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四章 華都の讃歌
第73話 フローラ様の正体(前編)
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「貴女って何処にいてもトラブルを起こすのね」
「うぅ、ごめんなさい」
兄と別れた後、隠密スキルを全開にして会場の隅っこへ隠れていたのだが、はやりフローラ様の目には誤魔化しきれなかったようで、控え室のような部屋へ連れこまれた上で、現在ジーク様と共にお説教を受け続けている。
「でもまぁいいわ。貴女の言いたい事は全て伝えたのでしょ?」
「はい」
このあと再び兄との話し合いは続くのだが、私の中では既に決着はついているので、気分的には清々しい思いの方が遥かに大きい。
「まったく、貴女達の騒ぎを誤魔化すのは大変だったのよ」
「えっ、何かしていただいていたんですか?」
「当たり前でしょ、あれだけ大声を出しておいて、騒ぎにならないわけがないじゃない」
「うぐっ」
「わざわざジークを側に付けていたというに、この子ったら肝心な時に役に立たないんだから」
「「うぐぐっ」」
傷跡に塩を塗るかように、フローラ様の言葉が私とジーク様に突き刺さる。
ただ言い訳をさせてもらえるなら、大声を出したのは私ではなく兄なのだし、ジーク様は私の感情を尊重して見守ってくれていただけなので、むしろ被害者は私でジーク様はそのとばっちりを受けてしまっただけ。
まぁ、兄を怒らせるようにしてしまった責任はあるが、あの場で穏便に済ませるような人間がいれば、それはもう聖人君主しかいないのではないだろうか。
「本当にすみません……」しゅん。
諸悪の根源である兄が見逃され、私だけが怒られるのもどうかとは思うのだが、夜会を騒がせてしまった事は反省すべき事案。ここは心の底から再度謝罪しておく。
「それでその……一つ質問してもいいでしょうか?」
「えぇ、いいわよ」
反省する時間はこれで終了。フローラ様もお説教するためだけに、この部屋に連れ込んだ訳でも無いだろうから、この場を利用して先程から気になっている質問を投げかけさせて頂く。
「先程おっしゃっていた『騒ぎを誤魔化』した、というのは一体何をしていただいたのでしょうか?」
自分で言うのもなんだが、怒った兄の声は相当な音量だったはず。
いくら音楽や招待客の話し声でかき消されたとしても、注目される事は必至だった。それなのに私が確認した範囲では、大きな騒ぎにまでは発展しておらず、寧ろ別の何かに興味が移っていたようにも感じていた。
もしその何かが、フローラ様の手によるものだったとしたら、純粋に妙味を持ってしまうのは仕方がない事だろう。
「もう、貴女って子は。ラフィーナが出てきて、私とレティシアの3人で招待客を引きつけておいたのよ。後で二人にはお礼を言っておきなさい」
「あぁ、だからですか」
社交界の華とまで囁かれるフローラ様とレティシア様。その二人が一緒にいるのだから注目されるのは当然であろう。でももう一人のラフィーナ様って?
「わかりました、後でお二人にはお礼へ伺います。でもラフィーナ様って、私お会いした事がないんですか?」
「何言っているのよ、このレガリアの王妃でしょうが」
「……えっ?」
突如出てきた王妃様の名に、思わず戸惑いの言葉が漏れてしまう。
別に王妃様の名前を知らなかったという訳では決してない。これでも一応レガリア国民の一人として、王様と王妃様の名前ぐらいは把握している。だけどこの場合、王妃様は私を助けてくださった訳であり、その理由と存在の大きさから軽く混乱してしまったのだ。
「えっと、同じ名前のそっくりさん……的な?」
「バカね、本人に決まっているでしょ」
いやいや、そのご本人に私は面識がないと言ってるんですって。
王妃とはこの国の母とも言われる立場の人、そんな方が私ごときを助けるために手を貸してくださったのだという。
「冗談……、ですよね?」
「冗談なわけないでしょ。……でもそうね、そうだったわ」
冗談ではないと否定しておきながら、何かを思い出されたかような仕草をされるフローラ様。
「うん、まぁいいわ。もう直ぐここに来るはずだから、先にラフィーナへお礼を言っておきなさい」
「こ、ここに来られるんですか!?」
一体何を納得されたのかは知ら無いが、心の準備もなしに王妃様との面談はさすがに心臓に悪すぎる。しかも私はたったいまご迷惑をお掛けしたばかりなのだ。さすがに最初のご挨拶が謝罪だなんて、どう対応していいのかわからないじゃないか。
「そんなに怯えなくても大丈夫よ。案外笑って返してくれるんじゃないかしら」
「そ、そうだといいんですが……」
この時点で私の心臓はバクバク状態。
フローラ様は大丈夫だとおっしゃっているが、それは公爵夫人の立場だからいえるセリフ。とてもじゃないが一般人に過ぎない私が、直接面会なんて出来る方では無いのだ。
「……来たようね」
「?」
パタパタと淑女にはふさわしくない足音が聞こえたかと思うと、コンコンとノックされる扉の音。
フローラ様の言葉が正しければ扉の外におられるのは王妃様らしいが、いまの子供が走るような足音と、王妃様の想像図がまるで釣り合わ無い。
だけどそんな私の心境を無視するように、扉が無造作に開かれる。
キィー、パタン。ぱたぱたぱた、どん、ぎゅーっ。
「あれ? チェリーティアちゃん?」
ドアが開くなり私の元に駆けつけて、ドンっと体当たりしてきたかと思うと、ぎゅーっと抱きついてくる可愛いチェリーティアちゃん。
よく見るといつもの街着風ドレスではなく、しっかりと作り込まれた可愛らしい淑女用のドレスを身につけている。
「なんでチェリーティアちゃんがここに?」
確か夜会に出席できる年齢は14歳からだったわよね? 今年で13歳になるユミナちゃんでもお留守番なのに、まだ8歳のチェリーティアちゃんがここに居るはずはないのだが。
「コラ、挨拶もなしに飛びつくのは失礼だろうか」
聞きなれ無い声の方を見ると、そこにおられたのは私のよく知る人物と、そのお子様だと思われる一人の男の子。そういえば10歳になる息子さんがおられるんだと、以前に聞いたこと思い出す。
「ごめんなさいねアリスちゃん。チェリーティアがどうしても付いてくるんだと聞かなくて」
「いえ、それいいんですが、どうしてラナ様がここに? お隣の方は息子さんですか?」
「えぇ、そうよ。エリクに会うのは初めてだったわよね」
前に紹介したかもしれないが、ラナ様はフローラ様の遠い親戚らしく、私に取ってもローズマリーのお得意様。いつも娘であるチェリーティアちゃんと一緒に来てくださり、私もエリスも随分をチェリーティアちゃんを可愛がっているという経緯がある。
「初めまして、エイリーク・レーネス・レガリアと言います。ジーク兄様もお久しぶりです」
「あ、ご丁寧に、私はアリス・ローズマリーと言いま……」
……あれ、れがりあ?
視界の隅でジーク様が、『おう、久しぶりだな』とか挨拶をしているが、私の脳が完全に考えることを拒否してしまっている。
「えっと、夢?」
「ふふ、何バカなことをいっているのよ、この国の王太子様よ」
呆れた、というよりも寧ろ私の反応を楽しんでおられるように、フローラ様が私を現実に戻そうとそっと耳打ちされる。
私の聞き間違いではなければ、ラナ様のお隣の方は王子様で、その母親であるラナ様は王妃様となるわけであり、当然いま私に抱きついているのはこの国にの王女様ということになる。
「………………え、えぇーーーーー!!!!?????」
「まぁ、こうなるわな」
呆れられるジーク様のお姿が視界の端に映るのだった。
「うぅ、ごめんなさい」
兄と別れた後、隠密スキルを全開にして会場の隅っこへ隠れていたのだが、はやりフローラ様の目には誤魔化しきれなかったようで、控え室のような部屋へ連れこまれた上で、現在ジーク様と共にお説教を受け続けている。
「でもまぁいいわ。貴女の言いたい事は全て伝えたのでしょ?」
「はい」
このあと再び兄との話し合いは続くのだが、私の中では既に決着はついているので、気分的には清々しい思いの方が遥かに大きい。
「まったく、貴女達の騒ぎを誤魔化すのは大変だったのよ」
「えっ、何かしていただいていたんですか?」
「当たり前でしょ、あれだけ大声を出しておいて、騒ぎにならないわけがないじゃない」
「うぐっ」
「わざわざジークを側に付けていたというに、この子ったら肝心な時に役に立たないんだから」
「「うぐぐっ」」
傷跡に塩を塗るかように、フローラ様の言葉が私とジーク様に突き刺さる。
ただ言い訳をさせてもらえるなら、大声を出したのは私ではなく兄なのだし、ジーク様は私の感情を尊重して見守ってくれていただけなので、むしろ被害者は私でジーク様はそのとばっちりを受けてしまっただけ。
まぁ、兄を怒らせるようにしてしまった責任はあるが、あの場で穏便に済ませるような人間がいれば、それはもう聖人君主しかいないのではないだろうか。
「本当にすみません……」しゅん。
諸悪の根源である兄が見逃され、私だけが怒られるのもどうかとは思うのだが、夜会を騒がせてしまった事は反省すべき事案。ここは心の底から再度謝罪しておく。
「それでその……一つ質問してもいいでしょうか?」
「えぇ、いいわよ」
反省する時間はこれで終了。フローラ様もお説教するためだけに、この部屋に連れ込んだ訳でも無いだろうから、この場を利用して先程から気になっている質問を投げかけさせて頂く。
「先程おっしゃっていた『騒ぎを誤魔化』した、というのは一体何をしていただいたのでしょうか?」
自分で言うのもなんだが、怒った兄の声は相当な音量だったはず。
いくら音楽や招待客の話し声でかき消されたとしても、注目される事は必至だった。それなのに私が確認した範囲では、大きな騒ぎにまでは発展しておらず、寧ろ別の何かに興味が移っていたようにも感じていた。
もしその何かが、フローラ様の手によるものだったとしたら、純粋に妙味を持ってしまうのは仕方がない事だろう。
「もう、貴女って子は。ラフィーナが出てきて、私とレティシアの3人で招待客を引きつけておいたのよ。後で二人にはお礼を言っておきなさい」
「あぁ、だからですか」
社交界の華とまで囁かれるフローラ様とレティシア様。その二人が一緒にいるのだから注目されるのは当然であろう。でももう一人のラフィーナ様って?
「わかりました、後でお二人にはお礼へ伺います。でもラフィーナ様って、私お会いした事がないんですか?」
「何言っているのよ、このレガリアの王妃でしょうが」
「……えっ?」
突如出てきた王妃様の名に、思わず戸惑いの言葉が漏れてしまう。
別に王妃様の名前を知らなかったという訳では決してない。これでも一応レガリア国民の一人として、王様と王妃様の名前ぐらいは把握している。だけどこの場合、王妃様は私を助けてくださった訳であり、その理由と存在の大きさから軽く混乱してしまったのだ。
「えっと、同じ名前のそっくりさん……的な?」
「バカね、本人に決まっているでしょ」
いやいや、そのご本人に私は面識がないと言ってるんですって。
王妃とはこの国の母とも言われる立場の人、そんな方が私ごときを助けるために手を貸してくださったのだという。
「冗談……、ですよね?」
「冗談なわけないでしょ。……でもそうね、そうだったわ」
冗談ではないと否定しておきながら、何かを思い出されたかような仕草をされるフローラ様。
「うん、まぁいいわ。もう直ぐここに来るはずだから、先にラフィーナへお礼を言っておきなさい」
「こ、ここに来られるんですか!?」
一体何を納得されたのかは知ら無いが、心の準備もなしに王妃様との面談はさすがに心臓に悪すぎる。しかも私はたったいまご迷惑をお掛けしたばかりなのだ。さすがに最初のご挨拶が謝罪だなんて、どう対応していいのかわからないじゃないか。
「そんなに怯えなくても大丈夫よ。案外笑って返してくれるんじゃないかしら」
「そ、そうだといいんですが……」
この時点で私の心臓はバクバク状態。
フローラ様は大丈夫だとおっしゃっているが、それは公爵夫人の立場だからいえるセリフ。とてもじゃないが一般人に過ぎない私が、直接面会なんて出来る方では無いのだ。
「……来たようね」
「?」
パタパタと淑女にはふさわしくない足音が聞こえたかと思うと、コンコンとノックされる扉の音。
フローラ様の言葉が正しければ扉の外におられるのは王妃様らしいが、いまの子供が走るような足音と、王妃様の想像図がまるで釣り合わ無い。
だけどそんな私の心境を無視するように、扉が無造作に開かれる。
キィー、パタン。ぱたぱたぱた、どん、ぎゅーっ。
「あれ? チェリーティアちゃん?」
ドアが開くなり私の元に駆けつけて、ドンっと体当たりしてきたかと思うと、ぎゅーっと抱きついてくる可愛いチェリーティアちゃん。
よく見るといつもの街着風ドレスではなく、しっかりと作り込まれた可愛らしい淑女用のドレスを身につけている。
「なんでチェリーティアちゃんがここに?」
確か夜会に出席できる年齢は14歳からだったわよね? 今年で13歳になるユミナちゃんでもお留守番なのに、まだ8歳のチェリーティアちゃんがここに居るはずはないのだが。
「コラ、挨拶もなしに飛びつくのは失礼だろうか」
聞きなれ無い声の方を見ると、そこにおられたのは私のよく知る人物と、そのお子様だと思われる一人の男の子。そういえば10歳になる息子さんがおられるんだと、以前に聞いたこと思い出す。
「ごめんなさいねアリスちゃん。チェリーティアがどうしても付いてくるんだと聞かなくて」
「いえ、それいいんですが、どうしてラナ様がここに? お隣の方は息子さんですか?」
「えぇ、そうよ。エリクに会うのは初めてだったわよね」
前に紹介したかもしれないが、ラナ様はフローラ様の遠い親戚らしく、私に取ってもローズマリーのお得意様。いつも娘であるチェリーティアちゃんと一緒に来てくださり、私もエリスも随分をチェリーティアちゃんを可愛がっているという経緯がある。
「初めまして、エイリーク・レーネス・レガリアと言います。ジーク兄様もお久しぶりです」
「あ、ご丁寧に、私はアリス・ローズマリーと言いま……」
……あれ、れがりあ?
視界の隅でジーク様が、『おう、久しぶりだな』とか挨拶をしているが、私の脳が完全に考えることを拒否してしまっている。
「えっと、夢?」
「ふふ、何バカなことをいっているのよ、この国の王太子様よ」
呆れた、というよりも寧ろ私の反応を楽しんでおられるように、フローラ様が私を現実に戻そうとそっと耳打ちされる。
私の聞き間違いではなければ、ラナ様のお隣の方は王子様で、その母親であるラナ様は王妃様となるわけであり、当然いま私に抱きついているのはこの国にの王女様ということになる。
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