正しい聖女さまのつくりかた

みるくてぃー

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終 章 ヴィクトリア編

第99話 一触即発

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「ジ、ジーク様!? な、なぜここに!」
 前触れもなく現れたアストリアとジークに戸惑うロベリア。一方私たちの方はといえばやっと出てきたのかと軽くジト目を送る。

 大騒ぎ……というほどではないが、食堂内に言い争う声が聞こえてくるのだ。二人も毎日この食堂を利用している事も知っているので、彼らだけが聞こえないという事はないだろう。しかもその中心となる者が二国の王女ならば何事かと気になるのは当然であろう。それだというのにこの二人とくれば、今の今まで出てこようとしなかった。
 以前デイジーの一件で女性陣から散々叱られ、それ以降女性同士のいざこざには関わり合いたくないと愚痴をこぼしていたが、今回は少々異例なのだからさっさと出てきなさいよと抗議したい。

「ん~、なぜって言われてもなぁ」ポリポリ
 ロベリアの質問に困ったように答えるジーク。
 ジークにすれば国王様から秘密裏にアリスの護衛を頼まれている関係、それを本人の前で告げる訳にはいかず。また、アリスを敵対視しているロベリアの前ではどのような形で問題が飛び火するかがわからない。
 おそらく何と言って誤魔化そうかとでも考えているのだろう。

「あ、あの……ジー……」
「悪いけどジークはアリスの方をお願いできるかしら」
 モジモジしながら何かを言い出そうとするロベリアを遮り、ジークがボロを出さない内にアリスの方へと遠ざける。
 未だユミナの……コホン、ロベリアのペチャパイ攻撃から立ち直れていないアリスはリコとルテアに支えられている状態。その上ロベリアがジークに絡みだす様子など、アリスにとってはダメージを増やすだけ。
 それに今はできるだけ早くアリスを安全なところへと連れて行くのが先決だ。

「ん? どうかしたのかアリスは?」
 落ち込んでいる様子のアリスを見てジークが問いかけてくる。
 一瞬ロベリアの目つきが鋭くなるが、ジークが目の前にいる手前大声を出すこともなく思い留まる様子が見て取れる。

「ちょっとね。大したことじゃないからジークが近くにいればすぐに元気になるわよ」
 まさか自分の妹の発言でダメージを受けたとも言えず、ロベリアに責任をなすり付けるにしても胸の話をぶり返さなければならないので、あえて言葉を濁して伝える。
 勘の良いアストリアは何やらニヤニヤしながら楽しそうに様子を伺っているが、乙女心が分からないジークは疑問の表情を浮かべるのみ。
 まったく、アストリアの反応もどうかとは思うけれど、もう少し乙女心を勉強してこいと言いたくもなる。

「大丈夫かアリス?」
「うぅ……」
 両手で胸元を隠しながら近づくジークから遠ざこうとするアリス。

「これは重症ですわね」
「ん~、実は気にしてたんだねアリスちゃん」
 ジークが来れば元に戻るだろうと思っていたが、どうやらアリスにとっては逆効果だったようで、らしくもない乙女ちっくなポーズで首をふるふるして後ずさる。

 ちょっ、なによこれ。ちょっと可愛いじゃない。
 普段から天然全開で振り回されている身としてはこのギャップは衝撃そのもの。ユミナなんて咄嗟に止めなければ今頃アリスに飛びついていただろう。

「どうしたんだアリス?」
 ふるふるふる
「なんで逃げる??」
 ふるふるふる

 しばらくこのまま様子を見ていたい気もするがロベリア達がいる手前、アリスだけでも遠ざけた方がいいだろう。
「ジーク、とりあえず医療室にでも連れて行ってあげて」
 別にどこか体に異変があるわけでもないが、あそこならば生徒の出入りも少ない上に個室の空間を作ることも可能。あとは少し落ち着かせれば帰る頃には元気になるだろう。
 そう思い、ジークにアリスを強引にでも連れて行ってもらうようお願いする。

「連れて行けって言われてもなぁ」
 まぁ、ジークからすれば近づくたびに離れていくアリスに戸惑うのも分かる。
 仕方なくジークは素早く片手でアリスの腕を掴むと同時に自分の胸元へと引き寄せ。
「ちょっと我慢しろ」
「えっ、何を、きゃっ!」
 そのまま乙女ちっくなポーズのままのアリスを横倒しにし、自らの両腕で抱きかかえる。

 って、それお姫様だっこ!!

 周りで密かに様子を伺っていた生徒達からはキャーキャーと黄色い声が飛び交い、隣のロベリアからは悲鳴に近い声が飛び出す。

「ジ、ジーク様! あ、わ、私もめまいが!!」
 なにやらロベリアが必死に演技をしながらアピールしているが、実はジークも恥ずかしかったのか、お互い顔を逸らしながら完全に二人の世界へと入っている。

 恥ずかしがるなら初めからお姫様だっこなんかしなければいいのに、と思う一方。思わずアストリアの方を見つめて軽く私もとアピールを送ってみる。
 う、うるさいわね。私だって夢を見るぐらいいいじゃない。
 だけどアストリアがこちらを気づく前に食堂内に響く野太い声。


「テ、テメー、俺様のアリスに何気安く触ってやがる!!」
 思わず両手で耳を塞ぎたくなるほどの大音量の声を上げたのは、ロベリアの双子の兄であるライナス。
 直後私の中で『しまった』と警告音が鳴り響くが、今となっては後の祭り。
 できるだけ穏便に騒ぎを収めようと考えていたが、ロベリアが濃すぎてすっかりライナス達のことを失念していた。
 だけど時間が経過すると共にライナスの放った一言が、徐々に頭が理解していくと共に、ふつふつと怒りのようなものが湧き上がる。

 俺のアリスですって? ふざけないで! アリスは誰のものでもなくアリス自身のもの。例え咄嗟に出てしまった言葉だとはいえ、それを今ここで否定しなければライナスは必ずつけ上がり、場合によっては取り返しのつかないレベルにまで発展し兼ねない。
 それに何より私自身がこの言葉を聞き逃すことが出来るわけがない。

「ちょっと聞き捨てならないわね」
「あぁ、今のは聞き逃す事はできねぇな」
 私が言葉を上げると同時にアストリアが隣にきて同じく言葉を上げる。みればジークはすぐにアリスを下ろして自分の背後に追いやり、リコとルテアはそのアリスを更に自分たちの背後へと周りこませる。

「あぁん、なんだテメーは。部外者はすっこんどけや!」
 同じ男同士ということだろうか、ライナスはアストリアの前に立つと同時に啖呵をきる。
「それはこちらのセリフだ、何時からアリスがお前のものになったんだ!」
 まさに一触即発。アストリアとライナスが今にもぶつかりそうな雰囲気に、シオンとロベリアが便乗し、私対ロベリア、ジーク対シオンの構図が自然と出来上がる。

「上等だ! まずはテメーからブチのめしてやる!!」
「やれるもんならやって見やがれ!」
 売り言葉に買い言葉。普段は軽い口調で相手を和ませるアストリアではあるが、一度火がつくと例えジークでと言えども止められないし、何より今回は私同様止めようとする様子も見られない。

 そしてついにアストリアとライナスの怒りの限界を超え、二人が拳を振り上げようとしたその時、突如現れた一人の男性によって止められたのだった。
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