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しおりを挟む友人ミンディーナの誘いを受けて、セラヴィは侍女のシャナと共にマッシュ領に向かっていた。
行き慣れた侯爵領へ向かう道中とは違う領地の街を泊まりながら移動するのは目新しい物や食べたことのない食事などがあって楽しかった。
ミンディーナが、あちらこちらでお勧めを教えてくれるからだ。
いつか、ミンディーナをうちの領地にも誘ってみたい。セラヴィはそう思った。
しかし、夜ひとりになるとふと考えてしまう。
予定では、今頃はトレッドと一緒に領地へと向かっていた。
来年は結婚する予定だったので、隣の領地といっても今までみたいに自由に侯爵領をウロウロするわけにはいかない。
なので、この長期休暇では領地の好きだったところを結婚前に見て回ろうと思っていた。
結婚してからは、伯爵領をあちこち回ろうともトレッドと話していたのに………
未だにトレッドとの未来を未練がましく思い出す自分に、セラヴィは嫌になるのだ。
泣いてはいけない。
泣いたら目が腫れて、ミンディーナも侍女のシャナも気にしてしまうわ。
ミンディーナには申し訳ないけれど、この旅で心の傷が癒えるとは思えない。
移動で疲れているはずなのに、なかなか寝付けない日々をセラヴィは送っていた。
そして到着したマッシュ領にある本邸は見晴らしのいい場所に建てられた綺麗な屋敷だった。
「お兄様!お久しぶりです。」
ミンディーナが私の腕を取って、ミンディーナの2番目の兄であるライガー様の前まで連れて行った。
ライガー様にちゃんとお会いするのは2度目で2年半ぶりだった。
「相変わらず元気そうだね、ミンディーナは。
セラヴィ嬢、お久しぶりですね。疲れたでしょう?
部屋に案内させますので、まずは旅の疲れを癒してください。」
「ありがとうございます、ライガー様。
ミンディーナの言葉に甘えて来てしまいました。しばらくお世話になります。」
ライガー様は私たちよりも2歳年上で今は20歳。
男性としては小柄で細身の方だったけれど、更に華奢になられた気が……
お奇麗な顔を見ると、女装すれば女性に見えるかも……なんて思ってしまったくらい。
ひとまず滞在する部屋に案内してもらい、旅衣装から簡素なワンピースに着替えた。
ミンディーナからは楽な格好で動き回れる服だけでいいと言われていたから。
王都と違って領地にいる時は、いろんな意味で解放感がある。
お茶を一緒に、と言われていたので迎えに来てくれた使用人に案内されてテラスに来た。
テラスには、ライガー様とミンディーナが先に待っていた。
「お待たせしました。景色が綺麗に見えるお部屋をありがとうございます。」
丘の上から見渡す景色はとても美しかった。
セラヴィの侯爵領は隣国との境に近く、山や鉱山などが多い。
だがここは、湖や森、平野が広がっていた。
だから景色を見下ろすように、屋敷は高台に造られたようだった。
「王都にはない長閑な景色でしょ?丘を下れば街もすぐよ。美味しい食べ物もいっぱいあるわ。」
「それは屋敷の料理人も出してくれるだろう?」
「そうだけど、街で食べるのも開放感があっていいのよ?露店もあるし。」
「楽しみだわ。」
セラヴィも領地に行った時は、何度か露店のものを食べたことがある。……トレッドと一緒に。
思い出のほとんどにトレッドがいることにセラヴィは悲しい気持ちになった。
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