なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル

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Ep.13 開けた未来

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「喜んで」との言葉とともに求婚を受けてもらえたことに、凍てついていた心が温かくなった。

どのくらいぶりだろうか?心から笑えたのは……


しかし、一緒に微笑んでいたヴィクトリアが「あの、私も少し、お聞きしたいことがありますの……」と不安げな表情に変わった。



「今、療養されている婚約者様のことですわ。その、父から少し話を聞いておりますの……」



やはり、クロンヴァルト帝国には隠せなかったか……


ヴィクトリアが把握していた内容は、驚くほど正確だった。


実の姉を嵌めて、婚約者を奪った妹⸺⸺⸺


この一言で、今のクララを表すことができる。



「その、婚約者様……アシュフォード公爵令嬢はどうなさるのでしょう?」


「……クララは何の罪もない姉を嵌めたうえ、王家を欺いた。それにより、毒杯を与えられることになっている……」



クララに長年騙されていた己の愚かさに腹が立ち、気づかないうちに拳を強く握りしめていた。



「……あの、他国の問題に口を出すべきではないのかもしれませんが…婚約者様…アシュフォード公爵令嬢を『』としてはいかがでしょうか?」



ヴィクトリアは、私の握りしめていた拳をそっと両手で包み込んだ。

柔らかく、私よりも小さな手の温もり……

久しぶりに他人の体温に触れ、胸の奥で燻っていたものが消えていくのを感じた。



「彼女を側妃になど……そんな資格もないうえに、君にも申し訳ない」


「ですが、トレヴァント辺境伯夫人との婚約を破棄された直後に妹君と婚約し、その彼女までが一年も経たぬうちにとなれば……どうしても、周囲は王家の関与を疑いますわ」



「それは、あまりに危険な賭けではありませんの?」と、彼女は心配そうな顔で私を見上げている。


……確かに、ヴィクトリアの言う通りだ。


一度ならず二度までも婚約者が交代したうえに、更に『』したとなれば、あまりに不自然だ。

貴族たちは『王家は不都合な令嬢を排除しているのではないか?』と疑念を持ってもおかしくない……



「何も、本当に側妃として扱わずとも『病の影響で公務が難しくなったが長年の情もあり、側妃として留め置く』と形ばかり整えればよろしいのですわ。私も皇家の一員ですもの、綺麗事ばかりでは済まないことは理解しておりますわ」



「必要であれば、私が彼女の教育などもお手伝いいたしますわ」と、まるで慈悲深い女神のように微笑んでいる。


 
「……ありがとう。君にも苦労をかけてしまうが、私には君だけだ。それだけは誓おう」



心からの感謝と誓いの言葉を伝えると、ヴィクトリアは「嬉しいですわ」と、はにかんでいた。




⸺⸺⸺




ヴィクトリアとの茶会を終え、その足で父が待つ執務室へと向かった。

執務室の前に立つ近衛騎士に取り次ぎを頼むと、すぐに入室の許可が下りる。
 

 
「失礼いたします。父上、ヴィクトリアに求婚を受けてもらえました」


「もう名前で呼んでいるのか?随分と早いな。だが、これで一安心だ。あとはクララの問題を片付けるのみか……」



ヴィクトリアに婚約の承諾を得たことを伝えると、父は一瞬驚いたが、すぐに表情が緩み微笑みを浮かべた。



「そのことですが、実はクララの処遇について別案があります」


「別案だと?」と私の言葉に、父は怪訝そうに眉を寄せた。



私はヴィクトリアとともに話した懸念と、彼女が提案した内容を伝えた。

一度ならず二度までも婚約者が交代することに関しては、父も悩んでいたことは知っている。


更にここで『』となれば、貴族たちからあらぬ疑念を招くことになるだろう。


そして、ヴィクトリアがその状況を懸念し、クララを『側妃』として置くことを提案してくれたことを告げた。

父は苦虫を噛み潰したような顔をしたが、ヴィクトリアが提示した『ある条件』を口にした瞬間、その表情が一変した。



「……ただ、ヴィクトリアはクララを側妃として置くにあたって、我が王家と『契約魔法』を交わしたいと…」


「契約魔法だと?」



ヴィクトリアからすれば、元婚約者を側妃として置くのだ。

正妃としての立場が守られる保証が欲しいのだろう。



「はい、彼女が安心して嫁ぐための条件です。内容は二つ。一つ、私の妃はヴィクトリアを正妃、クララを側妃とし、それ以外の妃や愛妾は持たぬこと。二つ、王位継承権はヴィクトリアの子に与え、側妃の子やその他の子には一切を認めないこと」


クララに子が生まれる可能性など万に一つもないが、ヴィクトリアはそれを条項に加えた。

万が一の過ちさえ許さないという彼女の強い意志を感じ、私の胸は熱くなった。


しかし、私の言葉を聞いた父の目が鋭く光った。



「……なるほど。側妃として生かして置く代わりに契約で余計な諍いの芽を摘んでおくということか。しかも、皇女自身が契約の当事者とすることで、帝国側が常に我らの動向を監視する大義名分にもなる」



父は椅子の背もたれに体を預け、低く唸った。


契約魔法は魔力によって署名者の命と内容を縛る、極めて拘束力の強い誓約だ。

契約書に罰則が設定されている場合はそちらが優先されるが、設けない場合、契約を違えようとした瞬間に契約書の魔法が発動し、心臓を抉られるような激痛に襲われたりすると聞く。


この契約を結ぶと、ヴィクトリアとの間に子が持てなかった場合、他の妃を娶ることは出来ず、私の血は途絶えることになり、他に継承権を持つ者を後継にすることとなる。


しかし、今の私には彼女の他に王太子妃に相応しい者はおらず、後にも現れる保証もないため、この縁談を断る選択肢など残されていない。



「うむ、いいだろう。皇女が我々を信用しきれないのは当然だ。……その条件で契約魔法を結ぶ準備をするといい。クララには『側妃降格』の沙汰を言い渡し、皇女との婚約発表の際に併せて公表する」


「ありがとうございます、父上」



私は深く頭を下げた。


ヴィクトリアがここまでしても、私との未来を確かなものにしたいと願ってくれたことが、ただ純粋に嬉しかった。


それを思えば、契約魔法に縛られることなど些細な問題だった。


ふと、かつて自らが破棄したセシリアとの婚約や、愚かな正義感をかかげて結んだクララとの婚約に、これほどの『覚悟』があっただろうか?という思いが一瞬だけ過ぎった……



だが、私はすぐにそれを打ち消し、執務室を後にした。


ようやく、開けた新しい自らの『未来』に向かって……






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