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始まり
第7話 野望と希望
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全く忌々しいわね、やっと邪魔者だったリーゼを排除出来たと思ったのに、お咎めが無しですって? ワザワザ一芝居まで打って罪を着せれてたと言うのに、ギリギリになって裏切り者が出てしまった。
もう少しで社交界からも抹殺出来ると思っていたのに、何て悪運の強い女なの。でもまぁいいわ、ウィリアム様との婚約破棄は成功したのだし、当の本人も学園を辞めたって言うからね。
ただ問題は、新たなる王妃候補として浮上したウイスタリア公爵のご令嬢、アデリナがしゃしゃり出て来てしまったから、状況がややこしくなってしまった。
先日国から私の元へと一通の書状が届いた。
そこにはウィリアム様とリーゼとの婚約を一旦白紙に戻し、新に二人の王妃候補を加え、王子奪戦を三人で繰り広げろと言うものだった。
お父様に聞いた話によると、リーゼは国民感情を和らげる為の当て馬で、実質私とアデリナの一騎打ちの状態なんだそうだ。だけどこのアデリナが中々の曲者で、元々リーゼがいなければ王妃候補として最も相応しい相手だと言われているらしく、大半の貴族達がアデリナを推しているんだそうだ。
「リーゼだけでも鬱陶しいのにアデリナまで出てくるから、また私達の婚約が遠くなってしまったじゃない」
「まぁそう言うな、王子の心を掴んでいるだけこちらが有利なんだ、いくら公爵家とはいえ、次期国王にまでは強く言えんよ」
「ですがお父様、大半の貴族はアデリナを押していると言うじゃありませんか、このままでは数の上で負けてしまいますわ」
現在貴族達が推している分布はアデリナを5とするなら、私が3でリーゼが2と言ったところらしい。
伯爵家の私が3割も確保出来ているのは、予め多くの貴族にアージェント家から恩を売っておいたお陰なのだが、未だにリーゼが2割の貴族から支持されていると言うのはどうも納得が出来ない。
今回ブラン家は誰に支持する分でもなく中立の立場を示しているそうだが、どうせ裏では必死に勧誘活動に動き回っているんだろうと考えている。
「相手は上級貴族の公爵家だからな、下手に逆らわず従っているフリをしている連中が大勢いるんだ。逆に貴族達の分布が5対5になれば、ほとんどの連中が慌ててこちらに乗り換えてくるさ」
「でしたら余計に急がなければなりませんわね、何時までも均衡している状態でしたら、こちらかの裏切りが出ないとも限りませんもの」
私を推している貴族は所詮金にものを言わしただけの烏合の集、本当に恩を感じているのはほんの一部の者達だけだろう。アージェント家が貸している金を公爵家を通して返済されたり、うちより多く支援受けたりすれば、アッサリと寝返る連中ばかりなのだ。
「うむ、確かに何時までもこのままと言うわけにはいかんな。何とかブラン家の小娘を推している連中を、こちらに引き寄せる事が出来ればいいのだが」
リーゼを推している貴族……
「お父様、何とかなるかもしれませんわ」
そうよ、その手があったわ。
リーゼを公の場に連れ出し、私達の前で恥をかかせればいいのよ。貴族達が集まる場所でウィリアム様から再び別れの話でも告げられれば、リーゼを推しいる連中も考え直すはずだわ。
聞いた話ではウィリアム様には二度と会う事は無いと言っていたそうだから、私達がいるパーティーには出て来ないかもしれないけれど、そこは当て馬でも王妃候補に名前が挙がっているのだから、無理やりにでも引きづり出す事は可能なはず。寧ろあの子の事だから、もう一度ウィリアム様に会う機会が出来ると言って喜んでいるかもしれないわね。
ふふ、この前は直接リーゼの悔しがる顔を見れなかったけれど、今度は私の目の前でたっぷりと絶望を味あわせてあげる。今から次の社交界が楽しみだわ。
「お城のパーティーですか?」
「あぁ、来月行われる誕生祭の招待状が届いている」
お姉様のドレスが先ほど完成し、その連絡をしにお父様の書斎へと尋ねたところ、お城で行われる社交界の案内が届いたと言う話を持ち出された。
「それって出席しないとダメなんですか?」
はっきり言って嫌な感じがプンプンしてくるんですが。
「そんな嫌そうな顔をするな、私としてもリーゼをあの二人の前に連れ出すのは抵抗があるのだ。
だが仕方あるまい、建前上お前はまだ王子の婚約者候補に名前が載っているのだ。特に理由もない限り、簡単に欠席するわけにはいかんのだよ」
余程私の顔が嫌そうにしていたのだろう、お父様が困った様子で必死に説明をしながら宥めてくる。
言われなくて、今の自分がどのような立場に立たされているのかは理解しているつもりだ。
数日前、私宛に届いた書状を見た時は驚いたけれど、お父様が言うには、いきなり私の名前が婚約者候補から無くなってしまえば、国民の怒りの感情が国へと向けられる恐れがあるため、建前上残さざる得なかったのだと言う。
それに王子支持派と反王子支持派に分かれてしまうのなら、第三者を加えて勢力の分断を図ろうと言うのが上の考えらしい。
だったら社交界への出席も考えてくればいいのに。
「はぁ、その日だけでも風邪を引けないかなぁ」
「バカな事を言って困らせんでくれ、お前も伯爵家の一員なら自分の立場も分かっているだろう」
伯爵家から出れば出席しなくてもいいと言われれば、喜んでお屋敷を飛び出したいところだが、今回の招待状は私個人に対して来ているそうだから、余程の事がない限り欠席する事は不可能なのだと言う。
それが分かっているだけにお父様も私を説得しているんだと思う。
あぁもう、ホント貴族って一々邪魔くさいわね。簡単に婚約破棄が出来るとは思っていなかったけど、こんな面倒ごとに巻き込まれるんだったら、ウィリアム様を一発引っ叩いておくんだったわ。
そうすれば不敬罪で二度と顔を合わす事なんてなかったはずなのに。はぁ……
「分かりました、非常に不本意ではございますが出席させて頂きます」
「お前、王子と別れてから性格が変わっていないか? 以前はもっと大人しくて可愛かった気がしたのだが」
「何か言いましたか!」
「はぁ……何でもない。もう下がっていいぞ」
フンだ、可愛くなくて悪かったですね。私だって記憶以前に伯爵令嬢として立派に振舞っているつもりだけど、嫌なものは嫌なんだから仕方ないでしょ。
嫌な気分のまま部屋を出て行こうとして、肝心な事を言い忘れていた事に気がついた。
「そうだお父様、私が手がけたドレスが完成したんです」
「ん? 前に言っていた例の服の件か?」
「はい、良かったらお手すきの時で構いませんので、私の部屋に見に来てもらえませんか?」
「良いだろう、それな今から見に行こう。コーデリアとオリヴィエも屋敷にいるな? お前も私だけではなく全員の意見が聞けた方がいいだろう」
お母様とお姉様にも見せるつもりだったので手間が省けるが、こんなにも早くお父様に見に来てもらえるとは正直思ってもみなかった。
「それじゃ私お母様とお姉様を呼んできますね」
「おい、そのぐらい誰かに頼めばって……全く、先走りおって。
しかし王子の事で心配していたが、以前より元気になっていないか? まぁ本人が楽しそうなら別に良いのだが……ルーベルト!」
「はい、お呼びでしょうか?」
「すまんが今からリーゼの部屋に行くから、お茶の用意を4人分運ばせといてくれ」
「畏まりました」
(はぁ、少し時間を遅らせてから向かった方がいいだろう。いくら娘だといっても先に部屋で待っているというもの抵抗があるからな)
「見てくださいお父様、これが完成したお姉様のドレスです」
私たちが部屋に着いてから暫くした後、お父様がルーベルトを連れてやって来られた。
先にお母様とお姉様に見せる事になってしまったが、二人からはお墨付きの評価をもらえたので、気分は最高潮と言っても良い。
「ほぉ、これは想像していた以上の出来だな」
「アルもそう思う? 一見見慣れないデザインだけれど、肩の辺りとか素敵じゃないかしら?」
「確かにな、これなら若い娘たちを中心に人気が出るんじゃないか?」
ブラン家が所有する商会では数多くの生地を取り扱っているが、服やカバン等のように完成した形で売っているわけではない。もしこれが新しい商品として生産出来る体制が取れれば、ブラン領で暮らす領民達の仕事を増やす事ができるし、領地なんらかの方法で還元する事も出来るだろう。お父様もその辺りの事を考えての発言だと思う。
「如何でしょうかお父様、今回はドレスと言う形に仕上げましたが、普段から気軽に着れる服や装飾品をメインに販売していけば、生産量と売り上げを伸ばしていけると思うのです」
「うむ、これは検討する余地は十分にあるな。ルーベルト、お前の意見が聞きたい」
ルーベルトは忙しいお父様に代わって商会の運営全般を任されている。その為、商売に繋がる事は真っ先に彼に尋ねるようにしているそうだ。
「恐れながら、旦那様が仰る通り検討する余地は十分あると考えられます。ただ、いきなり服の量産体制を取るより最初はオーダー衣装のみを受注し、ブランド力を高める方が良いかと思われます。そうすれば一着一着の価値が高まりますし、例え真似をする店が出てきたとしても、その頃には対抗できる力を蓄えておく事も出来るでしょう」
「お前がこうも簡単に認めるとは珍しいな。良いだろう、まずはこのドレスで顧客を作り徐々にブランド力を高めていくしよう。どうせ見た目を真似されたとしても、ここまでクオリティーの高い物はそう簡単には作れる事はまずないだろう」
「大丈夫ですお父様、一着二着真似をされたとしてもデザインは他にも沢山用意しておりますので」
そう言って、以前お姉様に見せた残りのスケッチ画を机の上に並べてみた。
「あら、これなんて素敵じゃない」
「ん? ほぉ、コーデリアに似合いそうなドレスではないか」
「やっぱりアルもそう思う? あぁ、私もリーゼに一着作ってもらおうかしら」
そう言ってお互いの体を寄せ合いながらすっかり二人の世界に入っちゃっているんだもの、見ているこっちが恥ずかしくなってくるわよ。
「旦那様、この際来月開催されるお城の社交界に、リーゼ様が作られた衣装を着ていかれると言うのは如何でしょうか? 幸いまだ一ヶ月以上日程が残っておりますので、商会の人間を使えば仕立てあげる事も可能だと思われます」
「それはいい考えかもしれんな、このドレスも私が予定していたより早く仕上がっているのだ。リーゼ、誰に頼んでドレスを仕上げさせたのだ? もう二着ぐらいなら間に合わす事も出来るだろう」
そう言って突然私に話を振ってくる。
「どういう事ですか? 誰に頼んで仕上げたのかって、誰にも頼んでなんかいませんけど?」
「……は?」
お父様が鳩がマメ鉄砲を喰らったような表情でこちらを見つめてくる。
「そんな不思議そうな顔をされましても、私の他に誰が作るというのですか?」
疑問を疑問で返すと言うのは礼儀に反するところではあるが、言っている意味が分からないんだから仕方がないと思う。よくよく見ればいつも冷静なルーベルトまで、固まって動こうとしていない。
「ちょっと待て、それじゃまさか自分で縫ったなどとは言い出さないだろうな」
「もちろん一人で縫いましたよ? お姉様にサイズを測らせてもらってから型紙を起こし、断裁から縫製まで一通り。そこに商会から持ち帰ったミシンがあるじゃないですか」
そう言ってホコリが掛からないよう布を被せたミシンを指さす。
何おかしな事を言ってるんだろう、私が作るって言ったんだからそんなの当たり前じゃないの。
「いやいやいや、確か私は誰に手伝ってもらっても構わないと言ったはずだが」
「はい、ですからルーベルトに頼んで商会で生地を選ばしてもらいましたよ。ミシンはその時に見つけた物を頂いたんです」
そう言えば、あの時ルーベルトは用事があるとか言って先に帰って行ったわね。それじゃミシンの事は知らなくて当然かもしれないわ。
「そうなのかルーベルト?」
「は、はい。確かに生地を見たいからと言われ商会までお連れしましたが、まさかご自分で作られるとは思っておりませんでしたので……」
ん~、ルーベルトには悪い事をしちゃったかな、私はてっきり仕上げるまでが試験の一部だと思っていたから何とも思わなかったけれど、よくよく考えて見れば、何もしらないご令嬢が縫製まで仕上げてしまうとは普通は考えないわよね。
「まぁいいじゃない、最初に確認しなかった私たちも悪かったんだから。リーゼ、ドレスを作るのに怪我なんてしていないわよね?」
「はい、それは大丈夫ですよ、危ない事なんて特にありませんから」
足踏みミシンの使い方もちゃんと商会の人に教えてもらったし、ハサミを使う時はティナに手伝ってもらたので、特に怪我らしい怪我は全く負っていない。
「はぁ、どうも最近リーゼには驚かされてばかりいる気がするぞ。とにかく怪我はしていないんだな」
「はい」
「だったら構わん。ティナ、すまんが今後リーゼが危ない事をしないよう注意をしておいてくれ」
「畏まりました」
何ですかそれ、いつの間に私ってそんなに要注意人物に格上げされちゃってるんですか。
「リーゼ、縫製等現場の作業は経験のある者を用意するからお前はデザインの方に専念していろ。今後はドレス以外の服も展開していくならそちらのアイデアも事前に見たい、出来るな?」
「はい、問題ございません」
「オリヴィエのドレスはこれでいいとして、まずはコーデリアのドレスとリーゼのドレスを用意しなければならないな。後でケイトに頼んで二人のサイズを測ってもらえ」
「分かりました」
「それじゃ私はこのデザインのドレス仕立ててもらおうかしら、リーゼはどのデザインにするの?」
どのって言われてもこれは全てお姉様のイメージに合わせてデザインしたものだから、私が着ても似合うはずがない。お母様は元々うん十歳とは思えないほどのプロポーションだから何を着ても似合うけど、それを同じように私に求められても正直困る。
「だったら私のドレスとお揃いにしない? リーゼも前に言っていたでしょ? いつかお揃いのドレスで社交界に出てみたいって」
言ってない言ってない、お姉様何かと勘違いされてますって。あの時はご自分で『何時か着れたらいいわね』的なお話をされていただけだと思いますよ。
「あら、それはいいわね、リーゼならきっと良く似合うと思うわ。あぁ、私ももう少し若ければ三人一緒にお揃いのドレスを着れたのに」
お姉様の体型とほとんど変わらないお母様に言われても嬉しくないやい、私より二人がお揃いで並んだ方がきっと絵になるんだと思うけどなぁ。
「はぁ、分かりました。お姉様とお揃いのドレスで出席します。ただ、色合いを少し変えてもいいですか? 全く同じと言うより色のバリエーションを見せた方がイメージが出来やすいと思うんです」
「えぇ、もちろんよ」
「よし、今後の予定も粗方決まったな。ルーベルト、離れの別邸をリーゼのアトリエとして用意させろ、必要な物は商会から取り寄せればいい。後は腕のいいスタッフを探してこなければならんな、出来れば信頼の出来る人物がいいのだが手配は出来るか?」
「明日一日お時間をください、心当たりを当たってまいります」
お父様の無茶振りをたった一日で用意するとか、どんだけうちの執事は優秀なんでしょう。
そんなルーベルトの返答に満足したのか、お父様は大きく頷かれている。
「リーゼ、離れの別邸を好きに使って構わん、お前はスタッフを使いデザインと仕上げのみを手掛けてみせろ」
「分かりましたお父様、ご希望に添えるよう精一杯頑張ってみせます」
お城の社交界に出席するのは未だ抵抗はあるが、お父様達に認めて貰えたのは凄く嬉しい。これから沢山のデザインを手がける事が出来るんだと思うと、わくわくして心が抑えきれない程だ。
ふふふ、何だか楽しくなってきたわ。
もう少しで社交界からも抹殺出来ると思っていたのに、何て悪運の強い女なの。でもまぁいいわ、ウィリアム様との婚約破棄は成功したのだし、当の本人も学園を辞めたって言うからね。
ただ問題は、新たなる王妃候補として浮上したウイスタリア公爵のご令嬢、アデリナがしゃしゃり出て来てしまったから、状況がややこしくなってしまった。
先日国から私の元へと一通の書状が届いた。
そこにはウィリアム様とリーゼとの婚約を一旦白紙に戻し、新に二人の王妃候補を加え、王子奪戦を三人で繰り広げろと言うものだった。
お父様に聞いた話によると、リーゼは国民感情を和らげる為の当て馬で、実質私とアデリナの一騎打ちの状態なんだそうだ。だけどこのアデリナが中々の曲者で、元々リーゼがいなければ王妃候補として最も相応しい相手だと言われているらしく、大半の貴族達がアデリナを推しているんだそうだ。
「リーゼだけでも鬱陶しいのにアデリナまで出てくるから、また私達の婚約が遠くなってしまったじゃない」
「まぁそう言うな、王子の心を掴んでいるだけこちらが有利なんだ、いくら公爵家とはいえ、次期国王にまでは強く言えんよ」
「ですがお父様、大半の貴族はアデリナを押していると言うじゃありませんか、このままでは数の上で負けてしまいますわ」
現在貴族達が推している分布はアデリナを5とするなら、私が3でリーゼが2と言ったところらしい。
伯爵家の私が3割も確保出来ているのは、予め多くの貴族にアージェント家から恩を売っておいたお陰なのだが、未だにリーゼが2割の貴族から支持されていると言うのはどうも納得が出来ない。
今回ブラン家は誰に支持する分でもなく中立の立場を示しているそうだが、どうせ裏では必死に勧誘活動に動き回っているんだろうと考えている。
「相手は上級貴族の公爵家だからな、下手に逆らわず従っているフリをしている連中が大勢いるんだ。逆に貴族達の分布が5対5になれば、ほとんどの連中が慌ててこちらに乗り換えてくるさ」
「でしたら余計に急がなければなりませんわね、何時までも均衡している状態でしたら、こちらかの裏切りが出ないとも限りませんもの」
私を推している貴族は所詮金にものを言わしただけの烏合の集、本当に恩を感じているのはほんの一部の者達だけだろう。アージェント家が貸している金を公爵家を通して返済されたり、うちより多く支援受けたりすれば、アッサリと寝返る連中ばかりなのだ。
「うむ、確かに何時までもこのままと言うわけにはいかんな。何とかブラン家の小娘を推している連中を、こちらに引き寄せる事が出来ればいいのだが」
リーゼを推している貴族……
「お父様、何とかなるかもしれませんわ」
そうよ、その手があったわ。
リーゼを公の場に連れ出し、私達の前で恥をかかせればいいのよ。貴族達が集まる場所でウィリアム様から再び別れの話でも告げられれば、リーゼを推しいる連中も考え直すはずだわ。
聞いた話ではウィリアム様には二度と会う事は無いと言っていたそうだから、私達がいるパーティーには出て来ないかもしれないけれど、そこは当て馬でも王妃候補に名前が挙がっているのだから、無理やりにでも引きづり出す事は可能なはず。寧ろあの子の事だから、もう一度ウィリアム様に会う機会が出来ると言って喜んでいるかもしれないわね。
ふふ、この前は直接リーゼの悔しがる顔を見れなかったけれど、今度は私の目の前でたっぷりと絶望を味あわせてあげる。今から次の社交界が楽しみだわ。
「お城のパーティーですか?」
「あぁ、来月行われる誕生祭の招待状が届いている」
お姉様のドレスが先ほど完成し、その連絡をしにお父様の書斎へと尋ねたところ、お城で行われる社交界の案内が届いたと言う話を持ち出された。
「それって出席しないとダメなんですか?」
はっきり言って嫌な感じがプンプンしてくるんですが。
「そんな嫌そうな顔をするな、私としてもリーゼをあの二人の前に連れ出すのは抵抗があるのだ。
だが仕方あるまい、建前上お前はまだ王子の婚約者候補に名前が載っているのだ。特に理由もない限り、簡単に欠席するわけにはいかんのだよ」
余程私の顔が嫌そうにしていたのだろう、お父様が困った様子で必死に説明をしながら宥めてくる。
言われなくて、今の自分がどのような立場に立たされているのかは理解しているつもりだ。
数日前、私宛に届いた書状を見た時は驚いたけれど、お父様が言うには、いきなり私の名前が婚約者候補から無くなってしまえば、国民の怒りの感情が国へと向けられる恐れがあるため、建前上残さざる得なかったのだと言う。
それに王子支持派と反王子支持派に分かれてしまうのなら、第三者を加えて勢力の分断を図ろうと言うのが上の考えらしい。
だったら社交界への出席も考えてくればいいのに。
「はぁ、その日だけでも風邪を引けないかなぁ」
「バカな事を言って困らせんでくれ、お前も伯爵家の一員なら自分の立場も分かっているだろう」
伯爵家から出れば出席しなくてもいいと言われれば、喜んでお屋敷を飛び出したいところだが、今回の招待状は私個人に対して来ているそうだから、余程の事がない限り欠席する事は不可能なのだと言う。
それが分かっているだけにお父様も私を説得しているんだと思う。
あぁもう、ホント貴族って一々邪魔くさいわね。簡単に婚約破棄が出来るとは思っていなかったけど、こんな面倒ごとに巻き込まれるんだったら、ウィリアム様を一発引っ叩いておくんだったわ。
そうすれば不敬罪で二度と顔を合わす事なんてなかったはずなのに。はぁ……
「分かりました、非常に不本意ではございますが出席させて頂きます」
「お前、王子と別れてから性格が変わっていないか? 以前はもっと大人しくて可愛かった気がしたのだが」
「何か言いましたか!」
「はぁ……何でもない。もう下がっていいぞ」
フンだ、可愛くなくて悪かったですね。私だって記憶以前に伯爵令嬢として立派に振舞っているつもりだけど、嫌なものは嫌なんだから仕方ないでしょ。
嫌な気分のまま部屋を出て行こうとして、肝心な事を言い忘れていた事に気がついた。
「そうだお父様、私が手がけたドレスが完成したんです」
「ん? 前に言っていた例の服の件か?」
「はい、良かったらお手すきの時で構いませんので、私の部屋に見に来てもらえませんか?」
「良いだろう、それな今から見に行こう。コーデリアとオリヴィエも屋敷にいるな? お前も私だけではなく全員の意見が聞けた方がいいだろう」
お母様とお姉様にも見せるつもりだったので手間が省けるが、こんなにも早くお父様に見に来てもらえるとは正直思ってもみなかった。
「それじゃ私お母様とお姉様を呼んできますね」
「おい、そのぐらい誰かに頼めばって……全く、先走りおって。
しかし王子の事で心配していたが、以前より元気になっていないか? まぁ本人が楽しそうなら別に良いのだが……ルーベルト!」
「はい、お呼びでしょうか?」
「すまんが今からリーゼの部屋に行くから、お茶の用意を4人分運ばせといてくれ」
「畏まりました」
(はぁ、少し時間を遅らせてから向かった方がいいだろう。いくら娘だといっても先に部屋で待っているというもの抵抗があるからな)
「見てくださいお父様、これが完成したお姉様のドレスです」
私たちが部屋に着いてから暫くした後、お父様がルーベルトを連れてやって来られた。
先にお母様とお姉様に見せる事になってしまったが、二人からはお墨付きの評価をもらえたので、気分は最高潮と言っても良い。
「ほぉ、これは想像していた以上の出来だな」
「アルもそう思う? 一見見慣れないデザインだけれど、肩の辺りとか素敵じゃないかしら?」
「確かにな、これなら若い娘たちを中心に人気が出るんじゃないか?」
ブラン家が所有する商会では数多くの生地を取り扱っているが、服やカバン等のように完成した形で売っているわけではない。もしこれが新しい商品として生産出来る体制が取れれば、ブラン領で暮らす領民達の仕事を増やす事ができるし、領地なんらかの方法で還元する事も出来るだろう。お父様もその辺りの事を考えての発言だと思う。
「如何でしょうかお父様、今回はドレスと言う形に仕上げましたが、普段から気軽に着れる服や装飾品をメインに販売していけば、生産量と売り上げを伸ばしていけると思うのです」
「うむ、これは検討する余地は十分にあるな。ルーベルト、お前の意見が聞きたい」
ルーベルトは忙しいお父様に代わって商会の運営全般を任されている。その為、商売に繋がる事は真っ先に彼に尋ねるようにしているそうだ。
「恐れながら、旦那様が仰る通り検討する余地は十分あると考えられます。ただ、いきなり服の量産体制を取るより最初はオーダー衣装のみを受注し、ブランド力を高める方が良いかと思われます。そうすれば一着一着の価値が高まりますし、例え真似をする店が出てきたとしても、その頃には対抗できる力を蓄えておく事も出来るでしょう」
「お前がこうも簡単に認めるとは珍しいな。良いだろう、まずはこのドレスで顧客を作り徐々にブランド力を高めていくしよう。どうせ見た目を真似されたとしても、ここまでクオリティーの高い物はそう簡単には作れる事はまずないだろう」
「大丈夫ですお父様、一着二着真似をされたとしてもデザインは他にも沢山用意しておりますので」
そう言って、以前お姉様に見せた残りのスケッチ画を机の上に並べてみた。
「あら、これなんて素敵じゃない」
「ん? ほぉ、コーデリアに似合いそうなドレスではないか」
「やっぱりアルもそう思う? あぁ、私もリーゼに一着作ってもらおうかしら」
そう言ってお互いの体を寄せ合いながらすっかり二人の世界に入っちゃっているんだもの、見ているこっちが恥ずかしくなってくるわよ。
「旦那様、この際来月開催されるお城の社交界に、リーゼ様が作られた衣装を着ていかれると言うのは如何でしょうか? 幸いまだ一ヶ月以上日程が残っておりますので、商会の人間を使えば仕立てあげる事も可能だと思われます」
「それはいい考えかもしれんな、このドレスも私が予定していたより早く仕上がっているのだ。リーゼ、誰に頼んでドレスを仕上げさせたのだ? もう二着ぐらいなら間に合わす事も出来るだろう」
そう言って突然私に話を振ってくる。
「どういう事ですか? 誰に頼んで仕上げたのかって、誰にも頼んでなんかいませんけど?」
「……は?」
お父様が鳩がマメ鉄砲を喰らったような表情でこちらを見つめてくる。
「そんな不思議そうな顔をされましても、私の他に誰が作るというのですか?」
疑問を疑問で返すと言うのは礼儀に反するところではあるが、言っている意味が分からないんだから仕方がないと思う。よくよく見ればいつも冷静なルーベルトまで、固まって動こうとしていない。
「ちょっと待て、それじゃまさか自分で縫ったなどとは言い出さないだろうな」
「もちろん一人で縫いましたよ? お姉様にサイズを測らせてもらってから型紙を起こし、断裁から縫製まで一通り。そこに商会から持ち帰ったミシンがあるじゃないですか」
そう言ってホコリが掛からないよう布を被せたミシンを指さす。
何おかしな事を言ってるんだろう、私が作るって言ったんだからそんなの当たり前じゃないの。
「いやいやいや、確か私は誰に手伝ってもらっても構わないと言ったはずだが」
「はい、ですからルーベルトに頼んで商会で生地を選ばしてもらいましたよ。ミシンはその時に見つけた物を頂いたんです」
そう言えば、あの時ルーベルトは用事があるとか言って先に帰って行ったわね。それじゃミシンの事は知らなくて当然かもしれないわ。
「そうなのかルーベルト?」
「は、はい。確かに生地を見たいからと言われ商会までお連れしましたが、まさかご自分で作られるとは思っておりませんでしたので……」
ん~、ルーベルトには悪い事をしちゃったかな、私はてっきり仕上げるまでが試験の一部だと思っていたから何とも思わなかったけれど、よくよく考えて見れば、何もしらないご令嬢が縫製まで仕上げてしまうとは普通は考えないわよね。
「まぁいいじゃない、最初に確認しなかった私たちも悪かったんだから。リーゼ、ドレスを作るのに怪我なんてしていないわよね?」
「はい、それは大丈夫ですよ、危ない事なんて特にありませんから」
足踏みミシンの使い方もちゃんと商会の人に教えてもらったし、ハサミを使う時はティナに手伝ってもらたので、特に怪我らしい怪我は全く負っていない。
「はぁ、どうも最近リーゼには驚かされてばかりいる気がするぞ。とにかく怪我はしていないんだな」
「はい」
「だったら構わん。ティナ、すまんが今後リーゼが危ない事をしないよう注意をしておいてくれ」
「畏まりました」
何ですかそれ、いつの間に私ってそんなに要注意人物に格上げされちゃってるんですか。
「リーゼ、縫製等現場の作業は経験のある者を用意するからお前はデザインの方に専念していろ。今後はドレス以外の服も展開していくならそちらのアイデアも事前に見たい、出来るな?」
「はい、問題ございません」
「オリヴィエのドレスはこれでいいとして、まずはコーデリアのドレスとリーゼのドレスを用意しなければならないな。後でケイトに頼んで二人のサイズを測ってもらえ」
「分かりました」
「それじゃ私はこのデザインのドレス仕立ててもらおうかしら、リーゼはどのデザインにするの?」
どのって言われてもこれは全てお姉様のイメージに合わせてデザインしたものだから、私が着ても似合うはずがない。お母様は元々うん十歳とは思えないほどのプロポーションだから何を着ても似合うけど、それを同じように私に求められても正直困る。
「だったら私のドレスとお揃いにしない? リーゼも前に言っていたでしょ? いつかお揃いのドレスで社交界に出てみたいって」
言ってない言ってない、お姉様何かと勘違いされてますって。あの時はご自分で『何時か着れたらいいわね』的なお話をされていただけだと思いますよ。
「あら、それはいいわね、リーゼならきっと良く似合うと思うわ。あぁ、私ももう少し若ければ三人一緒にお揃いのドレスを着れたのに」
お姉様の体型とほとんど変わらないお母様に言われても嬉しくないやい、私より二人がお揃いで並んだ方がきっと絵になるんだと思うけどなぁ。
「はぁ、分かりました。お姉様とお揃いのドレスで出席します。ただ、色合いを少し変えてもいいですか? 全く同じと言うより色のバリエーションを見せた方がイメージが出来やすいと思うんです」
「えぇ、もちろんよ」
「よし、今後の予定も粗方決まったな。ルーベルト、離れの別邸をリーゼのアトリエとして用意させろ、必要な物は商会から取り寄せればいい。後は腕のいいスタッフを探してこなければならんな、出来れば信頼の出来る人物がいいのだが手配は出来るか?」
「明日一日お時間をください、心当たりを当たってまいります」
お父様の無茶振りをたった一日で用意するとか、どんだけうちの執事は優秀なんでしょう。
そんなルーベルトの返答に満足したのか、お父様は大きく頷かれている。
「リーゼ、離れの別邸を好きに使って構わん、お前はスタッフを使いデザインと仕上げのみを手掛けてみせろ」
「分かりましたお父様、ご希望に添えるよう精一杯頑張ってみせます」
お城の社交界に出席するのは未だ抵抗はあるが、お父様達に認めて貰えたのは凄く嬉しい。これから沢山のデザインを手がける事が出来るんだと思うと、わくわくして心が抑えきれない程だ。
ふふふ、何だか楽しくなってきたわ。
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