なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル

文字の大きさ
5 / 45

Ep.5 沈痛

しおりを挟む





うつむきながら、ハインリヒは話を続けた。
 


「……何の罪もないセシリアを責め立ててしまった……せめて謝罪と償いをしたいと思ったのだが、アーサーから手紙の返事がない事を聞いて……」


「いや、待ってくれ。手紙?ハンス、セシリア宛に手紙が届いていたのか?」



レオンハルトは、アーサーから手紙が送られてきていた事を知らなかった。

それは、「問題がなければ報告の必要がない」とレオンハルトが指示した事ではあったが、少なくともアシュフォード公爵家から手紙が届いていたならば、把握しておかなければならない事であろうと思った。



「……はい。一度、私が受け取り、奥様にお渡ししたのですが「今後、アシュフォード公爵家から手紙が来たら、薪代わりにもならないだろうが使ってほしい」と仰られ……「自分にも、旦那様にも知らせる必要はない」と」


 
まさか、セシリアが手紙を受け取る事すら拒否していた事実に三人は驚いた。



「……セシリアのことを信じてあげられなかったから…恨まれているんだな……」



「当然だな……」という呟きと、アーサーの悲痛な思いが溢れ、執務室の中に静かに響いた。

レオンハルトも真実が分かったと同時に、自らが犯した過ちの重さに酷く胸が痛む。



「トレヴァント辺境伯閣下、セシリアは…今どうしているのでしょうか?」



そう問いかけるアーサーの顔は、妹のことを本当に心配している兄の顔そのものだった。



「……私も言わねばならないことがある……」



トレヴァント辺境伯家に到着した日から今日までのことを話した。



噂を真に受け、ハインリヒの手紙の内容からセシリアを軽んじ、『夫婦になるつもりも、辺境伯夫人として扱うことはない』と告げたこと。

それから、つい先日まで一切、顔も合わせておらず、レオンハルトも拒絶されていること。



すべてを語ると、ハインリヒは顔色が青白くなり、アーサーには怒りの色が滲んでいた。


少しの沈黙の後、アーサーは怒りを抑えるように深く息を吐くと「セシリアに会わせて欲しい」と面会を望み、それを当然の事ながら了承した。


レオンハルトはセシリアの部屋が、どこにあるかさえ知らない為、ハンスに先導されながら二人を連れて向かった。



「こちらでございます」



案内されたのは領邸の中で最も端にあり、長いこと使われていなかった部屋で、レオンハルトでさえ、ここに部屋があった事を忘れていたほどだった。



「……まさか、ここがセシリアの部屋だと?」



三人は驚きのあまり目を見開いたが、レオンハルトはすぐに気を引き締め直し、ドアをノックした。

何度か声もかけたが返事はなく、悪いとは思いながらもドアを開くと部屋の中には誰もいなかった。


室内へ足を踏み入れ、中を見回すと部屋の至るところに埃が積もっており、本当にセシリアはここに住んでいるのか?と信じられなかった。

 
レオンハルトは眉間にシワを寄せながら、ハンスに「部屋を間違えているのではないか?」と確認しようとした、その時だった。


 
「あら、淑女の部屋に勝手に入るなど、随分と無作法ですわね」



突如、入り口の方から声が聞こえ、そちらへ顔を向けるとセシリアと執事の姿があった。



「セシリア!!」



久しぶりに見るセシリアは元気そうで、アーサーは安堵感から思わず声を上げたが、チラッと視線を一瞬、向けられただけだった。



「閣下。一体どういったご用件で、わざわざこちらに?」



相変わらず、にこりともせずに無表情まま、レオンハルトに問いかけた。


そんなセシリアの様子に、ハインリヒもアーサーも動揺が隠せずにいた。

以前は、こんな風にアーサーを無視するような事はなかった。



「……その前に、君は本当にここで暮らしているのか?見たところ、使った形跡がないのだが……」



セシリアはその言葉に一つ深いため息を吐くと、真っ直ぐレオンハルトを見た。



「ここに住めると思いまして?案内をされた時から、この状態でしたの。初日にメイド長から、「あなた様を奥様とも辺境伯夫人としても扱わないと聞いておりますので、ご自分の事はご自分でお願いいたします」と言われましたので、さっさと屋敷を出ましたわ。今は別邸をお借りし、そちらに住んでおります」
 


いくら、レオンハルトが関わらないと言えど、セシリアは正式な辺境伯夫人であり、元公爵令嬢だ。

「侍女は必要ない」とは言ったが、使用人がセシリアの世話を放棄していい理由にはならない。



「…すまなかった。まさか、使用人たちが君の世話をしていなかったとは…」


「主が疎かにしている妻に、まともに仕える使用人がいないのは当然でしょう」



「至極当たり前の話だ」と淡々と返されてしまい、レオンハルトは言葉を失ってしまった。



「それで、ご用件は何でしょう。まさか、私の部屋の確認に来たわけではないのでしょう?」


「…君に話があって来た。悪いが、執務室まで来てくれないか?」



セシリアは一瞬、怪訝そうな表情を浮かべたが、すぐにそれを消し「承知いたしました」と答え、執務室まで移動した。





「それで、お話とは何でしょう?今度は離縁の王命ですか?」

 
「いや!!違う…実は、セシリアに謝りたくて、ここまで来たのだ」
 


それぞれ席についたかと思うと、一番先に口を開いたのは、セシリアだった。


以前とは違う態度にハインリヒたちは戸惑いつつ、今回、自分たちが来た目的を告げると、セシリアの眉間に一瞬、僅かにシワが寄った。


ハインリヒは、レオンハルトに話した内容をそのまま話した。



「本当にすまなかった…」


「私もクララの話ばかり聞いて、セシリアのことを信じてあげられなくて…本当にすまなかった…」



ハインリヒたちは深く頭を下げ、謝罪の言葉を口にした。



「…頭を上げて下さい。王太子殿下と小公爵様に頭を下げられても困りますわ」


 
そう言ったセシリアの顔からは感情がまったく見えない。



「……もう、お兄様とは呼んでくれないのか?やはり、私が憎いか……」



アーサーは沈痛な表情を隠せず、膝の上にある拳を震えるほど強く握りしめた。


セシリアはその言葉に答えることもなく、冷たい視線を向けているだけだった。



その視線が胸に深く突き刺さり、じくじく痛んだ。





しおりを挟む
感想 363

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

愛する女性を側室に望むのなら、いっそ私との婚約は解消してほしいのですが?

四折 柊
恋愛
公爵令嬢ジョゼフィーヌには好きな人がいた。その人は隣国の王子様リック。ジョゼフィーヌはリックと結婚したくて努力をしてきた。そして十六歳になり立派な淑女になれたと自信を得たジョゼフィーヌは、リックにプロポーズをしようとした。ところが彼に婚約者がいたことが発覚し悲しみに暮れる。今まで確認しなかった自分も悪いが、なぜかリックも家族もそのことを教えてくれなかった。そんなときジョゼフィーヌに婚約の打診が来た。その相手は自国のアルバン王太子殿下。断りたいが王命が下り仕方なく受け入れた。それなのに、ある日夜会でアルバンが可憐な令嬢に一目惚れをした。その後、アルバンはその令嬢を側室にしたいと望んだので、お互いのために婚約を解消したいと申し出たが拒絶されて……。ジョゼフィーヌの未来はどうなるのか?!

妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 双子として生まれたエレナとエレン。 かつては忌み子とされていた双子も何代か前の王によって、そういった扱いは禁止されたはずだった。 だけどいつの時代でも古い因習に囚われてしまう人達がいる。 エレナにとって不幸だったのはそれが実の両親だったということだった。 両親は妹のエレンだけを我が子(長女)として溺愛し、エレナは家族とさえ認められない日々を過ごしていた。 そんな中でエレンのミスによって辺境伯カナトス卿の令息リオネルがケガを負ってしまう。 療養期間の1年間、娘を差し出すよう求めてくるカナトス卿へ両親が差し出したのは、エレンではなくエレナだった。 エレンのフリをして初恋の相手のリオネルの元に向かうエレナは、そんな中でリオネルから優しさをむけてもらえる。 だが、その優しささえも本当はエレンへ向けられたものなのだ。 自分がニセモノだと知っている。 だから、この1年限りの恋をしよう。 そう心に決めてエレナは1年を過ごし始める。 ※※※※※※※※※※※※※ 異世界として、その世界特有の法や産物、鉱物、身分制度がある前提で書いています。 現実と違うな、という場面も多いと思います(すみません💦) ファンタジーという事でゆるくとらえて頂けると助かります💦

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです

天宮有
恋愛
 子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。  数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。  そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。  どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。  家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。

さようなら、私の初恋

しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」 物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。 だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。 「あんな女、落とすまでのゲームだよ」

処理中です...