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しおりを挟む昨日呼ばれた医者がまたやってきた。
「記憶に混濁が見られるそうですね。
特定の人物がいない。ということですね?
頭をぶつける前、最後にあったのがその人物ですか?あるいはその人物の話でもされていましたか?
事例で聞いたことはあります。見たくない・思い出したくない人物が記憶から消えることがあると。」
ライラは、ぶつける前の記憶は両親と何かを話していたことだが、内容は覚えてないと言った。
両親に確認すると、話の内容は記憶から消えた人物の話だったと言った。
「記憶というのは不思議でしてね。稀にあるんですよ。部分的な記憶喪失が。
あるいは、自分の都合が良いように勝手に頭の中を改ざんしてしまう場合もあります。
思い出す場合もあれば、ずっと忘れたままの場合もあります。
無理矢理思い出させようとすると、頭痛に苦しむと聞きます。
間違った記憶があっても、極力否定しないことをお勧めします。
思い出させるよりも新しく日々の記憶をつくっていくことが大切な場合もありますよ。」
そう言った医者の話に、両親は微妙な顔をしていた。ライラは気にしていなかった。
医者が帰り、両親はどうしたらいいか頭を悩ませていた。
そこにライラが楽しそうに話し始めた。
「ねぇ、お父様、お母様。
あと2か月で学園を卒業して、その3か月後がテオドール様との結婚でしょ?
ウエディングドレスももうすぐ仕上がるし、楽しみだわ。
来月の最後の試験が終わったら、リュージュ伯爵家に通っていいかしら?
部屋の内装とか確認したいし、少しずつ女主人として学びたいし。いいかしら?」
…その予定はケントが相手のはずだった。
18歳で学園を卒業するケントに合わせて16歳でライラは学園を卒業し、3か月後に嫁ぐ。
リュージュ伯爵家は、ケントしか子がおらず、しかも女主人もいない。
ケントの母は、跡取りは産んだと領地で自由に生活し、愛人をつくり離縁後亡くなった。
なので、ライラと早く結婚し、子を設けることを望まれていたのである。
「…ライラ、リュージュ伯爵は、今37歳だ。お前の21歳年上なんだぞ?わかってるのか?」
「もちろんよ。早く結婚して子供を産んで、彼のそばに居たいわ。」
嬉しそうに語るライラを見て、どうすればよいのかわからない。
ケントの時はこんな笑顔で語っていただろうか。
5か月後に結婚を控えながら駆け落ちしたということは、ライラとケントの仲はうまくいってなかったことになる。
だが、今のライラにそのことを確認しようにも覚えていないのだ。
「もっと年の近い婚約者を探してやるぞ?
学園にも18歳まで通えばいい。そうだ。もっと友人とも…」
ライラの気を変えようと説得し始めていると、彼女の目から大粒の涙が流れ始めた。
「どうしてそんなことを言うの?テオドール様との結婚をこんなに待ち望んでいるのに!
彼と結婚できないなら、平民になってリュージュ家で働くわ。
私はテオドール様のそばに居たいの!!」
「わかった。わかった。落ち着けライラ。悪かった。
そうだな。ひとまず、来月の最終試験に向けて頑張れ。
それが終わらないと、伯爵とも会わせられないぞ?」
「そうね。頑張らないと。」
そう言って部屋に戻るライラを両親は見送った。
「はぁー。どうすればいいんだ…」
「あの子の記憶はいつ戻るの?なぜこんなことになってしまったのかしら…」
「ひとまず、リュージュ伯爵に報告しようと思う。
まさかとは思うが、ライラが伯爵家を訪れないとも限らない。
このままでは話が通じないからな。」
ため息をつきながら、リュージュ家に先触れを出し、出掛ける準備を始めた。
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