夢を現実にしないための正しいマニュアル

しゃーりん

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「やめてー!リリーベルを殺さないでー!」


マリエルは泣きながら飛び起きた。体が恐怖で震えている。
今のは夢…そうよ夢…娘のリリーベルが処刑されるなんて…

隣で寝ていた夫のジークがびっくりしたように声をかけてきた。


「マリー?怖い夢でも見た?」


背に手を当てて心配そうに顔を覗き込み、涙を拭ってくれる。
だが、震えが止まらないままベッドから降り、裸足のまま娘の部屋まで走った。


(あの子の無事を確かめないと…ただの夢だったんだと…)


娘の部屋に入り、ベッドでスヤスヤと寝ている姿を見てホッとした。
しかし、頬に触れ温もりを感じ、額にキスをして立ち上がろうとしたところで意識を失った。


「マリー!!」



心配で後をついてきていたジークが抱き上げ、そのまま寝室へと戻った。


(こんなに怯えるような夢…単なる夢なのか?)


意識のないマリエルを抱きしめながら横たわり、ジークはそのまま朝まで眠れなかった。





翌朝、マリエルが目を覚ますと、ソファで書類を見ているジークが見えた。


「ジーク?あら?今は何時?」


いつも起きる時間をとっくに過ぎているような部屋の明るさにマリエルは寝ぼけたように聞いたが、
すぐに夢の内容を思い出して顔を強張らせた。

ジークは直ぐにマリエルを抱きしめ、背を撫でながら言った。


「夢を覚えてるみたいだね?リリーの部屋で意識を失って、今は朝の10時だ。」


いつものジークの匂いに安心感を覚えて気が緩みそうになったが、言わなければならないことがあり、
体を離してジークの顔を見ながら、決意したようにマリエルは言った。


「リリーはアダム王子と婚約させないわ!」


ジークはその剣幕に驚いたが、


「夢と関係があるみたいだね?
 ひとまず、ひどく汗をかいてるから、お風呂に入ってさっぱりしておいで。
 君の好きな紅茶を用意してもらっておくよ。話はそれからちゃんと聞こう。」




8歳の長男カイルと6歳の長女リリーベルが、母親のマリエルが朝食に姿を見せなかったことに
心配して部屋に来たが風呂に入ってるときだったため、起き上がってるし熱もないと安心させ、
3時のお茶の約束をして部屋へ戻らせた。




風呂に入って着替えてきたマリエルは先程よりも気を持ち直したように見える。
ジークはマリエルの手を引いてソファに座らせ、自分もその隣に座った。
机の上にカットフルーツと紅茶を置いて、侍女が部屋を出て行った。


「マリエル、とりあえずお腹に入れてからにしよう。喉も渇いているだろう?」


「わかったわ、ジーク。」


マリエルは心配そうに見てくるジークが安心できるよう、果物を食べ紅茶を飲んだ。
そして一息ついた後、ジークに夢での出来事を話し始めた。


   *   *   *


夢は、リリーベルがアダム王子と婚約した日が始まりだった。

共に6歳の二人はとても可愛らしく仲も良かった。
しかし、マナー・勉強・剣術・ダンス…等々、学ぶことも体を動かすことも好きなリリーベルと
甘やかされて努力をしなかったアダム王子は、12歳頃から段々と会話も減り、側近候補とばかり
過ごすようになったことで関係の改善が出来ないまま学園に入学する。

学園は、14歳~17歳の貴族及び試験に合格した平民が入学出来る。

その入学式でアダム王子は、心を奪われる令嬢に出会う。
令嬢と仲良くなり一緒にいる時間が長くなると、側近候補達も応援してくれる。
そんな中、令嬢が泣いている姿を見て、嫌がらせされていることに気付く。
どうやら犯人は婚約者のリリーベルのようだ。

リリーベルに問い質したが、『やっていない』と罪を認めようとしない。
その後も令嬢に対する嫌がらせは続いているようだった。
決定的な瞬間を目にしたいと調べたが、なかなか見つけられない。
すると、リリーベルの遣いだという女性が『迷惑をかけたお詫び』の品を持ってきた。
令嬢が好きなお菓子とアダム王子が好きな紅茶だった。

罪を認めたリリーベルとの婚約破棄に向けて動き出そうと側近候補達と話していると、
令嬢がお菓子と紅茶を準備してくれた。
それを先に口にした側近候補のうちの二人が苦しみだして倒れた。
どちらにも毒が入っていたようで、二人は苦しんだ顔のまま亡くなった。

アダム王子はリリーベルを殺人で捕らえるように指示を出し、牢へ入れた。
遣いの女性も毒入り菓子や紅茶も知らないと否定したが信じてもらえなかった。
貴族令息二人の殺人と王子に対する殺人未遂で即刻処刑の意見が出て、勢いのまま実行される
ことになった。犯人という証拠もないまま…

ちょうど、国王夫妻は隣国の式典で不在という時で、リリーベルの両親は事件当時領地におり、
慌てて帰ってきた時、今、まさに処刑されるリリーベルに向けてマリエルが叫んだ。


   *   *   *

そこで目を覚ました、とマリエルは夢での話を終えた。

ジークはマリエルを抱きしめて、


「だから、アダム王子と婚約させないと言ったんだね?
 確かに夢のアダム王子は最低最悪の奴だ。
 現実にならないようにしたいんだね?」


と確認した。


「そうよ。だから、今すぐ王城に行ってお断りしてきて!」


「今すぐ?!今日はマリエルが心配で休みをとったのに…」


「…あら?仕事をお休みしてたのね。今気付いたわ。ありがとう。でもお願い。」


「わかったよ。行ってくる。あぁ、3時に子供たちとお茶の約束をしているんだ。
 心配してたから、顔を見せてやって。」


「わかったわ。行ってらっしゃい。」



リリーベルがアダム王子と婚約するはずだった5日前の出来事だった。




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