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みるくてぃー

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騒乱

第37話 メルヴェール城陥落

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 ラグナス王国からの宣戦布告の日より二日早く、メルヴェール王国軍の侵略で戦いの火蓋が開かれた。だが戦況は当初こそメルヴェール軍が優勢であったが、ラグナス軍の反撃に会い敗退、戦場はメルヴェール王国側へと移った。

 その後メルヴェール軍を指揮していた司令官が我が軍の戦況が不利だとし、アージェンド領の街を盾にして防衛、最後は自ら街に火を放ち炎の海へと化した。
 この事により国民がラグナス側に加担、メルヴェール軍に所属している多くの騎士たちも離れていくこととなる。

 そして戦いから約1ヶ月……


「誰かいないのか! くそっ」
 メルヴェール王国王都、メルヴェール城。今この城は二種類の旗を掲げた騎士達が取り囲んでいる。
 一つはラグナス王国の軍旗、そしてもう一つは……

「何故だ、何故我が国の騎士がこの城を取り囲んでいる!」
「落ち着きなさいウィリアム、貴方がいれば私達は国軍、城を取り囲んでいるのはただの反乱軍よ。この状況を他の貴族たちが見逃すはずはないわ、すぐに兄様達が追い払ってくれるわよ」
「何をのんきな、母上は今の状況を分かっているのですか! 敵がすぐそこまで来ているんですよ」
 玉座の間、と言えば聞こえはいいが一段高い場所に設けられた椅子には座る主はおらず、今この部屋にいるのはたったの二人、この国の王子であるウィリアムとその母ベルニア王妃。そしてそこに二人の男性が部屋へと入ってきた。

「何処へ行っていたダグラス、こんな事になったのは全てお前達のせいだぞ。この状況どう責任を取るつもりだ」
 ウィリアムが部屋へと入ってきたダグラスへと詰め寄る。だが当の本人は澄ました顔でウィリアムを受け流し……

「これは王子、何をそう叫んでおられるのですか? 今すぐ支度をして頂かないと手遅れになってしまいますよ」
「支度だと? 俺たちにこのまま逃げろと言うのか!」
「いいえ、王子にはこの度の責任を取って頂き自害して頂きます。後の事は我らにお任せください」
「なっ」
 驚愕するウィリアム、ベルニア王妃もダグラスのセリフに言葉を失うが、すぐに正気を取り戻し兄であるゾディアック・フェルナンドへと詰め寄る。

「何ですって! 兄様、ダグラスがおかしいわ、ウィリアムに自害しろだなんて」
「ベルニア、何も驚くことはないだろう? この戦争を始めたのはウィリアムだ。そして国民を苦しめたのもウィリアム、そう言う筋書きになっているんだ。お前もこれ以上逆らうならばこの場で死んでもらわなければならない」
 しかしゾディアックもまた澄ました顔で、これが当然だと言う如く残酷な現状を突きつける。
「ほ、本気でおっしゃって仰られているのですか! 私と陛下の子を殺すなんて」

「なるほど、それが貴様らの本心か」
 その時、突如やせ細った二人の男性が彼らの前に立ちふさがった。
「き、貴様ら何故この場にいる! 牢屋番何をしているんだ!!」





 あの日、ゾディアック達に嵌められた私達は、この城の南側に位置する物見の塔の地下に閉じ込められた。
 普段からほとんど使われない物見の塔、その地下ともなるとその存在を知らない者も多いだろう。そこで我らは僅かな食事を与えられながら生き延びた。
 ゾディアックが我らの命を取らなかったのは恐らく本物の血判状を恐れての事、もし我らを先に殺してしまえば、妻たちが血判状を公の場に持ち出すだろう。あれに書かれているのはダグラスと私達二人の名、家族たちの名前までは書かれていないのだから。

「お前は騎士団を掌握したと思っていたようだが、騎士たちの心までは操れなかった、それが貴様らの敗因だ」
 我ら二人はある男性の計らいにより救い出された。もっとも彼らと接触出来たのはつい先日の出来事で、先ほどまでその部屋に留まりこの機会を待ち続けていたのではあるが。

「何を馬鹿な、誰か! 反逆者が逃げ出したぞ! 誰かいないのか!」
 ゾディアックが扉に向かって声を張り上げる。すると声を聴いた10名近い騎士たちが部屋へと雪崩れ込んできた。

「お前たちこの者達を捕らえよ…………おい、何をしている早く捕らえよと言っているだろう」
「無駄だ、先ほど言ったであろう、騎士たちの心までは操れないと」
「もはやお前たちに逃れる術は残されていない、我らと共に裁きを受けよ」
 既に騎士団全員がこの国から心が離れている。
 ゾディアックが連れ込んだ騎士達は既に拘束され、地位と名誉に目が眩んだ貴族の子弟は逃げ出した。
 今この場に残っているのはこの国の未来を憂いて自らの意思で立つ真の騎士達。彼らには自らの目で見て判断するよう伝えてある。もし我ら二人がこの国の為にならないと判断したのなら、容赦なく捕らえよとも。

「くっ、だが我らが捕まったとしてもお前たちの罪は消えない、血判状がこちらにある限り二度と元の地位には戻れないんだぞ!」
「血判状というのはこれの事か?」
 ゾディアック達の前に一枚の紙を見せつける。これはある女性から父親を通して託された、この国の未来を切り開く為の最後の切り札。我ら三人の名前と血判が押された本物の血判状。

「な、何故貴様がそれを持っている!」
「この国の未来を担った若者から我らに託されたものだ。もはや言い訳は逃れられないと思え」
「だ、だが、それを明るみにすれば貴様たちだって……」
「覚悟など当の昔に出来ておるわ、我ら公爵を舐めるな!」
「メルヴェール王国の最後の騎士達、ゾディアック・フェルナンドとダグラス・フェルナンドを捕らえよ」
「はっ!」
 彼らに我らの命令を聞く理由は存在しない。だが、誰一人として逆らうことなくゾディアックとダグラスを拘束し、部屋から連れ出していく。

「ベルニア・フェルナンド」
「な、何よ、私は王妃よ、さっさと私を助けなさい」
「この国はもう滅んだのです、よって貴方は既に王妃ではない」
「お前には陛下暗殺の容疑が掛けられている。陛下に弱い毒を盛り、徐々に衰弱するように見せかけて殺害した容疑がな!」
「な、何を馬鹿な、そんな事私は知らないわ」
 我らを救い出した男性が教えてくれた、何でも我らの居場所を調べる過程で逃げ出そうとしていた王宮医師を捕らえ、問い詰めたそうだ。

 その話によると医師はベルニアに頼まれ、陛下の飲む薬に毒を混ぜつつけた。ある時はすり潰した薬草と混ぜ、ある時は飲み薬に混ぜて毒を与え続けた、陛下が徐々に弱っていくように見せかけながら。
 一時レガリアから取り寄せた薬が副作用があると言って処方を遠ざけたのは、薬に解毒作用が混ざっていたから。
 やがて陛下の毒は全身に回り、年が開けるのを待たず息を引き取られた。ダグラスが言っていたウィリアム王子の話は全てでっち上げ、初めから我ら二人を罠に嵌める為の策だったのだ。

 そして医師はこうも言っていたという、『本当は私もこんな事はしたくなかったんだ、だが王妃様に脅されて仕方なく……』この医師は20年前の前陛下の殺害にも関与しており、その事を理由にベルニアに脅されていたという。
 他人が聞けば自業自得としか言いようがないなが、医師は生まれてくる子供の為にどうしても金が必要で、協力すれば王宮医師に取り立ててやると言うゾディアックの甘い言葉に乗ってしまったらしい。


「調べは全てついてある。申し開きがあるのなら陛下の墓前で聞かせてもらう、連れていけ」
「はっ!」
 残っていた騎士たちがベルニアを連れて部屋から出ていく。

「最後にウィリアム王子」
「ま、まってくれ、俺は何も知らなかったんだ。頼む命だけは助けてくれ」
「……」

「貴方は今までご自分がなさって来た事に誇りが持てますか? 王子という立場でどう国民と向き合って来られましたか?」
「そ、そんな事俺が知るわけないだろう。俺はただ母上に言われるまでに従って来ただけだ、攻めるなら母上やダグラスの方だろう。俺は悪くない、た、頼む……助けてくれ」
 見苦しい、これがこの国を背負う者の姿か……これならば彼女の方が余程この国の王に相応しい。だがこうなるまで放っておいた我らにも責任はある。

「一度だけです、今すぐこの城を出て何処へなりと行ってください。ですが、次に我らの前に姿を見せた時は容赦は出来ません」
「わ、分かった、誓う、誓うよ。うっ、うわーーーっ」
 王子が最後に見せる後ろ姿には威厳も誇りもなく、ただ幼い子供のように我武者羅に走って行くだけであった。
 恐らく王族と公爵家のみに知らされている脱出ルートで、王都郊外までは安全に抜け出せるであろう。

「私は甘いと思うか?」
 私はこの場にいるグリューンでも残った騎士とも違う第三の人間に話しかける。
「いいえ、私も子を持つ親、若者が死ぬところ等見たくもありません」
 そう言いながら一人の男性がこの部屋へと足を踏み入れる。

「そうだな、だが一度だけだ。この次我らの前に姿を現すようなら容赦は出来ん」
「……それで、これからお二人はどうなされるので?」
「責任を取るさ、我らには想いを託せる息子たちがいる。後は彼らに任せて引退させてもらうつもりだ。貴殿もそうであろう? ブラン伯爵」
「そうですね、これからこの国は変わっていかなければならない。彼らならこの想いを託せる、私達はただ道を切り開くだけでいいのです」
「そうだな、彼らなら我らの様に道は踏み外さないだろう」

 この日、メルヴェール城は陥落した。
 主犯とされるフェルナンド家は一族全員が投獄、王妃ベルニアも陛下殺害の容疑で拘束された。だが、そこには王子ウィリアムの姿はどこにも無かったという。
 そして……
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