なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル

文字の大きさ
6 / 45

Ep.6 他人

しおりを挟む





アーサーは無言がセシリアの答えなのだろう、と思うと胸の痛みを更に強く感じた。



「セシリア……一緒にアシュフォード公爵家に戻らないか?王都が嫌なら領地でもいい。手紙を受け取らなかった事も聞いた。私のことを恨んでいる事も分かっている……だが、あんな風に使用人にまで蔑ろにされ、虐げられていると知った以上、兄としてセシリアをこのまま、ここに置いておけない……」


 
アーサーは、やはりレオンハルトがセシリアを蔑ろにし、更に使用人たちにまで虐げられていた事が、どうしても許せずにいた。


いくら噂を真に受け、誤解をしていたとしても、セシリアは公爵令嬢だったのだ。

たかが、使用人ごときに軽んじられていい存在などではない。


アーサーは、沈痛な思いと抑えきれない怒りに顔を歪ませたまま、セシリアに縋るように「償いをさせて欲しい……」と伝えた。


そんなアーサーの言葉にレオンハルトは深い罪悪感を覚え、じくじくと胸が痛んだ。



「兄として……必要ございませんわ。私は今更、アシュフォード公爵家に戻るつもりなどございません」

 

セシリアはアーサーを、何の感情も感じられない瞳で、真っ直ぐと見ながら拒絶の意を示した。


その言葉に更に顔を歪め、うつむく姿を視界の隅で捉えながら、レオンハルトは先ほどから気になっていた事を問いかけた。

 

「……先ほど、別邸を借りていると言ったな……生活費などはどうしている?それに邸宅の門から出入りしているわけではないのだろう?」


「ご心配なさらなくても、辺境伯家の予算には手を付けておりませんわ。誰かが部屋を訪ねて来たら、私に知らせが来るように魔法をかけておりますので、知らせが来たら転移魔法であの部屋に戻って対応しておりますわ」



「先ほどは少々立て込んでおりましたので、来るのが遅れてしまいましたが」と付け足しながら話した。


セシリアにも一応、辺境伯夫人として最低限の予算が組まれている。

それをセシリアが使っているかどうかは、レオンハルトは把握していなかったが、ハンスからは報告がなかったため、予算以内で使っているのだろうと思っていた。


いくら辺境伯夫人の予算と言えど、別邸を借りて、更に生活費を賄うほどはないはずである。


しかし、セシリアは辺境伯家の予算は使っていないと言った。

つまり、他に資金源があるという事だが、それを深く問いただす事はしなかった。


……いや、出来なかった。



部屋の中に重い沈黙が流れるが、我関せずとばかりにセシリアは態度を変えることはない。


しかし、三人の様子を見て埒が明かないと思ったのか、ため息を吐いた後で「殿下も小公爵様も先ほどから、償いをしたいとおっしゃいますが」と話し始める。

 

「私、アシュフォード公爵家の者も、王家も、一部を除いた他の貴族たちも……信頼も、信用もしておりませんの。ですから、あなたたちの言葉など私にとっては塵と同じですわ」



その言葉は、その場にいた者たちの胸に深く突き刺さった。


セシリアは一度そこで話を切ると、話の最中にハンスが入れてくれた紅茶のティーカップを美しい所作で持ち、それに口をつけると話を続けた。

 

「殿下から婚約破棄を叫ばれた時も、特に何も感じておりませんでしたわ。せいぜい、「そうでしょうね」くらいでしょうか。昔からアシュフォード公爵夫妻も、小公爵様も、殿下も……クララ嬢の言うことをすべて鵜呑みにされて、自分の目で見ることも、耳で聞くこともせずに物事を判断されていらっしゃってましたもの」


「な、なぜ、父上や母上のことを、そんな呼び方……」

 

これは、目の前にいるのは、本当にセシリアなのだろうか?
 

自分たちが知っているセシリアとの違いに、ハインリヒもアーサーも戸惑いながらも語られた言葉にショックを受けた。


まるで、の事かのように話す姿に、かすれてしまう声を無理やり絞り出しながら、アーサーはおそるおそる問いかける。



「……なぜ?ですか。公爵夫妻や小公爵様もクララ嬢も……もはやでしょう?正確に言えば、私が結婚する前から『血の繋がりない』でしたが、他家の者になりましたので、今では『血の繋がりがある』ですわね」



その返答にアーサーの顔色は真っ白になった。


婚約破棄のことで恨まれていたわけではなく、まさか、それ以前から見切りをつけられていたとは……想像だにしていなかった。


セシリアの発する言葉一つ一つが、氷のように冷たい刃に変わり、胸に次々と突き刺さると、深くえぐった。



セシリアは再び紅茶を一口飲むと、持っていたティーカップを音をたてずにソーサーの上に戻し、視線をハインリヒに向けながら問いかけた。

 

「それで、クララ嬢はどうなりますの?あんな大勢の人の前で婚約破棄を叫ばれた上、その場で新たな婚約者に指名されたのです。公爵家と王家が同意の上で、正式に婚約を結んだ以上、再び婚約を解消する事は許されませんでしょう?」

 

セシリアから放たれた鋭い視線が、ハインリヒに痛いほど突き刺さるが、その視線から逃げるかのように視線を反らしてしまった。





しおりを挟む
感想 363

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

愛する女性を側室に望むのなら、いっそ私との婚約は解消してほしいのですが?

四折 柊
恋愛
公爵令嬢ジョゼフィーヌには好きな人がいた。その人は隣国の王子様リック。ジョゼフィーヌはリックと結婚したくて努力をしてきた。そして十六歳になり立派な淑女になれたと自信を得たジョゼフィーヌは、リックにプロポーズをしようとした。ところが彼に婚約者がいたことが発覚し悲しみに暮れる。今まで確認しなかった自分も悪いが、なぜかリックも家族もそのことを教えてくれなかった。そんなときジョゼフィーヌに婚約の打診が来た。その相手は自国のアルバン王太子殿下。断りたいが王命が下り仕方なく受け入れた。それなのに、ある日夜会でアルバンが可憐な令嬢に一目惚れをした。その後、アルバンはその令嬢を側室にしたいと望んだので、お互いのために婚約を解消したいと申し出たが拒絶されて……。ジョゼフィーヌの未来はどうなるのか?!

妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 双子として生まれたエレナとエレン。 かつては忌み子とされていた双子も何代か前の王によって、そういった扱いは禁止されたはずだった。 だけどいつの時代でも古い因習に囚われてしまう人達がいる。 エレナにとって不幸だったのはそれが実の両親だったということだった。 両親は妹のエレンだけを我が子(長女)として溺愛し、エレナは家族とさえ認められない日々を過ごしていた。 そんな中でエレンのミスによって辺境伯カナトス卿の令息リオネルがケガを負ってしまう。 療養期間の1年間、娘を差し出すよう求めてくるカナトス卿へ両親が差し出したのは、エレンではなくエレナだった。 エレンのフリをして初恋の相手のリオネルの元に向かうエレナは、そんな中でリオネルから優しさをむけてもらえる。 だが、その優しささえも本当はエレンへ向けられたものなのだ。 自分がニセモノだと知っている。 だから、この1年限りの恋をしよう。 そう心に決めてエレナは1年を過ごし始める。 ※※※※※※※※※※※※※ 異世界として、その世界特有の法や産物、鉱物、身分制度がある前提で書いています。 現実と違うな、という場面も多いと思います(すみません💦) ファンタジーという事でゆるくとらえて頂けると助かります💦

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです

天宮有
恋愛
 子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。  数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。  そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。  どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。  家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。

さようなら、私の初恋

しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」 物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。 だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。 「あんな女、落とすまでのゲームだよ」

処理中です...