私の婚約者は誰?

しゃーりん

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「何故こんなことに…」

「ライラがリュージュ伯爵が婚約者だと言ってしまったことが発端のようです。申し訳ない。」

この時点ですでにケントの廃籍は済んでおり、ライラとの婚約は解消されている。
実は、婚約手続きは必ずしも必要ではなく、そのまま結婚しても法の上では問題ない。
ただ、結婚の数か月~1年前には教会に予約をするため、調べれば事前にわかる。

正式に婚約を結ぶ利点は、事業に影響がある場合や上位貴族からの婚約申込を回避できることである。
ちなみに書面で婚約を結んだか口約束かは言わなければわからないが、貴族は慣習上、書面が多い。
なので、ライラがリュージュ伯爵と婚約していると言ったことが事実のように聞こえてしまう。

そして4か月後の結婚式の教会は申し込んだままであり、その予約者はリュージュ伯爵家とマロリー伯爵家。
個人名ではなく家名で押さえている。
これも稀に結婚相手が兄弟姉妹に変更されることがあるため、珍しくない。
ご丁寧に調べたどこかの誰かのお陰で、噂は補強されつつある。


「リュージュ伯爵、ライラは今日で最終試験が終わり、ひと月後の卒業まで午後は毎日時間があります。
 おそらく、これから伯爵家へ喜んで通うつもりでしょう。
 記憶は戻っていないし、ライラの中だけでなく世間的にあなたは婚約者になってしまった。
 今が最後の分かれ道です。ライラを受け入れますか?拒否しますか?」

「マロリー伯爵、夫人、あなた方はライラ嬢を私に嫁がせることに抵抗はないのですか?」

「あなたを婚約者だと思ってるライラは、毎日が楽しそうです。
 失礼だが、ケント君の時には見られなかった姿だ。
 たとえあなたとの結婚後に記憶が戻ったとしても、あの子はそのまま受け入れるでしょう。
 妻となることを拒否され、平民としてあなたの側にいることも拒否されますか?」

リュージュ伯爵を答えようとした時、応接室のドアがノックされライラが入室した。

「ただいま帰りました。
 テオドール様、いらっしゃいませ。久しぶりにお会いできて嬉しいです。
 ひょっとして、迎えに来て下さったのですか?」

ライラが輝くような笑顔を向けて言う。

「ああ。ライラ嬢。
 試験が終わったんだってね。
 良ければ、一緒にうちへ行こう。着替えておいで。」

「わかりました。準備してきますね。」

ライラが退室し、テオドールはライラの両親に向けて頭を下げた。

「ライラ嬢との結婚をお許しください。
 あの笑顔を曇らせるようなことを私はしたくないと思ってしまった。
 若い妻を娶ることによる周りからの妬みや嫉みを私は受け止めます。」

「わかりました。ライラをよろしくお願いいたします。
 元々、結婚式も披露宴も身内だけの予定で、発送もまだでしたね。
 お互い身内が少なく小うるさい親族がいなくて幸いでした。
 あと必要なのは、あなたの衣装くらいです。
 ライラは初婚です。式は面倒でしょうが、ライラのウエディングドレス姿を我々は楽しみにしてるのです。
 覚悟してくださいね。」

「ライラ嬢の思いのままに、お手伝いさせて頂きます。」


そこに、ライラが戻ってきた。

「お父様、テオドール様も昼食をご一緒していいわよね?
 準備してくれてるそうなの。
 食堂へ行きましょ?」


四人は昼食を食べながら、今後の予定を話し合っていた。
結婚式に出席する身内の最終確認と発送が最優先。
リュージュ伯爵家の内装や家具の見直し。
披露宴(昼食会)のメニューや宿泊の有無。

その後、ライラはテオドールと馬車に乗り、リュージュ家へと向かった。
応接室に入りライラに、着替えてくるので少しの間ここにいるように伝える。
その隙に、執事に侍女侍従を集めさせた。
テオドール自身がライラと結婚すること。
ケントの話はしないこと。
これから4ヶ月後の結婚に向けてライラがよく来るようになるので、女主人として接すること。
それらを周知するよう伝えた。
ライラを呼びに行き、皆の前で改めて報告した。

「皆も知っていると思うが、マロリー伯爵家のライラ嬢、私の婚約者だ。
 4ヶ月後の結婚に向けて、今日から女主人として皆には接してもらう。
 彼女の指示に従うように。以上だ。」

「ライラです。いろいろ教えてくださいね。よろしくお願いします。」


使用人に挨拶した後、テオドールに案内されたのは私室であった。

「ここが私の部屋で寝る時はこの個人用で寝ている。
 隣に通じるドアがこれだ。隣は使っていないが、通常は夫婦の寝室になる場所だ。
 その向こう側のドアが君の私室になる部屋だ。」

そう言い、ドアを開けてくれた。
夫婦の寝室にもライラの私室になる部屋も…空っぽだった。


 
 
 
 
 
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