側妃としての役割

しゃーりん

文字の大きさ
14 / 14

14.

しおりを挟む
 
 
フェリシアが出産するひと月ほど前、国王とフェリシア、アンバーとショーンの四人だけで話す機会があった。
その時、国王が疑問に思っていたことを聞いた。

「王妃が自国で逃げ出した時、駆け落ちだと情報では伝わっていた。
 それなのに王妃が連れ戻された後、ショーンはなぜ処分を受けなかったのだ?」

尤もな疑問であった。

「それはね、理由の一つが駆け落ちではなかったからよ。逃げる私に護衛のショーンがついてきたの。
 その時は、まだ王女と護衛、ただそれだけの関係だった。
 父の国王は、私への見せしめにショーンを処罰した上で護衛のまま側に置いたの。

 父がショーンに下した罰は、子供が作れないようにしたこと。
 子供が産めない私に子作りできないショーンを側に置くことで私への戒めにしたの。

 でもね、父が知らないことがあるのよ。 
 父は『子作りできないように元を絶て』と言ったの。つまり『切り落とせ』と。
 それを命令された騎士団長は国王の命令を正確に理解していた。
 でも、男として騎士として横暴に感じたのでしょうね。
 護衛の任務を果たしただけだもの。私についてくるのも仕事でしょ?
 子作りできないってことは子種を絶てばよい。つまり子種を死滅させる方を選んだの。
 命令に背いたわけではないわ。解釈の違いよ。
 父は未だに知らないでしょうね。」

「騎士団長に経緯を説明され、薬を飲むように言われました。
 『下半身を見せるわけじゃないんだからバレない』と笑ってました。
 『数日だけ医者の所にいろ。アリバイだ』と。
 あの人には感謝しています。」

「ショーンが護衛に復帰した後、処罰を聞いていた私は申し訳なくて謝ったの。
 謝ってもどうしようもないことだけれど、私の護衛だったばかりに人生が変わってしまった。
 そんな私に、こっそり教えてくれた。薬を飲んだだけだと。
 元々、私についてこの国にもついて行くつもりだから結婚する気もないから問題ないって。 
 その少し後、あなたが極秘で確認に来られたのよ。
 チャンスだと思った。あの国から逃げたかった。だから駆け落ちの誤解を解かなかった。
 護衛として恋人としてショーンを連れていく契約が結べた。
 実際にお互いを唯一と決めたのはその後よ。」

「そういうことか。なるほどな。騎士団長はいい男だな。」

国王はニヤっと笑ってショーンに言った。

「ええ。本当に。」

男にとっては耐え難い屈辱である。処刑された方がマシと言われるほどだ。
実際、切り落としの処罰後、感染症により死亡するという二重の苦しみを負った者もいる。


「王妃、ショーン。お前たちはこの国に来てよかったと思ってくれているか?」

「もちろんよ。満足してるわ。」

「私もです。寛大なお心に感謝しております。」


四人の、通常ではあり得ない極秘の関係はこれからも長く続くことになる。
それこそ、国王陛下が退位しフェリシアと移ることにした離宮でも四人一緒だった。


改めて気持ちを確認し、満足のいく話し合いを終えた。



その後フェリシアは王子を二人、王女を二人の四人の子供を産んだ。
結果、側妃になってから10年程はほとんど公務をすることがなかった。

滅多に外に出れないフェリシアに不満はなかったのだろうか?
彼女は満足していた。
令嬢や夫人方の不躾な視線もないし、腹の探り合いもない。嫌味も妬みもない。
大切に思う人々に囲まれ、囲われていることを認識しながら幸せに暮らしていた。



こうしてフェリシアは国王と王妃に守られ、子を産むという立派な『側妃としての役割』を果たしたのだった。





<終わり>


しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

【完結】初恋の彼に 身代わりの妻に選ばれました

ユユ
恋愛
婚姻4年。夫が他界した。 夫は婚約前から病弱だった。 王妃様は、愛する息子である第三王子の婚約者に 私を指名した。 本当は私にはお慕いする人がいた。 だけど平凡な子爵家の令嬢の私にとって 彼は高嶺の花。 しかも王家からの打診を断る自由などなかった。 実家に戻ると、高嶺の花の彼の妻にと縁談が…。 * 作り話です。 * 完結保証つき。 * R18

禁断の関係かもしれないが、それが?

しゃーりん
恋愛
王太子カインロットにはラフィティという婚約者がいる。 公爵令嬢であるラフィティは可愛くて人気もあるのだが少し頭が悪く、カインロットはこのままラフィティと結婚していいものか、悩んでいた。 そんな時、ラフィティが自分の代わりに王太子妃の仕事をしてくれる人として連れて来たのが伯爵令嬢マリージュ。 カインロットはマリージュが自分の異母妹かもしれない令嬢だということを思い出す。 しかも初恋の女の子でもあり、マリージュを手に入れたいと思ったカインロットは自分の欲望のためにラフィティの頼みを受け入れる。 兄妹かもしれないが子供を生ませなければ問題ないだろう?というお話です。

【4話完結】 君を愛することはないと、こっちから言ってみた

紬あおい
恋愛
皇女にべったりな護衛騎士の夫。 流行りの「君を愛することはない」と先に言ってやった。 ザマアミロ!はあ、スッキリした。 と思っていたら、夫が溺愛されたがってる…何で!?

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。  生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。  けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。  それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。  その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。 その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。

【完結】夢見たものは…

伽羅
恋愛
公爵令嬢であるリリアーナは王太子アロイスが好きだったが、彼は恋愛関係にあった伯爵令嬢ルイーズを選んだ。 アロイスを諦めきれないまま、家の為に何処かに嫁がされるのを覚悟していたが、何故か父親はそれをしなかった。 そんな父親を訝しく思っていたが、アロイスの結婚から三年後、父親がある行動に出た。 「みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る」で出てきたガヴェニャック王国の国王の側妃リリアーナの話を掘り下げてみました。 ハッピーエンドではありません。

【完結】私は義兄に嫌われている

春野オカリナ
恋愛
 私が5才の時に彼はやって来た。  十歳の義兄、アーネストはクラウディア公爵家の跡継ぎになるべく引き取られた子供。  黒曜石の髪にルビーの瞳の強力な魔力持ちの麗しい男の子。  でも、両親の前では猫を被っていて私の事は「出来損ないの公爵令嬢」と馬鹿にする。  意地悪ばかりする義兄に私は嫌われている。

【10話完結】 忘れ薬 〜忘れた筈のあの人は全身全霊をかけて私を取り戻しにきた〜

紬あおい
恋愛
愛する人のことを忘れられる薬。 絶望の中、それを口にしたセナ。 セナが目が覚めた時、愛する皇太子テオベルトのことだけを忘れていた。 記憶は失っても、心はあなたを忘れない、離したくない。 そして、あなたも私を求めていた。

処理中です...