なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル

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幕間〜ノインside

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ついに、小娘の死刑が執行された。

遺体の引き取りも、合葬墓がっそうぼへの埋葬も許可されなかった。



『死後であれ、救いが与えられることは許さない』



帝国の要求により遺体は火葬され、灰は王家所有の森の中に撒かれた。


この周辺国で信仰されている聖教会は、『火葬ならび火刑は、輪廻が許されない悪人への最大の罰である』と説いている。

それ故、火葬が適用されるのは百年近く例がないほどの凶悪犯に限られている。



平民クララの処刑の噂は、国中を瞬く間に駆け巡った。

刑が執行される前に主の冤罪が公表されたことも、拍車をかけたのだろう。


だが、そんな噂もすぐに風化する。



『平民の悪女が一人、王太子の婚約を壊したうえに帝国の皇女を暗殺しようとした』



人々の記憶に残る小娘の情報など、その程度に過ぎない。



主は処刑の日も、その次の日も、いつもと変わらぬ日々を過ごしていた。

主にとって、小娘はその程度の存在だったのだ。


生きていようと死のうと、自分たちの邪魔さえしなければどうでもいい⸺⸺



主は一貫して、その姿勢を崩さなかった。


今思えば、かつてアシュフォードにいた頃、あの小娘は主の気を引こうとしていたかのようにも見えた。

それは、かなり歪んだ形であったが。


主もそれを感じ取っていたのかもしれない。

だとすれば、『存在にすら関心を持たれない』というのは、小娘にとって最も残酷な仕返しになっただろう。



アシュフォード公爵家は代替わりし、アーサーが当主となった。


主との縁が切れ、体調を崩しがちだった夫人は、小娘が処刑されたことで完全に壊れてしまった。

娘たちが赤子だった頃を思い出しているのか、二つのぬいぐるみに主や小娘の名を呼びかけているらしい。


正気に戻ることもなく、もはや別世界の住人となった夫人を連れて、前公爵は領地の端にある小さな屋敷で隠居することになった。

彼自身も自らの娘を二人も失い、王都や思い出のある領地邸カントリーハウスで暮らすのは耐えられなかったのだろう。



自業自得だ。同情の余地などない。



急遽当主となったアーサーは公爵家の執務に集中する為、王太子の側近を辞そうとしたが、シャーロット嬢がそれを止めた。

まだ彼には、王太子の側にいてもらう必要がある。


そしてそれ以上に、彼女が先に公爵家を掌握しなければならない。

屋敷には、無意識であろうと小娘の肩を持ち、主を軽視した使用人がまだ残っている。


間もなく王太子の結婚式があるうえ、小娘の死から立ち直りきれていないアーサーの心情も慮って、正式な式を挙げるのは先になるようだ。

彼女は先に籍だけを入れ、公爵夫人として屋敷の中の『掃除』を始めるそうだ。



「ねえ、ノイン」


「はい、セシリア様」



現在、主は別邸の庭園にあるガゼボで、午後の優雅なひとときを過ごしている。

テーブルの上に置かれているチェス盤の駒を一つ動かすと、主は私の名を呼んだ。



「彼は、今どうしているかしら?」



彼……冒険者ギルドマスターから預かった者のことだ。



「計画通り、騎士団の掌握に努めているようです」


「そう……」



主は頬杖をつき、別の駒を手に取って弄び始めた。

恐らく、次の計画を考えているのだろう。


王太子への仕込みが終わっている。

あとは、時期を待つだけなのだ。



ならば、次は『辺境伯』か。



「……次の段階に進めるには、一つ動きが必要ね……彼の能力を認めさせる為にも」



主が沈黙している間に、私は冷めた紅茶を淹れ直す。


考えをまとめるのに、そう時間はかからないはずだ。

カップに新しい紅茶を注ぎ、主の邪魔にならないように供する。


そこへ、一人の使用人が主宛の手紙を一通運んで来た。

差出人を確認すると、ちょうど先ほど思い浮かべていた冒険者ギルドマスターだった。



「セシリア様。冒険者ギルドマスターからお手紙が届きました」



主へ手紙を手渡し、内ポケットから出したペーパーナイフを差し出した。

丁寧に封を切り、私にペーパーナイフを返した後、手紙の内容に目を通した主が、不敵な笑みを浮かべた。



「ノイン、騒ぎが向こうからやって来てくれたわ」



差し出された手紙を受け取り、私も内容を確認する。


……なるほど。これはお誂え向きだ。



主は淹れ直した紅茶のカップに口を付け、満足そうに微笑んでいる。



手紙の内容はこうだった。


トレヴァント辺境伯領と隣接するヴォルガルド公国のセキトフ辺境伯家で、『お家騒動』があったという。


ヴォルガルド公国は新興の武装派国家だ。


元々は交戦的な複数の部族の集団だったが、それを初代ヴォルガルド大公が武力をもって、一つの国としてまとめ上げた。

初代大公は、その中でも特に好戦的なセキトフ家をレイヴンクレスト王国との国境に置いた。


何度も繰り返される争いに、互いの領民たちが疲弊したこともあり、トレヴァント辺境伯家とセキトフ辺境伯家の間で『不可侵協定』が結ばれた。


それ以降は、たまに暴走した者たちによる小競り合い程度は起こっても、本格的な戦闘行為にまで発展することはなかった。


そんなセキトフ辺境伯家の現当主が『放蕩者』だという噂は、国を跨ぎ、こちら側にも聞こえていた。

酒と女に溺れ、自らの欲を満たす為に税を上げ、領民の中では飢えで亡くなる者が増えていた。


そんな状況に我慢ならなかった分家筋の者により、当主は首を刎ねられ、家督を簒奪された。


そして、その新セキトフ辺境伯がトレヴァント辺境伯家との『不可侵協定を破棄する』と宣言したと、手紙には書かれていた。



トレヴァント辺境伯領に、暗雲が立ち込めようとしていた。



「ノイン、商人ギルドマスターに連絡してくれる?新しいセキトフ辺境伯の詳細が欲しいわ」


「承知いたしました」



ある程度は冒険者ギルドでも情報は得られるが、他国であろうとも、貴族の屋敷を訪問することが多い商人たちには敵わない。



情報は生ものだ。


情報を得たら、手遅れにならないように、すぐに処理しなければならない。


主が立ち上がると同時に、私は椅子を引いた。

そして、そのまま執務室へと真っ直ぐ歩き出した主の、三歩後ろに付いて歩く。


「あ、彼にも連絡をしておいてくれる?『出番の準備を整えておいて』と」



廊下の真ん中で振り返り、主は思い出したかのように、もう一つ指示を出した。



「承知いたしました」



私は目礼し、主が執務室へ入ったことを見届けてから、すぐに主の指示を遂行する為に動き始めた。




新たな『駒』を動かす為に⸺⸺




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