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しおりを挟むミンディーナの兄ライガーは、セラヴィの顔が一瞬曇ったことを見逃さなかった。
「セラヴィ嬢、どうかされましたか?」
「……え?あ、いえ。なんでもありません。
それよりライガー様、私のこともミンディーナと同じように気軽な口調で構いません。」
「そう?じゃあ、そうさせてもらうね。
セラヴィ嬢、胸の内に溜め込んだままでいるのはよくないよ?
泣いてもいいし、怒ってもいい。口に出して話してごらん?」
ライガーは優しい口調でセラヴィを促した。
「……露店って聞いて、領地でトレッドと食べたことを思い出しました。
私の記憶のほとんどは、トレッドと過ごしたことばかりなんです。」
「物心ついた頃からの付き合いって、厄介ね。」
ミンディーナの言葉に、ライガーは言った。
「思い出はその当時の大切な記憶だ。
その頃から彼に問題があったならともかく、幸せだった頃まで苦痛に思う必要はないよ。
記憶はどんどん新しいものが積み重なっていく。
例えば、ここに来る時に2人はどこかの街の露店で既に食べたんじゃないか?」
「そうよ!あの店主、セラヴィにだけサービスしたんだから!」
「でもそれは、私が初めてだと言ったからじゃないかしら。」
「そういう時は2人共にサービスすべきだわ!」
思い出して怒るミンディーナを、セラヴィが笑っているとライガーが言った。
「セラヴィ嬢の露店の思い出は、新たにミンディーナとの思い出も加わった。
そうした何かに限定した思い出だけじゃなくて、普通の生活でも毎日が同じではない。
その中には、彼と関係ない楽しいこともいっぱいあるよね。
君は彼を憎んでいる気持ちがなさそうだから、自分を憐れんでいるんじゃないかな。」
「自分を憐れむ……私は私が可哀想だって思っているってこと?」
それって自分が悲劇の主人公を気取っているってこと?そんなつもりはない……ない?
「なんかわかるかも。悪い意味に取らないでね?
セラヴィは、幼馴染だから、婚約者だから、トレッドを好きになるものだと思っていた。
好きにならなければいけないから、好きになっていた。そんな気がするわ。」
「私はトレッドが好きじゃなかったってこと?」
「ううん。好きだったんだと思うよ。
でも、そこに使命感が入っていた気がするの。きっかけが何かはわからないけれど。
親に仲良くしなさいって言われたとか、助けてあげなきゃとか。」
「使命感……でも、婚約者に好意を抱きたいって思うものよね?」
「そりゃ、政略結婚でも仲良くしたいと思うものね。当然よ。
セラヴィみたいな愛し方もなくはないんだろうけど、なんて言うのかな……
お兄様、セラヴィはトレッドがよそ見をしても相手の手を取らずに戻って来ればそれでいいって。
トレッドに一度も文句を言わなかったの。」
「それはまた……寛大な心というか、彼を信じていたんだね。
だけど、注意されないとわからない人もいる。
誰も注意しなかったことで、彼の気持ちに歯止めがかからなかったのかもしれない。」
「逆に燃え上がる人もいそうだけどね。」
ライガーとミンディーナの言葉に、セラヴィは考え込んでしまった。
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