40 / 100
40.
しおりを挟む公爵である父は、ユリアの覚悟を聞き、頷いた。
「ちょうどいいから、下にいるパルモア伯爵を呼ぶか。結婚を取りやめるよう私から伝えよう。」
父の言葉に、パルモア伯爵夫妻が連れて来られた。
入れられた部屋でブツブツ文句を言っていたのに、会ってもらえると聞いた途端、機嫌がよくなったらしい。
ユリアは別室で待ってもらうことになった。
「お会いさせていただき感謝申し上げます。ユリアはお気に召しましたか?」
「ああ。そうだな。」
「ではっ!」
「彼女には結婚の話があるそうだが?」
「大した縁談ではございません。少々歳も離れていることですし、あの子に相応しいとは言えませんので。」
「そうか。ではすぐ断るように。」
「承知いたしました。……で、手続きの方は?」
「ん……?ああ、まだ聖堂ができていないからな。完成してからになる。」
「聖堂……?完成、ですか?何のお話でしょうか。」
「ユリア嬢の働き口の話だが?」
「働き口?!」
「ああ。彼女は結婚よりも聖堂で娘に祈りを捧げる日々を選んだ。殊勝な娘だ。」
パルモア伯爵と夫人は口と目を丸くしていた。
「な、な、どういうことです?養女の話は?」
「養女?それは何だ?」
「ユリアを養女にしてくれるつもりで呼んだのではないのですか?」
「そんなこと、誰が言ったのだ?」
「ユリアが新たな王太子殿下と年齢的に合うから婚約者にとお考えだとばかり…」
王太子となった第二王子殿下は14歳でユリアは15歳。
それだけでそこまで思い込めるとは驚きだ。
「まるで我が公爵家がなんとしてでも王家と縁を結びたがっているかのように聞こえるが気のせいか?」
父に冷たい目で見られたパルモア伯爵は顔を羞恥で真っ赤にさせていた。
「そもそも、ユリア嬢は伯爵令嬢だ。両親と姉が罰せられた彼女には伯爵位は荷が重いと考慮されたこともあって、あなたに伯爵位が渡ることになった。ちゃんと彼女に対して責任を持つ意味であなたは養女にしたはずだ。違うか?」
「それは、そうです。ですから、結婚相手を見つけたではありませんかっ!」
「歳が離れていて、彼女に相応しくない相手と自分で口にしたばかりではないか。」
パルモア伯爵は口を噤んだ。
「相手が悪すぎる。厄介払いだと目に見えてわかるし、あなたの信用も落ちるだろう。」
「信用が……?」
「そこまで考えていなかったようだな。
それに、正統な跡継ぎがユリア嬢だと結婚相手が乗り込んでくる可能性を考えなかったのか?42歳の男なのだろう?その辺の小僧じゃない。ユリア嬢との間に子ができれば自分がパルモア家の実権を握れると爵位の返還を求めるだろう。たとえ、ユリア嬢にその気がなくてもな。」
「あ……」
そうなのだ。
このパルモア伯爵に話を持って行った子爵は、自分が弟よりも出来が悪いことをずっと気にしていて、いつか弟に地位を奪われるのではないかと怯えているような男なのだ。
つまり、弟をユリアと結婚させることで若い妻に夢中にさせて領地に閉じ込め、子が出来てもパルモア伯爵家の方を意識させようという姑息な考えで打診された話である。
酔っ払うと暴力を振るう男という情報も本当だが。
「相手の男がパルモアを望んでいるかどうかまでは知らないが、子ができれば欲が出るかもしれない。あるいはユリア嬢の両親や姉が接触して唆すかもしれない。そう、先々を読む必要がある。」
「おっしゃる通りでございます。」
この男は、ただユリアを厄介払いすることしか考えていなかったのだ。
1,517
あなたにおすすめの小説
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
婚約者から悪役令嬢と呼ばれた公爵令嬢は、初恋相手を手に入れるために完璧な淑女を目指した。
石河 翠
恋愛
アンジェラは、公爵家のご令嬢であり、王太子の婚約者だ。ところがアンジェラと王太子の仲は非常に悪い。王太子には、運命の相手であるという聖女が隣にいるからだ。
その上、自分を敬うことができないのなら婚約破棄をすると言ってきた。ところがアンジェラは王太子の態度を気にした様子がない。むしろ王太子の言葉を喜んで受け入れた。なぜならアンジェラには心に秘めた初恋の相手がいるからだ。
実はアンジェラには未来に行った記憶があって……。
初恋の相手を射止めるために淑女もとい悪役令嬢として奮闘するヒロインと、いつの間にかヒロインの心を射止めてしまっていた巻き込まれヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:22451675)をお借りしています。
こちらは、『婚約者から悪役令嬢と呼ばれた自称天使に、いつの間にか外堀を埋められた。』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/572212123/891918330)のヒロイン視点の物語です。
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
婚約者様は大変お素敵でございます
ましろ
恋愛
私シェリーが婚約したのは16の頃。相手はまだ13歳のベンジャミン様。当時の彼は、声変わりすらしていない天使の様に美しく可愛らしい少年だった。
あれから2年。天使様は素敵な男性へと成長した。彼が18歳になり学園を卒業したら結婚する。
それまで、侯爵家で花嫁修業としてお父上であるカーティス様から仕事を学びながら、嫁ぐ日を指折り数えて待っていた──
設定はゆるゆるご都合主義です。
【書籍化決定】愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる