なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル

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Ep.14 受難と献身

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アシュフォード公爵家一同は、セシリアに謝罪を拒絶され、家族としての縁が断絶されるという結果に終わった。

それは公爵やアーサーが予想していた通りの結末だった。


王都に戻ってからのアシュフォード公爵邸は、母が寝込むことが増え、まるで時が止まったかのような静けさが漂っている。


しかし、残酷にも世間の時の流れは止まってくれなかった。



「……また、ですか…」



トレヴァント辺境伯家を訪問している間に、王家がクララの『』を発表した影響で公爵領の特産である綿や麻の取引停止が相次いでいた。



「ああ、どうにかせねば、今年の税収は大幅に減るだろう」



父は執務机に肘をつき、険しい顔を見せている。



「私も、可能な限りの伝手を当たってみます」



休暇明けに登城した際、ハインリヒから「新しくクロンヴァルトの皇女と婚約を結ぶことが内定した」と、気まずそうに報告を受けた。


クララに王太子妃は不可能だと分かった以上、新しい婚約者を探さねばならない。


王太子として当たり前の選択だ。

それを責めることなど、できるはずもない。


そして、今は私も家の窮地を救うためにも、ハインリヒの側近を辞すわけにはいかない。


王太子の補佐と新たな取引先の開拓。

忙しい日々を過ごすことで、私は胸の奥で燻り続けるものに蓋をし、気付かないふりを続けた。





「アーサー様、少しお疲れなのでは?」



クララの件が発覚して以来、まともに会う時間も取れずにいた婚約者のシャーロットが公爵邸を久しぶりに訪ねてくれた。

手紙も短い事務的な内容ばかりになっており申し訳なく思っていたが、彼女は「事情が事情ですから」と微笑んでくれる。



「それにしても、今回のことにはお困りでしょう?あの噂もありますし、アシュフォード公爵家としても痛手かと…」


「あんな噂?」



久しぶりに庭園で過ごすシャーロットとの逢瀬に癒やされていると、彼女は紅茶のカップをソーサーに戻し、心配そうに眉を下げた。



「……あまり、公にはされておりませんが、その、セシリア様が実は無実だったとか、クララ様のおっしゃっていたことが嘘だったというお話が…ご夫人方の間で囁かれているのですわ」



アシュフォード公爵家で、社交を担っていたのは主に母とセシリアだった。

クララはまだ学院に入学して一年足らずで招待されることも少なく…ある意味、そのおかげでクララの不出来が知られずに済んでいたのだ。


……皮肉な話である。


ここ最近、クララの件やトレヴァント辺境伯領を訪問していたこともあり、母が茶会に参加できずにいたことで、その『噂』が抑える間もなく広がっていたらしい。


取引先が激減したのは、それも一因だったのだ。

私は思わず深くため息を吐き、片手で頭を覆った。



「アーサー様、大丈夫ですか?」


「ああ、すまない……まさか、そんな噂があるとは…」



疲弊しきった私を、シャーロットは温かい両手で包みこむように私の手を握った。



「お義母様の代わりとまではいきませんが、何かお力になれたらと思いまして。差し出がましいこととは思いますが、新しく取り引きに応じてくださりそうな家門や商家を探して参りましたの」



彼女は自らの侍女に目配せをすると、数枚の書類が差し出された。

そこには、彼女が調べてくれたであろう家門や商家などの候補がびっしりと書き連ねてあった。



「シャーロット……こんなに調べるのは、大変だっただろう?」


「もうすぐ、アーサー様の妻になるんですもの。妻が夫のためにできることをするのは当然のことですわ」



彼女の献身的な言葉に、私は堪らず立ち上がり、その小さな体を引き寄せ、強く抱きしめた。

シャーロットは一瞬驚いたように身を強ばらせたが、やがて戸惑いながらも、そっと私の背に手を回してくれた。



「……ありがとう。君が私の妻になってくれるなんて、本当に幸せだ」



腕の中で、彼女はもぞもぞと動きながら顔を隠すと「……私もです」とくぐもった声で返ってきた。

耳がほんのり赤くなっており、照れているのが分かる。


必ず、彼女だけは幸せにしよう。

そう、心に改めて誓った。



席に戻り、穏やかな空気の中で茶会を楽しみながら、私は意を決して彼女にすべてを打ち明けることにした。



「……実は君に話していなかったんだが、先ほどのクララの噂は…本当なんだ」



セシリアへの罪悪感、そして真実を知ったシャーロットから幻滅されるのではないかという恐怖……視線が自然と足元へ落ちてしまう。


だが、ここまで私に尽くしてくれる彼女にだけは、隠すことはできなかった。



「……そうでしたか」



私の話を最後まで静かに聞くとシャーロットは、ぽつりと一言呟いた。



「お辛かったでしょう?アーサー様は、セシリア様のことも、クララ様のことも大切に思っていらっしゃいましたから」



彼女の言葉に胸が詰まり、シャーロットがそっとハンカチを私の頬に当ててくれた。


そこで初めて、自分が涙を流していることに気づいた。

一度溢れ出した感情は止まらず、同時に弱音も零してしまう。



「……セシリアに、拒絶されるのも…クララが処分を受ける、ことも…自業自得だ。分かっては、いるんだ。だが、どうしても、償いきれない後悔が、消えなくて……」



シャーロットは席を立ち、私の傍に寄ると、私の頭を包み込むように抱きしめた。



「セシリア様に許していただくのは、難しいかもしれません。ですが、いつかお困りの時にこっそりと手助けをすることはできますわ。アーサー様の後悔は、私が一緒に背負います」



柔らかく、優しい声が頭上から聞こえる。

私のほうが年上で、男としてあまりに情けないが、今はその優しさに縋りたかった。



「ですが私、王太子殿下には少し怒っておりますわ!」


「ハインリヒに?」



シャーロットは私の顔を両手で挟み込み、自分のほうへ向けさせると、ぷんぷんと怒ったように眉を寄せている。



「はい!セシリア様の件は王太子殿下にも責任がございますのに、アーサー様だけに押し付けて!クララ様の療養を発表する時期も、もう少し配慮があってもよろしいかと思いますの!」


「はははっ、ありがとう。私のために怒ってくれて……確かに、今回の取引停止が続く現状を思えば、もう少し遅らせて欲しかったという自分勝手な恨み言がなかったわけじゃないが。仕方ないことだからね」



私の言葉を聞いても、いまひとつ納得していない彼女が愛おしくて、久しぶりに心から笑うことができた。





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