アクアリネアへようこそ

みるくてぃー

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二章 襲いかかる光と闇

第66話 断罪という名の(1)

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 工場占拠事件から一週間、人の口を閉じるのは難しいとよく聞くが、『アクア商会立て篭り事件』は私の想像を遥かに超え、多くの取引先にまで届く事となってしまった。

 曰く『アクア商会はスタッフの待遇が悪いらしい』、曰く『アクア商会の会長はスタッフを蔑ろにしている』などと話が過剰に盛り付けられ、中には『アクア商会で会長下ろしが始まったらしい』なんて話まで流れているのだという。
 お陰で私は連日関係各所にお詫びと真相を説明し、再発防止の為にスタッフたちとの交流、不満や業務の改善点などをリストアップし、商会内部の結束を強める事に従事した。

 いやぁ~、それほど大規模な商会ではないとはいえ、取引先への挨拶まわりに、時間の合間でスタッフ一人一人とのコミュニケーション、説明やらお詫びやらを一通り回るのにほぼ丸一週間を要してしまった。
 結果的に私にも、そして商会にもプラスとなる改善点や、学べる事があったのは大いに喜ばしいが、その間わたしの仕事は完全に止まっていた訳であり、現在ノヴィアとココア達受付スタッフを借り出し、急ピッチで積まれた書類を処理をしている。

「リネア様こちらの書類に確認とサインを」
「こちらの処理が終わった分は持っていきますね」
「あぁー、それはヘリオドールのガーネット様宛と、トリスターノ商会宛への書状が混ざっているから注意してね」
「わかってます。あとの処理の事はアクア商会の受付スタッフにお任せください」
「ふふ、頼りにしてるわ」
 っとまぁ、こんな具合で私自身もてんやわんや。
 普段なら間違い防止のために一つ一つ処理しているのだが、時間と溜まってしまった書類を減らすため、ノヴィアがまとめ役で私が決済、処理し終えた分をココアが仕分けをし、そのまま受付スタッフが関係各所に届けてくれるという、一部署まるまる巻き込んだ大騒動となっている。

「ふぅ、少し休憩しましょ。流石にこれ以上詰めると効率が悪くなるわ」
「そうですね。そろそろ休憩時間ですしお茶の用意を致しますね」
「とりあえず3人分をお願いね。ココアも少し休んで」
「わかりました」
 一旦書類から手を離し、柔軟をするよう大きく天井に向かって手を伸ばす。

「それにしてもここまで事後処理が長引くとは思ってもいなかったわね」
「ホントそうですよ。この間なんて社内で問題を起こすような商会とは取引が出来ない、なんて言ってきた人もいたんですよ。結局話を聞いてみれば値引きだサービスをしろだとか身勝手な話ばかりで。うちとの取引がなくなれば困るのは彼方だというのに、ほんと頭に来ちゃいます」ぷんぷん。
 可愛く頬を膨らませながら、ココアがここ数日で寄せられた苦情の内容を口にする。
 一応それらの内容は私の耳にも届いているが、商会の窓口として対面しているのはココアを含めた受付のスタッフ達。
 彼らも本気で苦情を言っている訳でもないのだろうが、これを機に何らかのサービスを受けたいだとか、今のうちにアクア商会に恩を売りつけ、後に大きな見返りを求めようと企む輩も多くいる。
 中でも一番頭が痛いのが、脅しとも苦情と取れる商会潰しを目論む輩。

 今回の事件を過大に盛り上げたり、有りもしない噂をでっちあげられたりと、こういった悪意ある者達がアクア商会の内部や取引先に脅しを掛けているのだ。そのせいで決まっていた契約が白紙に戻されたり、何人ものスタッフが出社を控えるといった事案まで発生してしまった。
 大手商会にとって、大きくなりつつある我が商会を危惧しての嫌がらせだとは思うが、今回の一件で商会が受けた打撃は相当なもの。
 今もヘリオドールの領主でもあるガーネット様と、最大の取引先でもあるトリスターノ商会、そして開業当時からお世話になっているヘリオドールの商会の関係各所に、お詫びやらお礼やらの書状を書き終えたところだ。
 幸い私と直接お会いしている方々とは深い交流が築けている関係、今回はアクア商会のフォローへと回ってくださっているが、それも次があるとは断言出来ないのが現状。
 その為今回の一件を洗いざらい打ち明け、色々裏で協力してもらうことをお願いした。
 もっとも、その見返りとしてアクアのリゾート化計画に必要な物資やら人員やらを、優先的にお願いする手筈にはなってしまったのだが、別に入札制度があるわけでもないし、談合という概念がある世界ではないので、ここはお互いの利益を共有する形で了承する事となった。

「それにしてもお二人は落ち着いていますよね」
「そう見えるかしら? 実際はそうでもないんだけれどね」
 仕事の忙しさを理由に棚上げしていたが、ココアの言葉に現実へと戻され苦笑いを浮かべる。

「本当に来るんでしょうか?」
「来るわよ。全員が一緒に来るかは保証できないけれど、間違いなくあの中の数人はここへとやってくるでしょうね」
 部屋に掛かっている時計を見ると、時針は間もなく10時を指すところ。工場では早番と遅番の体制をとっており、間もなく遅番組である彼らが出勤してくる時間となる。
 つまり例の立て篭り事件に関与した7人のスタッフ達。
 これが反省をして、心機一転頑張ります! の宣言ならば良いのだが、私は彼らが一斉に辞めると言い出すのではと考えている。

 流石に7人もの人数が同時に辞められると、工場の稼働率は一気に減ってしまう。これが機械によるオートメーションならば何とななるのかもしれないが、全てスタッフ達による手作業となると、流石に今まで通りというわけにはいかない。
 ただでさえ徐々に受注量が生産量を上回って来ているというのに、ここに来てこの仕打ちはかなりの痛手。
 約束している納期の問題も出てくるし、間に合わなければ信用問題にも関わってくる。何より一度に7人ものスタッフが辞めたとなれば、アクア商会の評判はがた落ちとなってしまうだろう。
 出来るなら間違いであってほしいとは思うのだが、ここ数日のスタッフ達からの聞き込みから、私の不安は確信へと近づいている。

「そろそろかしらね」
 予めココアや手伝いをしてくれていたスタッフ達を部屋から出し、いまここにいるのは私とノヴィアの二人だけ。
 本当はノヴィアにも席を外してもらおうとしていたのだが、相手は全員若い男性。そんな中に私一人を残すわけにはいかないと、頑として言う事を聞いてくれなかったのだ。
 まぁ本音を言えば男性7人を目の前に、私一人だけでは少々怖かったのだが、これでも一応魔法がつかえる魔法少女(私の事よ!)なので、いざという時は正当防衛の証言者になってもらえばいいだろう。

 そんな若干メルヘンな考えを脳裏に抱きながら黙々と書類と格闘していると、複数人の足音と共に部屋の扉がコンコンと鳴り響く。

「ふぅ、どうぞ」
 私は一息を吐き、訪れて来た人物達を招き入れる。だがそこに立っていたのは予期せぬ一人の男性と、その後ろに控える予想外の人の数。
 見れば先頭に立つ彼の後ろにはケヴィンを含めた7名の立て篭り犯、最近出社を控えていたと聞いている数名のスタッフ達、中には私が実力を買って自ら役職を与えた数名のスタッフ達までいる。
 ざっと見たところで20数名はいるのではなかろうか。

 ……なるほど、このタイミングでそう来たのねシトロン。

「リネア様、私たちは貴女に退陣を要求します」
 それは私の予想を遥かに超えた現実を突きつけられるのだった。
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