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しおりを挟むここでの生活に慣れてきたある日、来客があった。
誰も通さないように言いつけられている護衛が扉の前で必死に断っていたようだけれども、侍女が思わず様子を伺ってしまったがために、来客者は部屋の中に入ってきてしまった。
「あなたが兄上の愛妾?
初めまして。第二王子のアーノルドだよ。」
おっと。この方が閨教育をするはずだった第二王子殿下ですか。何しに来たんだろう?
「初めまして。ルーチェと申します。」
侍女にお茶をお願いしてソファに座った。
お茶がテーブルに置かれるまで、部屋を見たり私を見たりで一言も話さなかった。
侍女が少し離れた場所に移ったのを確認してから、第二王子殿下は話を始めた。
「私の閨教育をするはずだった女性ってあなただよね?」
おっと。いきなりその話?それを確認してどうしたいのだろう。
でもビリー様が記録には残していないはずだから知らないフリでいいよね。
「何のことかわかりかねますが。」
「またまた。誤魔化さなくていいよ。兄に乗り換えたってことだよね。」
乗り換えるも何も選択肢はなかったけれど。
「勘違いなさっているのではありませんか?」
「勘違い?そんなことないよ。私のところに来るはずの人が来なくて兄の愛妾が来た。
偶然にしては都合良すぎない?」
「そう言われましても。……例えば、もし殿下のおっしゃる通りだとして、こちらには何をしに?」
「え?閨教育してもらおうと思って。
この間、一人来たんだけれど、意外と経験豊富な感じで思ってたのと違ったんだ。
最初の人は経験が少ないって聞いてたのに来なかったから。」
この子、少しおバカかしら。
「私は王太子殿下の愛妾としてこちらにおりますので、申し訳ございませんがお断りいたします。
それに、それが私だとしても経験が少ないとは最早言えないと思いますよ?」
毎晩のように抱かれているのだから。
「あ……そっか。でもあなただと思ったんだけどなぁ。本当に違うの?」
「私は選考基準を知りませんが、経験者が選ばれるのではないのですか?
王太子殿下が初めての私には教育など務まらないかと。」
「え?そうなの?」
その時、いきなり扉が開いて王太子殿下が入ってきた。
「アーノルド、ここで何をしている?ルーチェ大丈夫か?」
「はい。第二王子殿下は勘違いをされておられるようなのです。
閨教育をする女性が私であったと。
ですが、あなたが初めての私が選ばれることはないのではないかとお話ししたところなのです。」
王太子殿下が初めての相手だというのは本当だもの。……3年前だけど。
「あぁ、そういえばルーチェが来たのと同じような時期だったらしいな。
予定していた女性は急用でしばらく王都から離れるために変更になったと聞いたが。
別の女性で教育は終わったんじゃないのか?」
「うん。終わった。だけど何か思ってたのと違って。もっと素人っぽい人が良かったんだけど。」
「それを求めてルーチェのところに来るお前の思考がよくわからない。
私の愛妾だからといって共有はできないし、ルーチェも素人ではないぞ?」
「だよね。うん。どうしてか思い込んでしまったみたい。ごめんなさい。」
「ああ。
それと、侍女や使用人にも手を出すなよ。どうしても我慢できなけりゃビリーに頼め。
素人は婚約者と結婚するまで待つしかない。
誘惑に負けて令嬢に手を出した時点で、お前の将来は終わるからな。気をつけろ。」
「それも散々言われてるからわかってる。
ルーチェさんもごめんね。お邪魔しました。兄上をよろしくね。」
部屋を出て行った第二王子殿下は、やっぱり子供に見えた。
「体格は大人に近づいてきたけれど、まだまだ子供だな。」
「そうですね。勘が鋭くて驚きましたが上手く躱せました。」
無事に騙せてよかった。だけどあの子に抱かれる予定だったの?……逃げてたかも。
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