なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル

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Ep.34 暗躍

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「そろそろ、お茶会が始まった頃でしょうか……」



私は王城の国防大臣である父の執務室で、優雅に紅茶の入ったカップを傾けました。

父は問いかけに対し、「うむ……」低く唸ると、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべております。


ヴィクトリア様から、王城に忍ばせている『影』を通し、今日の『計画』への協力を求められたのは少し前のこと。


どうやら、影の正体が我が家だということはご存知ないようですが、常に『観察されている』ことには気付いておられたようです。

さすがは帝国の皇女殿下と言うべきでしょうか。


父は計画を聞くなり猛反対しました。


いくら万全の体制を整え、後遺症の残らない毒だとしても、この世に『絶対』はありません。

大国である帝国の皇女に毒を飲ませるなど正気の沙汰ではないでしょう。


ですが、ヴィクトリア様の決意は揺るぎませんでした。


このままでは、クララ様は永遠の眠りにつくその日まで、あの離宮で生かされ、何度でも害悪を撒き散らすでしょう。

保身を優先する王家が、いつか彼女に籠絡される可能性も否定出来ません。


そうなれば、私たちの『今後の計画』に差し支えが出ます。


結局、セシリア様と私の説得に、父は渋々……本当に渋々首を縦に振ってくれました。


ヴィクトリア様に頼まれた『お願い』は二つ。


一つは、クララ様が騎士に用意させた『毒薬』を、完全に『無害な物』にすり替えること。


これは、昨夜のうちに中身をただの水にすり替える事が出来ました。

無味無臭の物でしたので、気付かれないでしょう。


そしてもう一つは、お茶会の間に、彼女が『毒薬』を隠していた場所に、ヴィクトリア様が飲む『本物の毒薬』と同じものを仕込むこと。


これで、彼女が用意した『毒薬』を自ら飲んだとしても、体調に異常が現れることはありません。


今日のお茶会は、あえてクララ様をホストに立てました。


彼女が手配したお茶で、彼女だけが毒の影響を受けず、ヴィクトリア様だけが倒れる。

周囲の目には、クララ様が『毒を入れた』としか映らないでしょう。



そして、王太子殿下です。


殿下には前もって、離宮でクララ様が『お茶会の練習』をすることを知らせてあります。



「お時間がありましたら、ぜひ一度教育の成果をご覧下さいませ」



ヴィクトリア様のこの言葉で、殿下はほぼ間違いなく、離宮を訪れるでしょう。


自分の側妃候補が、自分の婚約者を暗殺しようとした⸺。

その最悪な現場を自らの目で確認させる。


彼への布石はこれで十分です。



そんな事を考えていましたら、扉の向こうが騒がしくなりました。



……始まりましたね。



父の補佐官がバタバタと駆け込んできました。



「閣下!大変です!……あっ……」



私の姿を見て口を閉じてしまいました。

外部の人間に漏らすわけにはいかないからでしょう。



「……何だ?何事だ」



耳元で報告を受けた父は、見事な演技で顔を険しくさせます。



「何だと!?……シャーロット、急用が出来た。お前はすぐに帰りなさい」


「承知いたしました。では、失礼いたしますわ」



私は平然と立ち上がり、混乱を極める王城を後にしました。


馬車に乗り込むと、先触れも出さずにアシュフォード公爵家へ向かわせました。



⸺⸺⸺



アシュフォード公爵邸に到着するなり、私は取り乱したように装い、家令に向かって声を張り上げました。



「お義父様とアーサー様に、急ぎお会いしたいのです!」



執務室に通されるなり、私は座っている二人に結論を突き付けました。



「お義父様、アーサー様。端的に申し上げますわ。今すぐ、クララ様を除籍してくださいませ!」


「「なっ!!!」」



お二人は、私の言葉に絶句いたしました。



「先ほどまで、王城にある父の執務室におりましたが……突如、城内が慌しくなりました。父に急ぎ帰るように言われ、馬車溜めに向かっていると、クララ様がヴィクトリア皇女殿下に『毒を盛った』という話を耳にいたしましたの」


「毒!?し、しかし、クララは軟禁されているんだぞ!?」



お義父様は顔を青ざめさせ、アーサー様は頭を抱えてしまいました。



「詳細までは分かりません。ですが、今日はクララ様がホストを務めるお茶会だったと、王城の使用人が話しておりました。もし……もし万が一の事があれば、アシュフォード公爵家は王家への叛意ありと見なされ、一族郎党処刑される事もあり得ますわ!」


「し、しかし、まだクララが犯人と決まったわけでは……」


「犯人だと確定してからでは遅いのです!今この混乱の最中に、公爵家として速やかに対応いたしませんと!お義父様、当主としてご判断くださいませ」



ここは、何としても情に流されるわけには参りません。

もはや、クララ様を庇っている場合ではないのですから。


お義父様は苦渋に満ちた表情で俯き、やがて呟きました。



「……クララを除籍する。私の代で、アシュフォードを潰すことは出来ない。それに、分家まで巻き込むわけにもいかない」


「父上!!」



私は悲痛な声を上げるアーサー様の隣に座り、その冷たくなった手を握りました。



「……アーサー様。お辛いことは承知しております。ですが、領主一族の不始末で、罪のない領民にしわ寄せがいくことだけは避けなければなりませんわ」



お優しいアーサー様は、力なき領民を引き合いに出されれば、折れるしかありません。



「……そう、だな。クララのことで関係のない人間を巻き込むにはいかないな……」



すぐに除籍届が作成され、アーサー様が急ぎ提出し、無事に受理されました。


これでクララ様……いえ、クララさんはアシュフォード公爵家の者ではなくなり、ただの平民となりました。



王城へ向かわれる際に、アーサー様は王太子殿下の元へ行こうとされましたが、私はそれを止めました。

王家はヴィクトリア様が毒に倒れたことを公表しておらず、王城内でも緘口令が敷かれていることが予測できます。



「城内には強力な緘口令が敷かれているでしょう……私たちが情報を知っているように振る舞うのは、公爵家にとって得策ではありませんわ」



アーサー様にそう説明すると、暗い表情を浮かべながら納得していただけました。




アシュフォードは生まれ変わらなければなりません。


これから、クララさんや王家の所為で苦境を強いられるでしょう。


ですが、王国内で三家しかない公爵家の一つです。

領地も広大な分、税収も多く、国の為にも潰すわけには参りません。




クララさん……あなたは本当に罪深い。


その罪の報いを、その身で受けなければなりません。



あなたが消えて、ようやく私たちの計画の第一段階が始まるのですから。





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