33 / 119
第一章 スチュワート編(一年)
第33話 お仕事体験(その1)
しおりを挟む
「いらっしゃいアリスちゃん、カトレアさんとココリナさんもどうぞこちらへ」
私たち三人を迎え入れてくれたのはエンジウム家のご令嬢ことルテアちゃん。
ここ、エンジウム公爵家の王都邸にやってきた私たちは、何も遊びにやって来た訳では決してない。
スチュワートの二学期、最大の目玉とも言えるお仕事体験。今日から一週間、このエンジウム公爵家に住み込みで働かせてもらう事になっている。
「それじゃカトレアさん達の部屋に案内するね」
公爵家のご令嬢自ら案内してもらうというのも変だが、ここは顔見知りの仲ということで大目に見てもらいたい。
ルテアちゃんに案内され、ココリナちゃんとカトレアさんが泊まる二人部屋まで行き、持って来た荷物を運び込む。
「二人とも小さな部屋でごめんね、学園からの規則で実際お屋敷で働くのと同じ条件で、ってのが決まっていて。本当なら客間を使ってもらっていいんだけど、後日先生方が様子を見に来られるって話だから」
これも授業の一環だからね。先生方は体験先で不手際はないか、不当な扱いを受けていないかを途中で見にこられる手筈になっているし、終了後にレポートが各お屋敷から提出される手筈になっているので、出来るだけ実際にお屋敷で雇われている人たちと同じ条件で、一週間を過ごす事が義務づけられている。
「じゅ、十分です。これ以上贅沢なんてとんでもない」
若干怯えながらもカトレアさんが声を上げる。
案内されたのは独身メイド用の二人部屋で、質素だが清潔感あふれるベットとクローゼットが二つずつ、簡単なお茶が楽しめるテーブルセットと、小さなダイニングボードが備え付けられている。
カトレアさんが普段暮らしている部屋がどのようなものかは知らないが、ココリナちゃんに聞いた話では自分の部屋というものは存在しておらず、ベットもお父さんが作った台に妹と二人で寝ていると言っていたので、二人部屋とはいえちゃんとした部屋とベットがあるのは、自宅よりも居心地がいいのではないだろうか。
「ごめんね、私だけ別の部屋で」
「アリスちゃんはいいんだよ。私たちの事は気にしないで過ごしてくれればいいから」
ココリナちゃんはこう言ってくれてはいるが、私だけ部屋が空いていない関係で来賓用の客間を使わせてもらう事になっている。この事は事前に学園の方にも通知してもらっているので問題はないが、私一人だけが豪華客間でココリナちゃん達はメイド用の二人部屋というのは、どうも申し訳ない気持ちになってしまう。
元々警備が厳しい公爵家は、今まで一度もお仕事体験を受け入れた事がなく、今回はルテアちゃんがカトレアさんを是非にと言う事で、特別に3名だけ受け入れると、自ら手を上げてくれたらしい。
その関係で空いている部屋が一部屋しかなく、私だけが客間を使わせてもらう事で話がまとまっているんだと聞いている。
「それじゃまた後でね」
「うん、アリスちゃんもまた後でね」
一旦ココリナちゃん達と別れ、ルテアちゃんと一緒に私に割り振られた部屋へと向かう。
先ほどは分かりやすいように客間だと説明したが、実は私が泊まる部屋は正確には客間ではない。ここ、エンジウム公爵家はお義母様の実家であり、セリカお母さんが仕えていたお屋敷でもある為、私はお義母様が昔使っていた部屋を使わせてもらう事になっている。
つまりこのお屋敷は私にとっても実家のようなものであり、ルテアちゃんのご両親はもちろん、お爺様とお祖母様からも可愛がって頂き、お屋敷に仕えられているメイドさん達とも顔見知り。
お城以外で一番何処に居るのが多いかと問われれば、間違いなくルテアちゃん家と答えるだろう。
「これがアリスちゃんのメイド服だよ、サイズは大丈夫だとは思うけど」
「ありがとうルテアちゃん、それじゃ早速着替えるね」
必要な物は元々ルテアちゃん家に全て置いてあるので、荷物の整理はせずに部屋に用意されていたエンジウム家のメイド服に袖を通す。心配そうにルテアちゃんと大勢のメイドさんズが見守ってくれているが、これでも着替えぐらいは一人でなんとも……なんとも……あ、あれ? 背中のファスナーが……
「アリスちゃんが大変! 皆んな、早く助けてあげて」
「「「畏まりました!」」」
すみません、大勢のメイドさん達に助けていただきました。
「ぐすん、一人で着替えるのがこんなに大変だとは知らなかったよ」
よくミリィが一人で着替えている姿を見ていたので、簡単にできるものだと思っていたが、まさかこんなに難しいものだと知らなかった。
だって普段着ている服といえばドレスしか着ていないし、お菓子作りの時だってドレスの上にエプロンを付けているだけだった。ミリィはよく動きやすいからと言ってパンツ姿の騎士団服を着ているけど、私も同じ服と言えば何故か周りが猛反対をする。女の子がそんな服を着ちゃいけませんって。
王女であるミリィがよくて、何で私がダメなのよー。
結局メイドさん達に手伝ってもらい着替えと、邪魔にならないよう髪型のセットをしてもらい、何故か簡単なお化粧をされてからココリナちゃんと合流する。
因みにカトレアさんだけは別行動、今頃はルテアちゃんの稽古事に付き添っているんじゃないだろうか。
「アリスちゃんってもしかして、今まで一度も一人で着替えた事がないの?」
「ぐすん、そうだよ。だってドレスは一人で着れないでしょ?」
「あぁー、うんそうだね。ごめん、私が間違ってたよ」
なぜか温かい目で見守ってくれるココリナちゃん。
パーティー用のドレスもそうだけど、普段着ているドレスだって無理に一人で締め上げようとすると変な型崩れを起こしてしまう。お城に住んでいるからその辺りはきっちり着こなしていないとお義母様はもちろん、私たちのお世話をしてくれているエレノアさんやメイドさん達から叱られてしまう。
やがてメイドさんに案内されるまま、やって来た庭園でお茶を楽しむルテアちゃんのお母さんにご挨拶。
ココリナちゃん達は私が着替えている間にすでに済ませているそうで、準備に手間取ってしまった私は、お茶会を楽しまれている庭園まで足を運んだと言うわけ。
「いらっしゃいアリスちゃん、今日から一週間自分の家だと思ってゆっくりしていってね」
お仕事体験に来ていると言うのに、自分の家のようにゆっくりするのもどうかと思うが、その前にまずツッコミたい事が目の前にある。
「ご無沙汰しております叔母さま……じゃなくて、なんでここにいるんですかお義母様! あとお義姉様も!」
「あら、私はついでなの?」
「私の実家なんだから別にいいでしょ?」
思わず頭を抱えてその場でしゃがみ込みたくなる衝動を必死に抑える。
目の前でお茶会が開かれている訳だが、そのメンバーがルテアちゃんのお母さんと現王妃であるお義母様。そして何と言っても一番驚きなのが現聖女であるティアお義姉様。
いくら警備面でも安全な公爵家だとはいえ、国の象徴とも言える聖女様が気安くお茶をするために出歩いちゃダメでしょ。しかもお義母様は前聖女を務めていたので、二世代の聖女様がこのエンジウム家に揃った事になる。
「ア、アリスちゃん、今お義姉様って言った!?」
「えっ、あ、うん。言ったよ、そういえばココリナちゃんはティアお義姉様と会うのは初めてだったっけ?」
お義母様とは以前授業参観で挨拶を交わしているけど、ティアお義姉様とは初めて会うんだった。お城でお茶会を開いた時は聖女のご公務をされていたから、顔を合わす機会はなかったんだ。
「そそそそ、それじゃこの方が!?」
「うん、聖女様だよ」
あ、固まった。
なんだかこの姿も懐かしい気もするが、聖女であるお義姉様をこんなに間近で見る機会はそうないだろう。
国の象徴であるお義姉様は、国王であるお義父様より国民の前に出る機会は多く、その分聖女の力を行使する姿も目にする機会もまた多い。
私は現場に付き添った事は一度もないが、力を使われる姿はまさに聖女として神々しく、その姿を見た人たちは崇め、地にひれ伏す姿はまるで神に祈りを捧げる様子と同じなんだという。
そんな立場の人が、ちょっぴり頬を膨らませて拗ねたような表情で目の前にいるんだから、多少なりとはココリナちゃんの気持ちもわかると言うもの。
「この子が何時も話しているココリナちゃん?」
「うん、そうだよ」
固まり続けているココリナちゃんをお義姉様に紹介し、このままお仕事体験の実習をスタートさせる。
王族や貴族の耐性が付いたと思っていたけど、流石のココリナちゃんも聖女様には勝てなかったらしい。
こうなればこっちの世界に戻ってくるまで時間が掛かってしまうからね、叔母様に簡単に説明して、しばらくこのままにしておいてもらう。
「それじゃお茶を用意するね……コホン、お茶を用意させて頂きます」
「ふふふ、お願いするわね」
思わず何時もの口調で話してしまい、慌てて敬語を使って言い直す。
お湯は既に温まっているので、まずはカップを温めてから茶葉を専用のスプーンですくってポットに入れる。
「ア、アリス様危のうございます、火傷などされましたら大変ですので、どうか私にご指示を」
「ケトルは重とうございます。ここは私にお任せください」
「お衣装が汚れてしまいます、茶葉なら私が」
私の作業を見ていたメイドさん達が慌てて近づき、次から次へと仕事を取られていってしまう。
いやいやいや、これじゃお仕事体験の意味がないじゃないですか。ルテアちゃん家でお茶を淹れた事はないが、お城にいる時は普通にお義母様達にも振舞っていた。自慢じゃないが『アリスは何をしてもダメだけど、お茶とお菓子だけはおいしいのよね』とミリィからも褒められてるんだ。
少々ミリィの言葉に反論したいが、お茶を淹れるのは自分でも上手いんじゃないかと思っている。
「もう、私だってお茶ぐらい淹れられるんだから。皆んな心配しすぎだよ」
このお屋敷には小さな頃からよく遊びに来ていたので、ほとんどのメイドさん達とは顔見知りなんだよね。
それにセリカお母さんの事を知っている人も多く、娘の私は実家に戻ってきた娘や孫として可愛がられているから、メイド見習いの私は心配されてるんだろう。
「あらあら、アリスちゃんは大人気ね」
「なんだか昔のセリカを思い出すわ、あの子は何でも出来るようで一つ一つが豪快だったから。何時も周りから心配されていたのよねぇ」
他人事だと思って叔母様は呑気に眺め、お義母様は懐かしむ様にこちらを見つめている。
「お母様、豪快ってセリカ様は何をされたんですか?」
「そうね、お湯を沸かすだけなのに何故か爆発したり、茶葉をポットに入れたら爆発して、お茶を注いでも爆発、ケーキを爆発させたりもしていたわね。後始末が大変だとよくメイド達が嘆いていたわよ」
……お、お母さん……一体何してたんですか!
話を聞いていたメイドさん達が顔色を変えて震えていた事は見なかったことにしよう。
結局心配されたメイドさん達に全ての仕事を奪われ、何故かテーブルについている私がいた。
うん、私ちっとも悪くない。
そしてココリナちゃん、そろそろ帰っておいでー。
私たち三人を迎え入れてくれたのはエンジウム家のご令嬢ことルテアちゃん。
ここ、エンジウム公爵家の王都邸にやってきた私たちは、何も遊びにやって来た訳では決してない。
スチュワートの二学期、最大の目玉とも言えるお仕事体験。今日から一週間、このエンジウム公爵家に住み込みで働かせてもらう事になっている。
「それじゃカトレアさん達の部屋に案内するね」
公爵家のご令嬢自ら案内してもらうというのも変だが、ここは顔見知りの仲ということで大目に見てもらいたい。
ルテアちゃんに案内され、ココリナちゃんとカトレアさんが泊まる二人部屋まで行き、持って来た荷物を運び込む。
「二人とも小さな部屋でごめんね、学園からの規則で実際お屋敷で働くのと同じ条件で、ってのが決まっていて。本当なら客間を使ってもらっていいんだけど、後日先生方が様子を見に来られるって話だから」
これも授業の一環だからね。先生方は体験先で不手際はないか、不当な扱いを受けていないかを途中で見にこられる手筈になっているし、終了後にレポートが各お屋敷から提出される手筈になっているので、出来るだけ実際にお屋敷で雇われている人たちと同じ条件で、一週間を過ごす事が義務づけられている。
「じゅ、十分です。これ以上贅沢なんてとんでもない」
若干怯えながらもカトレアさんが声を上げる。
案内されたのは独身メイド用の二人部屋で、質素だが清潔感あふれるベットとクローゼットが二つずつ、簡単なお茶が楽しめるテーブルセットと、小さなダイニングボードが備え付けられている。
カトレアさんが普段暮らしている部屋がどのようなものかは知らないが、ココリナちゃんに聞いた話では自分の部屋というものは存在しておらず、ベットもお父さんが作った台に妹と二人で寝ていると言っていたので、二人部屋とはいえちゃんとした部屋とベットがあるのは、自宅よりも居心地がいいのではないだろうか。
「ごめんね、私だけ別の部屋で」
「アリスちゃんはいいんだよ。私たちの事は気にしないで過ごしてくれればいいから」
ココリナちゃんはこう言ってくれてはいるが、私だけ部屋が空いていない関係で来賓用の客間を使わせてもらう事になっている。この事は事前に学園の方にも通知してもらっているので問題はないが、私一人だけが豪華客間でココリナちゃん達はメイド用の二人部屋というのは、どうも申し訳ない気持ちになってしまう。
元々警備が厳しい公爵家は、今まで一度もお仕事体験を受け入れた事がなく、今回はルテアちゃんがカトレアさんを是非にと言う事で、特別に3名だけ受け入れると、自ら手を上げてくれたらしい。
その関係で空いている部屋が一部屋しかなく、私だけが客間を使わせてもらう事で話がまとまっているんだと聞いている。
「それじゃまた後でね」
「うん、アリスちゃんもまた後でね」
一旦ココリナちゃん達と別れ、ルテアちゃんと一緒に私に割り振られた部屋へと向かう。
先ほどは分かりやすいように客間だと説明したが、実は私が泊まる部屋は正確には客間ではない。ここ、エンジウム公爵家はお義母様の実家であり、セリカお母さんが仕えていたお屋敷でもある為、私はお義母様が昔使っていた部屋を使わせてもらう事になっている。
つまりこのお屋敷は私にとっても実家のようなものであり、ルテアちゃんのご両親はもちろん、お爺様とお祖母様からも可愛がって頂き、お屋敷に仕えられているメイドさん達とも顔見知り。
お城以外で一番何処に居るのが多いかと問われれば、間違いなくルテアちゃん家と答えるだろう。
「これがアリスちゃんのメイド服だよ、サイズは大丈夫だとは思うけど」
「ありがとうルテアちゃん、それじゃ早速着替えるね」
必要な物は元々ルテアちゃん家に全て置いてあるので、荷物の整理はせずに部屋に用意されていたエンジウム家のメイド服に袖を通す。心配そうにルテアちゃんと大勢のメイドさんズが見守ってくれているが、これでも着替えぐらいは一人でなんとも……なんとも……あ、あれ? 背中のファスナーが……
「アリスちゃんが大変! 皆んな、早く助けてあげて」
「「「畏まりました!」」」
すみません、大勢のメイドさん達に助けていただきました。
「ぐすん、一人で着替えるのがこんなに大変だとは知らなかったよ」
よくミリィが一人で着替えている姿を見ていたので、簡単にできるものだと思っていたが、まさかこんなに難しいものだと知らなかった。
だって普段着ている服といえばドレスしか着ていないし、お菓子作りの時だってドレスの上にエプロンを付けているだけだった。ミリィはよく動きやすいからと言ってパンツ姿の騎士団服を着ているけど、私も同じ服と言えば何故か周りが猛反対をする。女の子がそんな服を着ちゃいけませんって。
王女であるミリィがよくて、何で私がダメなのよー。
結局メイドさん達に手伝ってもらい着替えと、邪魔にならないよう髪型のセットをしてもらい、何故か簡単なお化粧をされてからココリナちゃんと合流する。
因みにカトレアさんだけは別行動、今頃はルテアちゃんの稽古事に付き添っているんじゃないだろうか。
「アリスちゃんってもしかして、今まで一度も一人で着替えた事がないの?」
「ぐすん、そうだよ。だってドレスは一人で着れないでしょ?」
「あぁー、うんそうだね。ごめん、私が間違ってたよ」
なぜか温かい目で見守ってくれるココリナちゃん。
パーティー用のドレスもそうだけど、普段着ているドレスだって無理に一人で締め上げようとすると変な型崩れを起こしてしまう。お城に住んでいるからその辺りはきっちり着こなしていないとお義母様はもちろん、私たちのお世話をしてくれているエレノアさんやメイドさん達から叱られてしまう。
やがてメイドさんに案内されるまま、やって来た庭園でお茶を楽しむルテアちゃんのお母さんにご挨拶。
ココリナちゃん達は私が着替えている間にすでに済ませているそうで、準備に手間取ってしまった私は、お茶会を楽しまれている庭園まで足を運んだと言うわけ。
「いらっしゃいアリスちゃん、今日から一週間自分の家だと思ってゆっくりしていってね」
お仕事体験に来ていると言うのに、自分の家のようにゆっくりするのもどうかと思うが、その前にまずツッコミたい事が目の前にある。
「ご無沙汰しております叔母さま……じゃなくて、なんでここにいるんですかお義母様! あとお義姉様も!」
「あら、私はついでなの?」
「私の実家なんだから別にいいでしょ?」
思わず頭を抱えてその場でしゃがみ込みたくなる衝動を必死に抑える。
目の前でお茶会が開かれている訳だが、そのメンバーがルテアちゃんのお母さんと現王妃であるお義母様。そして何と言っても一番驚きなのが現聖女であるティアお義姉様。
いくら警備面でも安全な公爵家だとはいえ、国の象徴とも言える聖女様が気安くお茶をするために出歩いちゃダメでしょ。しかもお義母様は前聖女を務めていたので、二世代の聖女様がこのエンジウム家に揃った事になる。
「ア、アリスちゃん、今お義姉様って言った!?」
「えっ、あ、うん。言ったよ、そういえばココリナちゃんはティアお義姉様と会うのは初めてだったっけ?」
お義母様とは以前授業参観で挨拶を交わしているけど、ティアお義姉様とは初めて会うんだった。お城でお茶会を開いた時は聖女のご公務をされていたから、顔を合わす機会はなかったんだ。
「そそそそ、それじゃこの方が!?」
「うん、聖女様だよ」
あ、固まった。
なんだかこの姿も懐かしい気もするが、聖女であるお義姉様をこんなに間近で見る機会はそうないだろう。
国の象徴であるお義姉様は、国王であるお義父様より国民の前に出る機会は多く、その分聖女の力を行使する姿も目にする機会もまた多い。
私は現場に付き添った事は一度もないが、力を使われる姿はまさに聖女として神々しく、その姿を見た人たちは崇め、地にひれ伏す姿はまるで神に祈りを捧げる様子と同じなんだという。
そんな立場の人が、ちょっぴり頬を膨らませて拗ねたような表情で目の前にいるんだから、多少なりとはココリナちゃんの気持ちもわかると言うもの。
「この子が何時も話しているココリナちゃん?」
「うん、そうだよ」
固まり続けているココリナちゃんをお義姉様に紹介し、このままお仕事体験の実習をスタートさせる。
王族や貴族の耐性が付いたと思っていたけど、流石のココリナちゃんも聖女様には勝てなかったらしい。
こうなればこっちの世界に戻ってくるまで時間が掛かってしまうからね、叔母様に簡単に説明して、しばらくこのままにしておいてもらう。
「それじゃお茶を用意するね……コホン、お茶を用意させて頂きます」
「ふふふ、お願いするわね」
思わず何時もの口調で話してしまい、慌てて敬語を使って言い直す。
お湯は既に温まっているので、まずはカップを温めてから茶葉を専用のスプーンですくってポットに入れる。
「ア、アリス様危のうございます、火傷などされましたら大変ですので、どうか私にご指示を」
「ケトルは重とうございます。ここは私にお任せください」
「お衣装が汚れてしまいます、茶葉なら私が」
私の作業を見ていたメイドさん達が慌てて近づき、次から次へと仕事を取られていってしまう。
いやいやいや、これじゃお仕事体験の意味がないじゃないですか。ルテアちゃん家でお茶を淹れた事はないが、お城にいる時は普通にお義母様達にも振舞っていた。自慢じゃないが『アリスは何をしてもダメだけど、お茶とお菓子だけはおいしいのよね』とミリィからも褒められてるんだ。
少々ミリィの言葉に反論したいが、お茶を淹れるのは自分でも上手いんじゃないかと思っている。
「もう、私だってお茶ぐらい淹れられるんだから。皆んな心配しすぎだよ」
このお屋敷には小さな頃からよく遊びに来ていたので、ほとんどのメイドさん達とは顔見知りなんだよね。
それにセリカお母さんの事を知っている人も多く、娘の私は実家に戻ってきた娘や孫として可愛がられているから、メイド見習いの私は心配されてるんだろう。
「あらあら、アリスちゃんは大人気ね」
「なんだか昔のセリカを思い出すわ、あの子は何でも出来るようで一つ一つが豪快だったから。何時も周りから心配されていたのよねぇ」
他人事だと思って叔母様は呑気に眺め、お義母様は懐かしむ様にこちらを見つめている。
「お母様、豪快ってセリカ様は何をされたんですか?」
「そうね、お湯を沸かすだけなのに何故か爆発したり、茶葉をポットに入れたら爆発して、お茶を注いでも爆発、ケーキを爆発させたりもしていたわね。後始末が大変だとよくメイド達が嘆いていたわよ」
……お、お母さん……一体何してたんですか!
話を聞いていたメイドさん達が顔色を変えて震えていた事は見なかったことにしよう。
結局心配されたメイドさん達に全ての仕事を奪われ、何故かテーブルについている私がいた。
うん、私ちっとも悪くない。
そしてココリナちゃん、そろそろ帰っておいでー。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです
山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。
今は、その考えも消えつつある。
けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。
今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。
ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる