なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル

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Ep.35 イディオの末路

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「……ヴィクトリア皇女殿下に、ご挨拶申し上げます」



お茶会の日から数日が経ち、侍医から「毒の影響もなく、完治されました」との診断を受けた。


退屈なベッド生活を終え、私がまず行ったのは、毒を手配したイディオに『現実』を見せることだった。


あの日、ハインリヒは私を抱きかかえて自室へ運び、侍医を呼んだ。

当然、侍医は私が『毒に侵されている』と診断したけれど、何による毒かまでは突き止められなかった。


それもそのはず、お姉様の用意した『本物の毒薬』は、この国では手に入れることが難しく、知る者も少ない代物なのだから。


そこで私の侍女が、『帝国から持参した万能な解毒薬』があると偽り、私に解毒薬を飲ませた。

先進的な医療技術を持つ帝国の薬だと言えば、誰も疑う者はいなかった。


その混乱の最中、私の護衛騎士が近衛騎士と共にクララの部屋を隈なく捜索し、ベッドの裏から、あらかじめ仕込んでおいた『毒薬』を発見した。


既に地下牢へ送られていた彼女は、ハインリヒが直々に行った尋問に対し、自らの無実を訴え、「毒はイディオが用意した。私は何も知らない」と、すべての罪を彼に擦り付けたそう。



「……さて、ブラムウェル卿。なぜ呼ばれたか、理由はお分かり?」


「……毒の、件かと……」



近衛騎士により床へ膝を付かされたイディオの前に、私は椅子を置き、優雅に腰を下ろした。



「ええ。卿はもう気付いているのかしら?あなたがクララさんに騙され、ただの駒として扱われていたことに」


「……駒?何のことでしょうか?」



イディオは怪訝そうに私を見上げた。

彼は毒薬の購入は認めたけれど、クララのことは何一つ語ろうとしないらしい。



……本当に、救いようのない男。



私は憐れむように眉をひそめ、片頬に手を添えて残酷な真実を告げた。



「クララさんはね、『私に毒を盛ったのは卿だ』と証言をなさっているそうよ」


「なっ……!!」



彼は目を見開き、驚愕に凍りついた。


疑われていることは分かっていたでしょう。

けれど、まさか信じている彼女に罪を着せられるとは、夢にも思っていなかったでしょうね。



「卿は、彼女を連れて逃げるつもりだったのでしょう?」



『計画』を知られていたことに、彼は焦りの色を見せた。



「元々ね、クララさんには『監視』を付けておりましたの」


「……監、視……」


「彼女が何故、軟禁されていたのか……その理由をご存知ありませんのね……」



私は、彼女がいかにして実の姉であるお姉様を陥れ、ハインリヒとの関係を壊したのか……その醜悪な過去を詳細に語った。

イディオは私から語られる事実に言葉を失い、硬直していた。



「……だから、彼女は……」


「ええ。王家にとって、クララさんは『始末をすることも出来ず、かと言って表に出すことも出来ない』存在でしたの。理解していただけたかしら?」


「……ですが、まだ信じられない思いが……」



呆然と俯き、かすれた声で答えるイディオに、私は微笑んで立ち上がった。



「でしたら、卿に『現実』を見せて差し上げますわ」




⸺⸺⸺





彼を連れて向かったのは、真っ白な壁が四方に広がるだけの殺風景な部屋だった。

その真っ白な壁のうち、一面だけに水晶がはめ込まれている。


王宮の騎士であるイディオは、その壁の向こう側に取調室があることを知っていた。


私が水晶に魔力を込めると、それまで目の前を遮っていた無機質な壁が、霧が晴れるようにふわりと消えてしまった。

まるで二つの部屋が一つに繋がったかのように、隣の取調室の様子が剥き出しになって目の前に広がる。


そしてそこには、部屋の中心に置かれた机を向かい合わせに挟むようにクララと取り調べを担当している騎士が座っていた。



「では、もう一度お聞きいたします。ヴィクトリア皇女殿下に毒を盛ったのはあなたですか?」


「違いますわ!私ではありません!!」



そこには、数日の牢獄生活ですっかりと草臥れ、もの凄い形相で叫ぶクララの姿があった。

取調官の騎士の問いに対し、彼女は目元にくっきりと隈を浮かべながら必死に訴えている。



「では、あなたのベッドの裏から見付かった毒薬はどう説明されるおつもりですか?」


「それはブラムウェル卿が用意した物ですわ!私は手元にそんな恐ろしい物があると、誰かに知られてしまうのが怖くて隠していただけなのです……!卿もあそこに隠してある事は知っておりましたので、もしかしたら、彼が……!」



瞳に涙を浮かべ、いかにも悲劇のヒロインを装いながら、クララは自分を慕う男を迷わず生け贄として差し出している。


私は扇子を広げ、口元を隠しながら横目で見ると、イディオは手が届きそうなほど間近で繰り広げられている『裏切り』を前に、顔色を青ざめさせ、拳を強く握り締めて震えていた。



「……これで、お分かりいただけたかしら?」


「……はい……すべて、お話いたします……」



それからのイディオは、まるで憑き物が落ちたようにすべてを白状した。



クララが、ハインリヒの不興を買ったせいで軟禁されていると思い、同情してしまったこと。

徐々に好意を抱き、逃亡する計画を立てたこと。

隙を作る為に、離宮の使用人たちの体調を崩させる毒薬の調達をクララから頼まれたこと。

そして、彼が用意した毒薬は『食あたり』程度の症状しか出ない弱い物だったこと。



イディオの証言の裏付けはすぐに取られ、彼の潔白は証明された。


しかし、軟禁されていた側妃候補に懸想し、逃亡を図ろうとしたことは、王家に仕える騎士としてあるまじき大罪である。

結果、彼は貴族籍と騎士の称号を剥奪され、平民となった。


何も得ることもなく、騎士としての人生も失ったイディオは釈放後、仲間に一言も残さず、姿を消したという。





「……また、クララに人生を狂わされた者が出てしまったわね」



自室のソファの上で寛ぎながら、私は紅茶に口を付けた。



「まあ、彼自身も騎士の割に愚かだったのだから、自業自得と言えるけれど」



カップをローテーブルの上に戻すと、私はそのまま視線を護衛騎士に向け、問い掛けた。



「それで、外交官には連絡したのかしら?」


「はい。既に皇帝陛下より今回の件に関して、抗議の書簡をお預かりしたとのこと」


「ふふっ、今回は保身の為に隠蔽することは出来ないわね」




王太子の囲う女が帝国の皇女を暗殺しようとした……

これを隠蔽しようとすれば、帝国はすべてを公にし、断罪するでしょう。




……さあ、楽しいお芝居の幕開けね。








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