10 / 105
前章 悪役令状の妹
第10話 ペンダントに込められた想い
しおりを挟む
———— 10年前 ————
あの日、私は大好きな両親が初めて出会ったという小高い草原に、お気に入りのリボンで髪結んでもらい、家族四人でピクニックへと出かけた。
普段から何かと忙しい父、花のように周りの人達まで明るくする母、私の後ろを懸命に追いかけてくる可愛い妹。
忙しい仕事の合間に作ってくれた家族だけの安らぎのひと時と、久々の家族水入らずと言う事で、当時の私は随分はしゃいでいたんだと思う。何処までも続く草原と、たくさんの草花に囲まれて私はリリアを連れて彼方此方と走り回った。
今思えば当時の私は結構ヤンチャな分類に入っていたんだろう。珍しいもの、目に入るもの全てが遊び道具であり、野ウサギを見つけてはリリアと一緒に追いかけたものだ。
当時暮らしていた街はあいにく観光名所ともいえる場所はなかったけれど、鉱山から採れる宝石や鉱石の加工が盛んで、大変賑わっていたんだと思う。
街には入れ替わり立ち替わり、多くの商人達がやってきては商品を売って、その資金で仕入れて帰る。そういった光景が街の彼方此方で見られた。
そんな商人達が一時の休憩場所としていたのがこの草原で、そこで出会った彼、アレクと名乗る少年もそんな旅商人一行の一人だった。
「へぇ、素敵な名前だねリネアって。僕はアレクって言うんだよ」
私より一つ年上であったにもかかわらず、彼は私と妹と一緒に遊んでくれた。
彼にしてみれば私は妹のような存在だったのかもしれない。現に4つ年下の妹がいると言っていたのだから、まさしく私も妹のようなものだったのだろう。
おままごとに泥遊び、ぬいぐるみを使った遊びまで付き合ってくれたのだから、今の私からすれば感謝の言葉を贈りたいぐらいだ。
「ねぇ、リネアは将来何になりたいの?」
「ん~、お嫁さん!」
「そっか、お嫁さんか。リネアならきっと可愛いお嫁さんになれるね」
「アレクは、アレクは将来何になりたいの?」
「僕? そうだなぁ……」
時折見せる大人びた姿。たった一つしか年が離れていないにもかかわらず、アレクは私なんかよりよほど大きく見えた事をよく覚えている。
「僕はね、いずれ多くの人たちを導かなければいけないんだ。だけど僕の決断で大勢の人たちを不幸にも幸せにもできてしまう、その現実が怖くてね」
当時の私は彼が言っている意味が半分も理解出来なかったが、恐らく商隊を率いているのだからアレクの判断で街の人たちや、商隊で働く人たちが豊かな暮らしが出来るかどうかを言いたかったのだろう。
「リネアはいいね、優しいお父さんとお母さんがいて」
「ん? アレクにはお父さんもお母さんもいないの?」
「ん~、いるにはいるんだけれどあまり会えなくてね。父は忙しい方だし、母は遠くの空の上に行っちゃったから」
「寂しくないの?」
「そうだね、寂しくないといえば嘘になるけど、僕は父を尊敬しているし、母は今もここにいるんだ」
そう言って、彼は胸元に隠していた一つのペンダントを私に見せてくれる。
それは少し古めかしいデザインだったが、澄み切った青い石が嵌められた女性用の可愛らしいペンダント。その時はどうして彼がこんなペンダントを持っていたかは知らなかったのだが、私はどんな宝石よりも素敵に見えた事を、今でも良く覚えている。
「これはね、亡くなった母の形見のペンダントなんだ」
「お母さんの?」
「そうだよ、母は遠くの星空の元へと行っちゃったけれど、このペンダントがあると近くにいてくれるんじゃないかと思えてね。本当はそんな甘えなんて捨てなければならないんだけれど、僕にはどうしても手放せなくてね」
アレクの話ではそのペンダントはご両親が愛を誓い合った際に、父親からお母さんに送られた思い出の品なのだという。
私は彼の話を聞き、彼のために泣いた。
甘えてもいいじゃない、手放さなくてもいいじゃない。人は支えがないと生きていけないんだから、アレクが泣いている時には私が駆けつけるよと。
そんな私の応えをアレクは笑いながら優しく微笑んでくれる。ありがとう、少し気持ちが楽になったよって。
「母は父からの贈り物をことごとく断っていたらしんだけれど、たった一つだけ父が不器用ながらにも作ったこのペンダンを気に入ったらしくてね、嬉しそうによく見せてくれていたんだ」
そんな大切なペンダントを彼は私に預けてくれた。私のおかげで決心がついたと言って。
一体彼が何を抱えていたのかは知らないが、今となっては彼なりに亡くなった母への思いを断ち切るための決意だったのだろう。
そんなアレクとの楽しい時間もあっという間に過ぎてしまい、彼がいる商人達の出発の時がやってきた。
「ごめんね、そろそろ次の街へと向かうみたいなんだ」
その言葉を聞いた時、私は壮大に泣き喚いた事を良く覚えている。
彼にしてみれば一時の休憩の合間だけ、たまたま近くで遊んでいた私に付き合ってくれただけだけに過ぎず、まさかここで駄々を捏ねられるとは思ってもみなかったのだろう。だけどそんな理屈など当時の私に理解できるわけもなく、両親や彼の商人仲間達を相当困らせてしまったのだと、後から聞かされて赤面したものだ。
結局泣き止まない私に両親はお手あげ、商人の人達も私の機嫌をとろうとお菓子やおもちゃなどをチラつかせてみたものの効果はでず、ほとほと困り果ててしまった末、彼は私の前に来てこう言ったのだ。
「大丈夫だよリネア、僕とは離れ離れになっちゃうけど君にはこんなに優しい両親がいるじゃない」
「でも、でもでもでも」
「それじゃ約束しよう、僕が泣いている時にリネアが駆けつけてくれるなら、僕はリネアが困った時には必ず駆けつける。どこに居ようが、どんなに姿が変わっていようが必ずだ」
「ぐすん、今じゃだめなの?」
「今の僕じゃリネアを守ってあげる力は持っていないからね。だからこれから僕はリネアを守れる為にいっぱいいっぱい努力するよ、勉強も武術も信頼も。全部全部リネアと再会する為に」
そう言って彼は泣きじゃくる私に自分が持っていたペンダントを首にかけてくれる。
「これは?」
「約束の証だよ、このペンダントは言わば僕の分身。また会える時までこれを預かっていてくれないか?」
「でも、これ……アレクにとって大切なものなんじゃ……」
「いいんだよ。僕がリネアに持っていて欲しいと思っているから預けるんだ。他の誰でもないリネアにね」
当時の私には彼の言葉が心に響いた。もしこれが『プレゼントするよ』だったらここまで深くは感じなかっただろう、大切なペンダントだと言っていたので突き返していたかもしれない。だけど『預ける』という言葉は、いつか必ず再会を果たそうと言っている。その言葉が私の心を照らし、10年も経った今でも私の心の中に生き続けている。
そんな彼に私はお気に入りだったらリボンを解き、ペンダントと交換する形で彼に預けた。私の大切なリボンだと言って。
今から考えれば再会なんて奇跡でも起こらなければ果たせない約束であろう。私は生まれた街を後にしているのだし、アージェントの名前を伝えた記憶もない。
恐らく彼も同じような思いではないだろうか、幼い頃の約束を、今を生きるための希望に変えて、お互いが尊敬できるような大人になって再会を果たす。
たぶん始めから再会できるとは思ってもいないのだろうが、恥ずかしくない大人になるための一種の誓いではないかと、私はそう思っている。
「ぐすん、リネアちゃんは今もアレクの事を想っているんだね。だから無理やり決められた結婚から逃げるためにお屋敷から逃げ出そうとぐすん、。リネアちゃんならアレクと再会できるって私は信じるよ。ぐすん」
私の話を聞き終えたヴィスタはなぜか薄っすら涙を浮かべ、私をいい子いい子と宥めてくる。
って、今の話のどこに感動する内容が含まれていた!?
「だから私とアレクはそんな関係じゃないんだってば。それに逃げ出すと言っても単に自分のためだけであって、別にアレクを探しに行こうなんて思ってもいないから」
感動のところ申し訳ないが、単に理不尽な結婚と、残していくリリアの事が心配なだけであって、アレクを探しに行こうなどとは考えたこともなかった。
そりゃ私も一応女の子なので、流れ着いた先で偶然再会、なんて夢のような未来を想像したこともあったが、通信手段もなければ馬車以外の交通手段もない世界では、再会する可能性はほぼゼロに近いだろう。
それは恐らくアレクとて同じ考えのはずだ。
「それじゃリネアちゃんはアレクに会いたくないの?」
「うぐっ」
流石はヴィスタ、私の痛いところを的確に突いてくる。
会いたい、会いたくないと聞かれれば迷うことなく会いたいと答える。だけどそれは恋愛感情とかではなく、ただ単にお礼と預かっているペンダントを返したいだけであって、お互い立派な大人になったんだね。で終わるんだ。とは思っている。
「リネアちゃんは考えたことはなかった? 実は心の奥底でお互い思い続けていて、再会をきっかけに恋に火が付く未来とか。物語のように熱い恋が始まるとか、一度ぐらいは想像したんじゃないの? ねぇ、どうなの!」
「うっ……」
ヴィスタがこんなにも恋バナに熱い子だとは思ってもいなかった。
目をキラキラさせたかと思うと、今度は私の心にぐいぐいと潜り込んで、すっかりヴィスタのペースに飲み込まれてしまっている。
これが他の誰かなら私もヴィスタに加勢していたかもしれないが、当事者となってしまえば只々迫力に負けて、この場から逃げ出したいと思うのは仕方がないことだろう。
「そ、それはその、多少は……私も女の子なんだから考えなかったわけじゃないけど……」
ついついヴィスタの迫力に負け、出来るだけ言葉を濁しながら答えたが、これじゃ彼女の攻撃は止まらないだろう、と思いきや。
「そっかぁ、じゃヴィルの勝ち目は薄いのかなぁ」
思わぬ答えに今度は私の方が尋ねてしまう。
「へ? なんでここでヴィルがでてくるのよ?」
今の流れではどう考えてもヴィルが出てくる要素はなかったはずだけど?
「うん、いいのいいの。リネアちゃんは分からなくて」
「ん?」
結局そのあと午後の予鈴が鳴ったので、お互いへの追及はここで終了。
当分の間は教室では別々に授業を受け、お昼休みはこの秘密の場所で一緒に過ごそうということでまとまった。
それにしても何でヴィルの名前が出てきたのかしら?
あの日、私は大好きな両親が初めて出会ったという小高い草原に、お気に入りのリボンで髪結んでもらい、家族四人でピクニックへと出かけた。
普段から何かと忙しい父、花のように周りの人達まで明るくする母、私の後ろを懸命に追いかけてくる可愛い妹。
忙しい仕事の合間に作ってくれた家族だけの安らぎのひと時と、久々の家族水入らずと言う事で、当時の私は随分はしゃいでいたんだと思う。何処までも続く草原と、たくさんの草花に囲まれて私はリリアを連れて彼方此方と走り回った。
今思えば当時の私は結構ヤンチャな分類に入っていたんだろう。珍しいもの、目に入るもの全てが遊び道具であり、野ウサギを見つけてはリリアと一緒に追いかけたものだ。
当時暮らしていた街はあいにく観光名所ともいえる場所はなかったけれど、鉱山から採れる宝石や鉱石の加工が盛んで、大変賑わっていたんだと思う。
街には入れ替わり立ち替わり、多くの商人達がやってきては商品を売って、その資金で仕入れて帰る。そういった光景が街の彼方此方で見られた。
そんな商人達が一時の休憩場所としていたのがこの草原で、そこで出会った彼、アレクと名乗る少年もそんな旅商人一行の一人だった。
「へぇ、素敵な名前だねリネアって。僕はアレクって言うんだよ」
私より一つ年上であったにもかかわらず、彼は私と妹と一緒に遊んでくれた。
彼にしてみれば私は妹のような存在だったのかもしれない。現に4つ年下の妹がいると言っていたのだから、まさしく私も妹のようなものだったのだろう。
おままごとに泥遊び、ぬいぐるみを使った遊びまで付き合ってくれたのだから、今の私からすれば感謝の言葉を贈りたいぐらいだ。
「ねぇ、リネアは将来何になりたいの?」
「ん~、お嫁さん!」
「そっか、お嫁さんか。リネアならきっと可愛いお嫁さんになれるね」
「アレクは、アレクは将来何になりたいの?」
「僕? そうだなぁ……」
時折見せる大人びた姿。たった一つしか年が離れていないにもかかわらず、アレクは私なんかよりよほど大きく見えた事をよく覚えている。
「僕はね、いずれ多くの人たちを導かなければいけないんだ。だけど僕の決断で大勢の人たちを不幸にも幸せにもできてしまう、その現実が怖くてね」
当時の私は彼が言っている意味が半分も理解出来なかったが、恐らく商隊を率いているのだからアレクの判断で街の人たちや、商隊で働く人たちが豊かな暮らしが出来るかどうかを言いたかったのだろう。
「リネアはいいね、優しいお父さんとお母さんがいて」
「ん? アレクにはお父さんもお母さんもいないの?」
「ん~、いるにはいるんだけれどあまり会えなくてね。父は忙しい方だし、母は遠くの空の上に行っちゃったから」
「寂しくないの?」
「そうだね、寂しくないといえば嘘になるけど、僕は父を尊敬しているし、母は今もここにいるんだ」
そう言って、彼は胸元に隠していた一つのペンダントを私に見せてくれる。
それは少し古めかしいデザインだったが、澄み切った青い石が嵌められた女性用の可愛らしいペンダント。その時はどうして彼がこんなペンダントを持っていたかは知らなかったのだが、私はどんな宝石よりも素敵に見えた事を、今でも良く覚えている。
「これはね、亡くなった母の形見のペンダントなんだ」
「お母さんの?」
「そうだよ、母は遠くの星空の元へと行っちゃったけれど、このペンダントがあると近くにいてくれるんじゃないかと思えてね。本当はそんな甘えなんて捨てなければならないんだけれど、僕にはどうしても手放せなくてね」
アレクの話ではそのペンダントはご両親が愛を誓い合った際に、父親からお母さんに送られた思い出の品なのだという。
私は彼の話を聞き、彼のために泣いた。
甘えてもいいじゃない、手放さなくてもいいじゃない。人は支えがないと生きていけないんだから、アレクが泣いている時には私が駆けつけるよと。
そんな私の応えをアレクは笑いながら優しく微笑んでくれる。ありがとう、少し気持ちが楽になったよって。
「母は父からの贈り物をことごとく断っていたらしんだけれど、たった一つだけ父が不器用ながらにも作ったこのペンダンを気に入ったらしくてね、嬉しそうによく見せてくれていたんだ」
そんな大切なペンダントを彼は私に預けてくれた。私のおかげで決心がついたと言って。
一体彼が何を抱えていたのかは知らないが、今となっては彼なりに亡くなった母への思いを断ち切るための決意だったのだろう。
そんなアレクとの楽しい時間もあっという間に過ぎてしまい、彼がいる商人達の出発の時がやってきた。
「ごめんね、そろそろ次の街へと向かうみたいなんだ」
その言葉を聞いた時、私は壮大に泣き喚いた事を良く覚えている。
彼にしてみれば一時の休憩の合間だけ、たまたま近くで遊んでいた私に付き合ってくれただけだけに過ぎず、まさかここで駄々を捏ねられるとは思ってもみなかったのだろう。だけどそんな理屈など当時の私に理解できるわけもなく、両親や彼の商人仲間達を相当困らせてしまったのだと、後から聞かされて赤面したものだ。
結局泣き止まない私に両親はお手あげ、商人の人達も私の機嫌をとろうとお菓子やおもちゃなどをチラつかせてみたものの効果はでず、ほとほと困り果ててしまった末、彼は私の前に来てこう言ったのだ。
「大丈夫だよリネア、僕とは離れ離れになっちゃうけど君にはこんなに優しい両親がいるじゃない」
「でも、でもでもでも」
「それじゃ約束しよう、僕が泣いている時にリネアが駆けつけてくれるなら、僕はリネアが困った時には必ず駆けつける。どこに居ようが、どんなに姿が変わっていようが必ずだ」
「ぐすん、今じゃだめなの?」
「今の僕じゃリネアを守ってあげる力は持っていないからね。だからこれから僕はリネアを守れる為にいっぱいいっぱい努力するよ、勉強も武術も信頼も。全部全部リネアと再会する為に」
そう言って彼は泣きじゃくる私に自分が持っていたペンダントを首にかけてくれる。
「これは?」
「約束の証だよ、このペンダントは言わば僕の分身。また会える時までこれを預かっていてくれないか?」
「でも、これ……アレクにとって大切なものなんじゃ……」
「いいんだよ。僕がリネアに持っていて欲しいと思っているから預けるんだ。他の誰でもないリネアにね」
当時の私には彼の言葉が心に響いた。もしこれが『プレゼントするよ』だったらここまで深くは感じなかっただろう、大切なペンダントだと言っていたので突き返していたかもしれない。だけど『預ける』という言葉は、いつか必ず再会を果たそうと言っている。その言葉が私の心を照らし、10年も経った今でも私の心の中に生き続けている。
そんな彼に私はお気に入りだったらリボンを解き、ペンダントと交換する形で彼に預けた。私の大切なリボンだと言って。
今から考えれば再会なんて奇跡でも起こらなければ果たせない約束であろう。私は生まれた街を後にしているのだし、アージェントの名前を伝えた記憶もない。
恐らく彼も同じような思いではないだろうか、幼い頃の約束を、今を生きるための希望に変えて、お互いが尊敬できるような大人になって再会を果たす。
たぶん始めから再会できるとは思ってもいないのだろうが、恥ずかしくない大人になるための一種の誓いではないかと、私はそう思っている。
「ぐすん、リネアちゃんは今もアレクの事を想っているんだね。だから無理やり決められた結婚から逃げるためにお屋敷から逃げ出そうとぐすん、。リネアちゃんならアレクと再会できるって私は信じるよ。ぐすん」
私の話を聞き終えたヴィスタはなぜか薄っすら涙を浮かべ、私をいい子いい子と宥めてくる。
って、今の話のどこに感動する内容が含まれていた!?
「だから私とアレクはそんな関係じゃないんだってば。それに逃げ出すと言っても単に自分のためだけであって、別にアレクを探しに行こうなんて思ってもいないから」
感動のところ申し訳ないが、単に理不尽な結婚と、残していくリリアの事が心配なだけであって、アレクを探しに行こうなどとは考えたこともなかった。
そりゃ私も一応女の子なので、流れ着いた先で偶然再会、なんて夢のような未来を想像したこともあったが、通信手段もなければ馬車以外の交通手段もない世界では、再会する可能性はほぼゼロに近いだろう。
それは恐らくアレクとて同じ考えのはずだ。
「それじゃリネアちゃんはアレクに会いたくないの?」
「うぐっ」
流石はヴィスタ、私の痛いところを的確に突いてくる。
会いたい、会いたくないと聞かれれば迷うことなく会いたいと答える。だけどそれは恋愛感情とかではなく、ただ単にお礼と預かっているペンダントを返したいだけであって、お互い立派な大人になったんだね。で終わるんだ。とは思っている。
「リネアちゃんは考えたことはなかった? 実は心の奥底でお互い思い続けていて、再会をきっかけに恋に火が付く未来とか。物語のように熱い恋が始まるとか、一度ぐらいは想像したんじゃないの? ねぇ、どうなの!」
「うっ……」
ヴィスタがこんなにも恋バナに熱い子だとは思ってもいなかった。
目をキラキラさせたかと思うと、今度は私の心にぐいぐいと潜り込んで、すっかりヴィスタのペースに飲み込まれてしまっている。
これが他の誰かなら私もヴィスタに加勢していたかもしれないが、当事者となってしまえば只々迫力に負けて、この場から逃げ出したいと思うのは仕方がないことだろう。
「そ、それはその、多少は……私も女の子なんだから考えなかったわけじゃないけど……」
ついついヴィスタの迫力に負け、出来るだけ言葉を濁しながら答えたが、これじゃ彼女の攻撃は止まらないだろう、と思いきや。
「そっかぁ、じゃヴィルの勝ち目は薄いのかなぁ」
思わぬ答えに今度は私の方が尋ねてしまう。
「へ? なんでここでヴィルがでてくるのよ?」
今の流れではどう考えてもヴィルが出てくる要素はなかったはずだけど?
「うん、いいのいいの。リネアちゃんは分からなくて」
「ん?」
結局そのあと午後の予鈴が鳴ったので、お互いへの追及はここで終了。
当分の間は教室では別々に授業を受け、お昼休みはこの秘密の場所で一緒に過ごそうということでまとまった。
それにしても何でヴィルの名前が出てきたのかしら?
25
あなたにおすすめの小説
王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした
由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。
無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。
再び招かれたのは、かつて母を追放した国。
礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。
これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
【完結】前提が間違っています
蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった
【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた
【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた
彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語
※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。
ご注意ください
読んでくださって誠に有難うございます。
モブ令嬢アレハンドリナの謀略
青杜六九
恋愛
転生モブ令嬢アレハンドリナは、王子セレドニオの婚約者ビビアナと、彼女をひそかに思う侯爵令息ルカのじれじれな恋を観察するのが日課だった。いつまで経っても決定打にかける二人に業を煮やし、セレドニオが男色家だと噂を流すべく、幼馴染の美少年イルデフォンソをけしかけたのだが……。
令嬢らしからぬ主人公が、乙女ゲームの傍観者を気取っていたところ、なぜか巻き込まれていくお話です。主人公の独白が主です。「悪役令嬢ビビアナの恋」と同じキャラクターが出てきますが、読んでいなくても全く問題はありません。あらすじはアレですが、BL要素はありません。
アレハンドリナ編のヤンデレの病み具合は弱めです。
イルデフォンソ編は腹黒です。病んでます。
2018.3.26 一旦完結しました。
2019.8.15 その後の話を執筆中ですが、別タイトルとするため、こちらは完結処理しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる