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第一章 スチュワート編(一年)
第12話 学園社交界って何ですか?
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私たちが入学してから二ヶ月、不慣れな学園生活にもようやく慣れ始めた頃、ヴィクトリアとスチュワートの初の合同イベントとなる学園社交界が発表された。
「学園社交界? なんですかそれ?」
すっかり5人で定着してしまった昼食タイム、食事が終わりリリアナさんが持って来られたお茶でガールズトークを楽しんでいると、話題が本日張り出された学園社交界の話へと変わった。
「カトレアさん知らないんですか? ヴィクトリアとスチュワートの合同イベント。ヴィクトリア側の庭園で毎年行われる催しで、実際の社交界を生徒主催で行う授業んですよ」
カトレアさんの疑問に答えたのはココリナちゃん。最近ようやく分かってきた事だが、彼女はどうやら俗にいう貴族マニアというものらしい。
本人は強く否定してるが、やたらと貴族の名前に詳しかったり有名どころの家系を網羅していたり等、私ですら知らない事がすらすらと飛び出してくるのだから、これをマニアと言わずに何を言うのだろう。
「私も詳しくは知りませんが、ヴィクトリアの生徒が主役でスチュワートの生徒が裏方となってパーティーを行うんだそうです」
「あぁ、なるほど。いつもやっている実戦形式のお茶会の言わば社交界版、って感じなんですね」
さすがリリアナさん、解りやすい説明でカトレアさんもどうやら納得された様子。
一般的に貴族子女が社交界デビューするのが15~16歳と言われているので、ヴィクトリアの一年生はほぼ全員が未経験。裕福な家に生まれていれば、両親主催でのパーティーに参加する機会ぐらいはあるだろうが、そうでない人たちからすれば予行練習もなしにいきなり他家のパーティーに参加する事になるので、恥をかかないためにもこの学園社交界が考えられたのだと言う。
一方スチュワート側にしても直接貴族の子息子女達に触れる事も出来、将来どこかのお屋敷仕えた時でも自分の立ち居振る舞いを学ぶのに丁度いいんだとか。
実際、実戦さながらで行われるので、スチュワート側から料理班・接客班・支度班等、普段選考している授業の予行練習としては最高のシュチュエーションと言えよう。
「それじゃ私達ってパーティーには出なくていいんですよね?」
「えぇ、そうなりますね」
一通りの説明を聞き終えたカトレアさんが、確認のためにリリアナさんに尋ねる。
今回は規模が大きいから初めから自分たちの役割が決められる事になっている。だから模擬お茶会のように役柄を変えてもう一度と言うことはない。
「よかった、いきなりパーティーに出ろだとかダンスを踊れなんて言われても出来ないですよね」
「ただ、毎年スチュワート側からも数名主役側に招待されるらしいのですが、そのほとんどがスチュワートに通っている貴族の方々だそうです」
スチュワートに通っていると言っても、貴族筋ならいずれ何処かのパーティーに参加する機会はあるだろうからね。とくに女性ならこの期によい殿方を見つけお近づきになれればって考える人も少なくない筈だ。
「スチュワートに通っている貴族って言えばイリアさん……ですよね?」
「どうなんでしょう? ご本人がクリスタータと名乗っておられるのでしたら恐らく男爵家の方なんでしょうが……」
カトレアさんの質問にリリアナさんが言葉を濁らす。
本人がクリスタータと名乗っているのなら間違いなく男爵家の血筋の人間なのだろう。これで縁もゆかりもない者が貴族の名前を名乗り続ければ、例え成人前の少女であれ詐欺罪に問われてしまう。
だけど普通に考えれば男爵家本家の人間ならば、まず間違いなくヴィクトリアに通っている筈なので、リリアナさんにすればその辺りがどうも引っかかっているのではないだろうか。
「イリアさんは間違いなく男爵家のご令嬢ですよ。少々お家の事情がおありのようですが」
答えてくれたのは今まで聞く側に回ってくれていたパフィオさん。普段からあまり積極的に話される方ではないが、二ヶ月も経てばそれが照れ隠しだと言うことは全員が分かっている。
パフィオさんって見た目はすごく頼もしいって感じだが、中身は可愛い物好きな上に恥ずかしがり屋さん。実際剣の扱いを習われている関係で物理的なピンチの時などは助けてくれるが、お礼を言ったり容姿の事を褒めたりすると、たちまち顔を真っ赤にして恥ずかしがってしまう。まさにギャップ萌えとはココリナちゃんの言葉だ。
「そうなんですか?」
パフィオさんの言葉に思わず口を挟んでしまうが、物知りのリリアナさんや貴族マニアのココリナちゃんですら知らない内容を何故パフィオさんが?
全員が不思議そうにパフィオさんを眺めているところを見ると、私と全く同じ疑問を抱いたのだろう。ただ一人見つめられたパフィオさんはどこが焦ったように弁解を口にする。
「あ、いえ、私の父や兄達が騎士団にいるもので、それでその……クリスタータ家の事を尋ねた事があるんです。ただ部外者がよそ様の家庭の事情を話すどうかと思いましてこれ以上は……」
必死になって何かを誤魔化そうとしているのは明らかだが、深く追求するのは友人として失格だろう。パフィオさんにしても気になって調べたところ、偶然イリアさんのご家庭の事情を知ってしまったのなら、多少なりとは後ろめたい気持ちもあるのではないだろうか。
確かに興味があるってだけでクラスメイトの家庭事情を聴くのは失礼に値する。私たちだってそこまで追求しようとは思っていないし、本人以外から秘密にしている事を聞き出そうとは思っていない。
「まぁ、ご家庭の事情なら仕方ないよね」
イリアさんの話はここまで、という感じで区切り、全員が納得した様子で頷いてくれるので、話を再び軌道修正。
「それじゃ私たちのお仕事って接客と支度になるんだよね」
このクラスはメイドや執事をメインとした授業構成になっているので、与えられる仕事は主に当日の接客とヴィクトリアの生徒たちの支度となる。
もちろんそれまでの準備はスチュワートとヴィクトリアの合同で行う事になっているので、これはあくまでも当時の役割だと考えてもらいたい。
「そうですわね。聞いた話ですと支度役はヴィクトリアの生徒一人に対して、スチュワートから一人づつ付く事になっているそうなので、基本ご指名がない限りはスチュワートの二年生から選ばれるそうでよ。ですから私たち一年生は休憩室の接客や、会場の接客がメインになるかと」
「そっかぁー、ちょっと残念だなぁ」
リリアナさんの説明を聞いて一番に口を開いたのはココリナちゃん。貴族マニアとしてはお近づきになれるチャンスだもんね。
「ココリナさんって時々すごい事を言うよね。私なんて支度役に選ばれないって聞いただけで安心しちゃいましたよ」
「えー、だってなんだかカッコイイじゃないですか。運が良ければそのままお屋敷に召し抱えられる事だってあるんですよ」
カッコイイかは別として、ココリナちゃんの考えはある意味正しいのだろう。カトレアさんの性格からして否定的な考えは仕方がないのかもしれないが、私たちはいずれ何処かのお屋敷に仕えるべくここで学んでいるので、学生中に用意された幾つものチャンスをものにし、卒業前にご指名を受けるようにするのがお屋敷にお仕え出来る一番の近道だろう。
つまりここで好感度を上げる事が出来れば、来年同じご令嬢からのご指名を受けたり、二学期に用意されているお屋敷職場体験などに呼ばれたりする可能性は多いにある。
「でもいい方に当たればいいけど、イリ……コホン、意地悪な方に当たる可能性だってあるんですよ?」
「そ、それはそうだけど……」
一瞬カトレアさんがイリアさんの名前を出しかけた事はあえて触れない方がいいだろう。実際イリアさんがパーティー出席組になるのなら、支度役としてスチュワート側から誰か一人付く事になるので、たまたまココリナちゃんに当たる可能性だってゼロではないのだ。
「アリスさんはご指名があるんですよね?」
「うん、ミリィ……お世話になっているお屋敷のお嬢様からご指名を受けてるよ」
リリアナさんの言う通り、私は既にミリィから指名を受けて支度班に選ばれる事が事前に決まっている。前にも言った事があるが両親が仕えているお屋敷の関係で、歳近い子供同士がいればヴィクトリアとスチュワートの違いで重なる事があり、私とミリィの関係のように一年生でも指名を受ける事はそう珍しくもない。
「いいなぁ、アリスちゃんは。お世話になっているお屋敷のお嬢様かぁ。なんだかそんな関係もちょっと憧れるよねー」
「えへへ、ミリィとは仲良しだからね」
ココリナちゃんが羨むのも分かるけれど、こればかりはどうしようもないからね。ここは亡くなった両親に感謝すべきだろう。
「他にはどんなお仕事があるんでしょう? 料理専攻組はお料理班で、庭師専攻組はお庭のお手入れでしょ? 私たちは一応色んな分野に精通していから接客班や支度班以外にも振り分けられるんじゃないんですか?」
カトレアさんが心配されているのは私たちメイド執事組の人数の多さだろう。実は料理専攻と庭師専攻はそれほど人数は多くなく、もともとメイドや執事に比べて雇用人数もそれほど多いわけでもないので人気があまりないのだ。
それに引き換え私たちメイド執事組は覚える事はかなり多いが、人気も高く雇用幅もはるかに大きいので、生徒数もダントツトップをキープしている。
「どうなんだろう、お料理もかなりの数になるから調理班の補助とかもあるんじゃないかなぁ。あとは……音楽隊とか?」
「いやいや、流石に音楽隊はないんじゃないですか? 私今まで一度も楽器なんて習った事はないですよ」
パーティーと言えばダンス用の音楽は必須だからね。初心者じゃなければ今から練習すればなんとかなるんじゃないかと思ったが、どうやらカトレアさんは楽器を扱われた事がないんだろう。
「そうですね、母はピアノを少し弾けるようですが私も全く心得がありませんね」
「私もその……剣ばっかりだったので女性らしことは何も……」
「ブルブルブル、私をアリスちゃんの常識で考えてもらっても困るよ」
リリアナさんから順番に全員から全否定されてしまう。
「あれ? メイドに音楽は必須じゃないの?」
確かお義母様が立派なメイドになるためには音楽は必須だって言われて、小さな頃から色んな楽器を習わされたんだけど。
「楽器の心得があるに越した事はございませんが、今は専門の家庭教師を雇う場合が多いので、一概に必要って訳ではないかと……」
困ったかのようにリリアナさんが代表で教えてくれる。
あれあれ? そういえば私が音楽を習っているのも専門の先生……だよね? メイドであるエレノアさんからは礼儀作法やテーブルマナーしか教わっていない。
「もしかしてアリスちゃんって何か楽器が扱えるの?」
「うん、色々教わったけどピアノとヴァイオリンなら得意だよ」
「うん、聞いた私がバカだったよ」
「ココリナさん、アリスさんを私たちの常識で考えてはいけませんわ」
「そうそう、突っ込んだらこちらが負けですよ」
「そもそもアリスさんがここにいる事自体、事故のようのものですから」
なんだか酷い言われようの様な気がするのは気のせいだろうか。
「でもアリスさんが言われる通りパーティーに音楽は必須ですよね? まさかとは思いますが、本当にスチュワートから選ばれるって事はないですよね?」
「ふふふ、心配されずとも音楽隊はヴィクトリアの生徒から選ばれる事になっておりますわ。既に練習も始められているって話ですよ」
「そうですか、よかった」
カトレアさんは余程怖がりさんなんだろう。リリアナさんに説明されてようやく安心されたご様子。
「まぁ、今から考えても仕方ありませんわ。指名をもらわない限り私たちが支度組に選ばれる可能性は低いですし、音楽隊に選ばれる事もありませんわ」
「えっ、可能性は低い? それってつまり私たち一年生でも支度組に選ばれる可能性もあるんですか?」
リリアナさんが放った可能性という言葉にココリナちゃんが真っ先に反応する。
お義兄様の話ではヴィクトリアの生徒は、スチュワートの生徒と比べかなり少ないのが現状だが、それでも4年制と2年制の違いがあるため、どうしてもスチュワートの二年生だけでは人数が足りないんだそうだ。そのため毎年何人かは一年生からも選ばれる事になっている。
「人数はよく知らないけど、一年生からも毎年クジ引きで何名かは選ばれるそうだよ」
「それ本当!? アリスちゃん」
「う、うん。お義兄様がそう言ってたから」
「……お義兄様?」
ココリナちゃんの勢いの押されついついお義兄様と口走ってしまうが、この場合つい口を滑らしてしまう事ぐらい仕方がないのではないだろうか。だってココリナちゃん目が血走っているんだもん。
「ねぇ、前にも聞いたけどそのお義兄さんって現役のヴィクトリアの生徒なの?」
「えっと、それは……」
ココリナちゃんにはお世話になっているお屋敷で、兄妹のように可愛がってくれている兄と姉、それと同年代の女の子がいるとは話したけれど、お義兄様が現役のヴィクトリアの生徒で、実は生徒会長をやっているなんて話は当然していない。
別に隠せとも言われていないので、ここで潔くバラしていいのかもしれないが、今のこの状況ではクラス中に響き渡りそうな勢いで叫ばれそうなので、14歳の乙女心としては流石にそれは恥ずかしい。
「ココリナさん、アリスさんの家庭事情は複雑なんですから余り触れない方が賢明ですわ。いずれアリスさんの口から教えて頂くまでお待ち致しましょう」
「そうですね、知らない方が無事に学園生活を過ごせるって可能性もありますから」
どう答えようかと戸惑っていると、リリアナさんとパフィオさんのが援護の言葉を投げかけてくれる。
って、知らない方が無事に学園生活を過ごせるってどう言う意味ですか!? パフィオさん!
「ま、まぁ、アリスさんの事ですから私も知らない方が賢明かと思いますよ?」
「う、うん。何だか私もそんな気がしてきたよ」
二人の言葉でなぜか納得してしまうカトレアさんとココリナちゃん。
ぐすん。私は普通の女の子だもん、知られたからといっても何も起こらないもん。しくしく
「学園社交界? なんですかそれ?」
すっかり5人で定着してしまった昼食タイム、食事が終わりリリアナさんが持って来られたお茶でガールズトークを楽しんでいると、話題が本日張り出された学園社交界の話へと変わった。
「カトレアさん知らないんですか? ヴィクトリアとスチュワートの合同イベント。ヴィクトリア側の庭園で毎年行われる催しで、実際の社交界を生徒主催で行う授業んですよ」
カトレアさんの疑問に答えたのはココリナちゃん。最近ようやく分かってきた事だが、彼女はどうやら俗にいう貴族マニアというものらしい。
本人は強く否定してるが、やたらと貴族の名前に詳しかったり有名どころの家系を網羅していたり等、私ですら知らない事がすらすらと飛び出してくるのだから、これをマニアと言わずに何を言うのだろう。
「私も詳しくは知りませんが、ヴィクトリアの生徒が主役でスチュワートの生徒が裏方となってパーティーを行うんだそうです」
「あぁ、なるほど。いつもやっている実戦形式のお茶会の言わば社交界版、って感じなんですね」
さすがリリアナさん、解りやすい説明でカトレアさんもどうやら納得された様子。
一般的に貴族子女が社交界デビューするのが15~16歳と言われているので、ヴィクトリアの一年生はほぼ全員が未経験。裕福な家に生まれていれば、両親主催でのパーティーに参加する機会ぐらいはあるだろうが、そうでない人たちからすれば予行練習もなしにいきなり他家のパーティーに参加する事になるので、恥をかかないためにもこの学園社交界が考えられたのだと言う。
一方スチュワート側にしても直接貴族の子息子女達に触れる事も出来、将来どこかのお屋敷仕えた時でも自分の立ち居振る舞いを学ぶのに丁度いいんだとか。
実際、実戦さながらで行われるので、スチュワート側から料理班・接客班・支度班等、普段選考している授業の予行練習としては最高のシュチュエーションと言えよう。
「それじゃ私達ってパーティーには出なくていいんですよね?」
「えぇ、そうなりますね」
一通りの説明を聞き終えたカトレアさんが、確認のためにリリアナさんに尋ねる。
今回は規模が大きいから初めから自分たちの役割が決められる事になっている。だから模擬お茶会のように役柄を変えてもう一度と言うことはない。
「よかった、いきなりパーティーに出ろだとかダンスを踊れなんて言われても出来ないですよね」
「ただ、毎年スチュワート側からも数名主役側に招待されるらしいのですが、そのほとんどがスチュワートに通っている貴族の方々だそうです」
スチュワートに通っていると言っても、貴族筋ならいずれ何処かのパーティーに参加する機会はあるだろうからね。とくに女性ならこの期によい殿方を見つけお近づきになれればって考える人も少なくない筈だ。
「スチュワートに通っている貴族って言えばイリアさん……ですよね?」
「どうなんでしょう? ご本人がクリスタータと名乗っておられるのでしたら恐らく男爵家の方なんでしょうが……」
カトレアさんの質問にリリアナさんが言葉を濁らす。
本人がクリスタータと名乗っているのなら間違いなく男爵家の血筋の人間なのだろう。これで縁もゆかりもない者が貴族の名前を名乗り続ければ、例え成人前の少女であれ詐欺罪に問われてしまう。
だけど普通に考えれば男爵家本家の人間ならば、まず間違いなくヴィクトリアに通っている筈なので、リリアナさんにすればその辺りがどうも引っかかっているのではないだろうか。
「イリアさんは間違いなく男爵家のご令嬢ですよ。少々お家の事情がおありのようですが」
答えてくれたのは今まで聞く側に回ってくれていたパフィオさん。普段からあまり積極的に話される方ではないが、二ヶ月も経てばそれが照れ隠しだと言うことは全員が分かっている。
パフィオさんって見た目はすごく頼もしいって感じだが、中身は可愛い物好きな上に恥ずかしがり屋さん。実際剣の扱いを習われている関係で物理的なピンチの時などは助けてくれるが、お礼を言ったり容姿の事を褒めたりすると、たちまち顔を真っ赤にして恥ずかしがってしまう。まさにギャップ萌えとはココリナちゃんの言葉だ。
「そうなんですか?」
パフィオさんの言葉に思わず口を挟んでしまうが、物知りのリリアナさんや貴族マニアのココリナちゃんですら知らない内容を何故パフィオさんが?
全員が不思議そうにパフィオさんを眺めているところを見ると、私と全く同じ疑問を抱いたのだろう。ただ一人見つめられたパフィオさんはどこが焦ったように弁解を口にする。
「あ、いえ、私の父や兄達が騎士団にいるもので、それでその……クリスタータ家の事を尋ねた事があるんです。ただ部外者がよそ様の家庭の事情を話すどうかと思いましてこれ以上は……」
必死になって何かを誤魔化そうとしているのは明らかだが、深く追求するのは友人として失格だろう。パフィオさんにしても気になって調べたところ、偶然イリアさんのご家庭の事情を知ってしまったのなら、多少なりとは後ろめたい気持ちもあるのではないだろうか。
確かに興味があるってだけでクラスメイトの家庭事情を聴くのは失礼に値する。私たちだってそこまで追求しようとは思っていないし、本人以外から秘密にしている事を聞き出そうとは思っていない。
「まぁ、ご家庭の事情なら仕方ないよね」
イリアさんの話はここまで、という感じで区切り、全員が納得した様子で頷いてくれるので、話を再び軌道修正。
「それじゃ私たちのお仕事って接客と支度になるんだよね」
このクラスはメイドや執事をメインとした授業構成になっているので、与えられる仕事は主に当日の接客とヴィクトリアの生徒たちの支度となる。
もちろんそれまでの準備はスチュワートとヴィクトリアの合同で行う事になっているので、これはあくまでも当時の役割だと考えてもらいたい。
「そうですわね。聞いた話ですと支度役はヴィクトリアの生徒一人に対して、スチュワートから一人づつ付く事になっているそうなので、基本ご指名がない限りはスチュワートの二年生から選ばれるそうでよ。ですから私たち一年生は休憩室の接客や、会場の接客がメインになるかと」
「そっかぁー、ちょっと残念だなぁ」
リリアナさんの説明を聞いて一番に口を開いたのはココリナちゃん。貴族マニアとしてはお近づきになれるチャンスだもんね。
「ココリナさんって時々すごい事を言うよね。私なんて支度役に選ばれないって聞いただけで安心しちゃいましたよ」
「えー、だってなんだかカッコイイじゃないですか。運が良ければそのままお屋敷に召し抱えられる事だってあるんですよ」
カッコイイかは別として、ココリナちゃんの考えはある意味正しいのだろう。カトレアさんの性格からして否定的な考えは仕方がないのかもしれないが、私たちはいずれ何処かのお屋敷に仕えるべくここで学んでいるので、学生中に用意された幾つものチャンスをものにし、卒業前にご指名を受けるようにするのがお屋敷にお仕え出来る一番の近道だろう。
つまりここで好感度を上げる事が出来れば、来年同じご令嬢からのご指名を受けたり、二学期に用意されているお屋敷職場体験などに呼ばれたりする可能性は多いにある。
「でもいい方に当たればいいけど、イリ……コホン、意地悪な方に当たる可能性だってあるんですよ?」
「そ、それはそうだけど……」
一瞬カトレアさんがイリアさんの名前を出しかけた事はあえて触れない方がいいだろう。実際イリアさんがパーティー出席組になるのなら、支度役としてスチュワート側から誰か一人付く事になるので、たまたまココリナちゃんに当たる可能性だってゼロではないのだ。
「アリスさんはご指名があるんですよね?」
「うん、ミリィ……お世話になっているお屋敷のお嬢様からご指名を受けてるよ」
リリアナさんの言う通り、私は既にミリィから指名を受けて支度班に選ばれる事が事前に決まっている。前にも言った事があるが両親が仕えているお屋敷の関係で、歳近い子供同士がいればヴィクトリアとスチュワートの違いで重なる事があり、私とミリィの関係のように一年生でも指名を受ける事はそう珍しくもない。
「いいなぁ、アリスちゃんは。お世話になっているお屋敷のお嬢様かぁ。なんだかそんな関係もちょっと憧れるよねー」
「えへへ、ミリィとは仲良しだからね」
ココリナちゃんが羨むのも分かるけれど、こればかりはどうしようもないからね。ここは亡くなった両親に感謝すべきだろう。
「他にはどんなお仕事があるんでしょう? 料理専攻組はお料理班で、庭師専攻組はお庭のお手入れでしょ? 私たちは一応色んな分野に精通していから接客班や支度班以外にも振り分けられるんじゃないんですか?」
カトレアさんが心配されているのは私たちメイド執事組の人数の多さだろう。実は料理専攻と庭師専攻はそれほど人数は多くなく、もともとメイドや執事に比べて雇用人数もそれほど多いわけでもないので人気があまりないのだ。
それに引き換え私たちメイド執事組は覚える事はかなり多いが、人気も高く雇用幅もはるかに大きいので、生徒数もダントツトップをキープしている。
「どうなんだろう、お料理もかなりの数になるから調理班の補助とかもあるんじゃないかなぁ。あとは……音楽隊とか?」
「いやいや、流石に音楽隊はないんじゃないですか? 私今まで一度も楽器なんて習った事はないですよ」
パーティーと言えばダンス用の音楽は必須だからね。初心者じゃなければ今から練習すればなんとかなるんじゃないかと思ったが、どうやらカトレアさんは楽器を扱われた事がないんだろう。
「そうですね、母はピアノを少し弾けるようですが私も全く心得がありませんね」
「私もその……剣ばっかりだったので女性らしことは何も……」
「ブルブルブル、私をアリスちゃんの常識で考えてもらっても困るよ」
リリアナさんから順番に全員から全否定されてしまう。
「あれ? メイドに音楽は必須じゃないの?」
確かお義母様が立派なメイドになるためには音楽は必須だって言われて、小さな頃から色んな楽器を習わされたんだけど。
「楽器の心得があるに越した事はございませんが、今は専門の家庭教師を雇う場合が多いので、一概に必要って訳ではないかと……」
困ったかのようにリリアナさんが代表で教えてくれる。
あれあれ? そういえば私が音楽を習っているのも専門の先生……だよね? メイドであるエレノアさんからは礼儀作法やテーブルマナーしか教わっていない。
「もしかしてアリスちゃんって何か楽器が扱えるの?」
「うん、色々教わったけどピアノとヴァイオリンなら得意だよ」
「うん、聞いた私がバカだったよ」
「ココリナさん、アリスさんを私たちの常識で考えてはいけませんわ」
「そうそう、突っ込んだらこちらが負けですよ」
「そもそもアリスさんがここにいる事自体、事故のようのものですから」
なんだか酷い言われようの様な気がするのは気のせいだろうか。
「でもアリスさんが言われる通りパーティーに音楽は必須ですよね? まさかとは思いますが、本当にスチュワートから選ばれるって事はないですよね?」
「ふふふ、心配されずとも音楽隊はヴィクトリアの生徒から選ばれる事になっておりますわ。既に練習も始められているって話ですよ」
「そうですか、よかった」
カトレアさんは余程怖がりさんなんだろう。リリアナさんに説明されてようやく安心されたご様子。
「まぁ、今から考えても仕方ありませんわ。指名をもらわない限り私たちが支度組に選ばれる可能性は低いですし、音楽隊に選ばれる事もありませんわ」
「えっ、可能性は低い? それってつまり私たち一年生でも支度組に選ばれる可能性もあるんですか?」
リリアナさんが放った可能性という言葉にココリナちゃんが真っ先に反応する。
お義兄様の話ではヴィクトリアの生徒は、スチュワートの生徒と比べかなり少ないのが現状だが、それでも4年制と2年制の違いがあるため、どうしてもスチュワートの二年生だけでは人数が足りないんだそうだ。そのため毎年何人かは一年生からも選ばれる事になっている。
「人数はよく知らないけど、一年生からも毎年クジ引きで何名かは選ばれるそうだよ」
「それ本当!? アリスちゃん」
「う、うん。お義兄様がそう言ってたから」
「……お義兄様?」
ココリナちゃんの勢いの押されついついお義兄様と口走ってしまうが、この場合つい口を滑らしてしまう事ぐらい仕方がないのではないだろうか。だってココリナちゃん目が血走っているんだもん。
「ねぇ、前にも聞いたけどそのお義兄さんって現役のヴィクトリアの生徒なの?」
「えっと、それは……」
ココリナちゃんにはお世話になっているお屋敷で、兄妹のように可愛がってくれている兄と姉、それと同年代の女の子がいるとは話したけれど、お義兄様が現役のヴィクトリアの生徒で、実は生徒会長をやっているなんて話は当然していない。
別に隠せとも言われていないので、ここで潔くバラしていいのかもしれないが、今のこの状況ではクラス中に響き渡りそうな勢いで叫ばれそうなので、14歳の乙女心としては流石にそれは恥ずかしい。
「ココリナさん、アリスさんの家庭事情は複雑なんですから余り触れない方が賢明ですわ。いずれアリスさんの口から教えて頂くまでお待ち致しましょう」
「そうですね、知らない方が無事に学園生活を過ごせるって可能性もありますから」
どう答えようかと戸惑っていると、リリアナさんとパフィオさんのが援護の言葉を投げかけてくれる。
って、知らない方が無事に学園生活を過ごせるってどう言う意味ですか!? パフィオさん!
「ま、まぁ、アリスさんの事ですから私も知らない方が賢明かと思いますよ?」
「う、うん。何だか私もそんな気がしてきたよ」
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