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みるくてぃー

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終章 未来への道筋

第96話 アレクの帰還

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「リネア!」
 レイヴン公子が起こした騒ぎから一夜を開けた今日、私は公妃様とセレスの三人の茶会に参加していると、慌ててやってきたのはアレクだった。

「あ、アレク、お久しぶり」
「お兄様遅いですよ。あと私に挨拶はなしですか?」
「えっと……これは一体?」
 アレクにとって私たち三人がテーブルを囲っているのは、余程想定外の光景だったのだろう。
 一向に帰って来ない私に、継承問題で対立しているはずの公妃様。おまけに此処にはいない筈の自分の妹までもが、楽しそうにお茶会に花を添えているのだ。アレクの立場からすれば混乱するのも当然だろう。

「慌てるのはわかるけれど、貴方もトライライトの公子なら少し落ち着きなさい」
 慌てた様子のアレクに公妃様が一喝。少々冷たいような言い方だが、それが連合国家の公妃である故の事だと、私は理解出来てしまっている。

「申し訳ございません。ですが私にもわかるようにご説明頂けると助かるのですが」
 アレクの言い分は最もの事。恐らくは帰って来ない私を心配して、ハーベストかノヴィア辺りが相談したのだろうが、当の本人がニッコリと微笑みならがら公妃様とお茶を頂いているのだ。
 どうやら元々継承権問題でアレクには帰還命令が出ていたそうだが、それをも吹っ飛ばすほどの出来事が目の前に広がっているのだ。これで全ての事情を把握している方がおかしいだろう。

「えっと、心配してくれたようで申し訳ないんだけれど、取り敢えずは無事よ?」
「リネアお姉様、なんでそこで疑問系になるんです?」
「いやだって、この先どうなるかわからないじゃない?」
 一応公妃様からはレイヴン公子とのお見合いの件は白紙へと戻され、現在騒ぎを起こしてしまった公子は皇族専用の牢に投獄中。
 このあと情報が整理されたあと、公王様や貴族の前で罪状の確認が行われるのだとういう。

 まぁ、今回は公家の恥ともいえる事件だったので、公式の記憶に残るようなものではないらしいのだが、第一公子派の貴族を黙らす狙いと、被害者である私の立会い、そして今回の責任をとって公妃様がその席から退くというところまでが、既に一部の貴族達の間で決まっているのだという。
 私としては公妃様まで責任を取る必要はないと、進言させては頂いたのだが、上に立つ者の立場としては示しがつかないという理由と、流石に公王様に責任を取らせるわけもいかないという事から、公妃様が全ての責任を背負って退陣される事となった。
『心配しなくても大丈夫よ。公妃の席から退くと言っても、別に今の生活が大きく変わるわけでもないのだし、いろいろ背負っていた重みから解放されて寧ろ楽になるわ』とは公妃様の言葉。
 流石に公妃様を実家に戻す事は、オーシャン公国から遺恨を残してしまうので、こればかりは国として認める事は出来なかったのだろう。
 公妃様もいろいろ大変なのね。

「いや、その……、なんでセレスがリネアと一緒に……? っていうかリネアをなんで姉と呼んでいるんだ?」
 姉という点については私も本人から問いただしたいところではあるが、まずは先にハッキリとさせておかなければいけない点が一つ。
「そういえばご挨拶がまだでしたね。初めましてアレクシス公子様」にっこり。
「うぐっ!」
 私の最高の笑顔に若干慌てる顔が引きつるアレク。
 事情と立場から、アレクが素性を隠すのは当然の事だが、それでも今まで教えてくれなかった事への軽いお返しと、セレスがうっかり喋ってしまった事へのカモフラージュを兼ね、ワザと困らせるように他人行儀にご挨拶。
 アレクもセレスが同席している段階で大方の予想は出来ていただろうが、私が見せた笑顔に見事に動揺する姿をみせてくる。
 公妃様が笑いを必死に隠されているのはご愛嬌ということで。

「いや、違うんだリネア。確かに僕はトワイラトの公子だが、別に公位を継ぐつもりなんて無くてだね」
「くすくすくす」
「ふふふ」
「ははは、ごめんなさいアレク。冗談よ」
 今更隠し事の一つや二つで、私とアレクとの関係が崩れるような薄い絆ではない。今回の一件もどうやら本気で私を心配してくれていたようだし、公子という立場を隠していたのも、私を継承権問題に巻き込みたくないとの配慮もあるだろう。
 第一私もメルヴェール王国の貴族だというのを隠していた事もあるので、ここはお互い秘密にしていたという事で水に流しておく事にする。

「公妃様、まだお時間はありますよね? アレクにも軽く説明しておきたいのですが大丈夫ですか?」
「そうね、せっかくだからアレクシスにも立ち会ってもらいましょう」
「ありがとうございます」
「??? どういう事だい?」
「えっとですね……」
 私は公妃様の許可を頂き、昨夜から起こった事の経緯をアレクに説明した。



「まったく、リネアに再会してから僕は驚かされてばかりだ」
 少々その言葉には不服申し立てをいしたいところだけれど、話せば長くなりそうなので今は軽く頬を膨らませて抗議の意思を示しておく。
「ま、まぁ、大体の事情は把握出来たよ。それでリネア達が一緒にいたと言うわけなんだね」
「そういう事です」
 それだけが一緒にいた理由ではないのだが、これ以上公妃様との関係を話すとアレクを混乱させるだけなので、今は黙っておく事にする。

「わかったよ。それじゃその席に僕も立ち会わせてもらうよ」
「えぇ。それでいいんですよね?」
 私が確認の為に公妃様に尋ねると、公妃様は無言の笑顔を返されてくる。
 準備といっても別に帰属裁判が行われる訳じゃないからね、単純に主要貴族がお城に集まるまでの時間潰し。
 幸いなのはオーシャン公国の公王様が、たまたまトワイライトに来られていたという事だが、これは私とレイヴン公子とのお見合いで、第一公子派の人間が声を掛けていた事が理由らしい。

 これは私の予想なのだが、恐らくその場でアレクの公位が決定してしまうのではないだろうか?
 オーシャン公国からすれば、やはり血の繋がったレイヴン公子を推したいところだが、一領主である私を襲った事は今更無しには出来ない。かといって連絡もなしにいきなりアレクを後継者と決定したなれば、後々のわだかまりの原因になりかねない。
 ならば公王同席の場で、現状を突きつけて話せば同意しざるを得ない。もともと他公の話なのだし、公妃様もどうやらアレクに公位を継がせるおつもりのようなので、オシャーン公国もそこまで強く出る事は出来ないのではないだろうか。

「うぅーーーん、これを乗り切ればやっとアクアへ帰るわね」
「ちょっと、私たちの観光も忘れないでよ!」
「アクアはん、そなリネアはんを困らせたらあきまへんで」
「そ、そうです。リネアさんも忙しいんですから」
「わ、分かっているわよ」
 ふふふ。ここに来て色々あった様な気もするが、これが終われば私は元の生活へと戻っていくだろう。
 アレクは流石にこの地に留まるだろうが、それは前々から決まっていた事なので、私がワガママを言える立場ではない。
 寂しくないといえば嘘になるが、これからは外側から支えられる様な領地にしてい事が、最大の恩返しになるだろう。

「リネア、その事なのだけれど」
「なんですか? 公妃様」
「実は……」
 公妃様が私に何かを言おうとされたその時、メイドの一人が息を切らせながら……
「大変でございます。公王様が、公王様が……」
「どうしたの? 落ち着きなさい。公王がどうされたの?」
「公王様が、レイヴン公子に刺されました!」
「「「「!?」」」」
 私たちに衝撃の事実を告げるのだった。
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