5 / 50
5.
しおりを挟むもうオリオール侯爵家に戻るつもりはない。
ローレンスは執務室にある金になりそうな物や数回着ただけの夜会用の服などを詰めるだけカバンに詰め込んで、夜中にこっそりと家出した。
平民として自由に暮らす。
逃げた先で行き倒れることになっても、あそこに留まって殺されるよりはいいと思った。
夜が明けて、邪魔な物を全て換金した。
その金で馬車に乗り、少しでも王都から離れた街へと向かった。
ところどころで留まって、日雇いで金を稼いだりもした。
意外とそんな暮らしも楽しかった。
そんな暮らしを半年ほど続けた。
そしてある時、運命を変える出会いが訪れた。
ある町の宿で、ひどく具合の悪そうな男とそれを心配している若い女がいた。
ローレンスが受付をしている間に、男のほうがとうとう倒れた。
「バレル、大丈夫?ねぇ、どこが痛い?」
すると受付の女性が言った。
「多分、それククル熱だよ。ここに来る前の街で半生のククルでも食べたんじゃないの?」
ククルという食べ物は熱をよく通す必要があり、半生で食べてしまうと5日間くらい高熱が続くらしい。
人に移る病気ではないが、水分を摂らせたりして面倒を見ないと衰弱死する可能性があるという。
「御者みたいだけど、宿にその男を置き去りにして出て行かないでね?」
「……病院はありますか?」
「あるけど、入院させるの?お嬢さん、急ぎなのかな?」
「はい。なので……」
彼女としても病人をここに置いていくのは心苦しいのだろう。
だけど、先に進まなければならないらしい。
「ちょっと、あんた。その男を担いで病院に運んでやってくれない?」
「……僕?」
「そう。うちの旦那は腰を痛めそうだから運ばせたくない。少し前に痛めたところだから。
あんたもひ弱そうだけど若いから背負うくらいできるでしょう?」
家を出て半年以上経ってもまだひ弱そうに見えるらしい。
ひょろひょろと背ばかり高い棒のような体型からは大分マシになったと思っていたのに。
だが、奥から出てきた宿の主人を見て分かった。
彼に比べれば、確かにローレンスはひ弱そうなのかもしれない、と。
その宿の主人に手伝ってもらって、ローレンスは病人の男を背負った。
「病院はどこだろうか?」
宿の主人に案内されて、男を背負ったローレンスと女性は病院へと向かった。
男の入院手続きを待つ間、女性と少し話をした。
「ご迷惑をおかけして申し訳ございません。」
言葉遣いが丁寧だ。貴族にしては身なりも侍女もいないのも変だから、平民のいいところのお嬢さんか?
小柄で可愛らしい女性。そうか。自分の好みはこういう女性なのだと気づいた。
「いや、それより、彼は御者じゃないのか?」
「そうなのです。もう馬車では移動できそうにありません。ここから東の辺境まで行く方法をご存知ですか?」
「貸馬車か、乗り合い馬車か、だろうな。辺境までここから4日くらいか?よければ僕が御者の代わりをしようか?」
「あなたが?御者の方なのですか?」
「いや、違う。定住場所を探して旅をしているんだ。御者の真似事は少ししたことがある。」
馬車での荷物運びをして稼いだこともあるから。
525
あなたにおすすめの小説
勝手にしなさいよ
棗
恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……
生命(きみ)を手放す
基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。
平凡な容姿の伯爵令嬢。
妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。
なぜこれが王太子の婚約者なのか。
伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。
※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。
にんにん。
〖完結〗旦那様には本命がいるようですので、復讐してからお別れします。
藍川みいな
恋愛
憧れのセイバン・スコフィールド侯爵に嫁いだ伯爵令嬢のレイチェルは、良い妻になろうと努力していた。
だがセイバンには結婚前から付き合っていた女性がいて、レイチェルとの結婚はお金の為だった。
レイチェルには指一本触れることもなく、愛人の家に入り浸るセイバンと離縁を決意したレイチェルだったが、愛人からお金が必要だから離縁はしないでと言われる。
レイチェルは身勝手な愛人とセイバンに、反撃を開始するのだった。
設定はゆるゆるです。
本編10話で完結になります。
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
〖完結〗冤罪で断罪された侯爵令嬢は、やり直しを希望します。
藍川みいな
恋愛
「これより、サンドラ・バークの刑を執行する!」
妹を殺そうとした罪で有罪となった私は、死刑を言い渡されました。ですが、私は何もしていない。
全ては、妹のカレンが仕組んだことでした。
刑が執行され、死んだはずの私は、何故か自分の部屋のベッドの上で目を覚ましたのです。
どうやら時が、一年前に戻ったようです。
もう一度やり直す機会をもらった私は、二度と断罪されないように前とは違う選択をする。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全14話で完結になります。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
殿下が好きなのは私だった
棗
恋愛
魔王の補佐官を父に持つリシェルは、長年の婚約者であり片思いの相手ノアールから婚約破棄を告げられた。
理由は、彼の恋人の方が次期魔王たる自分の妻に相応しい魔力の持ち主だからだそう。
最初は仲が良かったのに、次第に彼に嫌われていったせいでリシェルは疲れていた。無様な姿を晒すくらいなら、晴れ晴れとした姿で婚約破棄を受け入れた。
のだが……婚約破棄をしたノアールは何故かリシェルに執着をし出して……。
更に、人間界には父の友人らしい天使?もいた……。
※カクヨムさん・なろうさんにも公開しております。
婚約破棄は踊り続ける
お好み焼き
恋愛
聖女が現れたことによりルベデルカ公爵令嬢はルーベルバッハ王太子殿下との婚約を白紙にされた。だがその半年後、ルーベルバッハが訪れてきてこう言った。
「聖女は王太子妃じゃなく神の花嫁となる道を選んだよ。頼むから結婚しておくれよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる