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一章 その名はローズマリー
第27話 ランベルトの過去
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忙しかった社交界シーズンもようやく終わり、再び平穏を取り戻した私の日常生活。相変わらず新作のケーキ作りや、溜まってしまった事務作業で仕事はいっぱいなのだが、一時期の忙しさを思うと随分落ち着いてきたのではないだろうか。
そんなある日、私を訪ねてある貴族がこのローズマリーへとやってきた。
「えっ? アルター男爵様とご夫人が来られた?」
カナリアが淹れてくれたお茶を受け取りながら、ランべルトからの報告を聞いて驚く。
アルター男爵といえばフレッド父親、しかもご夫人と一緒に来られたというのだから更に意味がわからない。
これがただ単純にお店にケーキを食べに来られたというのなら別にいいが、お二人は私を指名して会いに来られたのだという。
「一応確認するけど、アポは入ってないわよね?」
「私が把握している範囲では予定は入っておりませんね」
念のためランベルトに確認するも結果は同じ。当たり前なのだが、通常先方に伺う時には事前にアポを取り、双方の予定を立てた上で訪れるのが礼儀なのだが、アルター男爵様はアポ無しの突然訪問で来られたのだという。
これが親しい間柄なら私も笑って受け入れるが、これでも予定がビッシリと詰まった忙し立場。今日は偶々溜まってしまった事務作業でお屋敷にいたが、私が居なければ一体どうするつもりだったのか尋ねたい程だ。
「どういたしましょうか?」
「そうね、来られているのは男爵様とご夫人の二人だけなの?」
「はい。それと執事が一人付き添いで来ているようです」
「そう……」
フレッドがいないということは当主同士の話し合い。つまり話した内容によっては、取り返しがつかない場合があるという事になってしまう。しかも執事が同伴という事は、少々混み合った内容になるのではないだろうか?
まさか私がフレッドを誑かせているとか言うのじゃないわよね。
「そういえばカナリア、この前アルター男爵家からパーティーの招待状が届いていたわよね? あれってその後どうしたっけ?」
「確かパーティー2日前での招待でしたし、参加の有無を知らせる記実は御座いませんでしたので、先方には不参加の連絡すら入れておりませんが」
通常パーティーの招待状を受け取った場合、参加の有無を知らせる必要一切ない。たまに催しの関係で人数を把握する為、参加の有無を知らせて欲しいなんて場合もあるが、大半が招待状を受け取った方の自由参加とされている。
そのため気品があるパーティーには自然と多く人が集まり、逆にあまり評判が良くないパーティーには、人が集まらないという現象が見られるのだとか。
中にはパーティーの質より招待する列席者に力を入れている家もあると聞くが、自慢するだけ自慢して結局誰一人として来なかったという、恥ずかし思いをする場合もあるのだという。
フローラ様曰く、パーティーの良し悪しでその家の事情がわかってしまうので、社交界はご夫人方の力量が試される言わば戦場なのだそうだ。
「まかさ参加しなかった事に対しての苦情とかじゃないわよね?」
「それは無いと思うのですが、フレッド様の事もございますので……」
「そうよねぇ」
タイミング的に私がこのローズマリーのオーナーだと聞き、慌てて招待状を送ったのだろうが、パーティーの二日前という何とも失礼な対応と、既にその日は別のパーティーに招かれていたという事もあり、届いた早々に不参加の棚へと積み上げさせて頂いた。
そもそも私がアルター男爵家のパーティーに行くわけがないって、なんでわからないのかしら。
「わかったわ、とりあえず客間にお通しして。それとランベルトとカナリアも同席してもらえるかしら?」
私一人では知らない事もあるので、貴族と深く付き合ってきたランベルトとカナリアがいれば心強いだろう。
「その事なのですが……」
「どうしたの?」
ランベルトには珍しく何処が戸惑った様子に違和感を感じる。
「実はアルター男爵様とは以前面識がございまして……」
「えっ?」
ランベルトがアルター男爵と面識が?
以前は何処かのお屋敷に使えていたと聞いているので、面識があったとしても不思議ではないが、今のランベルトの様子から察するに相当深いところで繋がっていたのではないだろうか。
「アリス様は以前私の過去は気にしないとおっしゃり、あえて何も尋ねられませんでしたが、実は私がお仕えしていたというのが……」
「アルター男爵家、というわけね」
なるほど、どうりで先ほどからランベルトの様子がおかしい訳だ。
そういえば以前フレッドがローズマリーに来ていた時も姿を見せていなかったわね。あの時は仕事の忙しさのあまり、裏方のサポートに入ってくれているものかと思っていたが、よくよく考えてみればランベルトが裏方に入るというのはおかしな事。あの日はフロアチーフのリリアナをキッチンのヘルプに入れていたわけだし、副店長でもあるランベルトまでは後ろに下がっては、スタッフ全体の士気にも関わってくる。
まぁ、うちのスタッフは全員が優秀なので、サボったり失敗する事など滅多にないのだけれど。
「そうだったのね。ごめんなさい、気付いてあげられなくて」
ランベルトの過去はローレンツさんから聞いているので、前の雇い主と会いたくない気持ちはすごく理解できてしまう。
確か偶然当主が行っている不正を目にしてしまい、正義感から戒めたら不当な理由を突きつけられて解雇されたという話だったわね。
その後ランベルトは貴族のお屋敷に仕える事が出来なくなってしまい、その能力を生かす事なく地に埋もれようとしていたところを、昔の馴染みであるローレンツさんから私を紹介されたのだという。
執事という仕事はメイドとは違い非常に門狭き職業と言われているので、解雇というレッテルを貼られたランベルトは、相当男爵様に恨みを抱いている筈。
それでも自らの姿を晒さないのは、ローズマリーに悪影響をおよぼすのではと、考えたのではないだろうか。
「それじゃランベルトは私の代わりに事務作業の方をしてもらっていいかしら? フロアはリリアナがいてくれるし、私も仕事が捗って助かるしね」
「えっ? 私を罰しないのですか?」
「へ? なんでそうなるのよ」
聞けばどうやらランベルトは、職場放棄と私に迷惑をかけてしまった事を気にしていたらしい。
職場放棄といってもそれは私やこの店を思ってのことだし、私はランベルトの過去を含めて彼の能力を買っているのだか、迷惑を感じているという感情は一切いだいていない。
もしランベルトが男爵様とこの店で再開していれば、男爵は私を快く思わないだろうし、ランベルトとしても店や私の立場を考えれば、私に仕えている事は知られたくないだろう。
早い話がランベルトは私やこのローズマリーを思っての行動、それをなぜ罰しなければいけないのだろうか。
「貴女というお方は本当に……」
「諦めた方がいいですよ、アリス様はこういう方なのです」
「ちょとどういうこと? カナリア」
「いい意味でお人よしって事です。ふふふ」
「そのようですね。ははは」
もう、どういう意味なのよそれ。
でもまぁ、二人の笑い顔を見ていると悪い気はしないわね。
「ランベルト今度その話をゆっくり聞かせてもらっていいかしら? 貴方が話せる範囲で構わないから」
「もちろん喜んでお話させていただきます」
「カナリア、男爵を客間にお通しして。そのあと私と一緒にに付き合ってもらえるかしら」
「畏まりました。不穏な動きがあれば斬り伏せます」
いやいや、斬っちゃダメでしょ。
今回の件で『知らない』という事は当主として問題だと感じてしまったので、今度ゆっくりとお茶を交わしながら、スタッフ達の話を聞くのもいいのかもしれない。私の過去も余り大っぴらにはしていないので、こちらから持ち出すのもいいだろう。
今までは過去に捕らわれないと思っていたが、共にこのお屋敷で暮らす家族みたいな存在なので、全てを受け入れて笑いあうような時間を過ごしたい。
そんな風にすら思えるのだった。
そんなある日、私を訪ねてある貴族がこのローズマリーへとやってきた。
「えっ? アルター男爵様とご夫人が来られた?」
カナリアが淹れてくれたお茶を受け取りながら、ランべルトからの報告を聞いて驚く。
アルター男爵といえばフレッド父親、しかもご夫人と一緒に来られたというのだから更に意味がわからない。
これがただ単純にお店にケーキを食べに来られたというのなら別にいいが、お二人は私を指名して会いに来られたのだという。
「一応確認するけど、アポは入ってないわよね?」
「私が把握している範囲では予定は入っておりませんね」
念のためランベルトに確認するも結果は同じ。当たり前なのだが、通常先方に伺う時には事前にアポを取り、双方の予定を立てた上で訪れるのが礼儀なのだが、アルター男爵様はアポ無しの突然訪問で来られたのだという。
これが親しい間柄なら私も笑って受け入れるが、これでも予定がビッシリと詰まった忙し立場。今日は偶々溜まってしまった事務作業でお屋敷にいたが、私が居なければ一体どうするつもりだったのか尋ねたい程だ。
「どういたしましょうか?」
「そうね、来られているのは男爵様とご夫人の二人だけなの?」
「はい。それと執事が一人付き添いで来ているようです」
「そう……」
フレッドがいないということは当主同士の話し合い。つまり話した内容によっては、取り返しがつかない場合があるという事になってしまう。しかも執事が同伴という事は、少々混み合った内容になるのではないだろうか?
まさか私がフレッドを誑かせているとか言うのじゃないわよね。
「そういえばカナリア、この前アルター男爵家からパーティーの招待状が届いていたわよね? あれってその後どうしたっけ?」
「確かパーティー2日前での招待でしたし、参加の有無を知らせる記実は御座いませんでしたので、先方には不参加の連絡すら入れておりませんが」
通常パーティーの招待状を受け取った場合、参加の有無を知らせる必要一切ない。たまに催しの関係で人数を把握する為、参加の有無を知らせて欲しいなんて場合もあるが、大半が招待状を受け取った方の自由参加とされている。
そのため気品があるパーティーには自然と多く人が集まり、逆にあまり評判が良くないパーティーには、人が集まらないという現象が見られるのだとか。
中にはパーティーの質より招待する列席者に力を入れている家もあると聞くが、自慢するだけ自慢して結局誰一人として来なかったという、恥ずかし思いをする場合もあるのだという。
フローラ様曰く、パーティーの良し悪しでその家の事情がわかってしまうので、社交界はご夫人方の力量が試される言わば戦場なのだそうだ。
「まかさ参加しなかった事に対しての苦情とかじゃないわよね?」
「それは無いと思うのですが、フレッド様の事もございますので……」
「そうよねぇ」
タイミング的に私がこのローズマリーのオーナーだと聞き、慌てて招待状を送ったのだろうが、パーティーの二日前という何とも失礼な対応と、既にその日は別のパーティーに招かれていたという事もあり、届いた早々に不参加の棚へと積み上げさせて頂いた。
そもそも私がアルター男爵家のパーティーに行くわけがないって、なんでわからないのかしら。
「わかったわ、とりあえず客間にお通しして。それとランベルトとカナリアも同席してもらえるかしら?」
私一人では知らない事もあるので、貴族と深く付き合ってきたランベルトとカナリアがいれば心強いだろう。
「その事なのですが……」
「どうしたの?」
ランベルトには珍しく何処が戸惑った様子に違和感を感じる。
「実はアルター男爵様とは以前面識がございまして……」
「えっ?」
ランベルトがアルター男爵と面識が?
以前は何処かのお屋敷に使えていたと聞いているので、面識があったとしても不思議ではないが、今のランベルトの様子から察するに相当深いところで繋がっていたのではないだろうか。
「アリス様は以前私の過去は気にしないとおっしゃり、あえて何も尋ねられませんでしたが、実は私がお仕えしていたというのが……」
「アルター男爵家、というわけね」
なるほど、どうりで先ほどからランベルトの様子がおかしい訳だ。
そういえば以前フレッドがローズマリーに来ていた時も姿を見せていなかったわね。あの時は仕事の忙しさのあまり、裏方のサポートに入ってくれているものかと思っていたが、よくよく考えてみればランベルトが裏方に入るというのはおかしな事。あの日はフロアチーフのリリアナをキッチンのヘルプに入れていたわけだし、副店長でもあるランベルトまでは後ろに下がっては、スタッフ全体の士気にも関わってくる。
まぁ、うちのスタッフは全員が優秀なので、サボったり失敗する事など滅多にないのだけれど。
「そうだったのね。ごめんなさい、気付いてあげられなくて」
ランベルトの過去はローレンツさんから聞いているので、前の雇い主と会いたくない気持ちはすごく理解できてしまう。
確か偶然当主が行っている不正を目にしてしまい、正義感から戒めたら不当な理由を突きつけられて解雇されたという話だったわね。
その後ランベルトは貴族のお屋敷に仕える事が出来なくなってしまい、その能力を生かす事なく地に埋もれようとしていたところを、昔の馴染みであるローレンツさんから私を紹介されたのだという。
執事という仕事はメイドとは違い非常に門狭き職業と言われているので、解雇というレッテルを貼られたランベルトは、相当男爵様に恨みを抱いている筈。
それでも自らの姿を晒さないのは、ローズマリーに悪影響をおよぼすのではと、考えたのではないだろうか。
「それじゃランベルトは私の代わりに事務作業の方をしてもらっていいかしら? フロアはリリアナがいてくれるし、私も仕事が捗って助かるしね」
「えっ? 私を罰しないのですか?」
「へ? なんでそうなるのよ」
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職場放棄といってもそれは私やこの店を思ってのことだし、私はランベルトの過去を含めて彼の能力を買っているのだか、迷惑を感じているという感情は一切いだいていない。
もしランベルトが男爵様とこの店で再開していれば、男爵は私を快く思わないだろうし、ランベルトとしても店や私の立場を考えれば、私に仕えている事は知られたくないだろう。
早い話がランベルトは私やこのローズマリーを思っての行動、それをなぜ罰しなければいけないのだろうか。
「貴女というお方は本当に……」
「諦めた方がいいですよ、アリス様はこういう方なのです」
「ちょとどういうこと? カナリア」
「いい意味でお人よしって事です。ふふふ」
「そのようですね。ははは」
もう、どういう意味なのよそれ。
でもまぁ、二人の笑い顔を見ていると悪い気はしないわね。
「ランベルト今度その話をゆっくり聞かせてもらっていいかしら? 貴方が話せる範囲で構わないから」
「もちろん喜んでお話させていただきます」
「カナリア、男爵を客間にお通しして。そのあと私と一緒にに付き合ってもらえるかしら」
「畏まりました。不穏な動きがあれば斬り伏せます」
いやいや、斬っちゃダメでしょ。
今回の件で『知らない』という事は当主として問題だと感じてしまったので、今度ゆっくりとお茶を交わしながら、スタッフ達の話を聞くのもいいのかもしれない。私の過去も余り大っぴらにはしていないので、こちらから持ち出すのもいいだろう。
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