なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル

文字の大きさ
13 / 45

Ep.12 新たな婚約者候補

しおりを挟む





アシュフォード公爵家がトレヴァント辺境伯家を訪れている頃、王家もまた、動きを見せ始めていた。


クララを王太子妃として迎える事が出来なくなった以上、新たな婚約者を探さなければならない。


しかし、高位貴族で適齢期にある令嬢の多くはすでに結婚しており、候補になり得る者は一人も残っていなかった。

更に、伯爵家まで範囲を広げて内密に探らせたものの、王太子妃に相応しいと思える令嬢は見当たらない……


こうなると、他国も視野に入れるしかないが、それにはクララの問題を片付けなければならなかった。


毒杯を与える事は決定しているが、婚約から一年も経たないうちに『』は、あまりに不自然すぎる……

とはいえ、このまま手をこまねいているわけにもいかず『クララがのため隔離中である』とだけ公表した。


すると、それを好機と見た下位貴族の令嬢やその親たちが、連日のように大した用もなく登城しては、ハインリヒの周囲を執拗にうろつくようになった。


ハインリヒの婚約者となれば当然、王太子妃教育を受けなければならない。

それこそ、優秀とされる公爵令嬢のセシリアでさえ数年かけて学んだのである。

高位貴族が学ぶ教育やマナーすら身についていない下位貴族の令嬢が婚約者となれば、それこそ数年では済まないだろう。


そんな事すら考えず、ただ未来の王妃の座を狙う令嬢たちの対応に、ハインリヒも疲れ果てていた。




 
「クロンヴァルトの第二皇女ですか?」



行き詰まっていたそんな時、隣国のクロンヴァルト帝国から、第二皇女との縁談の話が舞い込んだ。



「ああ、年齢はお前よりも一つ下の18歳になる。ちょうどいい年齢だろう」



セシリアとの婚約破棄以降、芳しくない状況が続いていた王家にとって、有り難い申し出であった。



「ですが父上。その年齢まで皇女に婚約者がいないのは不自然では?」



クララのこともあったため、どうしても慎重にならざるを得ない。



「ああ、それは帝国にも確認済みだ。長年婚約していた公爵令息が留学先で別の令嬢と恋に落ち、そちらで婿入りする事になったそうだ。ちゃんと裏も取らせてあるから間違いはない」



クロンヴァルト帝国は軍事力・経済力ともに周辺国の中で圧倒的な力を持っている。

そんな自国の皇女を捨て、他国の貴族家へ婿入り?


クララのことで過敏になり過ぎているのかもしれないが、どうしても違和感が拭えなかった。

とはいえ良縁には違いなく、とりあえず一度、顔を合わせる事となった。


嫁ぐかもしれない国を見ておきたいという皇女の意向を受け、レイヴンクレスト王国の王太子宮にある庭園に顔合わせの場が設けられる。



「お初にお目にかかります。クロンヴァルト帝国が第二皇女のヴィクトリア・フォン・クロンヴァルトと申します」



凛とした声が謁見の間に響き、披露したカーテシーは一分の隙もなく、格の違いを見せ付けるような気品に満ちており、緩やかに波打つベージュブロンドの髪は、まるで上質な絹糸を紡いだかのような艶が輝いている。


「よくぞ、参られた」と父が満足げに頷くと、皇女は体勢を戻し、ふんわりと微笑みを浮かべた。



「レイヴンクレスト王国、王太子のハインリヒです。お目にかかれて光栄です」



好感を抱いたハインリヒが丁寧な挨拶とともに手を差し出すと、ヴィクトリアは迷いなく、軽やかに自らの手を重ねた。



「ありがとうございます。お会いできるのを楽しみにしておりましたわ」



そう言って微笑む彼女の指先に、ハインリヒがそっと唇を寄せる。


その様子を母とともに機嫌よく見ていた父が「後は二人で話をするといい」と告げ、予定通りに王太子宮の庭園へと場所を移した。



「素敵なお庭ですわね。とても、癒やされますわ」



和やかな茶会の席で、ハインリヒは改めて彼女を観察する。


ハインリヒの一つ年下ということは、クララより一つ年上ということである。
 
たった一歳の差だというのに彼女は驚くほど知的で、その言動には高貴な品を感じさせられた。


この皇女以上に王太子妃に相応しい者はいないだろう……

だからこそ、ハインリヒは胸に燻っていた疑問を直球で投げかけた。



「ヴィクトリア皇女殿下。失礼ですが、一つお伺いしたい事があります」



ハインリヒの問いかけに、彼女は驚いたように一瞬目を見開くと、「ふふっ」と口元に手を添えて微笑んだ。



「まあ、私のことはヴィクトリアとお呼び下さいませ。お言葉も、どうぞ楽になさって。それで、何をお聞きに?」


「……わかった。では、私のこともハインリヒと。ヴィクトリア、君の解消されたという婚約についてだが……自国の皇女との婚約を反故にし、他国の貴族令嬢へ乗り換えるなど、どうしても不審に感じてしまう。失礼を承知で言えば、何か裏があるのでは?と考えてしまう」



ハインリヒの疑いを含んだ問いに、ヴィクトリアは再び可憐に微笑んだ。



「そうですわよね。ハインリヒ様が不思議に思って当然ですわ。実は、彼との婚約は『時間稼ぎ』でしたの」



彼女の話によれば、元婚約者は母方の従兄であり、留学前から相手の令嬢に好意を持っていたそうだ。

ヴィクトリア自身も当時は婚約に実感が持てず、二人は『偽装婚約』を企てた。


相手の令嬢は公爵家の跡取りで、他家へ嫁ぐ事は出来ず、留学中に『皇女との婚約は偽装で、二男である自分は婿入りが可能だ』と、必死に口説き落としたらしい。



「……君はそれで良かったのか?いくら円満な解消とはいえ、君に瑕疵が付くだろう?」



ハインリヒはセシリアに濡れ衣を着せ、婚約破棄をした事で瑕疵を付けてしまった後悔が未だに消えない……



「ふふっ、お優しいのですわね。私は気にしておりませんの。兄のように慕う彼の願いが叶ったことが嬉しいですし、例え、叶わなくとも彼となら結婚してもいいと思っておりましたから」



「それに、そのおかげで、こうしてハインリヒ様とご縁がありましたから」と恥ずかしそうに頬を染める姿に、どくんと胸が高鳴った。



「ヴィクトリア……本来ならば、国内の諸問題を片付けてから申し出るべきなのは承知している。だが、君を前にして、この思いを止められそうにない」



ハインリヒは意を決して席を立つと、そのままヴィクトリアの傍に跪き、手を差し出した。



「現在、療養中である婚約者との件は、近いうちに必ず解決させる……ヴィクトリア・フォン・クロンヴァルト皇女殿下。その後、改めて、このハインリヒ・レイヴンクレストの正妃として結婚していただけませんか?」



その真摯な瞳を見つめ返し、ヴィクトリアは嬉しそうに「喜んで」と微笑んだ。



しおりを挟む
感想 363

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

愛する女性を側室に望むのなら、いっそ私との婚約は解消してほしいのですが?

四折 柊
恋愛
公爵令嬢ジョゼフィーヌには好きな人がいた。その人は隣国の王子様リック。ジョゼフィーヌはリックと結婚したくて努力をしてきた。そして十六歳になり立派な淑女になれたと自信を得たジョゼフィーヌは、リックにプロポーズをしようとした。ところが彼に婚約者がいたことが発覚し悲しみに暮れる。今まで確認しなかった自分も悪いが、なぜかリックも家族もそのことを教えてくれなかった。そんなときジョゼフィーヌに婚約の打診が来た。その相手は自国のアルバン王太子殿下。断りたいが王命が下り仕方なく受け入れた。それなのに、ある日夜会でアルバンが可憐な令嬢に一目惚れをした。その後、アルバンはその令嬢を側室にしたいと望んだので、お互いのために婚約を解消したいと申し出たが拒絶されて……。ジョゼフィーヌの未来はどうなるのか?!

妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 双子として生まれたエレナとエレン。 かつては忌み子とされていた双子も何代か前の王によって、そういった扱いは禁止されたはずだった。 だけどいつの時代でも古い因習に囚われてしまう人達がいる。 エレナにとって不幸だったのはそれが実の両親だったということだった。 両親は妹のエレンだけを我が子(長女)として溺愛し、エレナは家族とさえ認められない日々を過ごしていた。 そんな中でエレンのミスによって辺境伯カナトス卿の令息リオネルがケガを負ってしまう。 療養期間の1年間、娘を差し出すよう求めてくるカナトス卿へ両親が差し出したのは、エレンではなくエレナだった。 エレンのフリをして初恋の相手のリオネルの元に向かうエレナは、そんな中でリオネルから優しさをむけてもらえる。 だが、その優しささえも本当はエレンへ向けられたものなのだ。 自分がニセモノだと知っている。 だから、この1年限りの恋をしよう。 そう心に決めてエレナは1年を過ごし始める。 ※※※※※※※※※※※※※ 異世界として、その世界特有の法や産物、鉱物、身分制度がある前提で書いています。 現実と違うな、という場面も多いと思います(すみません💦) ファンタジーという事でゆるくとらえて頂けると助かります💦

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです

天宮有
恋愛
 子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。  数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。  そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。  どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。  家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。

さようなら、私の初恋

しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」 物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。 だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。 「あんな女、落とすまでのゲームだよ」

処理中です...