が丈夫とかそんなことだけじゃダメだぞ。心も成長しなければ、必ず失敗する。例えばいいことが帰ってきたときそのことに気が付けなかったりしたらもったいないだろ。
コイツはわかっていると思うぞ。なんでこんな辛い目にあっているのか・・・お前のことは多分忘れているだろうけど。」
「忘れていてもいいや。僕ももうどうでもいいと思ってきたし。」
「成長したじゃん。」
ロビンのおかげだといいたかったけど今はやめた。お礼はもっとずっと後にまとめて言おうと思った。
事務局に言ってもロビンは人気者だった。いっぱいひとが集まって、僕は人垣の後ろの方にいた。人垣の向こうにセスカが見えた。僕は人の頭にさっと姿を隠した。セスカはロビンに人垣の後ろから手を振った。
「マーブル元気になったのか、良かったな。」
人垣はセスカが通れるだけの隙間を作った。
「ありがとうセスカ。君のおかげで貴重な体験ができたよ。」
「生まれ変わったんだってな、羨ましいよ。」
「今度は絶対お前をあの谷に突き落としてやるからな。」
「楽しみにしているよ。ま、お前には絶対にできないだろうけどな。そうだ、君の相棒と賭けをしたんだ。」
「賭け・・・」
「そう、あのステッキをかけて。
君の相棒が悪魔になれず人間に戻った時は返す。無事悪魔になれたときはもうあのステッキは僕のものだ。それでいいな。」
「ああ、いいとも。あれはあの時君に渡した時から諦めがついていた。」
「そうか。あの人との大切な思い出まで差し出してもあの馬鹿な人間を選ぶのか。一体何がそんなにいいんだ?」
「人間を拾ったことのない君には解らないよ。」
「しかも僕は卵悪魔だしな。君のようにあの人に出会うこともなかったしな。」
「セスカ、君は、本当は俺を羨ましいと思っているんじゃないのか?あの人とも本当はもっといろいろ教えてもらったり、いろいろな話を聞いたりしたかったんじゃないのか?」
「うるさい。」
「悪かったと思うよ。俺が独り占めしてしまったんだもんな。
今になって反省しているよ。」
「まあ、君の相棒が君のようないい悪魔になれることを祈っているよ。そうすれば僕があのステッキを取ったと言われなくなるからね。」
セスカは人垣に隠れた僕にあの指すような視線でちらりと見て、出て行った。
僕たちも日報を書いて帰ることにした。
グリーンの嬉しそうに手を振る姿を見てホッとしたし、車椅子のお礼も言えた。ロビンが一緒じゃなかったら、事務局にさえもう来ることができなかったかも・・・
「今日の晩御飯はカレーでいいの?」
「うん、俺のために作ったんだろ。」
「そうだけど・・・。」
「俺、毎日いい匂いばかりかがされて本当に頭にきていたんだ。
いっぱい食べるぞ。それから鍵盤ハーモニカの練習もするからな。」
「頑張るっす。」
「うん。頑張れよ。明日で最後だな。」
「どうやってわかるんですか?受かったかどうか。」
「明日の仕事が終わって事務局についたらわかるはずだ。」
「もし・・・受からなかったら・・・どうなるんですか・・・」
「もし、のことなんて考えるな。受かることだけ考えて一生懸命練習しろ。」
本当にそうだ。いままでいろいろなことで悩みすぎていたような気がする。目標があるならそのことだけで良かったはずなのに。
練習はずっと遅くまで続けた。
「エーゴ、気がついているか。俺たち耳あてがなくてもここにいられるってこと。」
「ホントだ・・・」
ふと気が付くと僕が帰ってきてから耳あてをしなくても生霊の声が聞こえなくなっていた。
「きっとエーゴがこの方位磁石を取り返してきてくれたおかげだな。俺の住んでいるところが生霊にわからなくなったんだ。」
「良かった。それを取りに行ったことでずっと怒られっぱなしだったから、1つくらい、いいことがあって良かった。」
「みんなは何て言ったかは知らないけれど、俺はとても嬉しかった。あれはあの人からもらった最初で最後の俺へのプレゼントだったからな。それにとても綺麗だろ。夜になると光るんだ。よく見えるように。あの人がいなくなってもこれがあると夜も寂しくなかったんだ。ずっと、ずっと一晩中これを眺めていたときもあった。
あの人がいなくなってから俺はずっと誰からも相手にされなくて本当に寂しかったんだ。大人の体を手に入れるまで誰も口を聞いてくれなかった。ガキだったしな。グリーンでさえも最初は何も言ってくれなかった。
それに俺のせいであの人は消えちゃったんだしな。本当にありがとうな。エーゴ。」
「僕こそありがとう。助けに来てくれて。
ロビンには2度も命を助けてもらったことになるね。」
「そうだな。間に合って良かった。おまえ本当に大変だったぞ。」
「僕ももうだめだと思った。
僕はロビンにこの気持ちをどうやってお返ししたらいいんだろう・・・」
「何も返さなくていい。明日合格して、ずっとこうして暮らして行くことができたら俺はそれだけでいいよ。寂しくないって最高だな。」
「それは僕もそう思うよ。」
「こういうのをかけがえのない友人っていうのか?」
「多分そうだと思う。僕もずっとそういう友人にあったことなくてわからないけど・・・」
「おまえいじめられっ子だったもんな。俺は檻の中育ちだし。これからもいい友達でいてくれよ。」
「それは僕からお願いすることだよ。ロビン。ありがとう。僕を拾ってくれて。」
「ああ、エーゴこそ、あそこに落ちていてくれて、ありがとう。」
今日も丸くて明るい月が綺麗だった。月が真上に届くくらいまでしっかりと練習し、練習が終わったあとロビンが僕にハーモニカを吹いてくれた。あまりにも綺麗なメロディで僕は泣きたいわけでもなかったけれど、ほろりと涙が落ちてしまった。
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