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騒乱
第31話 希望を照らすローズマリー
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「少しは落ち着きましたか? アデリナ様」
「えぇ、ありがとうリーゼ。さっきは取り乱してしまってごめんなさい」
アデリナ様から届いた一枚の手紙、そこには簡略された状況とただ一言『助けて』とだけ書かれてあった。
いくら公爵家に生まれ教育されてきたとはいえ、いきなり父親が謀反を企んだと騒ぎ立てられ、僅かな使用人と共に取る物もとらずに命からがら逃げ出してきたのだ。
その上ここ数日の逃亡生活に加え、必死に母親と弟を守りながら今まで気丈に振舞っていたのだ、私がアデリナ様の元へとたどり着いた時には涙を見せながら、すがるように抱きついてこられた。
「ここならブラン家の関係者しか近付きませんし、今は人手不足と言う事もあって、私かハンスが命じない限りは誰も立ち入る事はございません。ただ、十分なおもてなしまでは出来ませんのであらかじめご容赦下さいませ」
ここはブラン領から少し東南に行ったところにある、丘陵地に建てられた小さな別荘。近くには割と賑わった港町があり、窓の外には広大な海が見渡せる。
本来ならブラン領の本邸にて迎え入れたいところではあるが、何処に間者の目があるかもわからないし、人の出入りがある本邸では何かと見つかるリスクがあるため、普段はあまり使わず人目が付きにくいこの別荘までご案内した。
「十分よ、本来ならこんなお願いを頼める状況ではないんですもの」
「そのような事はおっしゃらないでください。必要な物があればすぐに用意をさせますので」
アデリナ様も少しは落ち着いたとはいえ、自分たちの置かれた状況が何一つとして変わっていない事を理解されているのだ。国に見つかれば捕縛投獄され最悪死刑、良くて孤島に島流しといったところではないだろうか。
「リーゼさん、娘に言われるがまま付いて来てしまったけれど、あなたの立場を考えると私はこのまま国に差し出してもらっても構わないわ。だけど娘と息子だけは見逃してあげて」
話しかけてこられたのはアデリナ様のお母さんであるウィスタリア公爵夫人、今は湯浴みをして別荘に常備していた衣類を着て頂いているが、先ほどお会いした時には髪は乱れ、ボロボロの服に身を包んでおられた。
本当ならこの場にアデリナ様の弟君も同席されるべきなのかもしれないが、生憎ここまで逃げて来られる間に体調を崩されて、現在別の部屋で休んでもらっている。
「まって下さいお母様、それだったら私が代わりに。リーゼの立場を考えずに助けを求めたのは私です。」
「ウィスタリア夫人、それにアデリナ様も。私とブラン家を見縊らないでください。差し伸べられた救いの手を取っておいて、我が身可愛さに親友とその家族を売るような事などいたしません」
「……ごめんなさい、そんなつもりで言ったのではないのよ」
「分かっております、私とブラン家の事を思って言ってくださったのだと」
「ありがとうリーゼ、私の事を親友だと言ってくれて」
よほどこの数日の逃亡生活で苦労されて来られたのだろう。お二人からは公爵家の威厳など感じられず、お互いを庇い会うただの仲の良い家族にしか見られない。
これは私の想像なのだが、公爵家は多くの貴族に顔が利く一方、本当の意味で親しく付き合っている家などほとんどいないのではないだろうか。立場上どこか一定の家と懇意になりすぎると贔屓されているのではと誤解されてしまうし、爵位が近い侯爵家は現在公爵の地を狙っている関係で助けを求める事が来ない。その上同じ立場であるグリューン家も同じ状況にたたされているので、助けを求められる相手がいなかったのだろう。
アデリナ様の話では脱出の際に使用した馬車は途中で囮に使われたそうだから、寝るところも雨露をしのげる場所もなく、何とか使用人達が集めてきた食べ物を口にしながらブラン領まで歩いて逃げて来られたのだ。
普通のご令嬢なら、あっさり諦めて今ごろ投獄されてしまっているだろう。
「それでお尋ねしたいのですが、グリューン家の皆様はどうなさったのでございますか?」
お二人が一息つかれたところを見計らい、私は気になっていた言葉を口にする。今の所ウィスタリア家同様にグリューン家の方が捕らえられたという話はまだ聞いていないし、アデリナ様達と一緒に逃げてこられた様子も見当たらない。
恐らく捕まった時の事を考えて、一緒に逃げるのは得策じゃないとでも考えられたのではないだろうか。
「グリューン家の方はわからないわ。ただ、お父様にお世話になったと言う騎士が知らせに来てくれて、その方がグリューン家の方にも知らせに行くとおっしゃっていたから、無事に王都からは脱出されたのだとは思うけれど……」
「多分、西の小国家群へ向かわれたのじゃないかしら? 以前グリューン家と懇意にしている国が幾つかあると聞いた事があるから」
「そうですか、あちらに逃げられたのであれば安心ですね」
メルヴェール王国の西には小国が多数存在しており、それぞれ国家として成立しているため迂闊にこちらからは手が出させない。更にどの国に逃げ込んだのかが分からないとなれば、探し出す事は容易ではないだろう。
「私達もいつまでもリーゼさんに甘えている訳にはいかなわ、ブラン伯爵もまだこの件をご存知ないのでしょう? 迷惑がかかってしまう前に行き先を決めて立ち去りますから」
「そうですね、流石に父には連絡を入れておかなければなりませんが、決して国へ情報が漏れないようには致しますので、その点はご安心ください。ただ、このブランもいつまでも安全と言う訳にはいきませんから、早急に行き先を決められた方がいいと思います」
お父様もベルニア王妃とフェルナンド家の動向を警戒しているから、国に情報を売るような行動は起こさないだろう。それに既に私がアデリナ様達を受け入れてしまっているので、わざわざブラン領に査察が入るような案件を報告するとも思えない。
後はこのブラン領の地が安全ならば出来る範囲で匿う事が出来るのだが、お父様がいつ独立を宣言するかわからない状況では、いつまでのこの地に留まる事は得策とはいえない。
「ですがお母様、私達が他に頼れるところなど……」
「アデリナ様、ウィスタリア夫人、レガリア王国に亡命するつもりはございませんか?」
「「亡命!?」」
「はい、私ならレガリアに話を通す事ができます。この国にいてもいずれ捕まるのを待っているだけならば、いっその事他国へ亡命されては如何でしょうか?」
亡命とは言わば生まれた国を捨てる事、それも国の中核を担う公爵家が意味する亡命は私達のそれとは重みが違う。
「だけどレガリアが私達を受け入れてくれるかしら? 表面上はメルヴェール王国とも付き合いのある国よ、そんなところに公爵家である私達が逃げ込めば返って迷惑をかけてしまうんじゃ」
「アデリナ様はローズマリー商会と言う名をご存知でしょうか? メルヴェール王国にも幾つか店舗を構えているのですが」
「えぇ、ケーキやチョコレートなんて言う名のお菓子を売っているお店よね? 王都でも有名だわ。それが亡命するのとどう関係があるのかしら?」
「ブラン家はこのローズマリー商会と取引があり、メルヴェール王国に出店される際にも協力させていただいたのです。その関係で私はローズマリーの会長さんとも懇意にしておりまして、その方に頼めば必ず力を貸してくださるはずです」
「まって、その方は一商会の会長さんなのよね? そんな方が国を説得できるのかしら? 逆に無理を言ってリーゼの立場を悪くさせるのではなくて?」
アデリナ様が心配されるのも無理はない、いくら商会の会長といえど一国を動かせるのかと言われればまず不可能だろう。だけど
「大丈夫です。その会長と言うのはレガリア王国の二大公爵家の一つ、ハルジオン公爵家の公爵夫人なんです」
「公爵家の夫人が商会の会長を? 信じられないわ」
ウィスタリア夫人からすれば寝耳に水といったところではないだろうか。同じ公爵夫人という立場で自分はただ家を守り、一方は現役で商会を運営されておれるのだ、普通のご婦人ならまず間違いなくウィスタリア夫人と同じ反応をされる事だろう。
これは別に仕事をしていない事を非難しているのではなく、本来貴族の夫人は家を守りお茶会で他家の情報を仕入れるのが役目とされているので、寧ろ仕事をしている私やハルジオン公爵夫人の方が異例の存在と言っても良い。
「それじゃその方にリーゼがお願いすれば、私達を受け入れてくれる可能性があると言うの?」
「はい、その方は商会を運営される一方国王陛下にも顔が利きますし、若くしてご両親を亡くされた関係で人の痛みを誰よりも理解されておりますので、必ずお力をお貸しいただけるはずです」
アデリナ様とウィスタリア夫人がお互い顔を見つめ合い
「……分かりました、この件はリーゼさんにお願いするわ。どうか宜しくお願いします」
そう言いながらお二人が私に対して頭を下げて来られる。
非公式の場とはいえ、公爵家の人間が伯爵家の人間に頭をさげるなどあってはならない事だが、これはお二人の心が綺麗な証拠だとして有難く頂くことにしよう。
「必ず皆様をレガリアの地にお届けさせていただきます。それまでもうしばらくこちらでお寛ぎください」
「ありがとうリーゼ、あなたを頼って本当に良かったわ」
「そのお言葉はレガリアに亡命される際にもう一度お聞かせください。それまでは私が責任を持って皆様をお守りいたします」
その後ブラン領本邸に戻った私は亡命の旨を記した手紙を早馬で飛ばした。
ここからレガリアの王都まで一昼夜を通し馬で走れば丸一日、あの方が陛下に話を通して下さり国の判断が下されるまで約一日、更に迎えの馬車を用意して下さるとなれば到着まで二日はかかるのではないだろうか。つまりどれだけ早く対応してもらえても最低四日は必要となる。
先ほどはアデリナ様達を安心させる為に大丈夫だと大見栄を切ってしまったが、正直受け入れてもらうにはあの方の技量に頼ってしまうところが大きい。必ず力にはなってくれるとは思ってはいるが、如何にあの方と言えども他国の公爵家の人間を受け入れるとなると一筋縄ではいかないだろう。
私は祈るような気持ちで青空を見上げこう口にした。
「どうか宜しくお願いします、アリス様」
「えぇ、ありがとうリーゼ。さっきは取り乱してしまってごめんなさい」
アデリナ様から届いた一枚の手紙、そこには簡略された状況とただ一言『助けて』とだけ書かれてあった。
いくら公爵家に生まれ教育されてきたとはいえ、いきなり父親が謀反を企んだと騒ぎ立てられ、僅かな使用人と共に取る物もとらずに命からがら逃げ出してきたのだ。
その上ここ数日の逃亡生活に加え、必死に母親と弟を守りながら今まで気丈に振舞っていたのだ、私がアデリナ様の元へとたどり着いた時には涙を見せながら、すがるように抱きついてこられた。
「ここならブラン家の関係者しか近付きませんし、今は人手不足と言う事もあって、私かハンスが命じない限りは誰も立ち入る事はございません。ただ、十分なおもてなしまでは出来ませんのであらかじめご容赦下さいませ」
ここはブラン領から少し東南に行ったところにある、丘陵地に建てられた小さな別荘。近くには割と賑わった港町があり、窓の外には広大な海が見渡せる。
本来ならブラン領の本邸にて迎え入れたいところではあるが、何処に間者の目があるかもわからないし、人の出入りがある本邸では何かと見つかるリスクがあるため、普段はあまり使わず人目が付きにくいこの別荘までご案内した。
「十分よ、本来ならこんなお願いを頼める状況ではないんですもの」
「そのような事はおっしゃらないでください。必要な物があればすぐに用意をさせますので」
アデリナ様も少しは落ち着いたとはいえ、自分たちの置かれた状況が何一つとして変わっていない事を理解されているのだ。国に見つかれば捕縛投獄され最悪死刑、良くて孤島に島流しといったところではないだろうか。
「リーゼさん、娘に言われるがまま付いて来てしまったけれど、あなたの立場を考えると私はこのまま国に差し出してもらっても構わないわ。だけど娘と息子だけは見逃してあげて」
話しかけてこられたのはアデリナ様のお母さんであるウィスタリア公爵夫人、今は湯浴みをして別荘に常備していた衣類を着て頂いているが、先ほどお会いした時には髪は乱れ、ボロボロの服に身を包んでおられた。
本当ならこの場にアデリナ様の弟君も同席されるべきなのかもしれないが、生憎ここまで逃げて来られる間に体調を崩されて、現在別の部屋で休んでもらっている。
「まって下さいお母様、それだったら私が代わりに。リーゼの立場を考えずに助けを求めたのは私です。」
「ウィスタリア夫人、それにアデリナ様も。私とブラン家を見縊らないでください。差し伸べられた救いの手を取っておいて、我が身可愛さに親友とその家族を売るような事などいたしません」
「……ごめんなさい、そんなつもりで言ったのではないのよ」
「分かっております、私とブラン家の事を思って言ってくださったのだと」
「ありがとうリーゼ、私の事を親友だと言ってくれて」
よほどこの数日の逃亡生活で苦労されて来られたのだろう。お二人からは公爵家の威厳など感じられず、お互いを庇い会うただの仲の良い家族にしか見られない。
これは私の想像なのだが、公爵家は多くの貴族に顔が利く一方、本当の意味で親しく付き合っている家などほとんどいないのではないだろうか。立場上どこか一定の家と懇意になりすぎると贔屓されているのではと誤解されてしまうし、爵位が近い侯爵家は現在公爵の地を狙っている関係で助けを求める事が来ない。その上同じ立場であるグリューン家も同じ状況にたたされているので、助けを求められる相手がいなかったのだろう。
アデリナ様の話では脱出の際に使用した馬車は途中で囮に使われたそうだから、寝るところも雨露をしのげる場所もなく、何とか使用人達が集めてきた食べ物を口にしながらブラン領まで歩いて逃げて来られたのだ。
普通のご令嬢なら、あっさり諦めて今ごろ投獄されてしまっているだろう。
「それでお尋ねしたいのですが、グリューン家の皆様はどうなさったのでございますか?」
お二人が一息つかれたところを見計らい、私は気になっていた言葉を口にする。今の所ウィスタリア家同様にグリューン家の方が捕らえられたという話はまだ聞いていないし、アデリナ様達と一緒に逃げてこられた様子も見当たらない。
恐らく捕まった時の事を考えて、一緒に逃げるのは得策じゃないとでも考えられたのではないだろうか。
「グリューン家の方はわからないわ。ただ、お父様にお世話になったと言う騎士が知らせに来てくれて、その方がグリューン家の方にも知らせに行くとおっしゃっていたから、無事に王都からは脱出されたのだとは思うけれど……」
「多分、西の小国家群へ向かわれたのじゃないかしら? 以前グリューン家と懇意にしている国が幾つかあると聞いた事があるから」
「そうですか、あちらに逃げられたのであれば安心ですね」
メルヴェール王国の西には小国が多数存在しており、それぞれ国家として成立しているため迂闊にこちらからは手が出させない。更にどの国に逃げ込んだのかが分からないとなれば、探し出す事は容易ではないだろう。
「私達もいつまでもリーゼさんに甘えている訳にはいかなわ、ブラン伯爵もまだこの件をご存知ないのでしょう? 迷惑がかかってしまう前に行き先を決めて立ち去りますから」
「そうですね、流石に父には連絡を入れておかなければなりませんが、決して国へ情報が漏れないようには致しますので、その点はご安心ください。ただ、このブランもいつまでも安全と言う訳にはいきませんから、早急に行き先を決められた方がいいと思います」
お父様もベルニア王妃とフェルナンド家の動向を警戒しているから、国に情報を売るような行動は起こさないだろう。それに既に私がアデリナ様達を受け入れてしまっているので、わざわざブラン領に査察が入るような案件を報告するとも思えない。
後はこのブラン領の地が安全ならば出来る範囲で匿う事が出来るのだが、お父様がいつ独立を宣言するかわからない状況では、いつまでのこの地に留まる事は得策とはいえない。
「ですがお母様、私達が他に頼れるところなど……」
「アデリナ様、ウィスタリア夫人、レガリア王国に亡命するつもりはございませんか?」
「「亡命!?」」
「はい、私ならレガリアに話を通す事ができます。この国にいてもいずれ捕まるのを待っているだけならば、いっその事他国へ亡命されては如何でしょうか?」
亡命とは言わば生まれた国を捨てる事、それも国の中核を担う公爵家が意味する亡命は私達のそれとは重みが違う。
「だけどレガリアが私達を受け入れてくれるかしら? 表面上はメルヴェール王国とも付き合いのある国よ、そんなところに公爵家である私達が逃げ込めば返って迷惑をかけてしまうんじゃ」
「アデリナ様はローズマリー商会と言う名をご存知でしょうか? メルヴェール王国にも幾つか店舗を構えているのですが」
「えぇ、ケーキやチョコレートなんて言う名のお菓子を売っているお店よね? 王都でも有名だわ。それが亡命するのとどう関係があるのかしら?」
「ブラン家はこのローズマリー商会と取引があり、メルヴェール王国に出店される際にも協力させていただいたのです。その関係で私はローズマリーの会長さんとも懇意にしておりまして、その方に頼めば必ず力を貸してくださるはずです」
「まって、その方は一商会の会長さんなのよね? そんな方が国を説得できるのかしら? 逆に無理を言ってリーゼの立場を悪くさせるのではなくて?」
アデリナ様が心配されるのも無理はない、いくら商会の会長といえど一国を動かせるのかと言われればまず不可能だろう。だけど
「大丈夫です。その会長と言うのはレガリア王国の二大公爵家の一つ、ハルジオン公爵家の公爵夫人なんです」
「公爵家の夫人が商会の会長を? 信じられないわ」
ウィスタリア夫人からすれば寝耳に水といったところではないだろうか。同じ公爵夫人という立場で自分はただ家を守り、一方は現役で商会を運営されておれるのだ、普通のご婦人ならまず間違いなくウィスタリア夫人と同じ反応をされる事だろう。
これは別に仕事をしていない事を非難しているのではなく、本来貴族の夫人は家を守りお茶会で他家の情報を仕入れるのが役目とされているので、寧ろ仕事をしている私やハルジオン公爵夫人の方が異例の存在と言っても良い。
「それじゃその方にリーゼがお願いすれば、私達を受け入れてくれる可能性があると言うの?」
「はい、その方は商会を運営される一方国王陛下にも顔が利きますし、若くしてご両親を亡くされた関係で人の痛みを誰よりも理解されておりますので、必ずお力をお貸しいただけるはずです」
アデリナ様とウィスタリア夫人がお互い顔を見つめ合い
「……分かりました、この件はリーゼさんにお願いするわ。どうか宜しくお願いします」
そう言いながらお二人が私に対して頭を下げて来られる。
非公式の場とはいえ、公爵家の人間が伯爵家の人間に頭をさげるなどあってはならない事だが、これはお二人の心が綺麗な証拠だとして有難く頂くことにしよう。
「必ず皆様をレガリアの地にお届けさせていただきます。それまでもうしばらくこちらでお寛ぎください」
「ありがとうリーゼ、あなたを頼って本当に良かったわ」
「そのお言葉はレガリアに亡命される際にもう一度お聞かせください。それまでは私が責任を持って皆様をお守りいたします」
その後ブラン領本邸に戻った私は亡命の旨を記した手紙を早馬で飛ばした。
ここからレガリアの王都まで一昼夜を通し馬で走れば丸一日、あの方が陛下に話を通して下さり国の判断が下されるまで約一日、更に迎えの馬車を用意して下さるとなれば到着まで二日はかかるのではないだろうか。つまりどれだけ早く対応してもらえても最低四日は必要となる。
先ほどはアデリナ様達を安心させる為に大丈夫だと大見栄を切ってしまったが、正直受け入れてもらうにはあの方の技量に頼ってしまうところが大きい。必ず力にはなってくれるとは思ってはいるが、如何にあの方と言えども他国の公爵家の人間を受け入れるとなると一筋縄ではいかないだろう。
私は祈るような気持ちで青空を見上げこう口にした。
「どうか宜しくお願いします、アリス様」
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