39 / 91
二章 陰謀の渦巻く中
第38話 プリミアンローズ開店
しおりを挟む
プリミアンローズの開店当日。
「うーん、流石に今日はお客様の数が少ないわね」
隣国の有名菓子店のオープン日とあって、彼方のお店は朝から大賑わい。
一方ローズマリーはというと、個室こそ全室埋まってはいるが、1階のカフェスペースは空席が目立ってしまう。
「そうですね。これがただ隣国の有名店の出店ならここまで減りはしなかったのでしょうが、あちらにローズマリーの類似品が並ぶとあっては、誰しも一度は食べ比べたいと思うでしょうから……」
プリミアンローズの主力商品はパイやプレッツェルなどの焼き菓子関係。これだけならローズマリーのケーキと大きく被らないなのだが、今回はフェアリアルケーキなる新商品を店頭に並ぶと宣伝されていたので、まずは一度立ち寄って見ようと思うのが人の心情だろう。
貴族は見栄や自慢をする人が大勢いるので、真っ先に来店してご婦人方の話のネタにと思う人もいる筈だ。
「参ったわね。隣国の有名菓子店ってだけでも脅威なのに、うちの類似品まで並ぶだなんて」
そのうえ例の天才菓子職人の評判もあって、オープン前から大層な噂になっていたのだ。
一応初日に偵察を入れるためにリリアナとエリクを客として向かわせたが、この状況だともっと腰を入れて対策を練らないと、大きく顧客を取られてしまう恐れがある。
今更ながらチョコレートの商品化が間に合わなかった事が悔やまれて仕方がない。
いやね、チョコレートとして食べる分には、ほとんど完成に近い状態ではあるのだけれど、ケーキなどの製菓に混ぜ合わせるとなると、実はそう簡単に出来るものではない。
これはお菓子作りを趣味としていない人にはあまり知られてはいないが、ケーキなどに使われる種類はクーベルチュールチョコレートといい、カカオ成分が35%以上かつカカオバターが31%以上という、非常に厄介な品質基準で作られている。
流石にこの通りに作らなければならないというわけではないが、私はチョコレート職人でもなければ、工場の支配人でもないので、現在も試行錯誤の真っ最中というわけ。それでも徐々に納得のいく物は出来つつあるのだが、チョコレート自体の生成に手間と時間を取られてしまい、未だ満足のいく完成品が出来ていないのだ。
せめてローレンツさんが進めてくださっているチョコレート工場が完成すれば、随分と楽にはなると思うのだけれど、こればかりは期待しながら待つしかないだろう。
「アリス様、偵察に向かわせていたリリアナとエリクが戻りました」
「そう、お店もこの状態だし、情報が新鮮なうちにミーティングを始めましょ」
ランベルトからの報告を受け取り、ローズマリーの主力メンバーを集めての緊急ミーティング。
本当は営業が終わってからの予定だったが、予想以上にお客様が少ないのと、私自身が抱いてしまった危機感から、予定を繰り上げてミーティング執り行わせて貰う。
「それじゃリリアナ、エリク、報告をお願いしてもらっていいかしら」
「はい、それでは店内の様子からご報告させていただきます」
集まったメンバーは私を含めて合計6名、執事であり副店長でもあるランベルト。フロアチームからは偵察に出かけたリリアナと、私の相談役でもあるカナリア。キッチンからは同じく偵察に出かけたエリクと、キッチンチーフであるディオンを徴集させてもらった。
「まず店内の作りですが、1階はカフェエリアとお持ち帰りエリアとに分かれており、入り口正面にはケーキや焼き菓子が入った大きなショーケースが配置。各エリアの広さもローズマリーと比べると倍近くあり、個室も大小合わせて24室。その全てが屋敷の2階に備え付けられておりました」
「まって、それってもしかして」
「はい、装飾やテーブルの配置等は違いますが、ローズマリーそのものだと私は感じました」
ローズマリーの類似店……一体何が目的?
私はこのローズマリーを作る際、ローレンツさんに事細かくレイアウトの指示をさせてもらった。それは言わば私が前世で見てきた知識から、この世界で一番適したレイアウトだと考えたから。
だけどこれはあくまでも私が勝手に要望したレイアウトなのだから、必ずしもこの店作りがいいというわけでは決してない。
わからないわね。
考えられるものとしては、ローズマリーに似せる事でこちらへの嫌らせ。彼方の収容人数はこちらの倍以上だと言う事だし、来店されるお客様に見せつけるには、どちらが資産を投じているかはこれだけでも十分伝えられる。
だが逆の見方をすれば、プリミアンローズがローズマリーを真似したとも捉えてしまうので、正直リスクを背負う方が高いと言ってもいい。
単純にお屋敷を店舗に改装するという、同じ方法をとった為、たまたま似てしまったという可能性もあるが、どちらにせよ相手の意図がわからないでは、現状答えを出す事は難しいだろう。
「リリアナ、来店されているお客様の反応はどだった?」
「お店で収容できる人数の差か、ローズマリーのように店の外にまで行列が続くことは無く、待ち時間で声を上げるような光景はありませんし、店内の様子も十分にサービスが行き届いており、こちらも特に問題らしい問題も見当たりません」
「……そう」
ローズマリーのオープン当時は結構な行列が店の外にまで続いていた。その為待たされた事で小さなトラブルが幾つか発生したのだが、その全てを収容できるお店の規模はやはり脅威的と言えよう。
「それで商品の方はどうなの?」
店の規模とレイアウトは今更何を言ったところで仕方がない。お互い既に動き始めているのだし、店の作りが似ているなんて事もよくある話なので、どちらかが明らかに評判を落とさない限り、そう簡単に悪評も立たないはず。
それよりも今一番重要な点は、彼方のケーキの完成度なのだけれど……
「それが……」
「商品の方は僕から報告させていただきます」
言い淀むリリアナを遮り、声を上げたのはディオンの息子でもあるエリク。
確かに彼なら毎日ローズマリーのケーキを作っているのだし、自身もパティシエという事もあり適切な判断が出来るだろう。
「僕とリリアナで幾つかの商品を頼んで試食したのですが、生地、生クリームの質は共にローズマリーのケーキとほぼ同等。しかも多少アレンジは加えられていましたが、こちらの定番商品と季節限定商品が全て網羅され、中にはこちらには無いアレンジされた商品もあり、その数およそケーキだけで50種類」
「50種類!?」
エリクの報告を受け、思わず声を上げながら立ち上がってしまう。
現在ローズマリーで取り扱っているケーキの種類は全部で25種類。その内の15種類が季節限定で定期的に入れ替り、残りの10種類が通年を通しての定番商品としている。
この数は今の店の規模とスタッフの数、そして仕入れや売れ残りのロスを考えて、この数に落ち着いたという経緯がある。
別に種類が豊富な方がいいと言うわけではないが、店の規模や商品の種類などすべてが倍々となっては、総合評価でどうしてもプリミアンローズの方に軍配が上がってしまう。
おまけに彼方には主力商品である焼き菓子が別にあるのだから、ローズマリーの失速は避けられない。
「これは僕とリリアナの感想なのですが、彼方はニーナという菓子職人を利用して、ローズマリーを潰しにかかっているのではと感じました」
聞けばプリミアンローズは天才菓子職人であるニーナを全面的に押し出し、私VSニーナ、ローズマリーVSプリミアンローズという構図をワザと作り上げ、明らかにローズマリーを意識した店づくりになっているのだという。
「そうね……今聞いただけでも余りにも似すぎているわ」
エリクの言う通り、ローズマリーを意識しているのは間違いないだろう。
「それとこれは偵察とは関係ないのですが、来店されているお客様が変な話をされているのを聞いてしまって……」
「変な話?」
「はい。ローズマリーがプリミアンローズの商品を盗作したって」
「えっ、こちらがプリミアンローズから盗作? 逆じゃなくて?」
レシピの盗難事件は当時の新聞にも乗ってしまったので、この事実を知る人は大勢いる筈。
それがなぜ盗まれた方のローズマリーが疑われる?
「どういう事? ランベルトは何かわかるかしら?」
「そうですね、考えられる可能性は隣国の店という点と、その積み重ねて来た絶対的な知名度。ローズマリーは半年ほどの歴史しかありませんが、あちらは隣国で何年もの実績がございます」
言われてみれば確かに。
プリミアンローズという名前を知っていても、直接店舗を訪れた人はそう多くはいないはず。
この世界には車や電車なんてものはないのだから、わざわざ時間と危険を伴い隣国に遊びに行く人はほとんどいない。
もし誰かがローズマリーって隣国にあるプリミアンローズに似ているよね、なんて嘘の情報を広められてしまえば、当然歴史が浅いこちらの方が疑われてしまう。
「まさか、店の作りを似せられたのはこれが目的?」
「可能性は否定できませんが、現状では情報が少なすぎます」
まぁそうよね。
一人二人が呟いただけでは噂は広まらない。フローラ様あたりならば何とかしそうだけれど、ここにはSNSなんてものはないのだから、王都中に広めようとすれば、それこそ彼方此方に噂の種を蒔かなければいけないだろう。
「ただの妬みや皮肉ではないんですか?」
「妬みや皮肉?」
「はい。何処にでも成功を妬む人っていますから、アリス様とローズマリーの事をよく思っておらず、皮肉のつもりで言った嘘の情報です」
カナリアの言う通り、何処の世界でも成功者を妬む噂はよく聞く話。前世でも急に有名になった途端、過去の経歴や発言などから自分はこう思う的な、誤解を招くような呟きは良く見かけていた。
今回も偶然耳に入ったというだけだし、リリアナもローズマリーのスタッフとしての立場から、余計に意識してしまったのかもしれない。
「ありがとうリリアナ。一応心には止めておくわ」
『煙が立たないところには』とはよく言うが、今の時点では噂レベルにもなっていないので、ここで議論し合う議題でもないだろう。
仮にもしこの噂が大きくなったとしても、こちらは悪い事などしていないので、堂々と正面切って対峙すればいいだけの話。
とにかく今は確証もない噂より、プリミアンローズのオープン対策をとる方が先決。噂を気にしてお客様を全部取られてしまいましたでは、それこそこちらの店が潰れてまうだろう
「迷っていても仕方がないわ。ランベルト、ディオン、季節限定メニューからもう一度練り直しましょ」
ケーキにケーキで対抗するのは当然として、こちらももっとのレパートリーを増やさなければいけないし、焼き菓子に対抗する商品も生み出さなければならない。
本音を言えばチョコレートの準備が間に合えば良かったのだが、今の中途半端な状態では最大の効果は期待出来ないし、正直そこまで掛かれるほど時間の余裕もない。ならば私が今できるのは前世の知識を駆使して、主力商品でもあるケーキの強化を行う事だろう。
そう、私には前世で学んだ知識と記憶があるのだから。
私は覚悟を決め、皆んなに指示を出そうとするも、突然ノックと共に部屋の扉が開かれる。
「失礼しますアリス様! たった今ツヴァイ様が来られまして、ご実家でお父上様が倒れられたとご連絡が」
「えっ?」
私は言葉の意味が理解できないまま、ただ呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。
「うーん、流石に今日はお客様の数が少ないわね」
隣国の有名菓子店のオープン日とあって、彼方のお店は朝から大賑わい。
一方ローズマリーはというと、個室こそ全室埋まってはいるが、1階のカフェスペースは空席が目立ってしまう。
「そうですね。これがただ隣国の有名店の出店ならここまで減りはしなかったのでしょうが、あちらにローズマリーの類似品が並ぶとあっては、誰しも一度は食べ比べたいと思うでしょうから……」
プリミアンローズの主力商品はパイやプレッツェルなどの焼き菓子関係。これだけならローズマリーのケーキと大きく被らないなのだが、今回はフェアリアルケーキなる新商品を店頭に並ぶと宣伝されていたので、まずは一度立ち寄って見ようと思うのが人の心情だろう。
貴族は見栄や自慢をする人が大勢いるので、真っ先に来店してご婦人方の話のネタにと思う人もいる筈だ。
「参ったわね。隣国の有名菓子店ってだけでも脅威なのに、うちの類似品まで並ぶだなんて」
そのうえ例の天才菓子職人の評判もあって、オープン前から大層な噂になっていたのだ。
一応初日に偵察を入れるためにリリアナとエリクを客として向かわせたが、この状況だともっと腰を入れて対策を練らないと、大きく顧客を取られてしまう恐れがある。
今更ながらチョコレートの商品化が間に合わなかった事が悔やまれて仕方がない。
いやね、チョコレートとして食べる分には、ほとんど完成に近い状態ではあるのだけれど、ケーキなどの製菓に混ぜ合わせるとなると、実はそう簡単に出来るものではない。
これはお菓子作りを趣味としていない人にはあまり知られてはいないが、ケーキなどに使われる種類はクーベルチュールチョコレートといい、カカオ成分が35%以上かつカカオバターが31%以上という、非常に厄介な品質基準で作られている。
流石にこの通りに作らなければならないというわけではないが、私はチョコレート職人でもなければ、工場の支配人でもないので、現在も試行錯誤の真っ最中というわけ。それでも徐々に納得のいく物は出来つつあるのだが、チョコレート自体の生成に手間と時間を取られてしまい、未だ満足のいく完成品が出来ていないのだ。
せめてローレンツさんが進めてくださっているチョコレート工場が完成すれば、随分と楽にはなると思うのだけれど、こればかりは期待しながら待つしかないだろう。
「アリス様、偵察に向かわせていたリリアナとエリクが戻りました」
「そう、お店もこの状態だし、情報が新鮮なうちにミーティングを始めましょ」
ランベルトからの報告を受け取り、ローズマリーの主力メンバーを集めての緊急ミーティング。
本当は営業が終わってからの予定だったが、予想以上にお客様が少ないのと、私自身が抱いてしまった危機感から、予定を繰り上げてミーティング執り行わせて貰う。
「それじゃリリアナ、エリク、報告をお願いしてもらっていいかしら」
「はい、それでは店内の様子からご報告させていただきます」
集まったメンバーは私を含めて合計6名、執事であり副店長でもあるランベルト。フロアチームからは偵察に出かけたリリアナと、私の相談役でもあるカナリア。キッチンからは同じく偵察に出かけたエリクと、キッチンチーフであるディオンを徴集させてもらった。
「まず店内の作りですが、1階はカフェエリアとお持ち帰りエリアとに分かれており、入り口正面にはケーキや焼き菓子が入った大きなショーケースが配置。各エリアの広さもローズマリーと比べると倍近くあり、個室も大小合わせて24室。その全てが屋敷の2階に備え付けられておりました」
「まって、それってもしかして」
「はい、装飾やテーブルの配置等は違いますが、ローズマリーそのものだと私は感じました」
ローズマリーの類似店……一体何が目的?
私はこのローズマリーを作る際、ローレンツさんに事細かくレイアウトの指示をさせてもらった。それは言わば私が前世で見てきた知識から、この世界で一番適したレイアウトだと考えたから。
だけどこれはあくまでも私が勝手に要望したレイアウトなのだから、必ずしもこの店作りがいいというわけでは決してない。
わからないわね。
考えられるものとしては、ローズマリーに似せる事でこちらへの嫌らせ。彼方の収容人数はこちらの倍以上だと言う事だし、来店されるお客様に見せつけるには、どちらが資産を投じているかはこれだけでも十分伝えられる。
だが逆の見方をすれば、プリミアンローズがローズマリーを真似したとも捉えてしまうので、正直リスクを背負う方が高いと言ってもいい。
単純にお屋敷を店舗に改装するという、同じ方法をとった為、たまたま似てしまったという可能性もあるが、どちらにせよ相手の意図がわからないでは、現状答えを出す事は難しいだろう。
「リリアナ、来店されているお客様の反応はどだった?」
「お店で収容できる人数の差か、ローズマリーのように店の外にまで行列が続くことは無く、待ち時間で声を上げるような光景はありませんし、店内の様子も十分にサービスが行き届いており、こちらも特に問題らしい問題も見当たりません」
「……そう」
ローズマリーのオープン当時は結構な行列が店の外にまで続いていた。その為待たされた事で小さなトラブルが幾つか発生したのだが、その全てを収容できるお店の規模はやはり脅威的と言えよう。
「それで商品の方はどうなの?」
店の規模とレイアウトは今更何を言ったところで仕方がない。お互い既に動き始めているのだし、店の作りが似ているなんて事もよくある話なので、どちらかが明らかに評判を落とさない限り、そう簡単に悪評も立たないはず。
それよりも今一番重要な点は、彼方のケーキの完成度なのだけれど……
「それが……」
「商品の方は僕から報告させていただきます」
言い淀むリリアナを遮り、声を上げたのはディオンの息子でもあるエリク。
確かに彼なら毎日ローズマリーのケーキを作っているのだし、自身もパティシエという事もあり適切な判断が出来るだろう。
「僕とリリアナで幾つかの商品を頼んで試食したのですが、生地、生クリームの質は共にローズマリーのケーキとほぼ同等。しかも多少アレンジは加えられていましたが、こちらの定番商品と季節限定商品が全て網羅され、中にはこちらには無いアレンジされた商品もあり、その数およそケーキだけで50種類」
「50種類!?」
エリクの報告を受け、思わず声を上げながら立ち上がってしまう。
現在ローズマリーで取り扱っているケーキの種類は全部で25種類。その内の15種類が季節限定で定期的に入れ替り、残りの10種類が通年を通しての定番商品としている。
この数は今の店の規模とスタッフの数、そして仕入れや売れ残りのロスを考えて、この数に落ち着いたという経緯がある。
別に種類が豊富な方がいいと言うわけではないが、店の規模や商品の種類などすべてが倍々となっては、総合評価でどうしてもプリミアンローズの方に軍配が上がってしまう。
おまけに彼方には主力商品である焼き菓子が別にあるのだから、ローズマリーの失速は避けられない。
「これは僕とリリアナの感想なのですが、彼方はニーナという菓子職人を利用して、ローズマリーを潰しにかかっているのではと感じました」
聞けばプリミアンローズは天才菓子職人であるニーナを全面的に押し出し、私VSニーナ、ローズマリーVSプリミアンローズという構図をワザと作り上げ、明らかにローズマリーを意識した店づくりになっているのだという。
「そうね……今聞いただけでも余りにも似すぎているわ」
エリクの言う通り、ローズマリーを意識しているのは間違いないだろう。
「それとこれは偵察とは関係ないのですが、来店されているお客様が変な話をされているのを聞いてしまって……」
「変な話?」
「はい。ローズマリーがプリミアンローズの商品を盗作したって」
「えっ、こちらがプリミアンローズから盗作? 逆じゃなくて?」
レシピの盗難事件は当時の新聞にも乗ってしまったので、この事実を知る人は大勢いる筈。
それがなぜ盗まれた方のローズマリーが疑われる?
「どういう事? ランベルトは何かわかるかしら?」
「そうですね、考えられる可能性は隣国の店という点と、その積み重ねて来た絶対的な知名度。ローズマリーは半年ほどの歴史しかありませんが、あちらは隣国で何年もの実績がございます」
言われてみれば確かに。
プリミアンローズという名前を知っていても、直接店舗を訪れた人はそう多くはいないはず。
この世界には車や電車なんてものはないのだから、わざわざ時間と危険を伴い隣国に遊びに行く人はほとんどいない。
もし誰かがローズマリーって隣国にあるプリミアンローズに似ているよね、なんて嘘の情報を広められてしまえば、当然歴史が浅いこちらの方が疑われてしまう。
「まさか、店の作りを似せられたのはこれが目的?」
「可能性は否定できませんが、現状では情報が少なすぎます」
まぁそうよね。
一人二人が呟いただけでは噂は広まらない。フローラ様あたりならば何とかしそうだけれど、ここにはSNSなんてものはないのだから、王都中に広めようとすれば、それこそ彼方此方に噂の種を蒔かなければいけないだろう。
「ただの妬みや皮肉ではないんですか?」
「妬みや皮肉?」
「はい。何処にでも成功を妬む人っていますから、アリス様とローズマリーの事をよく思っておらず、皮肉のつもりで言った嘘の情報です」
カナリアの言う通り、何処の世界でも成功者を妬む噂はよく聞く話。前世でも急に有名になった途端、過去の経歴や発言などから自分はこう思う的な、誤解を招くような呟きは良く見かけていた。
今回も偶然耳に入ったというだけだし、リリアナもローズマリーのスタッフとしての立場から、余計に意識してしまったのかもしれない。
「ありがとうリリアナ。一応心には止めておくわ」
『煙が立たないところには』とはよく言うが、今の時点では噂レベルにもなっていないので、ここで議論し合う議題でもないだろう。
仮にもしこの噂が大きくなったとしても、こちらは悪い事などしていないので、堂々と正面切って対峙すればいいだけの話。
とにかく今は確証もない噂より、プリミアンローズのオープン対策をとる方が先決。噂を気にしてお客様を全部取られてしまいましたでは、それこそこちらの店が潰れてまうだろう
「迷っていても仕方がないわ。ランベルト、ディオン、季節限定メニューからもう一度練り直しましょ」
ケーキにケーキで対抗するのは当然として、こちらももっとのレパートリーを増やさなければいけないし、焼き菓子に対抗する商品も生み出さなければならない。
本音を言えばチョコレートの準備が間に合えば良かったのだが、今の中途半端な状態では最大の効果は期待出来ないし、正直そこまで掛かれるほど時間の余裕もない。ならば私が今できるのは前世の知識を駆使して、主力商品でもあるケーキの強化を行う事だろう。
そう、私には前世で学んだ知識と記憶があるのだから。
私は覚悟を決め、皆んなに指示を出そうとするも、突然ノックと共に部屋の扉が開かれる。
「失礼しますアリス様! たった今ツヴァイ様が来られまして、ご実家でお父上様が倒れられたとご連絡が」
「えっ?」
私は言葉の意味が理解できないまま、ただ呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。
39
あなたにおすすめの小説
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される
秋.水
ファンタジー
記憶を無くした主人公は魔法使い。しかし目立つ事や面倒な事が嫌い。それでも次々増える家族を守るため、必死にトラブルを回避して、目立たないようにあの手この手を使っているうちに、自分がかなりヤバい立場に立たされている事を知ってしまう。しかも異種族ハーレムの主人公なのにDTでEDだったりして大変な生活が続いていく。最後には世界が・・・・。まったり系異種族ハーレムもの?です。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします
タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。
悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
王女殿下は家出を計画中
ゆうゆう
ファンタジー
出来損ないと言われる第3王女様は家出して、自由を謳歌するために奮闘する
家出の計画を進めようとするうちに、過去に起きた様々な事の真実があきらかになったり、距離を置いていた家族との繋がりを再確認したりするうちに、自分の気持ちの変化にも気付いていく…
精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない
よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。
魔力があっても普通の魔法が使えない俺。
そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ!
因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。
任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。
極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ!
そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。
そんなある日転機が訪れる。
いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。
昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。
そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。
精霊曰く御礼だってさ。
どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。
何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ?
どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。
俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。
そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。
そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。
ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。
そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。
そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ?
何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。
因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。
流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。
俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。
因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる