華都のローズマリー

みるくてぃー

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四章 華都の讃歌

第74話 フローラ様の正体(後編)

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「少しは落ち着いたかしら?」
「その……少しは……」
 脳が完全活動……というにはまだ早いが、目の前の事実だけは何とか理解することは出来た。
 どうやらラナというお名前は、街に出られるときの偽名なんだそうで、本当の名前はラフィーナ・レーネス・レガリアといい、正真正銘このレガリア王国の王妃様に在らせられるんだそうだ。
 ラフィーナ様曰く『フローラ義姉様とレティシアが、楽しそうにアリスちゃんおの話をするんですもの、悔しくなっちゃってお店の方に押しかけちゃったわ』との事だった。
 すると今回のチョコレートの話ってもしかすると……

「ふふふ、私が推したのよ。自分が食べたかった、というのもあるのだけれど」
「そういう事だったんですね」
 私はてっきりフローラ様が無理やりねじ込んだのかとも疑っていたが、蓋を開ければ常連客だったラフィーナ様が、単純に大好きなチョコレート推薦してくださったという事なのだろう。
「それにしてもご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした」
「いいのよ、別に知らない中というわけでもないのだし、アリスちゃんのトラブル発生率は私も興味があったの。お陰で面白いものがみれたわ」
 いやいや、人をトラブルメーカーみたいに言うのは止めてもらいたいところだ。

「言ったでしょ、アリスといると飽きないって」
「ふふふ、ホントそうね。でもトラブル率なら義姉様もよく起こすって、陛下もおっしゃっていたわよ。いつも巻き込まれる身にもなれ、ってボヤキながらね」
「ま、まぁ、そんな事もあったわね」
 いつになく、若干目を泳がせるフローラ様。
 私はお二人が一緒におられる席にはご縁がなかったのだが、お二人はとても仲のいいご友人なのだろう。もしかするとこの中にレティシア様が入り、いつも3人でお茶会でもされていると考えれば、いろんな事に納得されられる。

「そういえばラフィーナ様って、フローラ様とはご親戚の間柄なのですよね?」
「えぇ、そうね」
「それじゃご出身はハルジオン公爵家のご関係になるのですか?」
 先ほどからラフィーナ様はフローラ様の事を義姉様と呼んでおられるし、エイリーク王子もジーク様の事を兄上呼んで話し込まれている。チェリーティアちゃんは私の事をお姉様と呼んでいるけど、そこはまだ幼さから親族という概念が理解仕切れていないのだろう。

「逆よ逆」
「逆?」
「私が元、王族なのよ」
「…………は?」
 おうぞく? フローラ様が王族?
「やぱっり知らなかったようね」
「……………………え、えぇーーーーー!!!!????」
 本日私は何度驚きの声をあげれば済むのだろうか。まだラフィーナ様の正体を知って平常心に戻れていないというのに、そのうえ今度はフローラ様のご出身が王家なのだという。

「ふふふ、ホント見ていて飽きないわね」
「義姉様、わかっててワザと黙っていませんでしたか?」
「当然でしょ、レティシアに見せられなかったのは少し残念だけどね」
 わ、私を一体なんだと……。
 いやいや、そもそも私ごときがフローラ様に敵うはずもないのだが、まさかここに来てとんでもない秘密を暴露されるとは思いもしていなかった。
「感謝しなさい、アリスが驚いてもいいように場所を用意してあげたのだし、これだけ驚いておけば、この先些細な事で動揺することなんて滅多にないわよ」
「そうね、この先公爵家に入る事を考えれば、今のうちに心を強くしておいた方がいいわね」
 二人してなに勝手な事を言っているんですか。確かに公爵夫人ともなれば、それ相応の強さはひつようなのだろうが、残念な事に今のところ私もジーク様にも、その様な前触れば以前見え隠れもしていない、と思いたい。

「そ、それで、驚きついでに確認したいのですが、フローラ様が王族ってことは、陛下とはどの様なご関係になられるのですか?」
「私が姉でアムルタートが弟ね。一応言っておくけど、アムルタートは陛下の名前よ」
「あ、姉ですか……」
 何と言うかめっちゃ納得出来てしまうから怖いわ。
 するとエヴァルド様との結婚は恐らく恋愛の末のものなのだろう。王女様が嫁ぐなら、長男であるイヴァルド様に嫁がれるはずなので、次男であるエヴァルド様と結ばれるなら、恋愛関係だったと考えた方が自然だろう。

「確か義姉様がイヴァルド様の婚約を破り捨て、エヴァルド様に無理やり詰め寄ったんでしたね。私と結婚しなさいって」
「ふふふ、懐かしいわね。あの頃は私も若かったから色々無茶をしたものよ。でも結果をみれば一目瞭然でしょ? エヴァルドも私に想いを寄せていたし、私もあの人の事を好いていたから、その兄と結婚しろを言われたら暴れるのもとうぜんじゃない」
 いやいや、面白おかしく話され入るけれど、それかなり大事件ですから。当時の関係者はさぞ胃を痛められていた事だろう。

「さて、あまりここで寛いでいるわけにもいかないわね。ラフィーナもそろそろ帰してあげないと弟になにを言われるかわからないわ」
 そう言えばそうだった。驚きと混乱ですっかり忘れていたが、隣の会場では未だ夜会の真っ最中。時間的も結構すぎてしまっているので、恐らく陛下の入場は終わってしまった後ではないだろうか。
「すみません私のせいで」
「気にしなくていいわよ。陛下が一人で入場する事なんてよくある事だし、ラフィーナは一度みんなの前に顔を出しているのだから大丈夫よ」
「でもバラバラだと逆に不仲説とか流れたりしませんか?」
 素人の考えだが、片方のみ出席ならば健康説がささやかれ、バラバラで出席すれば不仲説が囁かれる。前世の芸能ニュースでそんな記事を見かけた事があった。

「あら、いいわねそれ。楽しそう」
「いやいや、全然楽しくありませんから、フローラ様のような事はおっしゃらないでください」
「ふふ、ずいぶん言う様になったわね、でも心配しなくても大丈夫よ。二人とも名実ともにおしどり夫婦だし、陛下がラフィーナを大事にしている事は有名な話だからね。あとで一緒にいる姿を見せればまったく問題はないはずよ」
「そうなんですね」
 そういえばフローラ様とエヴァルド様の関係も、見ている方が恥ずかしくなるぐらいラブラブなんだったっけ?
 親同士が結婚を決める貴族社会の中では珍しいが、やはり結婚するなら見ている方が恥ずかしくなるぐらい、いい夫婦仲になりたいと思うのは自然な事だろう。

 ……ジーク様、私はあなたの隣に立つに相応しい人間なのでしょうか?
 再びジーク様の隣に並び、会場へと戻る私たち。
 いつの日だったか私はジーク様の前で大泣きをしてしまった。あの日からより強く意識してしまった熱くて苦しいこの想い。
 身分も違う、教養力も遠く及ばない。もし私にあるとすれば、それはもう一方的な片思いでしかないのだ。
 フローラ様もルテアちゃんも、私とジーク様をくっ付けたがっているようだが、それを決めるのはジーク様ご本人と公爵家に連なる一族の方々。もしかするとご当主である公爵様の一言で黙らされるのかもしれないが、多かれ少なから遺恨は残る事だろう。
 いくら想いを寄せても、私の恋が報われる保証は何処にもない。寧ろ私は一度婚約を破棄された言わば中古の物件。天下の公爵家がわざわざ笑い者になるようなネタを招きいれるとは考えにくく、何処からか必ず私を非難する者は出てくるはずだ。
 こんな辛い想いをするのなら、ジーク様を好きにならなければ良かったのに……。
 
「ふふ、そんなに熱い視線を送っちゃって。若いっていいわね」
「なっ!?」
「私としてはいい加減素直になってほしいのだけれど、先はまだまだ長そうね」
「ぐふっ!」
 一人で感傷に浸っているというのに、何故かラフィーナ様とフローラ様のダブルパンチで、ノックアウトされる可哀想な私。
 もう少し私の気持ちも尊重してほしいと思うのは贅沢なのだろうか。

 でもまぁ、もう少しこういう関係が続くのもいいのかもしれないわね。
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