なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル

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Ep.37 遅すぎる表明

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ヴィクトリアからの衝撃的な提案に、私はもちろん、父たちも言葉を失った。

反応が出来ずにいた私たちは、彼女の心配そうな「大丈夫ですか?」という問い掛けで、ようやく意識を引き戻された。



「あ、ああ……すまない。君の言葉に驚いてしまっただけだ……」


「そうでしたか。私の提案はいかがでしょう?クララさんが事件を起こさなければ、このまま闇に葬ることもできたと思いますわ。ですが、今回ばかりは王家も覚悟を決めなければならないと思いますの」



ヴィクトリアは微笑みを崩さず、淡々と続ける。



「アシュフォード公爵家は、既にクララさんを切り捨てましたわ。それは彼女の罪がすべて公になった際、王家から余計な疑いを向けられない為。そして公爵家として、彼女に家門としての処罰を与えたと他家に示す為ですわ」



今回、アシュフォード公爵家の動きは異常に早かった。

箝口令を敷いたにも拘わらず、クララが拘束されて間もなく『除籍届』が受理されていた。


つまり公爵家は、今回の暗殺未遂の件ではなく、『不当な婚約破棄を画策したことへの家門による処罰』として彼女を追放した、という『体裁』を整えたのだ。

アシュフォード公爵家が先に『セシリアへの婚約破棄は不当なものだった』と公表してしまえば、沈黙を貫いてきた王家の信用は完全に失墜する……


ヴィクトリアは、王家が先手を打って『自浄能力』を示すべきだと促しているのだろう。



「……父上。私も、ヴィクトリアの提案に賛成いたします」



父の瞳を真っ直ぐに見つめる。

その視線を受け止め、父は一度ゆっくりと瞼を閉じると、少し沈黙し、覚悟を決めたような表情で目を開いた。



「……良いだろう。トレヴァント辺境伯夫人の無実を公表し、正式に謝罪と賠償を行う」



レイヴンクレスト王家は、セシリアへの正式な謝罪を表明した。



【此度、王太子 ハインリヒ・レイヴンクレストと、当時アシュフォード公爵家長女であった現トレヴァント辺境伯家 セシリア・トレヴァント夫人との婚約において、夫人に対して数々のあらぬ疑いをかけ、不当に婚約破棄を宣告し、多大な苦痛を与えた責任を認め、レイヴンクレスト王家は真摯に反省すると共に、夫人に深く陳謝する。

セシリア夫人に対しては相応の賠償を約束し、今後、夫人に対する不当な噂や言動を一切禁じるものとする。】



王家が公式にセシリアへの冤罪を認めたことで、多くの国民の間では王家への失望が広がった。


覚悟はしていたがその反動は大きく、私は連日の対応に追われた。

同時に、婚約破棄の元凶であり、厚顔無恥にも新たな婚約者の座に就こうとしたクララへ、猛烈に非難の声が上がった。





⸺⸺⸺





「……まったく。今更、こんな謝罪を表明されてもねえ……」



トレヴァント辺境伯領の別邸で、セシリアは王家の謝罪文が載った新聞に一通り目を通すと、興味がなさげに顔を背けた。

ノインは、主が興味を失ったそれをデスクから回収すると、丁寧に折り畳んだ。



「彼のお方も、セシリア様への不当な扱いには大層お怒りでしたから。この機会を逃す手はなかったのでしょう」


「そうね。確かに「こんな事なら無理やりお兄様と婚約させたのに!」と仰っていたわねえ……」



セシリアはその時の事を思い出し、遠い目で苦笑した。



「……それで、あの子の処分方法は決まったのかしら?」


「セシリア様の冤罪が証明された事で、王家は隠すことなくクララの罪状を公表する事が可能になりました。帝国の要求通り、公開処刑になるかと」


「それもあの子の運命ね。身の程を弁えていれば、こんな事にはならなかったでしょうに」



セシリアは、ノインが供した紅茶に口を付けた。


心からハインリヒを望んだのであれば、クララは王族としての礼儀作法や教養を身に付ける努力をすべきだった。

だが、彼女はすべてを思い通りに事を進めることに慣れ、楽な方へと流されて行くばかり。


王族とはただ着飾り、臣民の上に立っているだけではないという事を、最後まで理解しなかった。

その時点で、クララには王太子妃になる『資格』などなかったのだ。



「彼のお方から、処刑前にお会いになられるかと伝言をお預かりしておりますが」


「必要ないわ。あの子に聞きたいことも言いたいことも、何一つないもの。理解したいとも、理解出来るとも思えない。既に、私には関係のない人間だわ」



かつて、クララには苦しめられた時期もあった。


だが、割と早くに自分の中で切り捨てていた存在だ。

セシリアにとってのクララは、周囲を腐敗させていく『公害』のようだとしか思っていなかった。



「アシュフォードは予定通り、シャーロット様にお任せしましょう。公爵家なのにも拘わらず、大した功績もないのだから、今後はローズウェル侯爵家の役にでも立ってもらうわ」


「公爵家を立て直すことが出来れば、武門のローズウェル侯爵家では難しかった事も、アシュフォードを隠れ蓑にやれる事が増えるでしょう」


「お兄様は、シャーロット様に感謝すべきね。彼女がいなければ、私がお兄様を蹴落として乗っ取るしかなかったでしょうし」



実際、そんな風に考えた事もあった。


アーサーは情に脆く、今回も自らの判断でクララを切り捨てる事は出来なかっただろう。

セシリアは以前から、いざという時の判断が遅く、見通しが甘いと感じていた。


それは、三つしかない公爵家の当主としては失格だ。

だが、王家に嫁ぐ予定だったので自分が代わるとも言えなかった。


その頃はローズウェル侯爵家が影を束ねる一族だとは知らず、シャーロットの能力や言動を密かに観察していた。

あのアーサーを何故か狂愛しているが、それでも上手く操作し、正解へ導く姿を何度も見て、アシュフォードを任せるなら彼女だと感じたのだ。



「ローズウェル侯爵令嬢でしたら、間違いはないでしょう」


「そうね。そう言えばノイン。先日のパーティーで、あなたのご家族にお会いしたわ。ノインはお父様似なのね」



微笑んでいるようで、どこか揶揄いの色が滲んでいる。



「……さようでしたか」


「お会いしなくて良かったの?随分と会っていないのでしょう?」


「問題ございません。それに、まだ会うのは控えた方がいいでしょう。懸念材料になりかねませんから」



表情も変えずに淡々と答えるノインに、セシリアは「相変わらず、揶揄い甲斐がないわね」と不満そうに肩をすくめた。






クララの公開処刑は、間もなく執行されるだろう。

王国の膿が一つ、ようやく出されるのだ。




⸺⸺だけど、私たちの計画はまだ始まったばかりだ。





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