アクアリネアへようこそ

みるくてぃー

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二章 襲いかかる光と闇

第50話 あれから一ヶ月

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「流石は私が見込んだだけの事はある、こうも街道整備が捗るとは思ってもおらなんだよ。ははは」

 アクアが私の元に戻ってきてから約1ヶ月、この1ヶ月で私を取り巻く状況が一気に進展した。
 まずアクアが連れてきてくれた二人の精霊はあっさりと私の契約精霊となり、現在もクルード山脈で街道整備をお手伝い中。
 流石土の精霊と言うべきなのか、邪魔な岩を移動させたり、立ち塞がる岩山にあっさりと穴を開けたりと、まさにご都合展開が繰り広げられているんだとか。
 他にも母国で起こっていた内乱も、どうやらラグナス王国からの介入によって王政が解体されたりだとか、生まれ故郷でもあるアージェント領がバカ王子のせいで焼け野原になっただとか、なんとも穏やかではない内容が流れては来ているものの、現在は新しい王政を据えて正しい道を歩んでいるらしい。

 そしてアクアが戻って来たあの日のこと……。

「やっほー、帰ったわよぉ!!」
 前触れもなくアクアが連れ帰ってきた二人の精霊。

「ワイは土の精霊ノームといいます。なんやワイの力がいるとやらでお手伝いさせていただきまっせ」
「あ、あの……、私は……木の精霊のドリィといいます。その……呼ばれてないのに来てしまてスミマセン!!」
 それぞれノームとドリィと名乗った二人の精霊、その通り名の通りそれぞれ土と木を操れるという事なのだろう。
 ノームの方はおとぎ話に出てきそうな小人風の姿で、ドリィの方はお腹あたりから足にかけて木になっており、お互い何の支えもない状態でふわふわと空中に浮いている。

「えっと……、ノームにドリィ、わざわざ来てもらってありがとう。それでその……、二人とも私のお手伝いをしてもらえるってことでいいのかしら?」
 ノームに関してはアクアから話が通っているだろうし、本人もお手伝いしてくれると言っていることから、こちらの状況がわかった上で来てくれているのだろう。
 いかに土の精霊と名乗っていても、肝心の魔力が弱ければ意味がないわけであり、当然そこには私との精霊契約がセットで付いてくる。
 なのでその辺はアクアに説明しておいてねと念をおしていたので、恐らく精霊契約を前提で来てくれたと思っていても間違いない。だけどドリィに関しては全くの予想外であるため、正直どう取り扱っていいのかわからないのだ。

「あ、はい。その……ご迷惑でなければ私も……その……お手伝いをと……」
 なんだか気の弱い精霊ね。
 喋り方もそうだが、先ほどからどこか怖がっているようにも見えてしまう。

 ボソボソッ
「ちょっとアクア、あの子怯えちゃってるわよ。まさか人間嫌いな子を無理やり連れてきたとかじゃないわよね」
「違うわよ。私もよく知らないんだけれど最近生まれた子らしくて、ノーム以外と話したことがないらしいのよ」
 アクアの話では今までノームが面倒を見てきたらしいのだが、今回私がノームを呼び寄せた所、一緒にくっ付いてきたのだという。
 まぁ、あの性格でさらに生まれて間もない状態というのなら、山の中に一人残していくのは私だって不安になってしまうだろう。
 これが一度契約をすれば、一生別れることができない、とかならばもっと慎重になるのだが、気に入らなければお互いの意思で好きな時に解約できるのため、そう難しく考える必要も特にない。
 仕方ないわね……。

 私は部屋の隅に置かれているチェストの引き出しから、可愛く包装された小さな包みを取り出し、手の平の上に座れるようドリィの前に出し出す。
「そんなに怯えなくていいわよ。ここに居てくれている間は私が責任を持って面倒みてあげるから」
 ちょこんと手の平に乗ったドリィの頭を優しく撫でてあげ、先ほどチェストから取り出した包みの中のクッキーを一枚渡してあげる。

「あ、ありがとう……ごじゃいます。ぱくっ、お、おいしい!」
 精霊は自然に溢れるマナと言われるものがあれば、基本食事なしでも生きていける。だけど決して人間の食べ物が食べられない訳ではなく、普通に蜂蜜は飲むし、果物や果実水だって口にする。その中でも特にお菓子が大好きなのはアクアで立証済みだ。
 ならば餌付けではないが、私の手作りクッキーを食べてくれれば落ち着くんじゃないかとおもったが、クッキーを一口くわえると『ぱぁー』っと明るい笑顔になり、私の手のひらの上で可愛らしくポリポリ頬張ってくれる。

「なんでしょうかコレ、私無性に抱きしめたくなるんですが」
「奇遇ねノヴィア。私もちょうど同じことを思っていたわ」
 例えるなら小リスが必死にどんぐりをかじっている様子といえば、少しはわかってもらえるだろうか。
 お留守番中のタマも十分に可愛らしいのだが、あの子は可愛いだけの中身はかなりのイタズラっ子で、今もよく家の中を引っ掻き回されている。
 だけどこのドリィは見た目も性格も、守ってあげなきゃ感がいっぱいで、ついつい甘やかせてしまうといったタイプだろうか。

「ちょっと! ドリィにだけズルイじゃない。私の分もちゃんと用意しなさいよね」
「心配しなくてもあげるわよ。先にこの子を安心させてあげないといけないから、ちょっとそこでまっていなさい」
 アクアを相手にするとついついこちらの口調がキツくなってしまう。
 私的には久々の再会に、アクアが胸元に飛びつき感動のシーンを想像していたのだが、相も変わらずのこの態度。少しばかり意地悪な気持ちになるのも多少大目に見てもらいたい。

「リネア様はこうおっしゃっていますが、毎日アクア様の事を心配されていて、いつ戻って来てもいいようにと、大好きなクッキーを毎朝焼いていらっしゃっていたんですよ」
 フブッ
「コ、コラ、何さらっと恥ずかしい事をバラしているのよ」
 ノヴィアから思わぬ横やりをいれられ、恥ずかしさのあまり顔が真っ赤に染まってしまう。
 だけど顔を隠そうにも、現在私の両手はドリィがクッキー片手に落ちないようにと乗せており、真っ赤に染まって恥ずかしがっている私が丸見え状態となってしまった。
 おにょれノヴィアめ、あとでお仕置きをしてあげるんだから。

「うぐ……、わ、悪かったわよ。私だって迷子になるなんて思っているんだから……」
 ブフッ
 空中を移動するアクアにしてはずいぶん時間がかかっているなぁ、とは思っていたが、まさか山の中で迷子になっていたとは。
 まぁ、アクアは100年程前の記憶しかなかったわけだし、その間に木が成長したり道が塞がれていたりと、ずいぶん様変わりしているはずだ。なのでこの点でアクアを責めるのはかわいそうと言える。

 それにしても口では色々文句を言ってはいるが、根は優しい子だというのは相変わらずね。

「ホント、お二人とも似た者同士なんですから」
「「似てないわよ!!」」
 ノヴィアから出たため息交じりの言葉に、思わず私とアクアの言葉がかさなり合う。
 私がアクアに似ているとか、いったいどこをどう見ればそう思えるのよ。

「どうやら聞いていた通り良心的な人間みたいだワイ。及ばずながらワシも協力させてもらうぞな」
「ありがとうノーム。あなた達が暮らす山を少しいじっちゃうけど、必要な場所以外は傷つけないよう約束するわ」

 こうして私は新たにノームとドリィと契約する事になったのだが……。



「ふわぁ……」
「随分疲れておるようじゃな。商会の仕事も忙しくなっているようじゃし、ある意味しかたがないことじゃな」
 ガーネット様との打ち合わせ中だというについつい欠伸を漏らしてしまう。

「す、すみません!」
「ははは、気にするととはない。忙しい事はわかっておるし、こちらとしてもお主に無理をさせている事は十分に理解しておるつもりじゃ」
 疲れているとはいえ、ガーネット様の前で欠伸をしてしまった事で慌てて謝罪の言葉を口にする。
 私が現在進行形で疲れている原因。
 もちろん商会の仕事や、私を取り巻く環境が一気に変わった事も大きく関係するのだが、最大の原因は恐らく今この時も頑張ってくれているであろう三人の精霊達。
 今まではアクア一人だけだったのでなんとも感じなかったのだが、どうやら彼らが魔法を使うたび、契約を結んでいる私の魔力とやらがどんどん減っていってしまうのだ。
 いやぁ、最初は寝ても寝ても全然疲れが取れなく、朝寝坊はするわ、ご飯を食べてもすぐにお腹が減るわで、私が何かの病気にかかったのではないかと結構な騒ぎになったのよ。だけどよくよく考えれば三人の精霊が同時に高出力の魔力をつかっていれば、そらぁ魔力供給源の私は疲れるしお腹が減るのもある意味当然の結果だろう。
 おかげで密かに頑張っていたダイエットが成功したのは助かるが、常に空腹感に襲われているのはどうにかして欲しいところではある。

「それにしてもアクアのリゾート計画か、全く次から次へと面白い事を考えるものじゃな」
「商会の運営は軌道には乗りましたが、アクアの村で暮らす人たちが全員豊かになったかとは言えませんので。それにヘリオドールとの街道が整備されましたら人の往来も多くなりますし、これを機にアクアの村で働ける環境を整えられればと思いまして」
「なるほどな。こちらとしても資材やら職人やらが動くのは願ってもない事だから、私にできる事は協力させてもらうぞ。なんといってもリネアには大きな借りがあるのでな」
「そう言っていただけるのなら助かります」
 こちらとしては一銭も出さずに街道ができるメリットは相当大きい。その上出資者でもあるガーネット様がこちらに恩を感じてくださているのは、出来たばかりのアクア商会にとっては相当なものだろう。

「うむ、これらの職人と資材を用意すればいいのだな?」
「はい。人材自体は例の難民問題で確保できているんですが、肝心の職人が少なくてどうしもないんです」
「まぁ、元を辿ればその難民問題のせいでお主が苦労しているわけだしな」
「こればかりは仕方がありません。暮らす家や仕事を失った人たちを無下に追い出せませんし」
 母国の内乱がたった一ヶ月ほどで終わったとはいえ、二つの領が大きな被害を受けてしまったのだ。
 しかもそのうちの一つが私の生まれ故郷ともなると、流石に追い返すわけにもいかないだろう。

「わかった。こちらからも多少ではあるが支援物資を用意しよう」
「ありがとうございます。本当にたすかります」
 こうして私が抱えていた三つの問題が解決したのだが、新に頭を悩ます問題がアクアの村を襲うのだった。
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