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四章 華都の讃歌
第67話 フレッド再び(前半)
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目の前に現れた男性を一目見て、私は心の中で深いため息をひとつ吐く。
いやね、実はこうなるんじゃないとは思っていたのよ。
フローラ様は男爵家絡みは気にしなくてもいいとおっしゃっていたが、それはご子息であるフレッドに対しての話ではない。
これがもしアルター男爵様ご本人ならば、恨み言の一言二言はあるだろうが、夜会のような人目の多いところでは、それほど激し討論とまではいかないだろう。
彼方もあれで国から爵位を預かっているのだし、大勢の貴族が集まる中では、これ以上の恥の上塗りのような真似はしてはこない筈だ。だけど私が知るフレッドはその一般常識が通用ない。
いつだったか私が父の死から、スランプに陥った時の事を覚えているだろうか?
あの時はプリミアンローズの開店と、ローズマリーに対する盗作の疑惑に加え、私は父の死に負い目を感じていた頃だったので、心身ともにボロボロの状態だった。
結果を見ればあの一件があったおかげで、私はスタッフ達とより近しい関係になれたのだが、あの日フレッドに対して突きつけられた言葉を忘れたわけではないのだ。
私はやや疲れ気味に、心の中でもう一度深いため息を吐き。
「お久しぶりでございます、アルター様」
まずは貴方とは何の関係もないのよと、ファミリーネーム呼びで軽くジャブを入れる。
「久しぶりだねアリス」
私の皮肉たっぷりな挨拶に気づけないのか、何事もないかのように挨拶を返すフレッド。
「アリスちゃん、お知り合い?」
そうか、ルテアちゃんはフレッドの顔は知らないのね。
「ルテア様、こちらアルター男爵家のフレッド様です」
「アルター男爵家? あぁ、例の……」
非常に簡単な紹介だったが、どうやらそれだけでルテアちゃんには理解してもらえた様子。
一応私からは実家にいた頃の婚約者だったとか、その婚約破棄が原因で実家を飛び出すキッカケになっただとか、その辺りの説明は一通りしているが、ルテアちゃんにとっては別の意味でも耳に入っている事だろう。
あれは男爵家が王都に拠点を移そうとしている頃、事もあろうか私絡みでエンジウム家に探りを入れたという、小さな事件が裏で起こっていたのだ。
詳しい話は聞かされてはいないのだが、どうやら男爵様は私が懇意にしているハルジオン公爵家と勘違いしたらしく、逆に探りを入れられた事で、エンジウム公爵家から目をつけられる羽目になってしまった。
フローラ様いわく、『どうせアリスを利用して、公爵家との繋がりを持ちたいだとか、息子を婿入りさせようとでも考えていたのでしょ』との事だった。
今考えると、公爵家に探りを入れようなどと、よく考えたものだと感心するほどだ。
「アリス、話があるんだ」
「申し訳ありませんが、私の方にはございません」
「なっ!?」
冷たいとか言うなかれ、どうせろくな話ではないだろうし、わざわざご丁寧に話を聞いてあげる義理も恩もない。
そもそも私に喧嘩をふっかけてきたのは其方なのだし、喧嘩を収束させたつもりも全くないのだ。
「お手間をとらせましたルテア様」
「待てって!」
私が本気に立ち去ろうとする姿に焦ったのか、フレッドが慌てて回り込むように道を塞ぐ。
「何のつもりでしょうか?」
「僕はただ話を聞いて欲しいだけなんだ。君だって知っているだろう? いま男爵家が置かれている状況を」
聞いてもいないのに一方的に話しを切り出すフレッド。
おそらく彼が言っているのはプリミアンローズの経営不振と、それに連なる多額の借金の事を言っているのだろう。
もともとロクな計画も無しに初めた経営だったのか、オープン当初こそ順調にみえたプリミアンローズも、次第に出費額が売上げ額を大きく上回り、現在はいつ店が潰れてもおかしくない状況が続いていると聞いている。
プリミアンローズという店自体も、言わばフランチャイズ契約の様なものだし、店の規模だって売り上げ目的だけで、その集客力も計画性が全く見えない状態。
確かにオープン当初はその勢いと、ライバル店へのあらぬ噂の浸透で、一時は大きく集客力をあげていたが、やがてオープンの賑わいが落ち着くと、その客数は落ち込み、追い打ちを掛けるようにローズマリーのリニューアルオープンで、更にその人数を減らしてしまった。
そうなると次に問題になるのが、広すぎる店内と抱えているスタッフの人数というわけ。通常店舗を開くとき、その土地や居住数に合わせて計画を立てていくものだが、売り上げという目的に目がくらみ、キャパを大きく見誤ってしまったのだ。
もちろん対策として店内を間切にしたり、スタッフの人数も減らせばいいのだが、プリミアンローズのオーナーであるブリュフェルは、事もあろうかスタッフの数だけを減らしてしまった。
その結果ガラガラに見えてしまう店内に、十分に行き届かない接客サービス。貴族の方々はそういったサービス面を重視される傾向があるため、些細な不手際があるだけでも信用を取りものすのは一苦労。
そんな状況が今なお続いていると聞いているので、店を閉じるのも時間の問題だと囁かれている。
はぁ……。
私はフレッドにもわかるよにため息をつき。
「もちろん存じております。男爵家の存亡すら危うい事も」
自業自得とはいえ、その原因となる半分は私が仕掛けたのだから当然であろう。
現在私がフローラ様から得ている情報では、男爵家が抱えている負債は領地収入のおよそ10年分。他にもプリミアンローズ絡みの未払い金も多くある様だし、王都に拠点を移した際の費用も相当あると聞いている。
ただ救いなのは安定した領地収入があるという点なのだが、先に私に対しての不埒な噂と、この間起こった誘拐事件との一件で、男爵家の評判はもちろん、関係するすべての施設から、取引の断りやら契約の見直しなどの二次被害受けているとの話だった。
「僕は男爵家の次期当主なんだ。例え男爵家がこんな自体になったとしても、領民達の生活は守らなければいけない。君だって以前言っただろ? 領主は領民あっての領主なのだと」
うーん、言ったかしら?
私としては領主たるものの良識として、それらしい話を昔していた気もするが、それらすべての会話を覚えているわけではない。
「だから僕は今こそ立ち上がり、この状況を打開すべく全力で立ち向かわないと考えている」
「……」
彼は一体何が言いたいのだろう? 突如決意表明などされても、こちらとしは正直困惑するのみ。
そもそも領主が領民の生活を考えるのは当たり前の事だし、それを私に宣言されても『はい、そうですか』としか、答えようがないでないか。
もしフレッドが領民のために頑張るというのなら応援するが、その決意表明は領民の前でこそするものであり、関係のない私の前で宣言するようなものでは決してない。
「ご立派なお考えだとは思いますが、それを私の前で言われましても……」
もしかしてこれが貴族の常識? と思い、隣にいるルテアちゃんの様子を伺うも、こちらも一体何が起こっているのかもわかっていないご様子。
「わかっている。これは僕の決意表明なんだ」
「はぁ、それでその決意表明を私にされて一体どうされるおつもりなので?」
「アリス、男爵家の人間として改めて頼みたい。僕に……、いや男爵家のために融資してもらえないだろうか?」
「融資……ですか?」
もしここで結婚してくれ、なんて頼まれたら本気で殴っていたかもしれないが、融資となれば話しは変わる。私が願っていた結果とはいえ、ここまで男爵家が負債を抱えているとは思ってもみなかったのだ。
これでも私は人の心を持つ一人の人間。男爵家を追い込んだ事には後悔はないが、これがキッカケで領民の生活が圧迫してしまうのは私の本意ではない。
フレッドが本当に心を入れかえ、次期当主として本気で領民達のために男爵家を建て直すというのなら、多少なりの融資や投資はしてもいいかとは考えていた。
「どうだろう、ここは僕を助けると思って力を貸して貰えないだろうか?」
少々引っかかる言い回しだが、融資をする事で、今後男爵家からの嫌がらせがなくなるのはありがたい。
ただあのフレッドが私に対して下手にでているのが気にはなるが、それほど男爵家の懐事情がピンチというのならば納得もできる。もちろん融資に値するかの判断はささせてはもらうが。
「……わかりました。ただし条件が二つ」
「条件? わかった、その条件を言ってみてくれ」
私は『ふっ』と息を整え。
「まず私に対して謝罪。男爵様との一件はこちらにも非がございますので、今更謝罪は求めませんが、フレッド様との一件は別です。覚えておいでですよね? あの日、ローズマリーに来て私に何をおっしゃったのかを」
「くっ……」
お金は人の性格を変えるとはよく言うが、あの時のフレッドはまさにその通りのクズ人間だった。
自分が優位に立っているとみるや、売上の低迷で悩んでいた私に、上から目線で『かしずけ』とまで言ってきたのだ。それなのにあの事を無視にして、形勢が逆転しから融資をして欲しいでは誰も納得できないだろう。
「別に正式な手続きでの謝罪を求めているわけではありません。ただ一言謝ってほしいだけです」
彼方にも貴族としてのプライドはあるだろうし、平民でもある私に頭を下げるのも何かと問題もある。ならば非公式に一言、失礼な発言をしてすまなかったと、謝罪を入れてもらえればこちらの気も幾らか晴れるというもの。
「……わかった。この場では無理だが、後日改めてと言うのなら」
「それで結構です」
うっかり次に会う約束をしてしまったが、どうせもう一度は会わなければいけないのだからと、無理やり自分を納得させる。
「それで、もう一つの条件というのは?」
「計画書ですよ。細かな部分まではけっこうですが、大まかな道筋を知らない事には融資もできませんし」
こちらも融資をするからには、その資金を使ってどのように建て直すかを知っておかなければ、簡単にお金を貸すわけにはいかないだろう。
正直男爵家の負債を全て賄えと言われても、そこまでの蓄えは私にはないのだし、内容によっては提示された金額から差し引かなければならない場合だってあるのだ。
別に無償の投資をしようと言うわけではないのだから、その辺りの確認だけはしっかりしておくのは、別におかしな話ではないはずだ。
男爵家から嫌がらせを受けた身としては、少々ゆるい条件だったのだが、フレッドから返ってきた言葉は、私が考えもしない回答だった。
いやね、実はこうなるんじゃないとは思っていたのよ。
フローラ様は男爵家絡みは気にしなくてもいいとおっしゃっていたが、それはご子息であるフレッドに対しての話ではない。
これがもしアルター男爵様ご本人ならば、恨み言の一言二言はあるだろうが、夜会のような人目の多いところでは、それほど激し討論とまではいかないだろう。
彼方もあれで国から爵位を預かっているのだし、大勢の貴族が集まる中では、これ以上の恥の上塗りのような真似はしてはこない筈だ。だけど私が知るフレッドはその一般常識が通用ない。
いつだったか私が父の死から、スランプに陥った時の事を覚えているだろうか?
あの時はプリミアンローズの開店と、ローズマリーに対する盗作の疑惑に加え、私は父の死に負い目を感じていた頃だったので、心身ともにボロボロの状態だった。
結果を見ればあの一件があったおかげで、私はスタッフ達とより近しい関係になれたのだが、あの日フレッドに対して突きつけられた言葉を忘れたわけではないのだ。
私はやや疲れ気味に、心の中でもう一度深いため息を吐き。
「お久しぶりでございます、アルター様」
まずは貴方とは何の関係もないのよと、ファミリーネーム呼びで軽くジャブを入れる。
「久しぶりだねアリス」
私の皮肉たっぷりな挨拶に気づけないのか、何事もないかのように挨拶を返すフレッド。
「アリスちゃん、お知り合い?」
そうか、ルテアちゃんはフレッドの顔は知らないのね。
「ルテア様、こちらアルター男爵家のフレッド様です」
「アルター男爵家? あぁ、例の……」
非常に簡単な紹介だったが、どうやらそれだけでルテアちゃんには理解してもらえた様子。
一応私からは実家にいた頃の婚約者だったとか、その婚約破棄が原因で実家を飛び出すキッカケになっただとか、その辺りの説明は一通りしているが、ルテアちゃんにとっては別の意味でも耳に入っている事だろう。
あれは男爵家が王都に拠点を移そうとしている頃、事もあろうか私絡みでエンジウム家に探りを入れたという、小さな事件が裏で起こっていたのだ。
詳しい話は聞かされてはいないのだが、どうやら男爵様は私が懇意にしているハルジオン公爵家と勘違いしたらしく、逆に探りを入れられた事で、エンジウム公爵家から目をつけられる羽目になってしまった。
フローラ様いわく、『どうせアリスを利用して、公爵家との繋がりを持ちたいだとか、息子を婿入りさせようとでも考えていたのでしょ』との事だった。
今考えると、公爵家に探りを入れようなどと、よく考えたものだと感心するほどだ。
「アリス、話があるんだ」
「申し訳ありませんが、私の方にはございません」
「なっ!?」
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そもそも私に喧嘩をふっかけてきたのは其方なのだし、喧嘩を収束させたつもりも全くないのだ。
「お手間をとらせましたルテア様」
「待てって!」
私が本気に立ち去ろうとする姿に焦ったのか、フレッドが慌てて回り込むように道を塞ぐ。
「何のつもりでしょうか?」
「僕はただ話を聞いて欲しいだけなんだ。君だって知っているだろう? いま男爵家が置かれている状況を」
聞いてもいないのに一方的に話しを切り出すフレッド。
おそらく彼が言っているのはプリミアンローズの経営不振と、それに連なる多額の借金の事を言っているのだろう。
もともとロクな計画も無しに初めた経営だったのか、オープン当初こそ順調にみえたプリミアンローズも、次第に出費額が売上げ額を大きく上回り、現在はいつ店が潰れてもおかしくない状況が続いていると聞いている。
プリミアンローズという店自体も、言わばフランチャイズ契約の様なものだし、店の規模だって売り上げ目的だけで、その集客力も計画性が全く見えない状態。
確かにオープン当初はその勢いと、ライバル店へのあらぬ噂の浸透で、一時は大きく集客力をあげていたが、やがてオープンの賑わいが落ち着くと、その客数は落ち込み、追い打ちを掛けるようにローズマリーのリニューアルオープンで、更にその人数を減らしてしまった。
そうなると次に問題になるのが、広すぎる店内と抱えているスタッフの人数というわけ。通常店舗を開くとき、その土地や居住数に合わせて計画を立てていくものだが、売り上げという目的に目がくらみ、キャパを大きく見誤ってしまったのだ。
もちろん対策として店内を間切にしたり、スタッフの人数も減らせばいいのだが、プリミアンローズのオーナーであるブリュフェルは、事もあろうかスタッフの数だけを減らしてしまった。
その結果ガラガラに見えてしまう店内に、十分に行き届かない接客サービス。貴族の方々はそういったサービス面を重視される傾向があるため、些細な不手際があるだけでも信用を取りものすのは一苦労。
そんな状況が今なお続いていると聞いているので、店を閉じるのも時間の問題だと囁かれている。
はぁ……。
私はフレッドにもわかるよにため息をつき。
「もちろん存じております。男爵家の存亡すら危うい事も」
自業自得とはいえ、その原因となる半分は私が仕掛けたのだから当然であろう。
現在私がフローラ様から得ている情報では、男爵家が抱えている負債は領地収入のおよそ10年分。他にもプリミアンローズ絡みの未払い金も多くある様だし、王都に拠点を移した際の費用も相当あると聞いている。
ただ救いなのは安定した領地収入があるという点なのだが、先に私に対しての不埒な噂と、この間起こった誘拐事件との一件で、男爵家の評判はもちろん、関係するすべての施設から、取引の断りやら契約の見直しなどの二次被害受けているとの話だった。
「僕は男爵家の次期当主なんだ。例え男爵家がこんな自体になったとしても、領民達の生活は守らなければいけない。君だって以前言っただろ? 領主は領民あっての領主なのだと」
うーん、言ったかしら?
私としては領主たるものの良識として、それらしい話を昔していた気もするが、それらすべての会話を覚えているわけではない。
「だから僕は今こそ立ち上がり、この状況を打開すべく全力で立ち向かわないと考えている」
「……」
彼は一体何が言いたいのだろう? 突如決意表明などされても、こちらとしは正直困惑するのみ。
そもそも領主が領民の生活を考えるのは当たり前の事だし、それを私に宣言されても『はい、そうですか』としか、答えようがないでないか。
もしフレッドが領民のために頑張るというのなら応援するが、その決意表明は領民の前でこそするものであり、関係のない私の前で宣言するようなものでは決してない。
「ご立派なお考えだとは思いますが、それを私の前で言われましても……」
もしかしてこれが貴族の常識? と思い、隣にいるルテアちゃんの様子を伺うも、こちらも一体何が起こっているのかもわかっていないご様子。
「わかっている。これは僕の決意表明なんだ」
「はぁ、それでその決意表明を私にされて一体どうされるおつもりなので?」
「アリス、男爵家の人間として改めて頼みたい。僕に……、いや男爵家のために融資してもらえないだろうか?」
「融資……ですか?」
もしここで結婚してくれ、なんて頼まれたら本気で殴っていたかもしれないが、融資となれば話しは変わる。私が願っていた結果とはいえ、ここまで男爵家が負債を抱えているとは思ってもみなかったのだ。
これでも私は人の心を持つ一人の人間。男爵家を追い込んだ事には後悔はないが、これがキッカケで領民の生活が圧迫してしまうのは私の本意ではない。
フレッドが本当に心を入れかえ、次期当主として本気で領民達のために男爵家を建て直すというのなら、多少なりの融資や投資はしてもいいかとは考えていた。
「どうだろう、ここは僕を助けると思って力を貸して貰えないだろうか?」
少々引っかかる言い回しだが、融資をする事で、今後男爵家からの嫌がらせがなくなるのはありがたい。
ただあのフレッドが私に対して下手にでているのが気にはなるが、それほど男爵家の懐事情がピンチというのならば納得もできる。もちろん融資に値するかの判断はささせてはもらうが。
「……わかりました。ただし条件が二つ」
「条件? わかった、その条件を言ってみてくれ」
私は『ふっ』と息を整え。
「まず私に対して謝罪。男爵様との一件はこちらにも非がございますので、今更謝罪は求めませんが、フレッド様との一件は別です。覚えておいでですよね? あの日、ローズマリーに来て私に何をおっしゃったのかを」
「くっ……」
お金は人の性格を変えるとはよく言うが、あの時のフレッドはまさにその通りのクズ人間だった。
自分が優位に立っているとみるや、売上の低迷で悩んでいた私に、上から目線で『かしずけ』とまで言ってきたのだ。それなのにあの事を無視にして、形勢が逆転しから融資をして欲しいでは誰も納得できないだろう。
「別に正式な手続きでの謝罪を求めているわけではありません。ただ一言謝ってほしいだけです」
彼方にも貴族としてのプライドはあるだろうし、平民でもある私に頭を下げるのも何かと問題もある。ならば非公式に一言、失礼な発言をしてすまなかったと、謝罪を入れてもらえればこちらの気も幾らか晴れるというもの。
「……わかった。この場では無理だが、後日改めてと言うのなら」
「それで結構です」
うっかり次に会う約束をしてしまったが、どうせもう一度は会わなければいけないのだからと、無理やり自分を納得させる。
「それで、もう一つの条件というのは?」
「計画書ですよ。細かな部分まではけっこうですが、大まかな道筋を知らない事には融資もできませんし」
こちらも融資をするからには、その資金を使ってどのように建て直すかを知っておかなければ、簡単にお金を貸すわけにはいかないだろう。
正直男爵家の負債を全て賄えと言われても、そこまでの蓄えは私にはないのだし、内容によっては提示された金額から差し引かなければならない場合だってあるのだ。
別に無償の投資をしようと言うわけではないのだから、その辺りの確認だけはしっかりしておくのは、別におかしな話ではないはずだ。
男爵家から嫌がらせを受けた身としては、少々ゆるい条件だったのだが、フレッドから返ってきた言葉は、私が考えもしない回答だった。
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