7 / 50
7.
しおりを挟む明日には辺境に着く。
それがわかっているせいか、メロディーナの様子も少し変だった。
夕食を終え、メロディーナが言ってきた。
「少し、散歩に行きませんか?」と。
ローレンスは喜んで頷いた。
「ランスさん、手を繋いでもいいですか?」
「ああ。」
ローレンスが手を差し出すと、メロディーナが小さい手を乗せてきたのでそれを握った。
妻だったジョスリンほど手入れされていない手。それでも気分が高揚した。
「ドキドキするわ。こうして男の人と歩くの、初めて。」
「僕も、かな。なんか、幸せだな。」
そう呟くと、メロディーナは顔を真っ赤にした。
しまった。まるで口説いているように思われたかもしれない。気持ち悪く思っただろうか。
しかし、メロディーナは繋いだ手をギュッと握ってくれた。
それからは他愛もない話をしながら楽しく散歩をしてから、宿に戻った。
隣同士の部屋の前で繋いでいた手を放そうとした。
「おやすみ。また明日。」そう言おうとして。
しかし、メロディーナは手を放そうとしなかった。
「あ、あの、えっと、一緒に、一晩過ごしませんか?」
「…………え?」
「ダメ、ですか?嫁ぐ前に、あなたとの思い出が欲しくて。」
「…………いいの?」
「しばらく、自由はないと思うから。」
結婚して介護に明け暮れる日々になる。解放されるのは夫が死ぬとき。
先の見えない不安が、メロディーナに大胆な行動をさせているのだろう。
彼女の勇気を窘めることなど、ローレンスはできなかった。
あってはならないことだとわかっている。
だが、彼女の手を振りほどくことなどしたくなかった。
ローレンスはメロディーナを引き寄せ、部屋へと入った。
幸せな一夜を過ごし、離れがたく朝まで抱き合って眠った。
翌朝、今日は目的地に到着するだろう。
夕べのことはお互いに口にせず、出発した。
メロディーナに場所を確認したとき、愕然とした。
彼女の結婚相手は、前辺境伯だったのだ。
となると、メロディーナはやはり貴族か?
純潔を失ったメロディーナが咎められることはないのか?
ローレンスはひどく動揺したが、メロディーナが追い出されるようであれば一緒に逃げればいいと腹を括った。
前辺境伯の屋敷は、本邸から離れたところにあった。
メロディーナが金と引き換えに買われることになった経緯はわからないが、彼女が実家よりも居心地のいい場所になればと願った。
ローレンスに手を振り、メロディーナは屋敷の中へと姿を消した。
ローレンスは、再び4日かけて馬車を御者の元へと戻した。
御者は元気になっており、ローレンスに感謝した。
それから再び、ローレンスは東の辺境を目指した。
メロディーナの近くで暮らす。彼女を見守りたいのだ。
もちろん、メロディーナには知らせない。付きまとう気持ち悪い男と思われたくない。
今のローレンスには、彼女が自分の生きる意味になってしまった。
自分でもわかる。初恋に溺れる重い男だ。
537
あなたにおすすめの小説
生命(きみ)を手放す
基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。
平凡な容姿の伯爵令嬢。
妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。
なぜこれが王太子の婚約者なのか。
伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。
※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。
にんにん。
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……
藍川みいな
恋愛
「アナベル、俺と結婚して欲しい。」
大好きだったエルビン様に結婚を申し込まれ、私達は結婚しました。優しくて大好きなエルビン様と、幸せな日々を過ごしていたのですが……
ある日、お姉様とエルビン様が密会しているのを見てしまいました。
「アナベルと結婚したら、こうして君に会うことが出来ると思ったんだ。俺達は家族だから、怪しまれる心配なくこの邸に出入り出来るだろ?」
エルビン様はお姉様にそう言った後、愛してると囁いた。私は1度も、エルビン様に愛してると言われたことがありませんでした。
エルビン様は私ではなくお姉様を愛していたと知っても、私はエルビン様のことを愛していたのですが、ある事件がきっかけで、私の心はエルビン様から離れていく。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
かなり気分が悪い展開のお話が2話あるのですが、読まなくても本編の内容に影響ありません。(36話37話)
全44話で完結になります。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
殿下が好きなのは私だった
棗
恋愛
魔王の補佐官を父に持つリシェルは、長年の婚約者であり片思いの相手ノアールから婚約破棄を告げられた。
理由は、彼の恋人の方が次期魔王たる自分の妻に相応しい魔力の持ち主だからだそう。
最初は仲が良かったのに、次第に彼に嫌われていったせいでリシェルは疲れていた。無様な姿を晒すくらいなら、晴れ晴れとした姿で婚約破棄を受け入れた。
のだが……婚約破棄をしたノアールは何故かリシェルに執着をし出して……。
更に、人間界には父の友人らしい天使?もいた……。
※カクヨムさん・なろうさんにも公開しております。
婚約破棄は踊り続ける
お好み焼き
恋愛
聖女が現れたことによりルベデルカ公爵令嬢はルーベルバッハ王太子殿下との婚約を白紙にされた。だがその半年後、ルーベルバッハが訪れてきてこう言った。
「聖女は王太子妃じゃなく神の花嫁となる道を選んだよ。頼むから結婚しておくれよ」
【完結】あなたに抱きしめられたくてー。
彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。
そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。
やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。
大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。
同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。
*ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。
もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる