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しおりを挟む王城から戻った父に、母が棺の中のリリスティーナを見てしまったことを告げた。
「気がふれてしまったお母様に、『何も見ていない、まだ眠っている』と言い、暗示というか、心を操ったような手応えをを感じました。この力は治癒の他にもまだ未知の力があるようです。」
「……他人の精神に干渉できるということか。まぁ、心の治癒とも言えるかもしれないが。
例えば、今、私にもできるか?そうだな、どうしてもらおうか、悩む……え?」
父が悩んでいる間に、リリスティーナは願ってみた。
『棺の中の無惨なリリスティーナの姿を忘れてくれるように』と。
父の目からは見る見るうちに涙が溢れた。
「……ずっと目に焼き付いて離れなかったのに。開けても閉じてもリリスの最期の顔が。」
「あの姿を目で見たことは忘れてください。記録に残すだけでいいのです。最期の顔は今の棺の中の顔を覚えていてくれればいいですから。」
今のリリスティーナの顔は、ただ眠っているように見えるだけ。
血を拭き取り化粧も施したため、綺麗な顔で少し微笑んでいるようにも見える。
「忘れてはいけない姿だったはずなのに……」
「いえ、違います。覚えていてはいけません。心を病んでしまうわ。
私が死んでもお父様の人生はまだまだ続きます。お兄様に子供も生まれます。
死んだ者に心を囚われるよりも、生きている家族、領地・領民のために前を向いてほしいです。」
他人と違って親だからこそ、忘れたくても忘れられないものだろう。
でもあんな姿を忘れることができなくなれば、それはもう悪夢のようでしかない。
リリスティーナ本人も、死を選んだ時はここまで視覚の暴力がキツイとは思っていなかった。
父に効いたのであれば、間違いなく母の記憶も消えているだろう。
兄とミミにも忘れてもらうことにした。
いつまでも無惨な姿を覚えていることは、心の負担にしかならないだろうから。
国王陛下は息子ウォルタスを廃太子とし、罪人として捕らえたことを公表した。
元婚約者、リリスティーナ・クレベール公爵令嬢を殺害した首謀者として。
未知の魔力に対する行き過ぎた探求心がやがて残酷さを増して公爵令嬢を死に至らしめたと発表され、衝撃は非常に大きかった。
まさか、公爵令嬢本人の体を傷つけて実験していたとは誰も思わなかったのだ。
そもそも、ウォルタスの傷をリリスティーナが未知の魔力で治癒したことは何人もが知っていることであり、リリスティーナがその力を発現したことにより二人の婚約が解消されたことも知られていた。
その特別な力でできることをするためには、王太子妃という地位についてしまっては動きにくくなるからだろうと思われていた。
貴族の中には、リリスティーナの治癒の力に期待している者も多くいたのだ。
それなのに、命を助けられたはずの元王太子が、そんな非道な行いを指示したのだから、人でなしの仕打ちと言えよう。
浮気をしていたことも噂が広まり、ウォルタスを死罪にするべきだとの声があがり、毒杯が与えられた。
研究者たちは絞首刑に。
今後、未知なる魔力を発現する者が現れても、非道な行いをすればこうなるのだという戒めだった。
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