Loves、Loved

富井

文字の大きさ
3 / 35
1、雅の新しい恋人

別れのあとに・・・

しおりを挟む
「先輩・・・」


隼人は雅に声をかけたが、返事はもらえなかった。

ずっと前をにらみつけ、指を噛みながら、隼人が尋ねても何も聞こえてないようで、はじめて食堂で食事したあの日に少し似ている、そう思って横顔を見つめた。

「何かあったんですか。」

「イヤ別に。」

時期に車は雅のマンションについた。いつまでも車から降りない隼人に少し苛立ち、腕を引っ張り半ば引きずり出すように車から降ろした。

「僕、先輩のマンションに入っていいんですか。」

恐る恐る雅に声をかけた。

「だって君、俺に抱かれたいんでしょ。」

隼人の顔も見ずにそう言うとエレベーターは雅の部屋のある階に着き、扉が開くとすぐまた強く手を引き部屋向かった。

鍵を閉めると靴を脱ぐより先に、壁に追い詰め唇を強く激しく吸った。

「こうされたかったんでしょ。」

もう一度腕を掴み寝室に連れ込むと、まるで物を投げつけるかのように隼人をベッドに投げつけた。

「服脱げよ。」

雅も自分の服を脱ぎ、ベッドの上に横になると、ひじをついてつまらなさそうに隼人を待った。

なるべく感情を殺し何も考えないように隼人に目を向けながらも、何も見えてはいなかった。

見えているのはあの日の如月との思い出だけ、聞こえてくるのは、如月の声。

そして今日、まだ鼻の奥に少し残る香りに苛立ち、忘れようとしない自分の記憶に腹を立てた。

シャツのボタンを外し、ズボンを脱いでベッドの脇に立った隼人に、ただ布団をめくっただけで、なんの言葉もなく、アゴで指示をした。

隼人の細く小さな体は、そこに身を横たえ、目を閉じた。

雅の体が強く重なるとすぐに、両手を広げて抑えつけ、乱暴な唇が首筋を走った。

隼人は小さく身悶えし体を薫らせ雅の耳を舐めた。

その瞬間、雅だけが如月にハグされた時間に戻っていった。ハッと息をついて隼人から体を離し、寝室の扉を閉めた。

リビングに駆け込んだ雅はすぐさま如月に電話をかけた。

何度もそうしようと思ってはいたが、今まで恐れていて一度もできずにいたことだった。

出るはずもない・・・そう思っていたが、意外にも早くその電話はつながった。

「雅。久しぶり。元気そうだね。」

「薫さん・・・」

「その名前で呼ばれるのも久しぶりだ・・・・」

如月薫。その身が焼かれるほどに愛した人の名前・・・その人は今雅が通う大学の教授。

雅が中学一年生の夏に知り合ってから高校2年に上がる頃まで付き合ったが、その付き合いがちょっとしたきっかけで公になり、如月は福井に出向させられそれ以来、二人は付き合うことを禁じられてきた。

けれど、雅はどうしても忘れられず、母方の祖父の姓を名乗ってまでもこの大学に入学してきた。

「薫さん・・・僕は今でもあなたのことが大好きです。
あなたは、今でも僕のことが好きですか?」

「ああ・・・好きだよ。私が恋をした最初で最後の子だからね。
忘れられるはずもない。相変わらず君は素敵だよ。」

「あなたもです。変わらずに美しい。今すぐ会いたいです。」

「それはやめておこう。君には最近、恋人ができたそうじゃないか。規夫に聞いたよ。よかったね。私もうれしいよ。」

「どうしてですか。どうしてそんなことを言うのですか・・・今、僕のことが好きだと言ったじゃないですか。」

「ああ、大好きだよ。でもね、私はもう君の愛を受け止められるほど若くはないんだ。
いつも、いつも図書館の窓から見下ろす君の姿を見ていて、胸が苦しくて張り裂けそうだった。君のことを愛しているよ。今でも、とても。
けれどどんなに愛したとしても、君を抱きしめられない・・・影ばかり追いかけている自分がつらくてたまらなかった。けれど、若くてかわいい恋人を連れて歩く君を見てホッとしたんだ。今は君の幸せを心から喜んでいるんだよ。」

「それでも、一度だけ・・・もう一度だけあなたに抱かれたい・・・」

「やめておこう。一度で終わらせる自信が私にはない。もちろん君もそうだろう。いつか君の恋人と笑って一緒にお茶が飲めるようになったら屋敷に来なさい。おいしいミルクティーを入れてあげよう。」

如月は追いすがる雅の言葉に、残酷にも二度と戻らないという鎖を打ち、電話を切った。

とめどない涙が零れ落ちた。

雅はどうしても聞きたかったことが聞けずに終わってしまったことで苦しみが何十倍にも膨らんだ。

もう付き合えないのにあの人はどうしてあの時ハグして耳たぶにキスしたんだろう。

何度もそのことを考えると気が狂いそうになって声を上げ、壁を殴りながら泣いた。

持っていた携帯のガラスも割れ、自分自身、立ってもいられないほどに苦しみでのたうち回り、びりびりと音を立てて避けていく心の痛みに堪えられず、さらに号泣した。

「先輩・・・」

隼人がその声と物音を聴いて居間へ駆けてきた。

拳骨で床を叩き、嘆き苦しむ雅を隼人がその小さな体で必死に抱きしめた。

雅の放つ拳が幾度か隼人に当たっても、それをすべて受け止め、雅の髪を撫でながら隼人もその痛みを感じ涙した。

「先輩・・・僕ではダメですか・・・その人の代わりになんて到底ならないとは思いますが、先輩の悲しみをほんの少しでも紛らわせることができるとしたら・・・」

「前も言っただろう、僕は本当に好きな人としか時間を共にしたくない、セックスだってしたくないと・・・あの人に嫌われてしまったんだ・・・もう生きていても仕方がない。」

「じゃあ、一緒に死にます。僕。先輩の行くところならどこへでも行きます。
怖くなんてないです。
先輩が生きるなら、僕は先輩が元気になるまで支え続けます。こんな風に。
セックスだってできなくていいです。
キスはたまにしたいけど・・・でも先輩がしたくなるまで僕はどれだけでも待ちます。
先輩が僕のことを嫌いでも、僕は先輩が元気になって次の恋ができるまで、ずっとこんな風にいられたら、それだけで幸せです。」

隼人は雅の背中をぎゅっと抱きしめて肩に顔をうずめた。愛する人の力になりたい、それができるだけで幸福だった。隼人のゆっくりとした話し方と鼓動が雅の怒りを少しずつ収めていった。

「俺のこと好きになってくれるのはうれしいけれど、俺はあの人のことを忘れる自信がない。
また君を今日のようなひどい扱いをしてしまうかもしれない。」

「それでも僕はあなたが好きです。
その人を忘れずに抱きしめたまま、僕を抱いて・・・」

「いやじゃないのか」

隼人は涙で濡れた顔で雅を正面から見つめ、少しだけゆっくりうなづくと同時に、その大きな瞳をゆっくりと閉じた。
それが隼人の答えだった。

今度は雅がその細い体を強く、強く抱きしめた。

あまりにも強く抱きしめすぎて隼人は「ううっ」と小さくうめき声をあげた。

「大丈夫か、苦しかった。ごめん・・・」

「平気・・・もっと強く抱いて。」

雅は目を閉じて隼人をさっきと同じか、それ以上の力で抱きしめた。

目を閉じたのは如月の感触を思い出すため。

如月は背も高く、隼人ほどは細くはなかったが、髪の柔らかさはほぼ同じだった。

抱きしめた顔に触れる髪の感触だけで、如月を幻影を抱きしめるのには十分だった。

そして如月としたように一度軽くキスをしてそのまま、強く抱きしめあの時を思い出していた。

如月と初めての口づけは初めて出会ったとき。

書斎で本を読んでいた如月に吸い寄せられるように近づいた。
その時、何を読んでいるのと聞いたような気がするが、雅を見つめた瞳が美しすぎて、途中で声が出ていなかったかもしれない。

如月が本に挟んでいた指を雅の頬に移すと、二人はなんとなく自然に、頬を寄せ合い、生まれた時からずっと探し続けていた自分のかけらをやっと見つけたかのように愛おしく口づけを重ねた。

それは何度も何度も、何時間していても飽き足らないほど唇を吸い、舌を絡めあい、吐息を交わしあいながら握り合う指がしびれるまで繰り返した。

毎日、毎日・・・・

それに飽きると服を脱がせ裸になり体中に口づけをした。
そんな風に、在りし日の二人の軌跡をなぞるように隼人に同じことを求めた。
苦しみの中から鮮明に拾い出す愛のピースを隼人の上に並べた。

そこに雅の罪悪感はなかった。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...