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第15話 運命の出会い
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「クロードお兄様、あちらに露店が出ているみたいですよ、行ってみましょ。」
「サーニャ、急に走り出すと危ないぞ」
僕は今多忙な父と兄上に代わって、本日開催されるお城のパーティーで祝辞を伝える為、妹のサーニャと共に王都へとやってきている。
本当は僕と数名の護衛だけで来る予定だったのだけど、当日になって急に妹が一緒に行くと言い出し、周りが説得するも結局根負けして、僕がパーティーに出席している間はおとなしくしていると言う条件で、同行を許す事になった。
この誕生祭は昨日から国を挙げて行っているそうだが、僕が参加するのは二日目の今日、午後から開催される王家主催のガーデンパーティーのみ。それまでは時間があるので妹の観光に付き合っているわけなのだが、実は父上達からこの国の民の様子を僕の目で確かめて来るようにと密命を受けている。
それは近年この国の民たちが、度重なる税収の増加と一部の貴族たちによる弾圧で、国に対する国民感情が膨れ上がっていると報告を受けた為。それだけなら父上達ももうしばらくは傍観していただろうが、ここ数年でそれらの報告が異常に多く入って来ており、メルヴェール王国の存続に危機を感じた父上達が、この誕生祭を利用し国の様子を見てくるようにと僕を派遣されたと言うわけだ。
「お兄様、そんな難しそうな顔をしてますと、おシワが残ってしまいますよ」
「そんな難しそうな顔をしていたか?」
「してましたよ、折角二人っきりでお出かけ出来たって言うのに、お兄様は私と一緒にいるのがそんなに詰まらないんですか?」
「そうじゃないよ、ちょっと考え事をしていてね」
二人っきりと言っても近くで市民に扮した騎士が僕達を護衛しているんだけど、折角嬉しそうにしているんだからサーニャには言わない方がいいよね。
「考え事ですか?」
「この国の民達は幸せなのだろうかとね」
お祭りと言う事もあって道には露店が立ち並び、人々は明るく笑っているようには見えるが、王都にたどり着くまでに立ち寄った街や村では人々の表情は暗く、街外れにスラムのような溜まり場が幾つも出来ていた。
中でも王都から遠く離れたアージェント伯爵領や、フェルナンド侯爵領の惨状は酷いものだった。一見中心街と呼ばれているエリアは何の変哲も無い街の風景だったが、一度細い路地を奥へと入ると親の居ない子供達が食べ物を探しまわり、ガラの悪い連中がたむろしている姿を多く見かけた。
もちろん全ての領が同じだとは言わないけど、王都から遠くに離れるほど状況は悪いのではないだろうか。
「お兄さん達、見ない顔だが観光かい?」
「そうですよ、明日には帰らなきゃいけないんですけど、それまでにお祭りが見たくて」
話しかけてきたのは露店でアクセサリーを売っている活発的な若い女性、昔から人懐っこかった妹が興味本意で返事をする。
「どうだい、これなんかお嬢さんに似合うんじゃないかい?」
「うわぁ、可愛いイヤリング。見せてもらってもいいですか?」
サーニャに進めてきたのは星の形をした一対のイヤリング、よく見れば精彩な細工が施されている割に良心的な値段が付けられている事から、それほど悪い人でもないのだろう。
「値段の割に細かな細工がされているんですね」
「お兄さん見る目があるね、私はブラン出身の職人だからね、細かな細工とかは得意なんだ」
「ブラン?」
「なんだいブラン領を知らないのかい? ブランってのは王都から東に行ったところにある領でね、そこでは布や服等に使う装飾品の生産が盛んなんだ。ブラン産って言えば王都でも一二を争うほどの人気なんだよ」
ブラン領、聞いた事がない名前だ。それ程この国の事に詳しい訳ではないから知らなくて当然なのだが、ここから東に位置するという事はレガリアの国境沿い辺りだろうか?
「機会があるんだったら一度は行ってみた方がいいよ、あそこは貿易も盛んだから街は活気に溢れているし料理も美味しい、おまけに伯爵家の女性達は全員が
美人なんだよ。私たち下街の領民にも気安く話しかけてくれるし、今じゃ街の人気もんさ」
「伯爵家の方が領民達と直接話しをされるのですか?」
この国にもまだそんな領主が残っているのか、道中で見てきた領地の惨状が余りにも目に焼き付いてしまっていたので、民を大事にしている領地があると聞いただけで心が和らぐ気がする。
「あぁ、私もブランで暮していた時に一度、お嬢様から話しかけられた事があったてね、あの頃はまだ幼かったけどしっかりされているし、奥方様に似て美人だったよ。
今は学園に通うために王都におられるみたいだけど、時々街を見て回っておられるって噂だから運が良ければ出会うんじゃないかい?」
「王都に? その方のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
伯爵家のご令嬢ならもしかして今日のパーティーに出席しているかもしれない、国が衰退している一方で国民から支持を受けている女性か、父上や兄上が聞けば興味示すのではないだろうか。
「名前かい? お姉さんの方がオリヴィエ様で妹の方がリーゼ様って名前だ、年齢はそうだな、ちょうどお兄さんやお嬢さんと同じぐらいになるんじゃないかな?」
「素敵ですねお兄様、私その方にお会いしてみたいです」
「いや、流石にそれは……」
サーニャが言っているのは自分もパーティーに連れて行けと言っているのだろう、今回の訪問は事前に僕だけが参加すると既に伝えているので、今から妹が加わるとなると、王国側も何かと手続きが必要となってくるだろう。そもそも、それが間に合わないからパーティー中は留守をするという条件で連れてきたのだ。
「妹さん、そんな無茶を言ったらお兄さんが困ってるじゃないかい、私も王都で5年ほど暮らしているけど、未だに王都では出会った事がないんだよ。それに妹のリーゼ様は今じゃ次期王妃様候補だからね、こんな人の多い日に迂闊に街なんかに出てこれないんだよ」
「次期王妃? 伯爵家の方がですか?」
「そうさ、あの方は王都でも大人気でね、だから国も放っておけなかったって訳さ。まぁ、あの王子様にくれてやるのは勿体ないが、皆んなリーゼ様が王妃になってくれればこの国も変わるんじゃないかって期待してるんだ」
「へぇ、僕も一度会ってみたいな」
国民が期待する次期王妃か、これは是非とも顔を合わせておくべきだね。
「お兄さんもやっぱり男の子だね、そんなにリーゼ様に会ってみたいのかい?」
「そういう訳ではないのですが少し興味がありまして。そのリーゼ様と言う方はどのような人物なんですか? 会えないとは思いますが、もしもの時に何か特徴があれば教えて頂きたいのですが」
「特徴って言えば、姉妹揃ってこの国では珍しい青みがかった白銀の髪色をなさっているからね、そうそうこの……」
「おはようリーゼ、昨日は良く眠れたかしら?」
「おはようございますお姉様、すみません寝坊してしまって」
昨日お屋敷に帰り着いた頃にはすっかり日が変わってしまっており、思っていた以上にダンスの疲れと精神的な疲れが溜まっていたようで、ティナが用意してくれてた湯浴みをしたら、そのままぐっすり眠りに落ちてしまった。
お陰で昨日の疲れはすっかりと回復してる。
「お母様がリーゼは疲れているだろうからって、ティナ達に起こさないよう伝えていたのよ」
「そうだったんですね、私ってお母様達に心配を掛けっぱなしですね」
起きた時にティナから聞いていたが、昨日の事は色々と心配を掛けてしまったようだ。
「お父様達はもうお城へ向かわれたのですか?」
「えぇ、ちょうど今頃お城に着かれた頃じゃないかしら?」
調理長がわざわざ私の為に用意してくれた軽食と、ティナが入れてくれた紅茶をサロンで飲みながら、お姉様が私の話相手になってくれる。
お父様とお母様、それにレオンお義兄様は、お城で開催されるパーティーに参加するためにすでに出かけられた後のようだ。
今日お城で行われる予定は、午前中に国へ貢献した人達を表彰する勲章授与式があり、午後から貴族や表彰された人達が参加するガーデンパーティーが開催される。毎年隣国から祝辞を伝えに王族の方が来られると聞いているが、別に昨日の夜会のように参加は強制されていないので、私とお姉様はお断りする事にした。
「それじゃ今日一日する事が無くなっちゃいましたね」
お仕事を手伝ってもらっているパタンナーさんの二人には、昨日と今日の二日間はお休みしてもらっているので、この間作業的な仕事は進める事は出来ない。別に新しいデザインを考えるのもいいけど、ティナからここ最近働き過ぎらだからと言われ、この二日間は仕事をする事を強制的に止められている。相変わらず心配性なんだから。
「ねぇ、リーゼさえよければ久々に街へと出かけない?」
「街にですか? それは私も行きたいですが護衛はどうするのです?」
「それは大丈夫でしょ? リーゼはもうウィリアム様の婚約者ではないのだから、お屋敷にいる警備兵だけで十分じゃないかしら」
そう言えばそうか、以前はウィリアム様の婚約者だからって事で、何処に行くにもお城に報告し、わざわざ騎士の方々が護衛の為に付いて来られていたけど、今となってはそれ程私の価値は高くないので、お城に報告する必要もないだろう。
「そうですね、それじゃ出掛ける準備をしてきますので少しお待ち頂けますか? ティナ、悪いけど街に行く為に着替えをしたいの、手伝ってもらえる?」
今着ているのは服は余り華美では無いとは言え、流石に街中では目立ってしまうだろう。出来るだけ目立たず地味な服に着替えた方が、ゆっくりとお祭りを楽しめるというもんだ。
そうそう髪色が目立たないように帽子も用意しなくちゃね。
ざわざわざ
「お姉様、今日はありがとうございます。私を心配して街へと連れ出して下さったのですよね」
伯爵家の馬車で市民街の近くまで送ってもらい、そこから徒歩で大通りへと向かう。
お姉様が誕生祭の日に私を街へと連れ出すのは、昨日の出来事が関わっているのではないかと思っている。これがブラン領なら話は変わるが、そうでなければこんな人が溢れている日に、わざわざ街へと誘うことはまず無いのではないか。
「少しは気分転換になるのではと思ってね、大通りならそれほど危険な目に会う事もないでしょうし、護衛の人たちもリーゼの事を守りやすいんじゃないかしら」
基本的に王都では常に警邏兵が見て回っているので、他の領地と比べると比較的に安全だとは言えるが、少し街外れ行くと急に犯罪率は上がると言う特徴がある為、私達貴族の者は中心街しか出歩いたことがない。
「それにしても王都は人の数が多いですね、賑やかさではブランも負けてはいませんが、これ程の人数は流石にいないと思いますよ」
色んな商店を見て回りながら、人々の楽しそうな雰囲気が私達にも伝わって来る。普段は静かな街も今日ばかりは楽しそうな話し声があちらこちらから聞こえて来る。
幸い用意したツバの広いキャペリンと、肩から掛けた薄手のストールのおかげで、今のところ私達の目立つ髪色は隠せているが、何時までも誤魔化し続けるのは難しいかもしれない。
本当はこんな事はしたくないんだけど、今日ばかりは私達だって事がバレると街が大混乱になりかねないし、ゆっくり街を見て回る事も出来ない。
「リーゼ、あそこにアクセサリーを売っている露店があるわよ。少し見て行きましょう」
「はい、お姉様」
お姉様が近くにあったアクセサリーを売る露店へと向かわれる。お店に顔を出すと私達だってバレる確率が上がるのだけど、何も買わずにただ見て回るだけっていうのも何だかつまらない。
まぁ、お姉様も楽しそうだから別にいいわよね、バレたらバレたでその時考えればいいか。昔はよく街に出かけて色んな人と話をして回ってたのだし、何とかなるわよね。
目的の露店に着くと、一組の先客がお店の女性と話されているようだった。
先客は男性と女性のカップル……じゃないね、お顔がよく似ているから多分お祭りを観光しにきた兄妹なんだろう、話の腰を折るのは悪いので、隣から商品を見せてもらう事にする。
「……特徴って言えば、姉妹揃ってこの国では珍しい青みがかった白銀の髪色をなさっているからね、そうそうこのお嬢さん達のような……って……えぇ!! リーゼ様!?」
「はい?」
突然名前を呼ばれたものだからついつい反射的に返事をしてしまったが、やっぱり帽子とストールだけでは隠しきれ無かったようだ。
「そ、それにオリヴィエ様まで!?」
お店の方の声で一瞬周りがザワつき始めるが、お姉様が口に人差し指を当てて内緒にしてと合図を送られると、状況を理解してもらえたのか慌てて誤魔化すように対応してくださる。
「ごめんなさい、今日はお祭りだから余り目立つと皆さんにご迷惑をお掛けしてしまうので」
「い、いえ、こちらこそ申し訳ございません。まさかお噂をしていた時に目の前におられたものですから……」
小声で突然現れた事を謝罪をすると、アクセサリーを売っている女性も同じように小声で返してくださる。
「噂?」
「すみません、僕がお店の方にリーゼ様の事を聞いていたのです」
「あなたが?」
男性が申し訳なさそうにこちらに顔を向けられるので、私も同じように顔を男性に向ける。
「「 !!! 」」
この時の衝撃を何と表現していいのか、この時の私には伝える言葉が見つから無かった。全身何かが駆け巡ったかと思うとお互い相手の瞳から目が離せず、恥ずかしいとか照れるとかそんな感情をすっかり忘れてしまう、ただ純粋にこのまま二人だけの時間が止まればいいのにと、心のどこかで願っていた。
「サーニャ、急に走り出すと危ないぞ」
僕は今多忙な父と兄上に代わって、本日開催されるお城のパーティーで祝辞を伝える為、妹のサーニャと共に王都へとやってきている。
本当は僕と数名の護衛だけで来る予定だったのだけど、当日になって急に妹が一緒に行くと言い出し、周りが説得するも結局根負けして、僕がパーティーに出席している間はおとなしくしていると言う条件で、同行を許す事になった。
この誕生祭は昨日から国を挙げて行っているそうだが、僕が参加するのは二日目の今日、午後から開催される王家主催のガーデンパーティーのみ。それまでは時間があるので妹の観光に付き合っているわけなのだが、実は父上達からこの国の民の様子を僕の目で確かめて来るようにと密命を受けている。
それは近年この国の民たちが、度重なる税収の増加と一部の貴族たちによる弾圧で、国に対する国民感情が膨れ上がっていると報告を受けた為。それだけなら父上達ももうしばらくは傍観していただろうが、ここ数年でそれらの報告が異常に多く入って来ており、メルヴェール王国の存続に危機を感じた父上達が、この誕生祭を利用し国の様子を見てくるようにと僕を派遣されたと言うわけだ。
「お兄様、そんな難しそうな顔をしてますと、おシワが残ってしまいますよ」
「そんな難しそうな顔をしていたか?」
「してましたよ、折角二人っきりでお出かけ出来たって言うのに、お兄様は私と一緒にいるのがそんなに詰まらないんですか?」
「そうじゃないよ、ちょっと考え事をしていてね」
二人っきりと言っても近くで市民に扮した騎士が僕達を護衛しているんだけど、折角嬉しそうにしているんだからサーニャには言わない方がいいよね。
「考え事ですか?」
「この国の民達は幸せなのだろうかとね」
お祭りと言う事もあって道には露店が立ち並び、人々は明るく笑っているようには見えるが、王都にたどり着くまでに立ち寄った街や村では人々の表情は暗く、街外れにスラムのような溜まり場が幾つも出来ていた。
中でも王都から遠く離れたアージェント伯爵領や、フェルナンド侯爵領の惨状は酷いものだった。一見中心街と呼ばれているエリアは何の変哲も無い街の風景だったが、一度細い路地を奥へと入ると親の居ない子供達が食べ物を探しまわり、ガラの悪い連中がたむろしている姿を多く見かけた。
もちろん全ての領が同じだとは言わないけど、王都から遠くに離れるほど状況は悪いのではないだろうか。
「お兄さん達、見ない顔だが観光かい?」
「そうですよ、明日には帰らなきゃいけないんですけど、それまでにお祭りが見たくて」
話しかけてきたのは露店でアクセサリーを売っている活発的な若い女性、昔から人懐っこかった妹が興味本意で返事をする。
「どうだい、これなんかお嬢さんに似合うんじゃないかい?」
「うわぁ、可愛いイヤリング。見せてもらってもいいですか?」
サーニャに進めてきたのは星の形をした一対のイヤリング、よく見れば精彩な細工が施されている割に良心的な値段が付けられている事から、それほど悪い人でもないのだろう。
「値段の割に細かな細工がされているんですね」
「お兄さん見る目があるね、私はブラン出身の職人だからね、細かな細工とかは得意なんだ」
「ブラン?」
「なんだいブラン領を知らないのかい? ブランってのは王都から東に行ったところにある領でね、そこでは布や服等に使う装飾品の生産が盛んなんだ。ブラン産って言えば王都でも一二を争うほどの人気なんだよ」
ブラン領、聞いた事がない名前だ。それ程この国の事に詳しい訳ではないから知らなくて当然なのだが、ここから東に位置するという事はレガリアの国境沿い辺りだろうか?
「機会があるんだったら一度は行ってみた方がいいよ、あそこは貿易も盛んだから街は活気に溢れているし料理も美味しい、おまけに伯爵家の女性達は全員が
美人なんだよ。私たち下街の領民にも気安く話しかけてくれるし、今じゃ街の人気もんさ」
「伯爵家の方が領民達と直接話しをされるのですか?」
この国にもまだそんな領主が残っているのか、道中で見てきた領地の惨状が余りにも目に焼き付いてしまっていたので、民を大事にしている領地があると聞いただけで心が和らぐ気がする。
「あぁ、私もブランで暮していた時に一度、お嬢様から話しかけられた事があったてね、あの頃はまだ幼かったけどしっかりされているし、奥方様に似て美人だったよ。
今は学園に通うために王都におられるみたいだけど、時々街を見て回っておられるって噂だから運が良ければ出会うんじゃないかい?」
「王都に? その方のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
伯爵家のご令嬢ならもしかして今日のパーティーに出席しているかもしれない、国が衰退している一方で国民から支持を受けている女性か、父上や兄上が聞けば興味示すのではないだろうか。
「名前かい? お姉さんの方がオリヴィエ様で妹の方がリーゼ様って名前だ、年齢はそうだな、ちょうどお兄さんやお嬢さんと同じぐらいになるんじゃないかな?」
「素敵ですねお兄様、私その方にお会いしてみたいです」
「いや、流石にそれは……」
サーニャが言っているのは自分もパーティーに連れて行けと言っているのだろう、今回の訪問は事前に僕だけが参加すると既に伝えているので、今から妹が加わるとなると、王国側も何かと手続きが必要となってくるだろう。そもそも、それが間に合わないからパーティー中は留守をするという条件で連れてきたのだ。
「妹さん、そんな無茶を言ったらお兄さんが困ってるじゃないかい、私も王都で5年ほど暮らしているけど、未だに王都では出会った事がないんだよ。それに妹のリーゼ様は今じゃ次期王妃様候補だからね、こんな人の多い日に迂闊に街なんかに出てこれないんだよ」
「次期王妃? 伯爵家の方がですか?」
「そうさ、あの方は王都でも大人気でね、だから国も放っておけなかったって訳さ。まぁ、あの王子様にくれてやるのは勿体ないが、皆んなリーゼ様が王妃になってくれればこの国も変わるんじゃないかって期待してるんだ」
「へぇ、僕も一度会ってみたいな」
国民が期待する次期王妃か、これは是非とも顔を合わせておくべきだね。
「お兄さんもやっぱり男の子だね、そんなにリーゼ様に会ってみたいのかい?」
「そういう訳ではないのですが少し興味がありまして。そのリーゼ様と言う方はどのような人物なんですか? 会えないとは思いますが、もしもの時に何か特徴があれば教えて頂きたいのですが」
「特徴って言えば、姉妹揃ってこの国では珍しい青みがかった白銀の髪色をなさっているからね、そうそうこの……」
「おはようリーゼ、昨日は良く眠れたかしら?」
「おはようございますお姉様、すみません寝坊してしまって」
昨日お屋敷に帰り着いた頃にはすっかり日が変わってしまっており、思っていた以上にダンスの疲れと精神的な疲れが溜まっていたようで、ティナが用意してくれてた湯浴みをしたら、そのままぐっすり眠りに落ちてしまった。
お陰で昨日の疲れはすっかりと回復してる。
「お母様がリーゼは疲れているだろうからって、ティナ達に起こさないよう伝えていたのよ」
「そうだったんですね、私ってお母様達に心配を掛けっぱなしですね」
起きた時にティナから聞いていたが、昨日の事は色々と心配を掛けてしまったようだ。
「お父様達はもうお城へ向かわれたのですか?」
「えぇ、ちょうど今頃お城に着かれた頃じゃないかしら?」
調理長がわざわざ私の為に用意してくれた軽食と、ティナが入れてくれた紅茶をサロンで飲みながら、お姉様が私の話相手になってくれる。
お父様とお母様、それにレオンお義兄様は、お城で開催されるパーティーに参加するためにすでに出かけられた後のようだ。
今日お城で行われる予定は、午前中に国へ貢献した人達を表彰する勲章授与式があり、午後から貴族や表彰された人達が参加するガーデンパーティーが開催される。毎年隣国から祝辞を伝えに王族の方が来られると聞いているが、別に昨日の夜会のように参加は強制されていないので、私とお姉様はお断りする事にした。
「それじゃ今日一日する事が無くなっちゃいましたね」
お仕事を手伝ってもらっているパタンナーさんの二人には、昨日と今日の二日間はお休みしてもらっているので、この間作業的な仕事は進める事は出来ない。別に新しいデザインを考えるのもいいけど、ティナからここ最近働き過ぎらだからと言われ、この二日間は仕事をする事を強制的に止められている。相変わらず心配性なんだから。
「ねぇ、リーゼさえよければ久々に街へと出かけない?」
「街にですか? それは私も行きたいですが護衛はどうするのです?」
「それは大丈夫でしょ? リーゼはもうウィリアム様の婚約者ではないのだから、お屋敷にいる警備兵だけで十分じゃないかしら」
そう言えばそうか、以前はウィリアム様の婚約者だからって事で、何処に行くにもお城に報告し、わざわざ騎士の方々が護衛の為に付いて来られていたけど、今となってはそれ程私の価値は高くないので、お城に報告する必要もないだろう。
「そうですね、それじゃ出掛ける準備をしてきますので少しお待ち頂けますか? ティナ、悪いけど街に行く為に着替えをしたいの、手伝ってもらえる?」
今着ているのは服は余り華美では無いとは言え、流石に街中では目立ってしまうだろう。出来るだけ目立たず地味な服に着替えた方が、ゆっくりとお祭りを楽しめるというもんだ。
そうそう髪色が目立たないように帽子も用意しなくちゃね。
ざわざわざ
「お姉様、今日はありがとうございます。私を心配して街へと連れ出して下さったのですよね」
伯爵家の馬車で市民街の近くまで送ってもらい、そこから徒歩で大通りへと向かう。
お姉様が誕生祭の日に私を街へと連れ出すのは、昨日の出来事が関わっているのではないかと思っている。これがブラン領なら話は変わるが、そうでなければこんな人が溢れている日に、わざわざ街へと誘うことはまず無いのではないか。
「少しは気分転換になるのではと思ってね、大通りならそれほど危険な目に会う事もないでしょうし、護衛の人たちもリーゼの事を守りやすいんじゃないかしら」
基本的に王都では常に警邏兵が見て回っているので、他の領地と比べると比較的に安全だとは言えるが、少し街外れ行くと急に犯罪率は上がると言う特徴がある為、私達貴族の者は中心街しか出歩いたことがない。
「それにしても王都は人の数が多いですね、賑やかさではブランも負けてはいませんが、これ程の人数は流石にいないと思いますよ」
色んな商店を見て回りながら、人々の楽しそうな雰囲気が私達にも伝わって来る。普段は静かな街も今日ばかりは楽しそうな話し声があちらこちらから聞こえて来る。
幸い用意したツバの広いキャペリンと、肩から掛けた薄手のストールのおかげで、今のところ私達の目立つ髪色は隠せているが、何時までも誤魔化し続けるのは難しいかもしれない。
本当はこんな事はしたくないんだけど、今日ばかりは私達だって事がバレると街が大混乱になりかねないし、ゆっくり街を見て回る事も出来ない。
「リーゼ、あそこにアクセサリーを売っている露店があるわよ。少し見て行きましょう」
「はい、お姉様」
お姉様が近くにあったアクセサリーを売る露店へと向かわれる。お店に顔を出すと私達だってバレる確率が上がるのだけど、何も買わずにただ見て回るだけっていうのも何だかつまらない。
まぁ、お姉様も楽しそうだから別にいいわよね、バレたらバレたでその時考えればいいか。昔はよく街に出かけて色んな人と話をして回ってたのだし、何とかなるわよね。
目的の露店に着くと、一組の先客がお店の女性と話されているようだった。
先客は男性と女性のカップル……じゃないね、お顔がよく似ているから多分お祭りを観光しにきた兄妹なんだろう、話の腰を折るのは悪いので、隣から商品を見せてもらう事にする。
「……特徴って言えば、姉妹揃ってこの国では珍しい青みがかった白銀の髪色をなさっているからね、そうそうこのお嬢さん達のような……って……えぇ!! リーゼ様!?」
「はい?」
突然名前を呼ばれたものだからついつい反射的に返事をしてしまったが、やっぱり帽子とストールだけでは隠しきれ無かったようだ。
「そ、それにオリヴィエ様まで!?」
お店の方の声で一瞬周りがザワつき始めるが、お姉様が口に人差し指を当てて内緒にしてと合図を送られると、状況を理解してもらえたのか慌てて誤魔化すように対応してくださる。
「ごめんなさい、今日はお祭りだから余り目立つと皆さんにご迷惑をお掛けしてしまうので」
「い、いえ、こちらこそ申し訳ございません。まさかお噂をしていた時に目の前におられたものですから……」
小声で突然現れた事を謝罪をすると、アクセサリーを売っている女性も同じように小声で返してくださる。
「噂?」
「すみません、僕がお店の方にリーゼ様の事を聞いていたのです」
「あなたが?」
男性が申し訳なさそうにこちらに顔を向けられるので、私も同じように顔を男性に向ける。
「「 !!! 」」
この時の衝撃を何と表現していいのか、この時の私には伝える言葉が見つから無かった。全身何かが駆け巡ったかと思うとお互い相手の瞳から目が離せず、恥ずかしいとか照れるとかそんな感情をすっかり忘れてしまう、ただ純粋にこのまま二人だけの時間が止まればいいのにと、心のどこかで願っていた。
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