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終章 未来への道筋
第97話 地下牢の前で
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「くそっ、離せ! 離せといっているだろ!!」
バタバタバタ
メイドさんから陛下が刺されたと聞いた私たちは、急ぎ現場となったレイヴン公子が囚われている地下牢へとやってきた。
「兄上! 来られていたのですか!?」
「オリーブか。すまない、私が付いていながら……」
公妃様が兄上と呼ばれた方、私にとっては初めてお会いする方だが、恐らくこの方がゼストさんの父親であるオーシャン公国の公王様なのだろう。
聞いていた話では公妃様の件でお二人は仲違いしているのだと言っておられたが、今のこの状況から随分と気落ちされている様子が伺える。
「それで一体何が起こったのですか? 陛下のご容体は?」
「ご無事だ。今は別の部屋で治療を受けておられる」
「そう……ですか。よかった……」
愛する旦那様の安否が確認出来、公妃様は力が抜けたかの様に安堵される。
なんだかんだと言って、やはり公妃様も公王様も、親友であり妹の旦那様を憎みきれてはおられないといったところではないだろうか。
「一体何が……」
ボソリとした言葉だったため、誰が発した言葉かはわからなかったが、この場にいる誰もがそう同じこと思った事だろう。
だけど二人の騎士に力づくで押さえつけられている公子と、生々しく床に残る真っ赤な血痕が、ここで何が起こったかが容易に推察できてしまう。
生憎と凶器となった物はみつからないが、メイドさんの話では刺されたという事なので、恐らくは公子が何かを隠し持っていたナイフか何かで陛下を刺した、という事なのだろう。
「オリーブ、この女性は?」
「リネアよ。アクアの領主の」
「この少女がそうなのか、ならば今更無関係という分けにはいかぬか」
公王様にとって私だけは関係のない部外者。アレクとセレスが来てしまった事だけは余りいい顔をされなかったが、同じ敷地内に住む者として隠し通せる事も出来ないだろうし、今更レイヴンを庇い立てする事も出来ないかと判断されたのか、事の経緯を私たち全員に説明してくださる。
事の始まりは一時間ほど前、オーシャン公国のヘンドリック様が、トワイライトの公王様と面会された事から始まった。
「事情は把握した。だが納得は出来ん」
トワイライト公国とオーシャン公国は、共に連合国家を支え続けてきた柱的な存在。二国の関係も良好だし、公王同士も昔から仲がいいと聞く。
だけどその関係もアレクの母親が現れた辺りから一変、友人に大切な妹を嫁がせたというのに、トワイライト王の愛は正室のオリーブ公妃ではなく、側室のアイーシャ様へと向いてしまった。
結局その事が原因で二人の友情に亀裂が入ってしまい、今回のレイヴン公子の公位剥奪の件にも異議を唱えられた。
本来他国の王でもあるヘンドリック様が、トワイライトの政治に関与する事はよしとはされていないが、兼ねてより二人の関係を改善しようとされていたトワイライト王は、ヘンドリック様がレイヴン公子に会わせろという話を受け入れ、共にレイヴン公子が囚われている牢獄へとやってきた。
ヘンドリック様からすれば、レイヴン公子は可愛い妹の一人息子。自分にとっても血の繋がった甥っ子となるわけなのだから、救える可能性が残っているのならば手を差し伸べるのは当然の行いだろう。だがヘンドリック様が話をしたところでレイヴン公子の態度が変わるわけもなく、話し合いは直ぐに怒号が飛び交うまでに反発し合いってしまった。結局最後はトワイライト王が見限りを見せられたところで、レイヴン公子は隠し持たれていたナイフで自分の父をブサリ。
幸いヘンドリック様間一髪のところで急所だけは防がれたが、手元が狂ったナイフは公王様の左脇腹を傷つけてしまったんだそうだ。
「自分の父親を手に掛けようとするなんて、そこまで落ちてしまったというの?」
公妃様からすればたった一人の愛する息子。その息子が実の父親にまで手を掛けようとしてしまったのだ。その心境は他人の私なんかには理解する事も出来ないだろう。
「ハン! どいつもこいつも俺をバカにするから悪いんだ。公位を渡せないと言うんだから、奪ってやろうとしただけだろうが!」
物語なんかでよく父親を殺して自分が王位に着く、なんてシチュエーションがあるが、実際そんな事をして王位に着ける人間はほとんどいない。それこそ余程の戦乱時代か、王が民をも喰い物にしている暴君かのどちらかだろう。
「そんな理由で……、そんな理由で陛下を刺したというの?」
何とも身勝手な理由と勝手な妄想。今の時代で父親を殺めるような人間を、だれが王と認めると言うのか。
「そんな理由だと? 十分な理由だろうが! それにあんたらだって、俺が王になった方が都合がいいんだろ。だったらさっさと此奴らを退かしやがれ!」
一体なにがあってここまで歪んだ性格に育ててしまったのか。私が知る限りでは公妃様は良識のある方だし、公王様からも悪い噂は耳にした事はない。
実際アレクにしろ妹のセレスにしろ、同じような環境に居ながら立派な人間へと成長しているのだ。ならば後は本人の心次第だとは思うのだが、それを部外者である私が口にしていい事ではないだろう。
「兄上」
「あぁ、わかっている」
お二人とも国の上に立つものとして、レイヴン公子の行いは見逃せるものではない筈。
例えこの場を隠し通せたとしても、王がこの様なねじ曲がった思考の持ち主なら、トワイライト国は忽ち腐敗する。しかも連合国家の代表とも言える公王がこれでは、連合国家自体の崩壊すら招きかねない。
幸いと言っていいのか、トワイライトにはまだアレクという正当な継承者もいる事だし、このままレイヴン公子を廃席し、全てを無かったものとして処理した方が互い国の為にもなるというもの。如何に第一公子を推す人間であっても、この現状を見せれば納得する事だろう。
「レイヴン。陛下に傷を負わせた事、ここでしばらく反省していなさい」
「なんだと!? 母親なのに俺を助けないのか!?」
「ふざけた事を申すな。父親を手にかけるような輩を、どうして解き放てるというのだ」
「陛下の容体が治れば申し開きも出来るでしょう。それまで自分が犯した罪を悔いていなさい」
何とも痛々しい。
先ほどから私もアレクたちも一言すら話せてはいないが、お二人の気持ちが痛いほどこちら側にも伝わって来る。
これでも私は領地を任されている領主の一人だ。改めて人の上に立つという意味が、どれだけ責任と覚悟を背負っているのかを実感してしまうというのに、この公子は全くお二人の気持ちすら気付けていない。
誰だって短な親族の味方になりたいと思うだろう。誰だって親しい友人に手を貸したいと思うだろう。それなのにこの公子はそんな気持ちすら分かろうとしていないのだ。
「くそっ、離せ! 俺は悪くなねぇ! 母親なら俺を助けるのが当然だろうが!!」
尚も悪態をつくレイヴン公子に対し、私の中で色んな感情が湧き上がった。
アレクは公位を継ぐ意思を見せないよう国を離れ、セレスは目立たず逆らわず静かに暮らし、公妃様は国のため息子のためにと頑張ってこられた。
もしかすると私はアクアに残して来た叔母とエレオノーラの姿を、レイヴン公子に写してしまったのかもしれない。我儘で横暴で、自分以外の人間をただの道具としか見ていないような、最低の人たち。それなのに親族だというだけで、切り捨てる事も出来ないのだか、私は怒りの矛先すら納めなければいけないというジレンマ。
どうして人の心遣いがわからないの? なんでそこまで自己中心的に振る舞えるの?
そういった感情がグツグツと私の中で煮えたぎていき……
「リネアお姉様?」
「えっ? 危ないリネア、いま近づいちゃ……」
「この、バカちんがぁ!!」
ドカッ!! ゴフッ
上半身のみ起き上がっているレイヴン公子の顔めがけて怒りのグーパンチ。
流石に魔力込みのパンチは反省しているので、今回はただ力任せだけのパンチだったが、見事に顔面へのクリーンヒットという事で、公子の鼻からは綺麗な鮮血が飛び散った。
「なに甘えた事を言っているのよ、全部貴方がしでかした事でしょうが! それを母親だから助けろですって? だいの男がなにふざけた事を言っているのよ!!」
私にはお二人のように強い覚悟なんてもってはいない。だけど自分の行動を他人のせいにするような人間にはなりたくないと、そう強く思っている。
「大体ね、公子だから次の王になれるなんて考えが甘すぎるのよ。公子だから王になれるんじゃなく、民から認められたから王になれるの! 貴方がいくら王だと名乗っても、誰も貴方なんかを認めてなんてくれないわよ!!」
はぁ、はぁ、はぁ……。
寝不足……という事もあったのだろう。もともと寝付けなかった上に夜這いで起こされ、更に女性なら月に一度のあの日と重なったという事もプラスされ、多少イライラしていた事は認めよう。
それでも流石に母親と叔父の前で、公子相手にグーパンチはやり過ぎだった。
「……リネアお姉様?」
「あっ、えっと……」
穴があれば入りたいとはこの事だが、生憎とここはすでに地下だし、床には穴が掘れないように石畳が敷かれている。
うん、逃げられないや。
「ふ、ふはははは。いや、参った。話には聞いていたが何とも強い女性だ。オリーブが気に入るのも分かると言うものだ」
「私としてはもう少しお淑やかに振舞って欲しいところなのだけれど」
「いや、王を支える者としてはこのぐらい強くなくてはならないだろう」
私の行動に何がおかしかったのか、ヘンドリック様が笑いながら賞賛を送られてくる。
「案外アレクの方が尻に敷かれる事になりそうだな。ははは」
「え?」
「は?」
ヘンドリック様の一言に、私とアレクが同時に理解不能といった反応を返す。
「あ、あの……、それは一体……」
反射的に言葉を真意を確かめようとするも……
「レイヴン、お前の負けだ。王の容体が治れば申し開きの場も持てようが、それまでは己の犯した罪を反省しているのだな」
この場を締めくくるかのようにヘンドリック様の言葉響き渡る。
まぁいいか。ちょっと気になる言葉だったが、聞き直してこの場に留まり続けるのも疲れる話なので、それとなく後で確かめても遅くはないだろう。
色々と手順がおかしくなってしまったが、これで継承権問題は一件落着。第一公子派への説明はヘンドリック様も手伝ってくださるだろうし、部外者である私の役目も残されてはいないだろう。
さて、地上にもどってお茶会の続きでもと、思った矢先。
「はははは、何が反省しろだ。何が王の容体が治ればだ。あの男はもう助からないんだよ!」
「なに?」
「あのナイフにはな、毒が塗ってあったんだよ! それもとびきり苦しくて、すぐには死ねないような猛毒がな!」
バタバタバタ
メイドさんから陛下が刺されたと聞いた私たちは、急ぎ現場となったレイヴン公子が囚われている地下牢へとやってきた。
「兄上! 来られていたのですか!?」
「オリーブか。すまない、私が付いていながら……」
公妃様が兄上と呼ばれた方、私にとっては初めてお会いする方だが、恐らくこの方がゼストさんの父親であるオーシャン公国の公王様なのだろう。
聞いていた話では公妃様の件でお二人は仲違いしているのだと言っておられたが、今のこの状況から随分と気落ちされている様子が伺える。
「それで一体何が起こったのですか? 陛下のご容体は?」
「ご無事だ。今は別の部屋で治療を受けておられる」
「そう……ですか。よかった……」
愛する旦那様の安否が確認出来、公妃様は力が抜けたかの様に安堵される。
なんだかんだと言って、やはり公妃様も公王様も、親友であり妹の旦那様を憎みきれてはおられないといったところではないだろうか。
「一体何が……」
ボソリとした言葉だったため、誰が発した言葉かはわからなかったが、この場にいる誰もがそう同じこと思った事だろう。
だけど二人の騎士に力づくで押さえつけられている公子と、生々しく床に残る真っ赤な血痕が、ここで何が起こったかが容易に推察できてしまう。
生憎と凶器となった物はみつからないが、メイドさんの話では刺されたという事なので、恐らくは公子が何かを隠し持っていたナイフか何かで陛下を刺した、という事なのだろう。
「オリーブ、この女性は?」
「リネアよ。アクアの領主の」
「この少女がそうなのか、ならば今更無関係という分けにはいかぬか」
公王様にとって私だけは関係のない部外者。アレクとセレスが来てしまった事だけは余りいい顔をされなかったが、同じ敷地内に住む者として隠し通せる事も出来ないだろうし、今更レイヴンを庇い立てする事も出来ないかと判断されたのか、事の経緯を私たち全員に説明してくださる。
事の始まりは一時間ほど前、オーシャン公国のヘンドリック様が、トワイライトの公王様と面会された事から始まった。
「事情は把握した。だが納得は出来ん」
トワイライト公国とオーシャン公国は、共に連合国家を支え続けてきた柱的な存在。二国の関係も良好だし、公王同士も昔から仲がいいと聞く。
だけどその関係もアレクの母親が現れた辺りから一変、友人に大切な妹を嫁がせたというのに、トワイライト王の愛は正室のオリーブ公妃ではなく、側室のアイーシャ様へと向いてしまった。
結局その事が原因で二人の友情に亀裂が入ってしまい、今回のレイヴン公子の公位剥奪の件にも異議を唱えられた。
本来他国の王でもあるヘンドリック様が、トワイライトの政治に関与する事はよしとはされていないが、兼ねてより二人の関係を改善しようとされていたトワイライト王は、ヘンドリック様がレイヴン公子に会わせろという話を受け入れ、共にレイヴン公子が囚われている牢獄へとやってきた。
ヘンドリック様からすれば、レイヴン公子は可愛い妹の一人息子。自分にとっても血の繋がった甥っ子となるわけなのだから、救える可能性が残っているのならば手を差し伸べるのは当然の行いだろう。だがヘンドリック様が話をしたところでレイヴン公子の態度が変わるわけもなく、話し合いは直ぐに怒号が飛び交うまでに反発し合いってしまった。結局最後はトワイライト王が見限りを見せられたところで、レイヴン公子は隠し持たれていたナイフで自分の父をブサリ。
幸いヘンドリック様間一髪のところで急所だけは防がれたが、手元が狂ったナイフは公王様の左脇腹を傷つけてしまったんだそうだ。
「自分の父親を手に掛けようとするなんて、そこまで落ちてしまったというの?」
公妃様からすればたった一人の愛する息子。その息子が実の父親にまで手を掛けようとしてしまったのだ。その心境は他人の私なんかには理解する事も出来ないだろう。
「ハン! どいつもこいつも俺をバカにするから悪いんだ。公位を渡せないと言うんだから、奪ってやろうとしただけだろうが!」
物語なんかでよく父親を殺して自分が王位に着く、なんてシチュエーションがあるが、実際そんな事をして王位に着ける人間はほとんどいない。それこそ余程の戦乱時代か、王が民をも喰い物にしている暴君かのどちらかだろう。
「そんな理由で……、そんな理由で陛下を刺したというの?」
何とも身勝手な理由と勝手な妄想。今の時代で父親を殺めるような人間を、だれが王と認めると言うのか。
「そんな理由だと? 十分な理由だろうが! それにあんたらだって、俺が王になった方が都合がいいんだろ。だったらさっさと此奴らを退かしやがれ!」
一体なにがあってここまで歪んだ性格に育ててしまったのか。私が知る限りでは公妃様は良識のある方だし、公王様からも悪い噂は耳にした事はない。
実際アレクにしろ妹のセレスにしろ、同じような環境に居ながら立派な人間へと成長しているのだ。ならば後は本人の心次第だとは思うのだが、それを部外者である私が口にしていい事ではないだろう。
「兄上」
「あぁ、わかっている」
お二人とも国の上に立つものとして、レイヴン公子の行いは見逃せるものではない筈。
例えこの場を隠し通せたとしても、王がこの様なねじ曲がった思考の持ち主なら、トワイライト国は忽ち腐敗する。しかも連合国家の代表とも言える公王がこれでは、連合国家自体の崩壊すら招きかねない。
幸いと言っていいのか、トワイライトにはまだアレクという正当な継承者もいる事だし、このままレイヴン公子を廃席し、全てを無かったものとして処理した方が互い国の為にもなるというもの。如何に第一公子を推す人間であっても、この現状を見せれば納得する事だろう。
「レイヴン。陛下に傷を負わせた事、ここでしばらく反省していなさい」
「なんだと!? 母親なのに俺を助けないのか!?」
「ふざけた事を申すな。父親を手にかけるような輩を、どうして解き放てるというのだ」
「陛下の容体が治れば申し開きも出来るでしょう。それまで自分が犯した罪を悔いていなさい」
何とも痛々しい。
先ほどから私もアレクたちも一言すら話せてはいないが、お二人の気持ちが痛いほどこちら側にも伝わって来る。
これでも私は領地を任されている領主の一人だ。改めて人の上に立つという意味が、どれだけ責任と覚悟を背負っているのかを実感してしまうというのに、この公子は全くお二人の気持ちすら気付けていない。
誰だって短な親族の味方になりたいと思うだろう。誰だって親しい友人に手を貸したいと思うだろう。それなのにこの公子はそんな気持ちすら分かろうとしていないのだ。
「くそっ、離せ! 俺は悪くなねぇ! 母親なら俺を助けるのが当然だろうが!!」
尚も悪態をつくレイヴン公子に対し、私の中で色んな感情が湧き上がった。
アレクは公位を継ぐ意思を見せないよう国を離れ、セレスは目立たず逆らわず静かに暮らし、公妃様は国のため息子のためにと頑張ってこられた。
もしかすると私はアクアに残して来た叔母とエレオノーラの姿を、レイヴン公子に写してしまったのかもしれない。我儘で横暴で、自分以外の人間をただの道具としか見ていないような、最低の人たち。それなのに親族だというだけで、切り捨てる事も出来ないのだか、私は怒りの矛先すら納めなければいけないというジレンマ。
どうして人の心遣いがわからないの? なんでそこまで自己中心的に振る舞えるの?
そういった感情がグツグツと私の中で煮えたぎていき……
「リネアお姉様?」
「えっ? 危ないリネア、いま近づいちゃ……」
「この、バカちんがぁ!!」
ドカッ!! ゴフッ
上半身のみ起き上がっているレイヴン公子の顔めがけて怒りのグーパンチ。
流石に魔力込みのパンチは反省しているので、今回はただ力任せだけのパンチだったが、見事に顔面へのクリーンヒットという事で、公子の鼻からは綺麗な鮮血が飛び散った。
「なに甘えた事を言っているのよ、全部貴方がしでかした事でしょうが! それを母親だから助けろですって? だいの男がなにふざけた事を言っているのよ!!」
私にはお二人のように強い覚悟なんてもってはいない。だけど自分の行動を他人のせいにするような人間にはなりたくないと、そう強く思っている。
「大体ね、公子だから次の王になれるなんて考えが甘すぎるのよ。公子だから王になれるんじゃなく、民から認められたから王になれるの! 貴方がいくら王だと名乗っても、誰も貴方なんかを認めてなんてくれないわよ!!」
はぁ、はぁ、はぁ……。
寝不足……という事もあったのだろう。もともと寝付けなかった上に夜這いで起こされ、更に女性なら月に一度のあの日と重なったという事もプラスされ、多少イライラしていた事は認めよう。
それでも流石に母親と叔父の前で、公子相手にグーパンチはやり過ぎだった。
「……リネアお姉様?」
「あっ、えっと……」
穴があれば入りたいとはこの事だが、生憎とここはすでに地下だし、床には穴が掘れないように石畳が敷かれている。
うん、逃げられないや。
「ふ、ふはははは。いや、参った。話には聞いていたが何とも強い女性だ。オリーブが気に入るのも分かると言うものだ」
「私としてはもう少しお淑やかに振舞って欲しいところなのだけれど」
「いや、王を支える者としてはこのぐらい強くなくてはならないだろう」
私の行動に何がおかしかったのか、ヘンドリック様が笑いながら賞賛を送られてくる。
「案外アレクの方が尻に敷かれる事になりそうだな。ははは」
「え?」
「は?」
ヘンドリック様の一言に、私とアレクが同時に理解不能といった反応を返す。
「あ、あの……、それは一体……」
反射的に言葉を真意を確かめようとするも……
「レイヴン、お前の負けだ。王の容体が治れば申し開きの場も持てようが、それまでは己の犯した罪を反省しているのだな」
この場を締めくくるかのようにヘンドリック様の言葉響き渡る。
まぁいいか。ちょっと気になる言葉だったが、聞き直してこの場に留まり続けるのも疲れる話なので、それとなく後で確かめても遅くはないだろう。
色々と手順がおかしくなってしまったが、これで継承権問題は一件落着。第一公子派への説明はヘンドリック様も手伝ってくださるだろうし、部外者である私の役目も残されてはいないだろう。
さて、地上にもどってお茶会の続きでもと、思った矢先。
「はははは、何が反省しろだ。何が王の容体が治ればだ。あの男はもう助からないんだよ!」
「なに?」
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