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二章 陰謀の渦巻く中
第37話 謎の天才少女
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ローズマリーの窃盗事件から約2ヶ月、それは突然舞い込んだ。
「アリス様、少しよろしいでしょうか?」
「どうしたのランベルト? それにディオンまで」
「少しアリス様のお耳に入れたいことがございまして」
私が執務室で書類作業に従事していると、やってきたのはランベルトとディオンの二人。お互い仕事の内容が異なっているので、二人が揃って私の部屋を訪れることは滅多にない。
「以前よりお伝えしておりました例の店ですが、やはり裏でアルター男爵家と繋がっておりました」
「やはりそうなのね……」
今から半月ほど前、私の耳に届いたのが隣国の某有名菓子店の王都出店。
それだけでも警戒レベルものなのだけれど、ランベルトが仕入れた情報によると、その店でローズマリーの商品と酷似した、フェアリアルケーキなる物が店頭に並ぶことが分かっている。
それを知った私は、密かにこの菓子店に探りを入れていたのだけれど、どうやら悪い予想が的中したようで、裏でアルター男爵家が関わっているのだという。
「形式上は隣国の有名菓子店、プリミアンローズの名を掲げておりますが、店のオーナーはアルター男爵家に関係する人間。しかもこの者……ブリュフェルと言うのですが、どうやら例の執事の弟のようなのです」
例の執事ということはあの失礼極まりないファウストの事だろう。
流石に今の段階ではどの様な人物なのかは分からないので、相手を批判する言動は避けさせてもらうが、その店にはケーキの類似品が並ぶというのだから、警戒はするに越したことはない。
「それともう一人注意すべき人物がおりまして、この店でキッチンチーフを任されるニーアという少女なのですが……」
「少女?」
大型店舗のチーフを任されるというのは、其れなりの技術と知識を持っているって事よね? 別に女性がチーフに立つ事は珍しくもないが、少女という言葉に違和感を感じてしまう。
「その事なのですが、詳しくはディオンの方から説明させていただきます」
なるほど、だからディオンを連れて来たのね。
これでもディオンは料理業界でそこそこ名の売れた凄腕の料理人。ここの来る前は公爵家で料理長を任させていたのだし、彼の元で修行して各地に散らばったお弟子さんも多く居るのだと聞いているので、この業界の中では有名人だったりするのだ。
そんな彼に私はお菓子作りをさせているのだから、何とも申し訳ない気持ちでいっぱいなのだが、本人は毎日が充実していると笑いながら言ってくれているので、これはこれで良かったのかもと、最近はとくに思える様にはなってきた。
「実は私の知り合いにロマーナという菓子職人がいるのですが、その娘が業界内でちょっとした噂になっておりまして……」
ディオンが言うには最近菓子業界に現れた一人の天才菓子職人がおり、数々の菓子部門で優秀な成績を収めたかと思うと、独特のアレンジ商品を発明したり、有名菓子店にオリジナルのレシピを提供したりと、それはもう10年に一人の逸材と言われる程、いま最も注目されているパティシエなのだという。
「年齢は確か今年で16、私が知る限りはでは幼い頃から父親の菓子店を手伝う傍で、菓子作りを学んで来た様で、その腕前は14歳当時で今のエリクと同等かそれ以上、何より驚かされたのが彼女の発想力と表現力でして、独自のアレンジを加える事はもちろんのこと、既にプロ顔負けの技術力を要しているのです」
「発想力と表現力……すごいわね」
14歳の時点でパティシエのエリクと同等の腕だというのも驚かされるが、発想力と表現力に優れているというのは、正に生まれ持った才能の一つなんだろう。
物作りに必要なのは技術と知識なのだが、新しい物を生み出そうとすると発想力と想像力が必要不可欠となってくる。
それが既に14歳の段階で開花していると言うのだから、周りの期待も相当なものだろう。
「そんなん凄い子がいたのね。しかも私と同じ歳だなんて」
「恐らくアリス様と同じ歳だからこそ、より効果があるのでしょう。話題作りとしては打って付けですから」
なるほど、私が16歳という年齢でこのローズマリーを立ち上げた事は余りにも有名な話。そんな中で同じ歳の天才少女が現れたとなると、暇を持て余すご婦人方にはいい話のネタとなる事だろう。
そしてその少女がローズマリーの商品と酷似したケーキを作るとなれば、『試しに一度』と思うのは当然の流れではないだろうか。
「困ったわね、予想外の伏兵だわ」
こちらは前世の知識を利用しただけの真似っこ職人、一方あちらは10年に一人の逸材と呼ばれる天才菓子職人。
たったそれだけで勝敗が決まる訳ではないが、話題作りとしては十二分に役に立つ。そんな二人が見方を変えればガチンコ勝負をするのだ。しかも隣国の有名菓子店でもあるプリミアンローズの名を借りて。
どうやら彼方のお店も空き家だったお屋敷を改造しているようで、敷地の規模とお屋敷の大きさはローズマリーとほぼ同じぐらい。ただ居住部分と店舗部分を半分半分に使っているローズマリーとは違い、彼方はスタッフ用のバックヤードを除けばほぼお屋敷全体が店舗エリア。当然カフェスペースも広いのだろうし、個室の数も恐らくこちらの倍以上。
おまけにプリミアンローズには本来の主力商品である焼き菓子があり、そこにローズマリーと同じ商品が並んでしまえば、当然待ち時間がゼロのライバル店へと流れていく事だろう。
せめて私にも5年に一人の天才とか、話題性のありそうなネタでもあれば対抗できるのだろうが、生憎と私はハルジオン公爵家の威を借る狐。とてもじゃないが天才少女には敵わないだろう。
「アリス様、もしかしてご存知ありませんか?」
「何が?」
「アリス様は菓子業界に光を照らした女神だと言われているのですよ?」
ブフッ
「ちょっ、何その恥ずかしい二つ名は! 初めて聞いたわよ!」
ディオンの話によれば、3年前にこの国を襲った大飢饉で、お菓子業界は予想以上に大きなダメージを負い、多くの有名菓子店が閉店を余儀なくされた。
それがローズマリーが出来た事で再びお菓子にスポットが当たり、下火になりつつあった菓子業界が再び息を吹き返して来ているのだという。
まぁそうよね。飢饉と言えば食べる物がなくなるわけだし、贅沢品でもあるお菓子は当然真っ先に下火になる。
もともと貴族は屋敷に料理人を抱えているわけで、別段菓子店が無くなったとしてもそれほど困らない。その当時の事は私にはわからないが、恐らく多くの菓子職人が職とお店を失った事だろう
「知らなかったわ、そんな事が王都で起こっていただなんて」
3年前と言えばフィオーネ異母姉様が娼婦館へ売られた年。
小さなデュランタン騎士爵領でも大変な状況だったので、さぞ人が多く集まる王都では結構な騒ぎになったのだろう。
「取り敢えず女神だなんだと、いろいろ突っ込みたいところではあるけれど、そのニーナって子が凄いってのは理解できたわ」
前世の記憶という、ズルをしている立場としては少々耳が痛いが、多くの人たちから天才児と言われているニーナは、恐らく本物の逸材。
若干16歳にも関わらずここまで実力を伸ばしてきたのは、まず間違いなく少女の努力そのもの。出来ることなら今すぐ友達になって、お菓子作りの話で盛り上がりたいが、アルター男爵家の庇護下となるとそうはいかない。
「ランベルト、ディオン。二人はどう思う? そのフェアリアルケーキって商品は例の盗まれたレシピが関わっていると思うかしら?」
「確証はありませんが、アルター男爵様との面会からレシピの盗難。そこから準備期間を考えたとしても、タイミング的に無関係とは言い切れません」
まず間違いなく何らかの形で関わっているでしょう」
「そうよね」
プリミアンローズと男爵家は繋がっているのだと言うし、盗難から店の準備まで期間を考えればこちらもピタリと当て嵌まる。
極め付けはフェアリアルケーキと、商品名にケーキと入っているのだから関連性は非常に高い。
「私もランベルトと同じ意見なのですが、ロマーナとニーナを知る者としてどうしても割り切れない一線がございまして」
ディオンが言うには父親は誰にでも慕われる温厚な人物で、娘のニーナも父親思いの愛らしい少女だったのだという。
ただ二人と会ったのは2年ほど前が最後らしく、ディオンは公爵家でお弟子さんの教育に取り組み、ロマーナさんの方は大飢饉の影響をもろに受けてお店を閉店。その後お互い忙しくなってしまい、めっきり連絡を取る事がなくなってしまったとの事だった。
私は本人達には会った事がないので何とも言えないが、14歳といえば少女から大人に変わる大変な時期。
もしフェアリアルケーキが盗まれたレシピを元に作られているのなら、チーフであるニーナが知らないわけないだろう。ケーキの作り方は未だ何処にも好評していないのだし、騎士団が今も引き続き調査をしているのだから、必ず何処かで盗難の噂は耳にしているはず。
それでも手を貸しているのならば、悪事に染まっても気にならない人物か、もしくは従わなけれいけない深い理由があるかのどちらか一択だ。
「ディオンの気持ちはわからないでも無いけど、アルター男爵家が関わっていると分かっては、手は抜け無いわよ」
「わかっております。私とて負けるつもりはございません」
何と言っても彼方はローズマリーを潰すと言ってきているのだ。これがまだ正々堂々の勝負ならこちらも真正面から立ち向かうのだが、彼方は最低限のルールさえ守らず、この店に盗みに入るという攻撃を仕掛けて来たのだ。ならばそれ相応の報いを受けてもらわなければ気がすまい。
まぁ、何かを仕掛けるといっても、結局私が出来る事といえば正面切っての正々堂々しかないだけだが、その為の準備は整えて来たつもりだ。
少々チョコレートの調整がまだ終わっていないという現状ではあるが、季節限定メニューも練って来たし、新作のお茶やハーブティーなんかも追加してきたので、後は彼方のオープンに備えての最終調整を残すのみ。
果たして勝利の行方は女神に降りるのか、それとも天才少女に降りるのか。
それから約半月後、レガリアの王都レーネスに、アルター男爵家が影で経営するプリミアンローズがオープンする。
だけど時を同じくして、私に別の不幸が降り注ぐのだった。
「アリス様、少しよろしいでしょうか?」
「どうしたのランベルト? それにディオンまで」
「少しアリス様のお耳に入れたいことがございまして」
私が執務室で書類作業に従事していると、やってきたのはランベルトとディオンの二人。お互い仕事の内容が異なっているので、二人が揃って私の部屋を訪れることは滅多にない。
「以前よりお伝えしておりました例の店ですが、やはり裏でアルター男爵家と繋がっておりました」
「やはりそうなのね……」
今から半月ほど前、私の耳に届いたのが隣国の某有名菓子店の王都出店。
それだけでも警戒レベルものなのだけれど、ランベルトが仕入れた情報によると、その店でローズマリーの商品と酷似した、フェアリアルケーキなる物が店頭に並ぶことが分かっている。
それを知った私は、密かにこの菓子店に探りを入れていたのだけれど、どうやら悪い予想が的中したようで、裏でアルター男爵家が関わっているのだという。
「形式上は隣国の有名菓子店、プリミアンローズの名を掲げておりますが、店のオーナーはアルター男爵家に関係する人間。しかもこの者……ブリュフェルと言うのですが、どうやら例の執事の弟のようなのです」
例の執事ということはあの失礼極まりないファウストの事だろう。
流石に今の段階ではどの様な人物なのかは分からないので、相手を批判する言動は避けさせてもらうが、その店にはケーキの類似品が並ぶというのだから、警戒はするに越したことはない。
「それともう一人注意すべき人物がおりまして、この店でキッチンチーフを任されるニーアという少女なのですが……」
「少女?」
大型店舗のチーフを任されるというのは、其れなりの技術と知識を持っているって事よね? 別に女性がチーフに立つ事は珍しくもないが、少女という言葉に違和感を感じてしまう。
「その事なのですが、詳しくはディオンの方から説明させていただきます」
なるほど、だからディオンを連れて来たのね。
これでもディオンは料理業界でそこそこ名の売れた凄腕の料理人。ここの来る前は公爵家で料理長を任させていたのだし、彼の元で修行して各地に散らばったお弟子さんも多く居るのだと聞いているので、この業界の中では有名人だったりするのだ。
そんな彼に私はお菓子作りをさせているのだから、何とも申し訳ない気持ちでいっぱいなのだが、本人は毎日が充実していると笑いながら言ってくれているので、これはこれで良かったのかもと、最近はとくに思える様にはなってきた。
「実は私の知り合いにロマーナという菓子職人がいるのですが、その娘が業界内でちょっとした噂になっておりまして……」
ディオンが言うには最近菓子業界に現れた一人の天才菓子職人がおり、数々の菓子部門で優秀な成績を収めたかと思うと、独特のアレンジ商品を発明したり、有名菓子店にオリジナルのレシピを提供したりと、それはもう10年に一人の逸材と言われる程、いま最も注目されているパティシエなのだという。
「年齢は確か今年で16、私が知る限りはでは幼い頃から父親の菓子店を手伝う傍で、菓子作りを学んで来た様で、その腕前は14歳当時で今のエリクと同等かそれ以上、何より驚かされたのが彼女の発想力と表現力でして、独自のアレンジを加える事はもちろんのこと、既にプロ顔負けの技術力を要しているのです」
「発想力と表現力……すごいわね」
14歳の時点でパティシエのエリクと同等の腕だというのも驚かされるが、発想力と表現力に優れているというのは、正に生まれ持った才能の一つなんだろう。
物作りに必要なのは技術と知識なのだが、新しい物を生み出そうとすると発想力と想像力が必要不可欠となってくる。
それが既に14歳の段階で開花していると言うのだから、周りの期待も相当なものだろう。
「そんなん凄い子がいたのね。しかも私と同じ歳だなんて」
「恐らくアリス様と同じ歳だからこそ、より効果があるのでしょう。話題作りとしては打って付けですから」
なるほど、私が16歳という年齢でこのローズマリーを立ち上げた事は余りにも有名な話。そんな中で同じ歳の天才少女が現れたとなると、暇を持て余すご婦人方にはいい話のネタとなる事だろう。
そしてその少女がローズマリーの商品と酷似したケーキを作るとなれば、『試しに一度』と思うのは当然の流れではないだろうか。
「困ったわね、予想外の伏兵だわ」
こちらは前世の知識を利用しただけの真似っこ職人、一方あちらは10年に一人の逸材と呼ばれる天才菓子職人。
たったそれだけで勝敗が決まる訳ではないが、話題作りとしては十二分に役に立つ。そんな二人が見方を変えればガチンコ勝負をするのだ。しかも隣国の有名菓子店でもあるプリミアンローズの名を借りて。
どうやら彼方のお店も空き家だったお屋敷を改造しているようで、敷地の規模とお屋敷の大きさはローズマリーとほぼ同じぐらい。ただ居住部分と店舗部分を半分半分に使っているローズマリーとは違い、彼方はスタッフ用のバックヤードを除けばほぼお屋敷全体が店舗エリア。当然カフェスペースも広いのだろうし、個室の数も恐らくこちらの倍以上。
おまけにプリミアンローズには本来の主力商品である焼き菓子があり、そこにローズマリーと同じ商品が並んでしまえば、当然待ち時間がゼロのライバル店へと流れていく事だろう。
せめて私にも5年に一人の天才とか、話題性のありそうなネタでもあれば対抗できるのだろうが、生憎と私はハルジオン公爵家の威を借る狐。とてもじゃないが天才少女には敵わないだろう。
「アリス様、もしかしてご存知ありませんか?」
「何が?」
「アリス様は菓子業界に光を照らした女神だと言われているのですよ?」
ブフッ
「ちょっ、何その恥ずかしい二つ名は! 初めて聞いたわよ!」
ディオンの話によれば、3年前にこの国を襲った大飢饉で、お菓子業界は予想以上に大きなダメージを負い、多くの有名菓子店が閉店を余儀なくされた。
それがローズマリーが出来た事で再びお菓子にスポットが当たり、下火になりつつあった菓子業界が再び息を吹き返して来ているのだという。
まぁそうよね。飢饉と言えば食べる物がなくなるわけだし、贅沢品でもあるお菓子は当然真っ先に下火になる。
もともと貴族は屋敷に料理人を抱えているわけで、別段菓子店が無くなったとしてもそれほど困らない。その当時の事は私にはわからないが、恐らく多くの菓子職人が職とお店を失った事だろう
「知らなかったわ、そんな事が王都で起こっていただなんて」
3年前と言えばフィオーネ異母姉様が娼婦館へ売られた年。
小さなデュランタン騎士爵領でも大変な状況だったので、さぞ人が多く集まる王都では結構な騒ぎになったのだろう。
「取り敢えず女神だなんだと、いろいろ突っ込みたいところではあるけれど、そのニーナって子が凄いってのは理解できたわ」
前世の記憶という、ズルをしている立場としては少々耳が痛いが、多くの人たちから天才児と言われているニーナは、恐らく本物の逸材。
若干16歳にも関わらずここまで実力を伸ばしてきたのは、まず間違いなく少女の努力そのもの。出来ることなら今すぐ友達になって、お菓子作りの話で盛り上がりたいが、アルター男爵家の庇護下となるとそうはいかない。
「ランベルト、ディオン。二人はどう思う? そのフェアリアルケーキって商品は例の盗まれたレシピが関わっていると思うかしら?」
「確証はありませんが、アルター男爵様との面会からレシピの盗難。そこから準備期間を考えたとしても、タイミング的に無関係とは言い切れません」
まず間違いなく何らかの形で関わっているでしょう」
「そうよね」
プリミアンローズと男爵家は繋がっているのだと言うし、盗難から店の準備まで期間を考えればこちらもピタリと当て嵌まる。
極め付けはフェアリアルケーキと、商品名にケーキと入っているのだから関連性は非常に高い。
「私もランベルトと同じ意見なのですが、ロマーナとニーナを知る者としてどうしても割り切れない一線がございまして」
ディオンが言うには父親は誰にでも慕われる温厚な人物で、娘のニーナも父親思いの愛らしい少女だったのだという。
ただ二人と会ったのは2年ほど前が最後らしく、ディオンは公爵家でお弟子さんの教育に取り組み、ロマーナさんの方は大飢饉の影響をもろに受けてお店を閉店。その後お互い忙しくなってしまい、めっきり連絡を取る事がなくなってしまったとの事だった。
私は本人達には会った事がないので何とも言えないが、14歳といえば少女から大人に変わる大変な時期。
もしフェアリアルケーキが盗まれたレシピを元に作られているのなら、チーフであるニーナが知らないわけないだろう。ケーキの作り方は未だ何処にも好評していないのだし、騎士団が今も引き続き調査をしているのだから、必ず何処かで盗難の噂は耳にしているはず。
それでも手を貸しているのならば、悪事に染まっても気にならない人物か、もしくは従わなけれいけない深い理由があるかのどちらか一択だ。
「ディオンの気持ちはわからないでも無いけど、アルター男爵家が関わっていると分かっては、手は抜け無いわよ」
「わかっております。私とて負けるつもりはございません」
何と言っても彼方はローズマリーを潰すと言ってきているのだ。これがまだ正々堂々の勝負ならこちらも真正面から立ち向かうのだが、彼方は最低限のルールさえ守らず、この店に盗みに入るという攻撃を仕掛けて来たのだ。ならばそれ相応の報いを受けてもらわなければ気がすまい。
まぁ、何かを仕掛けるといっても、結局私が出来る事といえば正面切っての正々堂々しかないだけだが、その為の準備は整えて来たつもりだ。
少々チョコレートの調整がまだ終わっていないという現状ではあるが、季節限定メニューも練って来たし、新作のお茶やハーブティーなんかも追加してきたので、後は彼方のオープンに備えての最終調整を残すのみ。
果たして勝利の行方は女神に降りるのか、それとも天才少女に降りるのか。
それから約半月後、レガリアの王都レーネスに、アルター男爵家が影で経営するプリミアンローズがオープンする。
だけど時を同じくして、私に別の不幸が降り注ぐのだった。
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