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しおりを挟むラヴェンナはふと思ったことをリリスティーナ様に聞いてみた。
「聖女様がいない150年前と聖女様がいる今とで、大きな変化はありますか?」
「んー……大きな変化はないわね。ただ、結界ができて国境の怪我人や死者が減ったことで人は増えたようだけど。結界が無くなっても困らないように、鍛錬は怠らないように伝えているわ。」
「リリスティーナ様は自分の存在が後の負債にならないように考えてこられたのですね。」
「ええ。500年といってもいつ聖力が使えなくなるかはわからないもの。150年経っても、治癒を使える人は他に現れないし。私に頼ることに慣れきってはいけないでしょう?」
確かにそれは言える。怪我をしても、本来であれば時間がかかるだけで治ることがほとんどだから。
「結局、病が流行っても治癒を使ったことはないのですか?」
流行り病は定期的にある。この150年の間にもあったはず。
「ええ。大々的にはね。こっそりと使うことは普段でもあるわよ。だって、目の前にいたら、ね。
完治させるまでの治癒じゃなきゃ、案外バレないものよ?」
病気というものは、本人の体質も大きく関係するという。
同じ環境にいても病になる者とならない者。
病を何度治したところで、生活習慣が変わらなければ意味がない。
治癒してもらえばいいだけ、という考えを持つべきではない。
同じことを繰り返さない予防をすることを学ばなくては。
もし病を治癒できる者が他に現れたとしても、リリスティーナ様はしたくないと言った。
聖力の限界まで毎日治癒し続けても、全員を治して回ることなど不可能だから。
『どうして、もっと早くに来てくれなかった?』
病は聖女のせいではないのに、理不尽にもそう責められることになるのがわかっているから。
不平等になるくらいなら、初めから病には手を出さないと決めていたという。
病に対処するのは医師や薬師の仕事だから。
たった一人だけが持っている聖力、500年後にはいなくなるリリスティーナ。
せっかくの聖力は役立てたい。
でも、依存されてしまうのは不本意。
考え抜いた結果が現状なのだとラヴェンナは納得した。
「リリスティーナ様、またこうして一緒にお茶を飲みませんか?」
聖女はクレシア様からイボンヌ様になる。
ラヴェンナも聖女候補だったのだから、イボンヌ様の友人として会うことは変ではないはず。
「ラヴェンナは優しいわね。ありがとう。でも友人は作らないことにしているのよ。」
「仕事ばかりでは寂しくないですか?」
「私の最後の友人は、侍女であり姉のように慕ったミミなの。
それにね、イボンヌだっていつか聖女を辞めることになるわ。その後、ラヴェンナは私ではなくイボンヌ本人と友人関係を続けられるの?
私が次の聖女に憑依してもラヴェンナと友人でいれば、あなたは聖女の友人という立場に固執しているように見えてしまうわ。」
こうしてラヴェンナと会話をしているのがリリスティーナ様でも、外見はクレシア様で、次はイボンヌ様で、またその次の聖女だったりする。
リリスティーナ様はそういう先々のことまで考えて、誰とも友人関係にはならないと決めているのだ。
聡明な方なのだと改めて思った。
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